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プロローグ
長い髪を揺らしながら砂浜を歩く彼女は、含んだ笑いを浮かべて、僕を見つめてくる。
僕が微笑み返すと、彼女は足を止め、僕と向き合う。
柔らかそうな唇。鼻筋が通っている。切れ長で、大きくはないが、くっきりと黒い瞳。少し現実離れしたように美しい。
「可愛い」じゃなくて、
「美しい」。
細い指を伸ばし、僕の頬に触れてきた。
潮風が僕らを撫でる。
━━これは夢だ。
何故かって、彼女は生きていないから。
彼女が死んでからというもの、いつも同じような夢を見る。
目が覚めた後、僕は泣きたいような、どうすることもできない感覚に襲われる。
彼女に触れたい。
彼女を抱きしめたい。
彼女に口付けをしたい。
「おはよ。うなされてたね」
声をかけられる。
透き通った綺麗な声。
彼女はいつもこうして僕に
「おはよう」を言ってくれる。
彼女は死んだ。
身体が無くなった。
でも……
幸いなことに、心だけが残ったんだ。