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曲射における鏃と矢羽の役割の物理考察

作者: 畢竟 吾煌

 弓矢の矢において、(やじり)と矢羽があることはよく知られている、とは思う。

 先端を削っただけの木の棒だったとしても、弓で射て攻撃は可能かも知れない。

 しかしその場合でも矢羽があるとないとでは安定性が違うでしょう。

 ここでいう安定性とは矢が刺さるという状況の試行回数が多い、という意味です。

 なぜ、そうなるのだろうか?

 これは矢羽が空気抵抗を増大させているためです。

 空気抵抗が大きくなるとデメリットしかないと思うでしょうか?

 確かに威力という点では落ちることになるでしょう。

 ではメリットは何なのか。

 安定性? それはなぜ? 銃器のライフリングのように回転させるから?

 違います。

 重心の運動が空気中を移動するとき、空気抵抗を矢羽が受けると、重心の運動に逆らう向きに力が働きます。

 この矢の速度の反対向きの力が、空気抵抗と呼ばれます。

 矢羽は矢の後端付近に付いてます。

 この理由は重心の後ろに矢羽が来るように作っているからです。

 後端が後ろになれば、当然先端は前方に来ます。

 進行方向に先端が来れば、トルクの発生などで弾かれることが減り、刺さりやすくなります。


 鏃がある場合。

 石器とかで鏃を取り付けるようになったのは、木を削った先端より硬くて獲物をしとめやすいからでしょう。

 この鏃が空気抵抗を余分に受けているということがあるのか。

 あったとしてそれでどうなるのか。

 最初、鏃はそこまで小さかったのかは疑問です。

 石器だとしたら、割っていたわけですから。従って細かいのも作るのは大変なはず。

 矢羽用の羽根 と 鏃用の石、どちらが重いかはたぶん石でしょう。

 そうではなかったとしても、軽いなら小さく空気抵抗も小さいでしょう。

 重かったら、矢の重心が先端――鏃――へと移動するわけですから、トルクを考えると矢羽側の方が大きくなっていくだけで。

 余程撃ち難いような形状をしていなければ。

 ですが、目的が矢を安定して標的に突き刺すということでしょうから、問題はないでしょう。

 つまりは矢羽のの空気抵抗は大きく、鏃を進行方向へと向けることでしょう。


 ここでちょっと鏃を重くするメリットとか。

 重くすれば、慣性が増し、重心が前方に来て、貫通力が増す。

 弓は引き幅が一定なら、一定のエネルギーしか矢に伝達しないので、質量にエネルギーを配分すれば速さは落ちるでしょう。(ちょっと語弊があるかな?)

 しかし高所から撃ち下ろす場合には、位置エネルギーの分だけお得になります。

 空気抵抗の分はエネルギーが低くなるわけだし。

 それは鉛直方向の、落下時の、終端速度が増すことでしょう。威力が増します。

 空気抵抗が同じ場合では質量が重い方がその重量と釣り合う空気抵抗には速度が必要になるからです。

 重心が前方に来ることの貫通力ですが、貫き進もうとする力ですね。

 鏃に物が当たった時、矢の進行方向とは直角の方向に力が掛かると、矢の重心周りのトルクと、矢の重心を移動させる力、この二つに分解できます。

 ここでトルクに注目。

 矢の重心が鏃に近い前方にあると、力と重心までの距離が短くなるためにトルクが小さくなります。

 また同じ角度だけ変位しても鏃の、先端の、移動距離が短くなります。

 それは直進性があるということです。

 つまりは貫通力がある、ということ。

 これは同じ重さの槍と剣では貫通力が、槍の方が前方に重心があるとして、槍にあるということです。


 高所から同質量の物を落とすなら、スリングショットのように投石でも構わないかも知れませんが、矢には刃物が先端にあるという利点があります。

 そしてその刃は進行方向、空気抵抗の反対側、に必ず向くというわけです。

 ライフリングされた銃での弾丸ならば、曲射なんてありえません。

 空気がない場合、矢は斜め上に向けて撃っても地面に落ちるときも斜め上に鏃が向いたままです。

 トルクが、空気がないと、働かないからです。

 銃での弾丸もライフリングで回転が加わっているなら、トルクが働いても抵抗することでしょう。

 このことから曲射というものは弓矢か、バドミントンのシャトルぐらいしか意味をなさないはず。もしくは球体の弾丸や投石か向きが意味のない場合か。


 そもそも弓矢と言うのは遠距離武器。

 遠くの敵に打撃を与えるため、直射ではなく、曲射にして少しでも遠くに矢を届かせることに意味があります。

 ライフリングしてる銃弾では無理でも、弓矢はそこを考慮して空気抵抗をわざわざ増やす矢羽を付けているわけです。

 遠距離の敵に、鏃を、刺すため。

 銃弾は質量兵器と言う意味で投石とそこまで変わらない。軽いため空気抵抗が大きく効きますが。

 矢は刃物として鏃を突き刺すように工夫されている。

 銃弾も先端は流線形になっているのは安定性の工夫でしょうか。直射向きの。

 砲弾とかも曲射用なのか、後端に変な溝が掘られていたのを見たことがあります。不発弾でしたが。

 それはもしかしたら空気抵抗で後端を後ろに向かせようとする工夫なのかも知れません。

 球体の砲弾なら何も問題はないのでしょうけど。

 銃弾は基本質量兵器というより運動エネルギー兵器です。曲射のような空気抵抗でエネルギーが損失するような物より直接当てた方が当然効果は大きいでしょう。


 使い道と言う点で曲射が必要な時、他との違い、用途、いろいろあると思います。


 個人だと曲射は時間差で意識を逸らす、という「崩し」の一つと捉える方がいいような気がします。

 狙撃とかなんか別の武器と勘違いした使い方を想定している人がいましたが。狩人などは曲射は無駄だという意見は正しいでしょうけど。ここでの紹介は遠距離打撃用の軍事的な運用法でしょう。




 今回、考察してみて思ったことは戦車の砲弾が気になるところ。

 炸裂弾も信管の関連もあるだろうし、徹甲弾なら質量兵器ではあるだろうし。角度をどう考慮していたのか。

 向きや空気抵抗など。

 気が向いたら調べるかも。課題として。



 おまけ

 昔のファンタジー小説はシルフの守りなどで矢から防御してたような。

 つまり強風、横風があれば、矢は流されるし、その時矢の向きは流された方向に向かず、矢羽が風下へ、鏃は風上へ向き、刺さり難くなることでしょう。

 したがって魔法とかの風で矢の向きを風の向きへ変えるとかはあり得ないわけですね。

 誤解のある描写がちらほら見かけますけどね。

 帆船の旗が前に靡かず、後ろに靡いていたり、するようにね。追い風じゃないといけないのに。切り上がる場合でもね、帆と旗の向きがおかしいとか。





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