#5 穴井壮の場合
私はアナウンサーという職業に子供の頃からずっとなりたかった。
言葉で表現して伝えるということの素晴らしさを知ってしまったからだ。
ニュースを読む方々を見てアナウンサーに憧れ、ずっと目指してやってきた。
毎日、テレビでニュースを見て、バラエティー番組はほとんど見ないという、子供にしては珍しい小学生だった。
そして志望していた局のアナウンサーになり、様々な成長を感じることの出来た辛い研修を経て、ようやく本格的な仕事の機会がやってきた。
それが今日の格闘技の実況だった。
ほぼ初めての仕事が実況で、しかも格闘技ということは私の想像にはなかった。
一年目から、こんな大役を任されるなんて普通では考えられないことだし、とても荷が重かった。
格闘技を生で見るのは初めてだったので、研修を真面目にしてきたものの、かなりの不安があった。
先輩アナウンサーが諸事情により来られなくなり、私が代役に選ばれた。
なぜ私だったのかは定かではない。
ハプニングによって回ってきた、準備も何もしてない突然の抜擢だった。
生放送のテレビ、格闘技の知識の無さ、資料の紛失等で、緊張はかなりのものになっていった。
あまり上手いとは言えない実況しか出来ず、様々なミスをして周りに迷惑をかけてしまった。
拙さを反省している。
スタジオでニュースを的確に視聴者に伝える。
真実を言葉に乗せてお伝えする。
それを夢見て、それを思い描き、それを現実のものにするために頑張ってきた。
だが、格闘技の実況もニュースをお伝えすることも、ほとんど変わらないこと。
批判されようと、過去のミスを引きずっていては、いつまで経っても前に進めない。
ミスを明日に活かして、これから必死で努力をするしかない。
これからは前を向いて努力して少しでも早く一人前のアナウンサーになれるように進んでいく。
過去に何があったとしても今を全力で生きるしかないのだから。
そして陽気でいい加減そうなのに、正確で的確な発言をして私を助けてくれた解説者の方には感謝してもしきれない。