冒険と宴会と・・・。
「おぉ!!大きな馬じゃのう」
「ほんと立派ね。名前はなんていうの?」
「ん。「ムギ」「ホップ」「バクガ」」
「あら。可愛い名前ね」
「むふ。でしょ?」
そうでもない。
まぁ意外と僕の中でも定着してしまっているが。
この馬は何故かアイテム扱いになっており、インペントリに収納できる。ファンタジーが過ぎるよ全く。
アイリス、僕、エリーゼが一頭の馬に乗ったが、ムギは平気そうな顔をしている。強靭すぎるよ。うちのムギさんは。
突然大きな黒馬が、3頭も出てきたことに周りのプレイヤーは驚いていたが無視する。
ジィジとばあちゃんはバクガに、クリスとエリザベスはホップに乗る。
皆でパーティを組みバクガを挟み護衛しながら走り出す。
できるだけ魔物を馬上から攻撃し狩り続ける。かまいたち、ライトボール、ウィンドアロー、アイスロックが飛び交い一撃で魔物たちを蹂躙していく。
「ガッハッハッハ!!こりゃ快適だわい。殿様になった気分じゃ!!皆、どんどんやるのじゃ!!」
「ふふふっ。皆強いじゃない。なんだか私も血が騒いできたわ」
二人は楽しそうにはしゃぐ。心が若すぎだろ。今日は日曜日の為、始まりの森は魔物で溢れている。
新規プレイヤーの為の救済措置だ。
「この後エリアボスのクマさんがいるけど、どうする?戦わないでも進めるけど」
「あら?せっかくだから見ていきたいわ」
「そうじゃのう。アイツの作ったボスがどれほどのものか見てみたいわ」
まだ「始まりの森のボス」だって。
今日はできるだけ二人の要望に応えよう。
・森のクマさんLV20
エリアボスはこちらの人数によってLVが変わる。ジィジとばあちゃんは、まだLV10。戦わない方がいいだろう。
皆が馬から降りると馬たちは石になる。謎の無敵モード発動だ。
「さぁ、行くそクマさ……ってジィジ!!??」
クマさんとの戦闘が開始したと同時にジィジが走り出す。
「ガッハッハッハ!!クマとの戦闘など何年ぶりだろう!!こんな大きなクマは初めてだ!!ひれ伏せてくれるわ!!」
おいジィジ。クマと戦ってあるとかマジか?その時、勝っちゃったのか?
「グゥマァァァァァ!!」
クマさんがジィジに向かって走りだす。
LV10も離れているんだ。一撃でも食らったらまずい。それでなくても初期装備のおじいちゃんなんだ。腰がグキッッてなっちゃうよ!!
「ジィジ!!あぶな、い。え?」
飛び蹴りをするクマさんの足をつかみ背負い投げをする。クマさんはそのまま顔から地面に叩きつけられる。
「ほぉ?素直にひれ伏せるとは。関心関心」
……あんたがひれ伏せたんだ。
自主的ではない。
「ほれ皆、何して折る。今のうちじゃ」
「「「「「あ、うん。」」」」」
取りあえず僕らは驚いているクマさんに一撃ずつ入れる。
残りはHPは1本。
赤い魔力を出すクマさんは僕らに怯え、離れている頬に手をつきニコニコしているばあちゃんに向かっ て、必死な表情で走り出す。きっと「せめて一人だけでも倒してやる。」。
そんなことを考えているのだろう。
まずい!!追いつけない!!
「ばぁちゃんにげ、て。へっ?」
「あらあら女の子には優しくするものよ?」
クマさんはこちらに向かって飛んでいた。
ばぁちゃんの体制は何も変わっていない。
一体何したんだ?
「ほら皆。女の子に手を出そうとしたクマにお仕置きしてしまいなさい。この体はあの人だけのものよ?」
「「「「「は、はい!!」」」」」
おばあちゃんの笑顔が逆に怖く、僕らは急いでクマさんを討伐した。
「なぁジィジ。ばぁちゃん一体何したんだ?」
「……わからん。見えんかった。」
「なぁジィジ。ばぁちゃんさっき自分のこと「女の子」って言ったよね?」
「そこは触れてやるな。あのクマみたいになるぞ。」
この世界で一番強いのはドラゴンよりも、おばあちゃん何じゃないかと思った僕らだった。
その後も順調に進み(ブラックウルフは笑いながらジィジにボコボコにされた。かわいそうだった。)王都に到着。
「カンパニー」のホームにたどり着く。
「「「おかえりなさい(ニャ)」」」
「おぉ。写真で見るより立派じゃないか」
「あら、素敵なお屋敷ね」
二人は気に入ってくれたみたいだ。
「ねぇ二人とも。お願いがあるんだけど」
休憩に庭でティーブレイクしている二人に僕はお願いをする。
「なんじゃ?」
「「カンパニー」に入ってくれないかな?僕たちはこっちでも二人に「家族」になってもらいたいんだ」
「そうか。みんなもよいのか?」
「「「「もちろん」」」」
「ふふっ。ほんといい孫たちね。あなた」
「そうじゃのう」
「ほら。これで顔をふきなさい」
「ん。すまんの」
ジィジは隠すが、泣いているのがバレバレだった。
こうして新たな「家族」が増え、お昼ご飯を食べに一度ダイブアウト。1時に再び集合する。
「じゃあ準備はいい?」
「ああよいぞ」
「ふふ。いいわよ?」
僕らは東門からじゃぶじゃぶの里を目指す。
じゃぶじゃぶの里までは順調だった。今までこなしてきたクエストの話。出会った人たちの話をして楽しく馬に乗り進む。
こんなにゆっくりジィジ達と話をしたのはどれくらいぶりだろう。アイリスなんかはしゃいで話過ぎて馬から落ちたくらいだ。
皆楽しそうで皆幸せだった。
(尚、ゴシップクィーンの鷲はジィジにボコボコにされている。かわいそうだった。)
「ここが今日温泉に入る温泉宿「桜」だよ」
「おぉ立派じゃのう」
「あら素敵。高かったんじゃないの?」
「ん。全然平気。私たちはトッププレイヤー」
「そうよ。それに二人におもてなしができるんだもの。お金なんていくら使ったってかまわないわ」
遠慮している二人の背中を押し宿に入る。
「ふぁ~~。いい湯じゃ~~」
「ほんとねぇ。景色もいいし最高ね」
「でねでね!!オリバーと「悪魔結社」があそこの壁を上って覗こうとしたところをエリザベスがばぁぁ!!てね!!」
「アイリス。ばぁ!じゃわからないでしょ。「ファイアウォール」っていう範囲攻撃で皆の顔を焼いたのよ。女王様は」
「あら。あの子たちにはあれくらいがちょうどよかったのよ。それに私がやらなかったら、あなたが皆の眉間に風穴空けていたじゃない」
「ん。矢はやりすぎ」
炎で焼くのもやりすぎだ。リアルならトップニュースになるレベルの事件だ。次に老夫婦がクマを投げ飛ばす、が掲載されるだろう。
僕らは個室についている温泉にみんなで入っていた。個室の温泉にかかわらずとても広く、皆で余裕で入れた。
4人はタオルで隠さず堂々と入ってきている。あの大事な部分が隠れる謎の光があるので大事な部分が見えない。
だがそこが逆にエロかった。
白く輝く白い肌。
細身だが程よく筋肉がついた体。
エリザベスにいたっては、お風呂の湯に何かが2つ浮いていた。
だが家族だ。
警告なんか出したらばぁちゃんに殺される。
僕は一心にクマの姿を思い出し冷静になる。
ああはなりたくない。
「ジィジ。背中流してあげる」
「アイリスはばぁちゃん!!流してあげる!!」
「あら、じゃあ私も」
「ん。交代でやろ」
「私もやるわ」
気を取り直しジィジ達をさそう。
「おぉ。それはうれしいの。じゃあお願いしようじゃの」
「ふふ。私もお願い」
ジィジの背中は以前見た時よりも細くなっていた。
しかしそれを感じさせない逞しい筋肉がついており触ると石のように硬かった。
この背中には今までたくさんのものを背負って、いくつもの冒険をしてきたんだろうな。
聞かなくても、ジィジの背中からは細い体とは裏腹に大きな存在感を感じる。
これが何十年も家族を守ってきた背中か。
いつか僕もこんな背中になれるのかな。
「ありがとうよ。皆に洗ってもらえて儂はとても幸せじゃ」
「そうね。長生きもしてみるものね。こんないい子たちに囲まれて背中を流してもらえるんだもの」
その言葉に照れながらも僕らも幸せな気持ちになる。
やっぱり連れてきて良かったな
「ここかの?」
僕らは宴会場に二人を案内する。
「「「「「「「「ようこそ!!新たな同志たちよ!!」」」」」」」」
襖を開けると「ダブルナイツ」「悪魔結社」「鋼鉄の騎士団」がおり、彼らの前には食べきれない量の色鮮やかな料理が並んでいた。
「驚いた?二人とも。ささっ。こっちに座って!!。先に紹介をしちゃうね。こっちの三人は知ってるよね。リアルネームは言えないけどこっちでは、クラン「ダブルナイツ」。そしてこっちのコント集団が「悪魔結社」で、筋肉たちの「鋼鉄の騎士団」。後はさっき話したアイーダで、僕らの姉妹クランのメンバーなんだ」
「こんにちは。名前は「ジィジ」に「ばぁちゃん」ですか。宜しくお願い致します。私が「鋼鉄の騎士団」マスターのドンです。以後お見知りおきを。」
「久しぶりですジィジ!!「ダブルナイツ」のオリバーだよ!!」
「こここ、こんにちは!!「悪魔結社」のぷ、プライドです!!いつもお孫さん達にはお世話になって」
「これは驚いた。サプライズというやつか」
「あらあら。皆さんいつも孫たちがお世話になっています」
「おい。あれがおばあさんだと?どう見ても4,50台じゃないか」
「ほんとだな。アバターもほとんどいじった様子はないし」
まぁ初めて見た人は皆驚くよな
こうして宴会は始まった。
楽しく食事を食べ、酒を飲み、「悪魔結社」がコントのような話をし、「ダブルナイツ」がほんとの孫のようにかわいがられ、「鋼鉄の騎士団」がジィジと筋肉の話で盛り上がり、酒の入った皆は、ジィジに挑み次々に投げられていく。
とても楽しい宴会になった、のだが……。
突然景色がゆがみ場所が変わる。
「……なんじゃここは……」
ジィジの声にみなハっとし、あたりを見回す。
そこは大きな桜の木が一本だけ生えた小さな浮遊島だった……。
場所は王都と、じゃばじゃばの里の間あたりだろうか……。
皆が状況把握をしていると突然桜の木の下にテーブルが一つ、椅子が三つ現れる。
その椅子の一つに老人が座っていた。誰もが知っているその背中を、僕らはとてもよく知っていた。
「よう。久しぶりじゃのぉ」
老人が振り返る。
「おじいちゃん……」
エリザベスのつぶやき。
そこには死んだはずの山下哲二がいた……。