シークレットゾーン後編の前編
「そういえばこいつがいたな」
「休みたいよー」
「ほんとよ。空気読まない蛇ね」
「「「「き、筋肉が悲鳴を上げている」」」」
皆くたくただ。
「ガッハッハッハ!!皆喜べ!!まだまだ筋肉をいじめられるぞ!!剣を抜け!盾を構えろ!!共に筋肉を喜ばせよう!!」
嫌だよ、いい笑顔で何言ってんだこのおっさんは。もう30歳近いんだろ。正気になれよ……。
といっていても始まらない。僕らは体に鞭を打ち立ち上がり剣を抜く。
「グルルルルルルルル!!」
ウミヘビは跳ね上がり水鉄砲のようなものを吐き出す。
「うわぁぁぁ!!」
盾を構えていた「鋼鉄の騎士団」の一人の盾に当たり、吹き飛ばされる。ダメージはあまりないようだが威力はすごい。
「ねぇウィル。「遊びたがり」なら「バブリーな杖」で遊んであげたら?」
エリザベスのとんでもない発言。
あれと戯れろと仰るのか女王様は、すんごい大きいんだぜ?電車くらいあるんだぜ?動き早いんだぜ?顔怖いんだぜ?体ぬるぬるしてんだぜ?
「早くしなさい」
「あっ、はい。今やります」
逆らえるはずもなく、反射的に返事をする。くそっ、いつかぎゃふんといわしたいな。ぎゃふんは古いか?今はなんていうんだろ?
ガボーン?それじゃがっかりしてるな。ゲフン?それじゃ咳か。ちゃぽん?着水してどうすんだ?ジャバーン?
あ、また着水しちゃった。
「何してるの?さっさとしなさい」
「あっ、すみません。すぐやります」
……ちょっと現実逃避をしてしまった。
杖を取り出し泡を撒く。
「グルル……?グルーー♪」
ウミヘビは船の上に浮かぶ泡に興味を示し、嬉しそうに顔を近づける。
ぱぁぁぁぁん!!
「グル!?・・・・グルル~~♪」
ウミヘビは一度目は驚いていたが、楽しくなったのか何度も泡に顔を近づける。微妙にダメージが入っているのに……。
こいつはドMだな……。
「い、今だ!!奴に筋肉の力を見せつけろ!!」
「「「「「「Y,YES!!マッスル!!」」」」」」
呆れながらウミヘビを見ていた皆だったがキャプテンのおかげで何とか正気に戻り攻撃を開始する。
「ッッハ!!」
ザクッっと肉を切る感触がしっかりと伝わってくる。防御力は全くないようだ。
「グルルルルルルルル!!??」
皆の攻撃に驚き体を動かそうとしたが、ウミヘビは動けないでいる。
「あら、失礼。くっつけちゃった」
エリザベスのアイスウォールで何カ所も船に固定された海蛇が動けずにいる。
いちいちかっこいいな。うちの女王様は。
「ガッハッハッハ!!さすが女王様だ!!俺たちも負けてられん!!筋肉を見せつけろ!!」
「「「「「「YES!!筋肉!!」」」」」」」」
誰にだ。そして何張り合ってんだ。
ウミヘビは嫌がり水鉄砲を吐く。
が、それは謎の無敵仕様の船だ。ダメージはない。
HPバーは残り一本。
エリザベスがアイスウォールを次々にかけ、割られてもどんどん氷が張り付いていく。
ウミヘビは怒り赤くなり、水鉄砲を吐く。
が、それは謎の無敵仕様の船だ。ダメージはない。
「マァァスルゥゥゥ!!」
「グルルルルルルルル!!??」
キャプテン・ドンの最後の一撃でウミヘビは光となって消えていく……。
「勝利の雄たけびを上げろ!!3・2・1!!」
「「「「「YES!!マッスル!!」」」」」」
あっ、やっぱりやるのねそれ。うちの子たちが一緒にやってるのが心配になる。あまり「鋼鉄の騎士団」に近づけるのは教育に悪いかな?
船は古い遺跡の船乗り場に着く。そうやらこの辺りはセーフティーゾーンになっているみたいだ。
「ウィル。さっきはありがとな」
「本当。助かったわ」
オリバーとリタがお礼を言ってくる。
「気にしないで。あれはみんなの力だから。お礼ならみんなに。それより二人で抱き合った感想は?」
「な、何言ってんのよ!!そんなの良かったに……」
「ば、ばか何言ってんだ!!意外と大きかったかな?」
ゴンッ!!
オリバーは怒りの鉄拳を食らう。しかしリタは少し嬉しそうだった。
こうして僕らは今日はダイブアウトし、散策は明日にすることにした。
次の日。
皆で食事(僕の作った)を終え(おかげで在庫がなくなりそうだ)、皆にバフがかかった(一日がかりで頑張ったのに。)。
「じゃあ2パーティに分かれて逆方向に進むってことでいいんだね」
「あぁ。筋肉に誓って必ず宝を見つけてこよう」
「うん。意味わかんないけど頑張ってね」
「ガッハッハッハ!!相変わらずマッスルジョークがきついな!!」
さて、行きますか。
改めてメニュー画面をお開き、MAPを見てみる。
「シークレットゾーン、古代の島」
島のMAPはまだ開拓してないのでざっくりとした情報しかわからないが、ここは古代の島らしい。恐竜でもいるのかね?
「カンパニー」と「ダブルナイツ」は時計回り。
「鋼鉄の騎士団」は反時計回り。
こうして島の反対で落合い情報交換をしようという話になった。小さな島とはいえ、さすがに全部見て回るには時間が足りない。皆学校や仕事がある。ましてや今日は平日。
もしかしたら2日にわたって散策するかもしれない。
白い砂浜を歩きだす。ザッザッと小気味いい砂の音がリズムよく聞こえる。
「「鋼鉄の騎士団」がいないと静かに感じるね~」
「「悪魔結社」がいた時もこんな感じだったよな」
「そうかも。あいつらキャラ濃いからなー」
「ん。しかも暑ぐるしい」
「ふふっ。でもいい人達よね」
「それは間違いないわね」
「それにドンが「船舶免許」を持っているとは思わなかったよ」
「前のゲームでもドンはよく船を操縦してたんだ」
「まぁ人は見かけによらないってことだね」
「そういうことね」
「でも10代半ばまではひょろょろの本の虫だったらしいぜ?」
「そうなのか?」
あの筋肉おじさんからは考えられない。
「でも高校の時にいじめにあって、悔しくて見返してやろうって。そこで喧嘩の仕方を学ぶためにVRゲームを始めて体を鍛えるために漁船に乗ったらしいぜ」
なんとも行動力のある人だ。
「そしたらそれが今では趣味になって。因みにいじめてたやつらは何年後かに会ったらあまりに筋肉がつきすぎていて、出会った瞬間謝待ってきたらしいぜ?まぁあの筋肉に殴られたら骨の2,3本は確実に折れるからな」
「そうだったんだ。よくそんな話知ってるな。」
「酔って話してくれたんだ。もちろんゲーム内でな。でもそれで「鋼鉄の騎士団」は新人育成もしてるらしいぜ?「昔弱かった自分を育ててくれた漁船の人や、戦い方を教えてくれた先輩プレイヤーみたいに今度は自分が誰かの力になりたい」っていってさ。今度、酒場にでも連れてってみ?必ずその話するから」
メッチャいい話やん……。
やっぱりすごくいい人なんだな。
何で「マッスル」なんて言いだしたんだろ?何処で間違ったんだろ?「マッスルジョーク」って何なんだろ。彼はいったい何と出会ってしまったんだろうか……。
まぁ答えは知りたくない気もするが……。
「まぁ人の人生なんて何があるか分かんねぇもんだよな、って話でした」
「珍しく綺麗にまとめたじゃない。オリバーらしくもない」
「うっせ。俺だってやればできんだよ。さっきだって……」
「あ、あの時は……」
……なんだ?オリバーとリタの様子が変だ。顔真っ赤だし。喧嘩でもしたのかな。
「たぶんお兄ちゃんの考えてること間違ってるよ?」
「ん。確実に間違ってる」
「そんなんだから私たちが苦労するのよね」
「ふふっ。まぁそこが可愛いとこでもあるんだけどね」
何故、そんなことを言われたのかわからない僕だった……。