別行動、後編
「おや、二人でデートかい?」
「ん。デート。私たちは夫婦」
「違うだろ。お姉さん、これとこれ頂戴」
「あら、上手ね坊や。おまけにこれもつけちゃう!!」
今日は土曜日。
明日のイベントに備えて僕らは食料の買い出しに出ていた。今日は料理を作り置きし、長期間町から出てても空腹度を満たせるようにするためだ。
「あと何か必要だったっけ?」
「ん。結婚指輪」
「……大丈夫そうだな。じゃあ帰ろうか。」
「むーー。いいもん。リアルで買ってもらうから」
エリーゼは僕の腕に抱き着き一緒に歩く。
僕は今まで感じなかった胸の高鳴りに困惑していた・・・。
「じゃあ始めようか」
「ん」
「お願いしますにゃ」
「カンパニー」ホームのキッチン。アン達メイドによってキッチンは充実していた。
食材はインペントリに充実している。できればしばらく作らなくてもいいように作りだめしておきたい。
「まずはだしを取ってしまおう」
「ん」
「はいにゃ。にゃ!!??」
「エリーゼ。握るのは包丁だ。アンのしっぽじゃない」
猫好きのエリーゼは緊張ししっぽがピンと伸びたアンのしっぽを握っていた。……もう一回手洗えよな。菌とかゲームでも怖いからな……。
まずは残っていた魚を三枚おろし骨を取り出す。
コラ、アン。しっぽを振るんじゃない。
エリーゼはアンに魚を与えない。
次に香味野菜を切り鍋でじっくり傷め、ちょうどいいところで魚の骨を入れ炒める。
コラ、アン。一本隠しただろ。
エリーゼはアンを庇わないの。
次に白ワインでフランベし、炒った桜エビと鰹節を入れ30分煮込む。この時沸騰させず、30分を守ることが大事だ。少量の塩を加える。こうすることで味が引き立つ。
アン、あとでなんかあげるから落ち込むな。エリーゼはそれ見て喜ぶな。確かにかわいいがかわいそうだぞ。こうして和風ヒュメ・ド・ポワソン(洋風魚のだし)の完成だ。
同時にウルフの骨、香味野菜をオーブンで焼き赤ワインでフランベ。一緒に煮込む。トマトやブーケガロニを加えさらに煮込む。調理スキルのおかげで煮込む時間を短縮できるのはありがたい。
アンは興味なさそうにするな。エリーゼはアンを撫でてる場合か。
お前らいったい何しに来た……。
こうしてフォン・ド・ヴォーもどきの完成だ。
んん。うまいな。
フレンチの主役のだしが完成すればあとは簡単だ。
ヒュメで米を炊き、残った魚の身で炒め、バターを加えればピラフの完成。ヒュメで魚を煮込み、サフランにトマトペーストを加えればブイヤベースの完成。
ヒュメに少し塩を加えるだけでもいい出汁のスープになる。カニにカニみそ、卵を加えて、生クリームを少したし蒸せば洋風茶碗蒸し。
ヒュメに魚介、パスタを入れて絡ませればペスカトーレパスタ。
無敵の出汁で僕はいろいろ作った。
アンよ……。つまみ食いは怒らないから魚だけつまむのはやめなさい。
エリーゼよ……。なぜ止めずに撫で続ける。お前の正義はどこにある?
次にフォンドヴォーにしょうゆなどを加え味を調える。ひき肉を固め焼き、ご飯の上にのせ、野菜を肉の周りに乗せソースをかける。ロコモコの完成だ。
残ったソースにターメリック、ガラムマサラなどの香辛料などと煮込めばコクの深い洋風カレー。そこにココナッツペーストを加えれば台風ココナッツカレー。
肉を大切りで焼き、フォンドヴォーと赤ワイン一対一で煮込みかければ肉の赤ワインソース掛けの出来上がり。
次々と肉料理も完成させておく。
おいアン……。なぜ寝てる。なぜ魚がなくなっているんだ……。
エリーゼ……。なぜアンを抱いて寝ている。もはや正義はないのか……。
おにぎりや焼き鳥など簡単に食べられるものも作る。
次にデザートだ。
生地を焼きホイップクリームにフルーツを詰める。イチゴやオレンジやブドウなどをペースト状にし、少し炒ってカラメル上にいした砂糖に加えれば、クレープのフルーツソース掛け。
アールグレイやハーブティを糖度16%にし氷に当て混ぜればハーブのかおるシャーベット。16%の糖度のワインにフルーツ各種を入れレモンを絞り入れ冷やせばコンポート。
次々とデザートを完成させていく。
おっ、エリーゼが起きた。お前の正義はデザートにしかないのか……。
って味見しかせんのかい。
アンも起きた。
お前も味見だけかい。
もうAOLに正義はないと僕は確信した。
まぁおいしそうにしてるからいいか。
最後にケーキだな。
ってか何人前作ってんだろ。2、300人いけんじゃないか?カレーだけで100人前はあるからな。何度も作りたくないからいっぺんに作ったし。
インペントリ様様だね。
さてさて、スポンジにホイップクリームイチゴを載せればショートケーキ。
薄力にチョコ、そのあとホイップクリームと泡立てた卵白を3回ずつに分け混ぜ焼けば、ガトーショコラ。ケーキは基礎さえ押さえれば何だって作れる。タルトに薄力バター砂糖などを混ぜたペーストにフルーツのコンポートなどを載せればフルーツタルト。
他にもクッキー、チョコに粉やパン粉をつけて揚げたもの、マカロンなど様々作った。
おいお前ら。
何故普通に食事して談笑してるんだ?
正気かお前ら?
僕がこんなに頑張っているのに……。
何で「えっ、何どうした?失敗でもした?」って心配そうな顔してみてくる?
まず君たちと始めたことが失敗だったよ。
あの頃の皆で楽しく料理を作ろうっていう、僕のわくわくした気持ちを返してくれ。
純粋な僕の気持ちを返してくれ。
何故そんな真っ直ぐな眼差しで見る?
何故そんな純粋な瞳ができる?
何故そんな「ドンマイ」みたいな顔で僕を見る?
僕が悪いのか?僕が悪かったのか?
そんな瞳で見つめるなよ。そんな顔で慰めるなよ。
あぁ。女神フィリアよ。教えておくれ。
何故この二人は黙ってこちらを見つめる?なぜ何もしゃべらない?
何故?何故?
この空気は何だ?謝ればいいのか?
あぁ女神様よ。教えてくれ。僕はどうしたらいい?
とりあえず二人にケーキを差し出す。
喜んで食べる二人。
良かった。
二人に笑顔が戻った。
これでよかったんだ。
何だ。簡単じゃないか。
答えは目の前にあったんじゃないか。
見ろ!二人は嬉しそうだ。
二人は幸せそうだ。
こんなに簡単だったんだ。
僕は何を焦っていたんだろう。
焦って答えを見つけられずにいた。
焦ったっていいことなんてないのに。
人生だって一緒だ。
焦ったっていいことなんか一つもない。
それを今思い出した。
もしかして爺さんはこれを僕に伝えたかったのかもしれない。
はは!爺さん。
僕は気づいたよ。気づくことができた。
これが伝えたかったんだな?
これを僕に伝えたかったんだな!!
ん?
何だこっちを見て
二人して何なんだ?
まてまて、落ち着け。
今の僕ならきっと答えを導き出せる。
考えろ。
考えるんだ僕。
「ッッって違うわ!!お前らさぼってんじゃねーー!!」
僕の叫びが屋敷に響き渡る……。
何故二人して可哀そうな目で僕を見る?
僕はいったい……?
あ、そうか!
僕は二人にケーキを持っていく。
二人は嬉しそうにケーキを食べ始める。
何だよ。
何僕は熱くなっていたんだ?
女の子2人相手に。
いったい何してんだ僕は……。
「って違うわ!!何語らせてんだよ!!無駄な時間過ごしたわ!!」
僕の叫びが屋敷に響く。
おいおいおい……。
何故そんな目で僕を見る。
僕を憐れむんじゃない。
僕はいったいどうしたら……。
いや落ち着け僕……。
考えるんだ‥‥…。
以下これが夜まで続く……