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Another Of Life Game~僕のもう一つの物語~  作者: 神城弥生
クラン「カンパニー」
60/218

眠り姫



「あれー?おっかしいなぁ」

「まぁ、こんなことだろうと思ったけどね」

「ん。いつも通り」

「うるさいなー!!もうすぐ着くから」


 場所は王都中央通りから一本離れた道。人通りが割と多く進むのも困難だ。


「とりあえずどこかで聞いてみないか?」

「ん。でもみんな忙しそう」

「じゃああそこで聞こうよ!!暇そうな店だし」


 こんな賑わっている通りには珍しく年期の入っている店だ。


「こんにちは!!道教えてください!!迷子です!!」

「やっぱ迷子だったんじゃねぇか……」

「ん。だと思った」


 なかなか種類豊富な薬屋のようだ。珍しい商品が棚に並んでいる・・・が、棚には埃がかぶっていた……。


「あれー?誰もいないよ?」

「ほんとだな。すみませーん!!」

「ん。これ…‥もしかして人じゃない?」


 よく見ると、カウンターに大きな毛糸の塊のようなものは上下に動き、呼吸をしていた。


 話しかけるのが怖いな……。


「あのーー!!生きていますかーー?」

「ん……。ん?うわーー!!??い、いらっしゃいませ!!」


 真っ赤な髪をぼさぼさにした眼鏡をかけた女性が突然起き、驚いた顔でこちらに挨拶する。


 鬼だなアイリス。寝ている知らない人の耳元で叫ぶなんて……。


「あーーいたいた!!なんでこんな店に?」

「どうせアイリスでしょ?迷子になってたってところね。」


 クリスとエリザベスが入ってきた。


 今日は月曜日。


 昨日のレイド戦の打ち上げをしようと美味しい店を探していたところ、オリバーからいい店を聞いたと

 

 アイリスが僕らを案内してくれているところだった。クリスとエリザベスは別で王都の下着屋を見てから合流するという話になっていた。


 どんだけ下着買うんだよ。ここゲームの中だぞ……。


 離れていてもフレンド登録してある相手の居場所はMAPで確認できる。


「あ、あの……?」

「あ、あぁすみません。「ビストロ、マルゲリーゼ」ってどこか聞きたいんですが……?」

「あ、あぁ。お客さんじゃないんですね。ですよね。こんな誇りかぶった古臭い店なんかで買い物したくないですよね。こんな小汚い店主からなんて買い物したくないですよね……。」


 自覚はあったんだね?


 確かに看板は斜めになり、店は埃まみれ。店主は所々穴の開いた変な色の服を着ていた。というかこの人大丈夫か……?


「あはは!!自覚あったんだね!!」

「ひぃ!!そんなはっきり……」


アイリスは鬼だな。天使のような満面の笑顔で言うアイリス。いや、堕天使だったか。悪魔結社に言わせれば……。


「そうね。小汚いわ。この店は。なんで掃除しないの?」


 女王様がズバズバ物言うのは仕方がない。


「グスン……。実は「おい!!邪魔するぜ!!」ひぃ」


 そこにはガラの悪い二人のおっさんが入ってきた。


「おぉ!!なんだ起きているじゃねぇか眠り姫!今日も買いに来てやったぜ!」

「あ?この店に客がいるなんて何年ぶりだ?ばばぁが生きてた時ぶりか!がっはっは!!」

「おい!!ポーション10本もっていくぜ?ほれ!200Gだ!じゃあな!!」


 男たちは下品な笑い声を出し出ていった。お金は眠り姫の顔に当たり、落ちた。


「……ほら、お金。」

僕はお金を拾ってあげる。

「あ、ありがとうございます。わ、私なんかの為に……」


卑屈だな。この人……。


「ねぇ。ポーションって1本350Gよね?何で200Gで10本も?」


 確かに棚には「ポーション1本350G」と書かれている。


「あ、あの人たちはいいんです。あの人たちは古いお客さんで……」


 何か訳ありのようだ。


ーーーーーーーーーーーー


クエスト発生【眠り姫の悩みを聞いてあげよう】


眠り姫と呼ばれている女性は何か悩みを抱えている?

まずは話を聞いてあげよう。


報酬


???


このクエストを受けますか?


YES/NO


ーーーーーーーーーーーーー

 僕が読み終わるころにYESが押されていた。エリザベスだ。


「ねぇ。私たちでよかったら話聞くわよ?」


 エリザベスは優しく、そして力強く問いかける。


「い、いえ、何にもありませんよ?そんなことより迷子なんですよね?もう一度お店の名前を聞いてもいいですか?」


 眠り姫は満面の笑みで、だがどこか泣きそうな顔で言う。


「ねぇ。貴方から見て私ってどう見える?」

 

 突然のエリザベスの問い。眠り姫は少し困った顔をし、


「え、えっと。かっこいいです。なんか堂々としてて、物事をはっきり言いそうで。私なんかと大違いで……」


「そう。そうね。でも昔は違ったわ。あなたのように心の中はおろおろしていたの。だからあなたの悩みはきっと聞いてあげられるはずなの。お願いだから話してみてくれない?聞くことしかできないかもしれないけど……」


 突然のエリザベスの話に僕らは驚く。

 エリーゼも突然の告白に驚きを隠せない。


「えっと?貴方が?そんなわけないじゃない。わかったような口きかないでよ!!」

「ええ、わからないわ。でもわかりたいの。きっと私ならわかってあげられるの。お願い」


エリザベスはゆっくりと説得するように話す。こんなエリザベスは見たことがない……。


「どうして?でも。そんな。今日初めて会った相手に。なんかそれじゃ私みじめじゃない。」


 眠り姫は泣きそうになり俯く。


 エリザベスは眠り姫近づきゆっくり抱きしめる。


「そうね。でもいいじゃない。みじめでも。それにここでは貴方のことみじめだなんて思う人はいないわ。そうでしょ?それで?どうしたの?どうして泣いているの?泣いてもいいから、強がらなくていいから話してごらん?大丈夫。ただ話すだけでいいの。ゆっくりでいいから……。私はそれをずっと待っていてあげるし、聞いてあげる。ずっとこうして抱きしめててあげるから……」


 エリザベスの言葉に眠り姫は泣き出し、エリザベスの胸に身をゆだねる。店のは泣き声だけが響く。


 僕は必要ないかもしれないが、そっと看板を「CLOSE」にする。


 エリザベスはそれに気づき微笑んでくる。


 5分か10分か。もっとたったかもしれない。ぽつぽつと眠り姫は話し出す。


「わ、私ね。この店おばあちゃんの店だったんだ。すごく流行っていたの。で、でもおばあちゃん死んじゃって。おばあちゃんは私の薬師の腕はすごいって。天才だって褒めてくれて。だからここを守りたくて。継いだの。でも私、おちょこちょいだから。うまくいかなくて。薬作りだすと止まらなくて。店ではいつも寝ていて……。」


それで眠りか……。


「もう買い物に来てくれるのはあの人たちくらいなの。利益はなくても、唯一のお客さんだから……」


「そう……。ありがとね。話してくれて。あなたの話を聞けて良かったわ。ねぇ。私たちに貴方を手伝わせてくれない?このお店を……」


「えぇ?でも……。」

「いいの。私がやりたいの。……ダメかしら?」

「えっと。うれしいけど」

「ふふっ。じゃあ決まりね?それにあなたさっきよりいい顔してるわよ?」

「ふぇ?でも今顔泣いてぐしゃぐしゃ」

「いいえ。あなたが悩みを話してくれたおかげよ?人はね。溜め込んだらすぐ駄目になってしまうの。少しでも、カッコ悪くても話すってことが大事なの。それだけで心が楽になるの」


「私もね。昔は溜め込んだの。溜め込みすぎたの。それでだめになった。なりそうだった。でもね。話を聞いてくれた人がいたの。助けてくれた人がいたの。守ってくれる人がいたの。だから私は平気だった。今度は私が誰かを助ける番なの。だからお願い。私の為に助けさせて?」


「うん、わかった。よろしくね?」

「うん。よろしく」


 話は決まった。クエスト完了の文字は出ない。最後までやれってことか・・・。しかしエリザベスにそんな人がいたなんて知らなかった……。


「じゃな皆も手伝ってね?」


「もちろん」

「いいよー!なにすればいい?」

「私も手伝うわ」


「なるほどなぁ。しょうがねぇ。最近さぼり気味だったし、「情報屋ジン」様が動いてやるか」

「ありがと。で、いくら?」

「いや、今回はいれねぇよ。この前いい魚たくさん取ってきてくれたしな。あれで結構儲かったんだ」


 確かに「ダブルナイツ」の皆は魚全部渡したから100匹以上にはなったかな。


 場所はフェラールのジンの所。エリザベスの指示で僕とアイリスは情報収集をしていて、王都ギルドの後にここに来ていた。


「ここは僕が払うよ。」

「おぅ!!楽しみだなぁ。これだけでも来たかいがあるぜ。」

「一瞬だから案外つまんないよ?」


 転移ポータルはNPCでも使えた。僕がお金を二人分払い転移する。できなかったら、なんて考えてなかった。危ない危ない。


「すげぇ。ほんとに王都じゃねか……。」


 ジンは王都の中央広場で呆然と立ち尽くしている。僕らも初めはこうだったなと苦笑する。


 しばらく立ち尽くした後「じゃあ、行くか……」と歩き出す。知った場所で立ち尽くしたことが冷静になり恥ずかしくなったのだろう。


 古いBARのカウンターに座る。

「よう、珍しいな。お前がここに来るなんて。仕事か?トラブルか?」

「よう。どちらかといえば後者だな。いい情報期待してるぜ?」


 ここは王都の情報屋らしい。主に裏の……。


「……そういうことか。確かにあのばあさんには俺たちも若い頃世話になったからな・・・。よしっ。一肌脱ぐか!!」


 勢いよくBARを出るジンを追いかける……。


「……くそっ。アイツのせいで稼ぎ口が」

「そういうなよ。このポーションの転売がうまくいってんだ。しばらくすれば落ち着くさ」


 貧民街の一角の建物。


 バァァァァァァン!!

「邪魔するぜ?」


「あ?誰だてめ……ジンか?「情報屋」が何でこんなとこに……ぐふぁ!!??」


「「ジン様」だろ?いつから俺様にため口聞けるようになった?あ?」


「「「「す、すいません。ジン様!!」」」」




「おかえり。首尾はどう?」

「ばっちりだよ!!エリザベスの読み通りだったよ!!うわーー!お店綺麗になったね!!」

「でしょ?じゃあやっぱり転売か何か?」

「転売と若者育成のために使ってたんだって。もちろん裏のね」

「そう。とにかく無事でよかったわ」

「がっはっは!!俺様がいるんだ!!当たり前だろ!!よう!嬢ちゃん!久しぶりだな」

「ジン様!?どうしてこんな場所に?」

「がっはっは!!ちょっと恩返しにな!!」

「恩返し……ですか?」


 ガチャ……。


「すみませーん。ポーションほしいんですが」

「すいませーん。マナポーションが安いって聞いてんですが」

「すみませーんポーションが」


「えっえっ??これはいったい??」


「そんなことよりも先に接客よ!!」

「おう!!俺たちも手伝うぜ!!」


その後閉店時間まで客足が途絶えることがなかった。


「ぐすっぐすっ。こんなにお客さんが来てくれるなんて。おばあちゃんがいたころみたいだった」


 事の顛末はこうだ。


 薬の作る才能はあるが経営力がない眠り姫を狙い、悪い奴らが冒険者に「ここの薬は質が悪い。俺たちが作った薬の方がよく効く」とうわさを流し、客足を途絶えさせる。そして勇逸の客である自分たちが眠り姫を脅し、薬を安く買い、転売する。店がつぶれない程度に……。


 悪者はジンの知ってる元冒険者だった。そして情報屋を使い「個々の薬は種類豊富でいい」情報を流した。


 因みに悪者達は今は花壇に埋まっている。首から下まで。汚い花が4本咲いたわけだ。


「ぐすっ。そうだったんですね……。こんな私の為に。ありがとうございました」


「ねぇ、あなた今こんな事考えてない?自分は馬鹿だって。自分は何にもできないやつだって」

「はい……。私は頑張ろうと色々な薬を開発したんですけど全然売れなくって。みんなに見下されて、のけ者にされて、理解されなくて……。先のことばかり考えてないで今ある薬を売れるようにやれって……」


「そう。でもお願いだからこんな風に考えないで?自分は価値のない人間だって……。あなたが例え自分は価値のない奴だって思っていても、私から見たら貴方はすごい人よ?おばあさんのお店をたった一人で守って、薬もこんなに開発したじゃない。あなたは自分の価値を見誤っているわ。あなたはすごい人よ?あなたは疲れて混乱しているだけ」


「周りの人が何?あんな奴らの意見なんか聞く価値ないわ。あんなのどこにだっているクズよ?もう一度言うわ。貴方はすごい人よ。そしてとても価値がある人。たしかにやり方はうまくなかったかもしれない。でも誰だって間違いはある。一番よくなかったのは一人でどうにかしようとしていたこと。人間って案外もろいものよ。そして自分ではそれに気づきにくいの。だから周りを頼りなさい。それはカッコ悪いものではないわ」


 眠り姫はなきながら、そして頷きながら話を聞く。


 彼女はもう大丈夫だろう。


 ジンに依頼していい従業員も手配した。彼女はいっぱい泣いた。胸のつっかえはもうとれたはずだ……。

店もこれからまた繁盛するだろう……。


ーーーーーーーーーーーー


クエスト発生【眠り姫の悩みを聞いてあげよう】クリア!!


眠り姫と呼ばれている女性は何か悩みを抱えている?

まずは話を聞いてあげよう。


報酬


おばあちゃんのレシピ

お店の商品50%オフの権利


ーーーーーーーーーーーーー


 こうして僕らは屋敷に帰って忙しい一日を終えた。


「ねぇ。エリザベスの恩人って?」


「ふふっ。あら、忘れちゃった?あなたよ弥生。小さいころ私がいじめられて泣いてた時あなたが助けてくれたのよ。そして私の価値を見出してくれた。前に助けられたら惚れるって言ったけど、女の子はね、そんなに簡単には好きになったりしないわ。そういう子もいるけど。それはほとんど漫画や映画の中だけよ。女はそんなに簡単じゃないわ」


「私はね、何でもたいていのことはできる。だけどああやって没頭するものがないの。でもあの子にはあった。たくさんの薬を開発していた。見てられなかったの。周りの嫌がらせで、くだらない奴らに、才能ある子がつぶされるのが見てられなかった。……今日はありがとね。助かったわ」


香織さんは僕に頭を下げた。久しぶりに香織さんの心に触れた気がした。

彼女の人生は、自分に似た人を助けたことでまた一歩前に進めてのだろう……。




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