幼馴染と基礎知識
「「「行ってきます」」」
「あっ、お早う千紗、香織さん」
「ん。おはよう」
「あら、お早うみんな」
「「チッ……お早う」」
隣の家の姉の山下香織さん、妹の千紗。
香織さんは姉さんより一つ上の高3、千紗は僕と同級生の高一年生だ。因みにあの山下グループ元会長、現社長の娘達、まぁお嬢様たちだ。
僕らは小さいころからの幼馴染であり、家族のようなものだ。同じ学校に通っているので、毎日一緒に登校している。
「今舌打ちしたかしら?相変わらず下品ね。もう少し品性を磨いたらどうかしら?」
「あらあらお嬢様。うちは庶民なのでこれくらいでちょうどいいのよ」
と、香織さんと姉さん。
「ん。ユイ、弥生にくっつきすぎ」
「家族だからねぇ。家族だから!これくらい普通なんだよ!」
と、千紗とユイ。
側からみると仲が悪いようにみえるらしいが僕は何だかんだ仲がいいと思ってる。というか香織さんと姉さん、ユイと千紗はライバル関係みたいだ。
小さい頃からこんな感じ。きっかけはなんなのか聞いたことがあるが教えてくれなかった。なんか協定があるからとか。まぁ女性同士のいがみ合いには首を突っ込まないのが男の長生きする秘訣だ。
……本当にね。
「それより二人はもう準備した?」
「まだよ。今日の夜ゆっくりするつもり。そちらの二人はもう終わってるのでしょうけど」
「ん、私もまだ」
「そういえば姉さんとユイはどんなジョブにしたの?」
準備というのはAOLのことだ。稼働一週間前からキャラメイクのみ出来る仕様になっている。二人はキャラメイクが出来る0時ちょうどにダイブしたのだろう。
「勿論終わったわよ。中々珍しい仕様だったわね」
「私も終わったよー!私称号もらっちゃった‼︎『初めての流れ人』って奴!AOLに一番にログインした人がもらえるんだって。あと女神ちゃん可愛かったー!」
「「称号?女神ちゃん?」」
なぜこの様な基本的な話からしているかというと、AOLにはβテストがない。
この手のゲームには大体あるのだが、山下グループが全てをかけ作った物なのでバグなんかないという自信の表れなのだろう。
「んとねー、称号は全ステータス+10に女神ちゃんは幼女ちゃん!」
なるほど。
ユイの会話は基本何言ってるかわからないので道中AOLについて話をした結果こんな感じだ。
まずダイブすると真っ白な空間で幼女がお菓子を食べながらレトロゲームをやっている→話しかけると慌てて口周りにお菓子を付けながら女神だと名乗る(偉そうにドヤ顔で言う所がやばいとの事)→容姿の設定→ステータス確認→武器の選択→戦闘チュートリアル→AOLの世界についてとマナーについて→終わり。
との事。
見てわかる通り職業選択とスキル選択がない。人生生まれた時から職業についてるわけないから、ということらしい。
ではどうするか。チュートリアルで武器選択、片手剣、両手剣、二刀流、小盾、大盾、弓、斧、槍、杖、籠手のどれかを選択(チュートリアル中は他の武器を試しても良い。)
世界に降り立ったあと一定時間同じ行動をする(剣なら素振り、籠手ならシャドーボクシングなど)か、ノンプレイヤーキャラクター通称NPCに教わるかの二択。
そしてその後の行動戦闘パターンにより習得スキルが変わってくるらしい。
称号は様々な習得方法がありそれは自分で探せとの事。
因みにジョブは二種類選択可能でスキルはメインが十種類、残りは控えに入り使用時はメインと入れ替えなければならない。
ゲーム初心者の弥生は何となくしかわからなかったが、他四人は当たり前のように会話を進める。
「でもステータスプラスはいいわね。かなりのスタートダッシュになるんじゃない?」
「うん!元々のステータスがあんまり高くなかったから助かったよ」
因みにステータスというのはこんな感じ。
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HP.(Hitpoint):体力、0になると死亡(戦闘不能状態)になる。
VIT(vitality):生命力、数値が高いと防御力やHPが上がる。
INT(Intelligence):知力、数値が高いと魔法攻撃力が上がる。
CRI(Critical Hit):会心の一撃、低確率で、通常よりも大きなダメージが与えられる。
STR(Strength):攻撃力を決定する値の一つ、数値が高いと攻撃力も上がる。
DEF(Defense):防御力、数値が高いと防御力が上がる。
MND(Mind):精神力、MPが上がったり、回復魔法の回復量が上がる。
DEX(Dexterity):器用さを表す数値、数値が高いと攻撃の命中率が上がる。
AGI(Agility):素早さ、数値が高いと回避力や先制攻撃力が上がる。攻撃の回避が上がる。
MP(Magic Point):魔法を使うと減っていくキャラのマジックポイント
LUK(Luck):幸運、数値が高いとアイテム獲得量が上がる、様々な幸運によって助けられる。
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AOLではリアルの体の数値が反映される。
始めに付属のカメラで体を360度撮影する。
裸、もしくは下着姿で撮影する。その後10本のベルトを両手足、腹、胸に巻き、1分間筋肉量を測定、その後ヘッドギアを付けプレイする。
因みにこれはスポーツ選手でも使われている為このデータは正確だ。大企業山下グループのみなせる技と言える。
ユイの話ではアスリートの現時点での最高値を50とし、20代平均は25前後のこと。LUKは皆20スタートらしい。
ユイは中学生なので15平均だったが称号で既に25平均。成人並みの身体能力を有している事になる。
この様にとてもリアルな世界を実現できる仮想世界。しかしこの世界にも禁止事項がある。
フルダイブ型バーチャルリアリティ通称VR。この仮想世界で性行為は出来ない。
少子化に繋がるからという理由もあるが一番の理由は安全上の問題だ。
仮想世界では、痛みを軽減するセーフティが義務化されている。
例えばナイフで切られても実際に切られた様な感覚にはならず、切られた箇所が軽く叩かれたような衝撃と痺れが起こる程度だ。理由はそこをリアルにすると多くの人がトラウマになり、刃物を見るだけでパニックに陥ることになる。勿論、痛覚遮断もできる。
人は精神的に死ぬことがある。
例えばリアルの体に問題が無くとも仮想世界でセーフティを外した状態で、ナイフで何度も刺され苦痛を味わい死んだ場合精神が体に戻れず植物人間になったり戻れてもその瞬間心肺停止になる。
話を戻そう。
とある会社がセーフティを外し性行為が出来るVRを開発し裏ルートで販売した。これが一部の人達にうけ、世界で百万本近く販売された。
しかし結果として今も尚、現実で普通に生活できてる人は一割程度だという。
理由は簡単。
まず性行為をするという事は絶頂を求める。その為には違和感のないリアルと同じ体つきで無くてはならない。弄れるのは髪の色や長さ肌の色程度だろう。その結果身バレする。そして裏ルートで仕入れる為一度わかれば身元も分かりやすい。
その結果VRの中で気に入った人を調べ誘拐や強姦、殺人などの多発。
そして一番の理由は、先も述べたとおり精神死がある仮想世界。
そこで性行為を求める人はリアルでは出来ないようなことを求める。つまりハードSMやバイオレンスな行為、後は強姦殺人やより深い快楽を求める為ドラッグを服用する。それにより精神死や、現実に帰ってきても満足出来ず何度もダイブし最終的に帰ってこれなくなる。このケースが一番多かった。
セーフティを外すという事はリアルの体に異常がきたしても感知できない。一々警告していたらプレイに集中出来ないからだ。
結果警察が動いた時には後の祭り。救出しまともな人は1割程度になってしまった。
以上がセーフティの義務化の理由であり禁止事項だ。
他にも過度なナンパ、セクハラ、なども禁止されている。これはプレイヤーだけでなくNPCにもだ。
もしその様な行為を行った場合重いペナルティ、最悪アカウントの削除になり、山下グループのブラックリスト入り。
さらに他のゲームでも迷惑行為を行った場合山下グループの製品は使用できなくなる。VR機器なの使用には必ず身分証の登録が義務付けられており、機器は脳波を読み取りそれは人それぞれ違うため偽装ができない。
「……ちゃん。お兄ちゃん!!」
「ん?ああどうした?」
「何ボーとしてんの?話聞いてた?つまりお兄ちゃんは前衛職に決まったから宜しくね!」
何がつまりなんだ?
「……弥生もしかしてもう何か決めてた?」
「えっ??決めちゃってるの?お兄ちゃん」
ユイよ。そんなあざとい潤んだ瞳、上目遣いでみないでくれ。可愛すぎるだろ。天使かお前は。
「……はぁ。わかった。武器は何でもいいのか?」
「んー何でも良いよ!あっでも盾は多分タクさんがやると思うからパーティ組むならそれ以外にしたほうがいいかも」
「あぁ。なるほど。まぁ実際やって見てから考えるよ。みんなは何にしたの?」
「はぁ。やっぱり聞いてなかったのね」
「仕方ない。弥生はマイペースだから」
「そうね。じゃあもう一度説明するけど香織は杖で魔術師狙い。多分氷系統じゃないかな。ちーちゃんは同じく杖で光魔法、回復職。ユイは両手剣。私は弓ね。因みに私達はクランを作るつもりだから弥生も入りなさいね」
中々バランスいいんだな。クランは多分そうなるんだと予想はしていたので驚きはしない。
「はいはい。でも僕はマイペースに自由にやりたいんだがいいか?」
「勿論良いわよ。私たちの目的はAOLを心の底から楽しむことよ。だからある程度の決まりは作るけどルールは緩くするつもり。あとマスターは私ね」
香織さんがマスターなら安心だ。山下グループの長女だけあってカリスマ性は凄い。男女問わず気づけば皆彼女の後ろについていってしまう不思議な力がある。
「後はクラン名だけだね。私のオススメはお兄ちゃん親衛隊なんだけ「却下だ。何だそのアホな名前は」ぶーー!お兄ちゃんにこれ以上変な虫がつかない様にしなきゃだもん」
また訳のわからんことを。お兄ちゃん心配だよ。千紗と姉さんも頷かないで。
結局決まらず学校へ着いてしまい各々のクラスへ向かった。