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Another Of Life Game~僕のもう一つの物語~  作者: 神城弥生
イベント「サバイバル島」
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意外な事実

ネット小説大賞コンテスト、二次審査で落てしまいました。


この作品を書き始めて一年と少し、このサイトでいくつかのコンテストに応募してきましたが、一次審査突破どまりまでという結果となりました。

なのでもうこの作品をコンテスト参加させる事はないでしょう。

もし一人でもこの作品を応援してくださり、同時に書籍化を期待してくださっていた方がいたら申し訳ありません。この作品は恐らくもう書籍化になることはないと思います。


凄く悲しく落ち込みましたが、同時に未だに毎週1万PV以上伸びている事に気が付きました。

本当にありがとうございます。

凄く励みになっています。


こんな作品でも毎週楽しみにしてくださっている方が一人でもいる以上、僕は頑張って完結まで書ききりたいと思っています。

頑張って諦めずに皆様を楽しませられるよう努力いたします。

宜しければ最後までお付き合いください。


PS.でもちょっとだけお休みさせてください。GWが毎日仕事なので。というかちょっと立ち直るのに時間をください。

 次の投稿を6月1日とさせて頂きます。

 

 

 アスファルトで反射した熱と、体から流れ出る汗が体に纏わりつく。四方から聞こえる煩い蝉の泣き声を無視し、僕はいつもの階段を駆け上がっていく。


「おはようジィジ」

「おはよう弥生。なんじゃ、珍しく徹夜でもしたか?目の下にクマが出来ておるぞ?」


 少し心配そうに見つめられ、僕は目の下を撫でる。早朝のランニングコース、ジィジの神社に辿り着くと、ジィジが今時珍しい木で出来た箒で庭を掃いていた。水分補給でもしていきなさいと、ジィジは敷地内にある家の縁側に座り、置いてあったポットから冷たいお茶を入れてくれる。


 暫く僕等は静かにお茶をすすり、吹き抜ける夏の風を感じていた。冷たいお茶が喉を潤し、目に映るいつもの風景が、隣にいるジィジの存在がここは現実だと教えてくれた。


 普段なら色々聞いてくるジィジが、静かにお茶をすすりながら景色を眺めている。恐らく僕の言葉を待ってくれているのだろう。そんな気遣いをしてくれているジィジに感謝し、僕はゆっくりと口を開き、AOLでマザーAIピステから聞いた事を話した。


「そうか。そんな事があったのか……」

「うん。流石に人体実験の末に人類が滅び、それによって生み出されたのが魔物であり、悪魔だとしたら、僕はどう戦っていけばいいのか分からなくなってしまって……」


 ゲームとはいえ、僕らが今まで倒してきた魔物たちは人体実験の失敗によって生み出された魔物だ。つまり、死んだ人間たちのエネルギーを受け継いだ生き物という事になる。


 魔物は人々を襲い殺す生き物だ。それ以上でもそれ以下でもない。だが、その根本に死んだ人間のエネルギーがあると知れば、まともな人間なら振り上げた拳をこのままおろしていいのか分からなくなってしまうだろう。まさに、今の僕がそうだ。


 ジィジは「うむ」と少し考えてから、口をゆっくり開いた。


「弥生は今のこの現実世界をどう思う?」

「え?現実世界って、ゲームではないこの世界という事だよね?」

「そうじゃ。この世界の事をどう思う?」


 突拍子のない質問に、僕は言葉が詰まる。現実世界、僕の生きてきたこの世界は当然、僕が生まれてきた時から当たり前のように此処に存在している。当たり前すぎてそれほど深くは考えたことがなかったからだ。


「んー、住みやすい、かな?とても便利なんだと思う。教科書に書かれている昔のこの世界、2020年東京オリンピックの時代辺りからでしょ?AIが世間に広まったのって。今じゃ当たり前の技術だし、それによって人の働き方も変わってきたし」


 昔の言葉に「ブラック企業」なんて言葉があったらしい。人々は奴隷のように働かされて、そして何万人もの人が過労死したという。今じゃ考えられない事だ。


「そうじゃな。今は過労死なんてする人間はいない。何故ならAI達が企業の事務作業を全てやってくれるからじゃ。システム開発だって、その理論さえ教えれば、あとは勝手に作ってくれる。昔は荷物の運搬は人間がやっていたそうじゃが、それだって今じゃAIがやってくれる」


 では何故そこまでAIが注目され、この短い期間でここまで実用化出来たのか。


「それには「過労死」した人々がいたからじゃよ。「ブラック企業」というものがあったから。昔から労働に何不自由なく過ごしていたのなら、AIはここまでの速度で発達しなかっただろう。そこには犠牲があったからじゃ」


 機械技術だってそう。様々な技術が昔頻繁に起きていた「戦争」のおかげで発展した。昔は剣を振り回していたらしいが、鉄砲などの化学兵器が出てきた辺りから、戦争には科学技術が必要不可欠だった。より優れた科学技術を持つ国が戦争に勝つ。いつしか戦争は人よりも技術にお金を投資するようになっていった。


「あまり知られていないが、技術の発展、経済を回す為だけに行われた戦争がいくつもある。つまり今ある技術はそうした人々の犠牲の上に成り立っている」


 医療だってそうだ。戦争で捕まえた人間の人体実験なんて当たり前。戦争がなくても、効くかどうかわからない技術を使いたいがために、上手い事言い患者を騙して実験する病院だって山のようにあった。


「今ある全ての事にそれは言える。初めてこの縁側を作った人間だって、もしかしたら死ぬほど働かされて完成させ、そして死んでいったかもしれない。目に映るこの家も、学校も、法だって誰かの努力と犠牲の上に成り立っている」


 そこまで言うと、ジィジは一度お茶をすする。未だ鳴りやまない蝉の鳴き声だけが響き渡っている。


「どんなに綺麗ごとを言おうと、どんなに取り繕うとも、儂等はその上に立っている。今の技術なしでは儂らは生きてはいけないだろう」


 人は学ぶこともできる生き物だ。だが同時に繰り返す愚かな生き物でもある。


「だから人は学ぶんじゃ。そして過去の偉人たちの努力を、犠牲を知り、そして繰り返さないように、それを次につなげていかなければならない。それが今生きている者の義務じゃと儂は思う」


 確かにそこに問題があり、そこを改善しなければならないから、技術は進歩し法も時代によって変わる。一つの法を変えるまでには、恐らく何千何万の人々が犠牲になってから漸く審議に入るなんて事は良くあることだ。


「話を戻そうか。人体実験によって生み出された魔物について。魔物とは人を襲い殺す。弥生はそれを許せるか?」


 ジィジの問いに、僕はすぐに首を横に振り否定し、それを見たジィジは「そうじゃな」と呟く。


「ならば戦うしかあるまい。その存在にどんな理由があろうとも。そしてそれに対し何か思う事があるならば、その原因が分かっているなら、そこに辿り着くしかない」


 今回の事で言えば、大魔道時代、王国スクルス王の首都ガリムルにその答えがあるならば、そこに行けばいい。


「さっきこの世界の事を話したが、それを我々が知り考える事が出来るのは、過去を知っているからだ。過去を知っているという事は、誰かがそれを教えてくれたという事になる」


 魔物の発生に思う所があるなら調べ、そしてその原因を改善するしかない。過去に起きた出来事を、今生きる我々が出来る事はそれくらいなのだから。


「そしてそれは全ての人々に伝えなければならない。紡がなければならない。もう二度と繰り返さないように。それが出来るのも、また人間だけじゃと思う」


 人は愚かじゃ。だが我々はそんな愚かな人間じゃ。なら我々は足掻くしかない。示すしかない。未来に向けて、我々人間はそれだけではないと。


 先ほどまで火照っていた体はいつの間にか冷め、蝉の鳴き声はいつの間にか心地よいBGMのように聞こえだしていた。


「そこに疑問に思うなら動きなさい。そこに問題があるなら解決しなさい。辛いと感じたのなら、悲しいと感じたのなら、胸を張りなさい。それに対してしっかり考える事が出来たのだ。立派な事だ。だけどそれだけでは物事は変わらない。戦いなさい。いつだってそれが出来るのは今生きている人間だけじゃ」


 ジィジはお茶をすすり、僕は手に持ったコップを見つめた。魔物は確かに人々が生み出した物なのかもしれない。だがそれを放っておくことは出来ない。身勝手ない件だけど、それを人間が生み出してしまったのなら、それを解決するのも人間でなければならない。過去の人間が失敗したのなら、今の人間が解決するしかない。同時に過去の人間が生み出した平和や技術の上で我々が生きているのだから。


「そうだね。そうかもしれない。僕は感傷に浸って、考える事を、戦う事をやめようとしてしまっていたのかもしれないよ。ありがとうジィジ。おかげで前に進めそうだ」

 

 僕の言葉にジィジは微笑み、そして口を開く。


「うむ。それでこそ我が孫じゃ。過去の産物なんかに、時代なんかに負けるでない。儂の孫なら自分の人生は自分で切り開きなさい。お前にはその力が、才があるのだから」


 二人は一気にお茶をすすり、そして立ち上がる。そろそろ帰ろうとした僕に、そう言えばと、ジィジが衝撃の発言をする。


「そういえば、AOLを考え作り出した初代山下グループ会長、山下新三郎は死に際にこんなことを言っておったそうじゃぞ?「自分はこれで死ぬのは三度目、一度目は遥か昔の地球で、二度目は「アース」と呼ばれる異世界で、そして三度目が山下新三郎として。AOLは「アース」の世界を再現したもの。実際にあった世界だったんだ」と」


 所謂異世界転生。彼は自分が転生者だと語ったそうだ。アースの世界は本当に魔法があり、戦争を繰り返す愚かな世界だった。だが同時に素晴らしい世界でもあった。そこで彼は生きることの素晴らしさを感じ、そしてそれを誰かに伝えたくてAOLを造ったのだと。


「当時はゲーム造りに没頭しすぎて現実との境目が分からなくなった老人の戯言だと親族は受け取ったそうじゃ。だがもしそれが本当の事なら、あの世界は本当にあったという事じゃ」


 もしそうなら、弥生は今二つの世界を生きていることになる。あれはただのゲームではなく、現実にあった世界で、現実にあった出来事。だとすれば、それはとても貴重な経験だ。


「もう一つの世界を楽しみなさい。そして学びなさい。そこがどんな世界であろうと、その世界を作っているのが人間である以上、その問題はどの世界でも起こりえる事。そしてその人生を楽しむ事は、誰にも邪魔などできはしない。二つの世界を楽しむことが出来るなんて、そうそう出来る事じゃないからの」


 ジィジはそう締めくくり、縁側に立てかけてあった箒を手にして庭の方へと歩き出す。僕はあまりに衝撃的な話に身動きが取れなかった。異世界転生?本当にそんなことがあるのか?


「ふふふ。話はおわったかしら?いい話だったけど、もう少し綺麗に纏められなかったかしら?そろそろ参拝にお客様がくる時間なのだけれど。掃除が全然終わってないように見えるのだけれど」


 そんな思考の中にいた僕は、優しくも恐ろしい声を聞きハッと正気に戻る。気が付けば僕らの座っていた縁側にばあちゃんが立ち、その手には何故かハリセンが握られていた。


「ん?なんだばあさん聞いておったのか。どうしたそんなハリセンを持ち出して。この前の宴会の時の景品じゃろ?折角じゃから儂がボケてやろうか?おいおいそこの妖怪や。どうしたそんな怖い顔をして、ってばあさんやないかい!!ってのはどうじゃ?」


 人は歴史から学ぶことが出来るが、うちのジィジは学ぶことが出来ない人間らしい。僕はそっとその場を離れ急いで入ってきた階段に向かう。


「ん?どうした弥生。今のボケあまり面白くなかったか?んん?ちょ、ちょっと待てばあさん!?どうやったら妖怪のように目を光らせる事が出来る!?それじゃ本当に化け物じゃぞ!?ぎゃあああああ!?ツッコミが強すぎるぞぉおおおお!?」


 蝉の声にも負けないジィジの叫び声を聞きながら僕は神社を後にする。階段を降りるその足取りは、なんだか着た時よりも軽く感じた。

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