緊急クエスト
「いらっしゃい!また来たのかい!?ありがとう!!」
「肉!!肉をくれ!!」
「レイ!!お肉じゃなくてサンドイッチだってー!!」
「ふふ。ごめんなさいサンドイッチを人数分ください」
「ん。よろしく頼む」
「ここの味が忘れられなくてまた来ちゃいました!。」
「騒がしくてすみません。よろしくお願いします」
「あいよ!!少し待ってな!!」
僕らはダイブインした後真っ先に以前来たサンドイッチ屋さんに来ていた。辺りは相変わらず香ばしいい匂いが漂っており通りの端には屋台がいくつも並んでおり賑わっていた。
「う、うまい!!うまいぞこれは!!あと10個くれ!!」
「いや、そんなに食べたら食べ過ぎでバッドステータス出るよ?」
「構わない!!」
「かまえよ。なんでわざわざ無謀な緒戦をするんだレイは」
「あははは!!でもあと10個食べたくなるほど美味しいよね!!」
「あら、嬉しいこと言ってくれるね!!そこの可愛い坊やの言う通り10個は食べすぎだけどまた来なよ!いつでも待ってるからさ!」
「うむ!!毎日来る!!ちゃんと俺の分取っておいてくれよ!!
「あっはっは!!わかったわ!」
彼女はレイの話に気分を良くしたのかレイにサービスでもう一つくれた。レイは本当に嬉しそうに、そしておいしそうにサンドイッチを平らげていた。
「ねえ、お姉さん。今日はアニの街を見て回ろうと思うのだけれど、どこかいいところはないかしら?」
「うーん。そうねぇ。ここは特に珍しいものはないのよねぇ。強いてあげるならやっぱり屋台かしら。ここはいくつかの街の中心地で交易街だから色々な人が屋台を開いているからね。おもしろい掘り出し物がたまにあるのよ」
「そうなんだー!じゃあ今日は色々見て回ろうよ!こっちの世界であんまり買い物ってしてないし!!」
「そう言えばそうね。戦ってばかりだったわ。ありがとうお姉さん」
「ん。褒めて遣わす。今日はウィルに結婚指輪を買ってもらうことにする」
「ふふ。なら私も買ってもらおうかしら」
「あっはっは!!モテモテねぇ。羨ましいわね!」
「けけけけ結婚指輪だと!?そそそれはあれか?世に言う誓いの儀式のときに契約を結び互いを縛りあうあの指輪か!?」
「レイは結婚指輪に何か恨みでもあるのか?なんだ儀式に縛りあうって。まぁ間違ってはいないけど」
レイは結婚という言葉になれていないのか顔を真っ赤にしている。エリーゼたちからはこういった話はよくされるので僕は慣れているが彼女にとっては刺激が強すぎたようだ。
年上が恋愛話で顔を赤くするというのは少しかわいいなと思、嘘ですエリーゼ、心を読まないで顔怖いです、レイを可愛いだなんて思ってないです。
僕らはお姉さんにお礼を言い、エリーゼに腕をつねられながら屋台を見て回った。奇妙な仮面から玩具や武器や防具、食べ物屋さんに的屋など様々な屋台があった。
僕らはまるで日本のお祭りに来たかのような感覚になり沢山遊んで回った。AOLに来てここまで遊んだのは初めてかもしれない。
皆の笑顔を見てたまにはこういいうのもいいなと思い、これからはこういう時間も作ってあげた方がいいかなと僕は思った。
そして2時間ほど遊んだ後、皆はダイブアウトし、僕は一人で協会に向かった。ノアはまだ治療の真っ最中で先に地下に行っていてほしいといわれた。
地下に着くとまだ魔法陣は完成していなかったため本棚の本を見て回っていた時、一冊の本に目が止まった。
『白うさぎの冒険日記、パート2515』
どれだけ本を書いてるんだこの人、絶対嘘だろ。
確か白うさぎの冒険日記と言えばイベント「サバイバル島」でも見つけた本と同じ著者だ。
僕は何となくこの本を手に取りぱらぱらと中身を見てみることにした。
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我の故郷はどこにあっただろうか。
もうはるか昔の話で忘れてしまった。
もう一人の人生は寂しい。
だが同時に死ぬことが怖くてたまらない。
我は今日も生きている。
この地獄は一体いつまで続くのだろう。
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書き出しはかなり重い内容だった。
この人は記憶喪失にでもなったのだろうか。僕はそのまま続きを読んでいくことにした。
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「今日は久しぶりにパラダイスの街に来ていた。
我最近懐に余裕があるので今日は楽しむことにした。
リンダちゃんは今日も可愛いな・・・。
特に胸元がいい。
あの大きな果物は一体何味なのだろう。
我、今日こそはリンダちゃんを誘ってみる。
我、任務に成功した。
今夜はパーリーナイト。
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人生楽しんでんじゃねぇか。
何がパーリーナイトだ、この先絶対R18だろ。
ちょっと心配して損したわ。
「ほう。白うさぎの冒険日記か。面白い本を読んでいるな」
いつの間にかそばに来ていたノアに驚き、僕は本をそっと本棚に戻した。
「すみません。勝手に読んでしまって」
「いやいや構わないよ。本は読み為にあるものだからね。しかしこの本の山の中からそれを手に取るとは。白うさぎを知っているのかね?」
「はい。と言っても以前一度見かけただけですけど」
「そうか。やはり著者の事は知らないか。この著者の不思議に気づいたかね?」
「不思議、ですか?」
「うむ。この本の書かれた日にちを見てみなさい」
そう言われ僕はもう一度本を手に取り汚れた表紙に目をやると、そこには今から1500年前の日付が書かれていた。
「ずいぶん古い本なのですね。でもこれが何か?」
「うむ。では隣の本も見てみなさい」
僕は近くにあった他の白うさぎの本の表紙を見てみた。するとそこには3000年前の日付が書かれていた。
「書き間違い、ですよね?」
「わからん。しかし私も気になってこのシリーズを色々探してみたのだがどれもとても古く、もし本当だったらこの人はすでに5000年以上生きていることが分かった」
「5000!?さすがに」
「そうだな。あり得ん話だ。まぁしかし所詮は本だからな。嘘だって書ける。ところで君は本は好きかね?」
「ええ、まぁ好きですよ」
「そうか。本はいい。様々な人の人生が詰まっている。人生は一度きりだ。だが本には様々な人の人生が詰まっており読み手は読むことで様々な人生を疑似体験することが出来る。全く面白いものだよ。」
「確かにそうですね。それに人生だけでなく様々な人間がいて沢山の考え方があることに気づかされますね」
「その通りだ。本は人生に似ている。そして読み方でその読者の人間の性格も分かる」
「読み方ですか?」
「そうだ。人生とは一冊の本なのだよ。愚か者や馬鹿者はそれをしっかりとは読まずパラパラとしか読まない。そう言うものは人生でもその瞬間をしっかり生きずだらだらと生きてしまうだろう。だが賢い人間ならばその本の細部までしっかりと読むことが出来る。それは人生という本を一度しか読むう事ができないと知っているからだ。しっかり読み、そして本を大事にする人ほど人生も大事にする人が多いのだよ」
人生とは一冊の本。
確かにそう言う考え方もできる。
今日というページを書けるのは今日しかなく、そして今しかない。
今というページを書くためには今を懸命に生きるしかない。
そうして出来上がった本を読んでみた時、果たして僕は素晴らしい物語が、満足できる物語ができるだろうか。
「すまない。少し話過ぎたな。どうも年を取ると話が長くなってしまって困る」
「いえ、とても面白い話でした」
「そうか、そう言ってもらえると嬉しいね。さて、それでは結界破壊魔法の仕上げと行こうか」
「はい」
ノアはそう言うといつの間にか書き上げていた結界に入り僕もそれに続く。
「今日は上級時結界をいかに早く破壊できるかをやってもらう。目標は5分だ。さあ、始めなさい」
僕は頷き結界の壁に触り手に微量の魔力を集め目を閉じる。
ここ数日の練習の成果でどれだけの魔力を使えばいいのかはすぐにわかるようになっていた。
少しづつ、素早く、正確に魔力をさかのぼり大量の知恵の輪を紐解いていく、まだ数秒しか経っていないのに汗が止まらず自分がどれだけの神経を使っているのかがわかる。
焦るな、だけど急いで。
いくつかの糸を紐解いた時、結界が歪み僕は一気に腕に魔力を集め力強く結界を握りつぶす。鏡の割れた音がし結界は光の欠片となって消えていった。
「素晴らしい。2分15秒。私よりも早く正確だった。もう教えられることはないだろう」
ノアがそう呟くと目の前に文字が浮かぶ。
・古代魔法、結界破壊魔法を習得しました。
きっとこれがきっかけになったのだろう。
ノアにエリーゼは蘇生魔法、僕は結界破壊魔法を教わる。
これがこの事件を起こす条件になっていたと思う。
再び目の前に文字が浮かぶ。
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緊急シークレットクエスト「スタンピート」
クリア条件
生き残ること
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突然のクエストに、そしてあまりにも曖昧なクエストに僕は思わず固まってしまう。
すると遠くから慌てたような足音が聞こえ、一人の男性が入ってきた。
「変だ。大変だ!!ノアさん!!大量の、魔物がこの街にやってくる!!」
その言葉で僕とノアは急いで協会の外へ、そして街の住人が集まる街の外へと急いだ。もうあと5分もかからないだろう。
見渡す限りのモンスターがものすごい勢いでこの町に向かってきていた。
「女子供を協会の地下へ!戦えるものは武器を持って集まれ!急げ!!」
ノアの声に皆が慌てて動き出す。
「まさかこんな手で来るとは。ウィル君。君は元の世界に帰りなさい。これは我々の問題だ」
「問題?いえ、僕も戦います。こんな光景を見せられて何もしないなんて事はできません」
僕とノアは数秒睨みあったが時間もなくなアはすぐに折れてくれた。
「わかった、だが無理はするんじゃないよ。私は教会で子供たちの避難を誘導してくる」
「わかりました。ノアさんもお気おつけて」
そう言うとノアは再び街の中へと走っていった。
「あれ?坊やも来たのかい?物好きだねぇ」
声のする方を見るとサンドイッチ屋のお姉さんもフライパン片手に立っていた。
「まさかそれで戦うわけじゃないですよね?」
「あっはっは!!これで戦うのさ!!昔は「フライパンのアッシェ」と言ったて結構名の通った冒険者だったんだよ?」
「そうさ!!アッシェを怒らせない方がいいぜ坊主。今までいったい何人の男がそのフフライパンで料理されたかわかったもんじゃねぇよ」
僕らの話におっちゃんが混ざり、周りの人たちは大きな声で笑っていた。この人たちは皆元冒険者だったのだろう。
この状況にも動じず、いや、よく見たら皆足が震えていた。流石にこの数のモンスターにこの人数で勝てるわけがない。そしてこっちの世界の住人は死んだらそれで終わりなのだから。
僕がやるしかない。
今みんなを守れなくては絶対に後悔する。僕の人生の本にはこの戦いは勝利の二文字が書かれなくてはならない。
「「空間把握」「雷神衣威」「怪力」!!」
「「「「なっ!!??」」」」
僕は一呼吸した後スキルを使い一気に全力になる。その光景に周りの人たちは驚いていたが、僕は構わずにモンスターの群れに向かって駆け出す。
「坊主!!無茶だ!!」
後ろからの声を無視し、僕は大きな黒い固まりに突っ込んでいく。この町の人たちはいい人ばかりだった。
街は賑わい、食べ物はおいしく、誰かが困っていたら皆で助け合っていた。当たり前のことだが、その当たり前のことをするというのはとても難しいことだ。特にリアルの世界では人と人との距離は離れ、そう言ったことがあまり見られなくなってしまっている。
だがこの世界の人たちは違う。だから僕は命を懸けて戦う理由がある。まぁゲームなので死んでも死なないしね
こうしてノアの街VS魔物の群れが始まった。