バトルロワイヤルその8
ウィルside。
「い、生きていたのですね!!ウィル!!今日という日はおばあちゃんの遺言通り貴方を倒します!!ちょ、ちょっと!!聞いてますか!?無視ですか!?シカトですか!?スルーですか!?話を聞きなさい!!」
「あ?」
「え?」
僕らは鍔迫り合いをしていたが知った声がしそちらを見る。
「ああ。「鏡花水月」の皆さん。あ。「カンパニー」もいる」
「ああ。誰かと思ったらこの間の女にウィルの愉快な仲間達じゃねぇか。お、テメェらも生きてたか!!」
僕は皆の生存を確認し安心し、キルも皆に興味なさそうにしていたが仲間を見つけると嬉しそうにしている。
なんだかんだキルも仲間の事が大事なのだろう。
「誰がウィルの仲間ですか!?敵です!天敵です!!目の上のたん瘤です!!何が愉快な仲間ですか!?不快なこと言わないで下さい!大体今までどこにいたのですか!?」
「どこって。屋根の上?」
「だな。窓割って入ってきたんだ。」
フクチョーは何を怒っているのだろう。
というかおばあちゃんの遺言って僕がフクチョーのおばあちゃんに何したんだ?
「と、とにかくウィルさん助かりました。もうだめかと」
「せやなぁ。さすがにうちもあかんと思ったわぁ」
卍さんと座長さんが床に座り込みながらお礼を言ってくる。
だが、残念ながら僕には状況が分からない。
なぜ彼女たちは僕にお礼を言っているのだろう。
よし。とにかく話に乗っておこう。
「構いませんよ?さすがに知り合いの危険はほっておけないので」
「ウィルさん」
「ありがとなぁ。」
状況はわからないが感謝されているし良しとしよう。
「お前意外と図々しいんだな。状況分かってんのか?」
「しっ。黙ってくださいキルさん。分かってはいませんがなんか感謝されて気分いいのでこれでいいのです」
「お前」
キルと小声でしゃあべった後、お互い後ろに飛び一旦離れる。なんだか今勝負する雰囲気ではなくなってしまった為だ。
「お兄ちゃん無事だったんだね!!」
「ウィル心配したわ!まだ決着はついてないようね」
「ん。でもウィルの方が優勢みたい。当然だけど」
「ふふ。ウィル。さっさとキルをひれ伏せておやり」
「皆」
後ろを振り返らず、彼女たちの顔を見ないでも僕の中で熱くなってくるものがある。安心感、闘争心、そう言ったものが彼女たちの言葉で僕の中に広がった。
ただ近くにいる、声を聞く、それだけでこんなにも僕を強くできるのは彼女たちだけだろう。
「兄貴負けるなぁ!!」
「そうだキルの兄貴!!負けるな!!」
「そんな女みたいな顔した奴さっさと倒してくれ!!」
「てめぇら」
キルは仲間の応援で顔が引き締まる。
彼もいい仲間に恵まれたみたいだな。
人は一人でも生きていける、確かにそうかもしれない。
だが人は一人では生きていけない、これも事実だ。一人で過ごす人生も楽しいかもしれない、孤独に生きるのもいいかもしれない。でもどんなに孤独を愛そうと孤独になりたくても、人は孤独には愛されることはない。常にどこかで誰かを求め、安心感を求めるものが人間だと思う。
「なぁ。俺も回復していいか?」
キルが真剣な顔で聞いてくる。
本来なら駄目だというべきで、それをさせる前に攻撃を仕掛けるべきだ。これは戦いであって、そういうイベントだ。
しかし彼もそれをわかった上で聞いてきている。
その心はもう一度、今度こそ全力で僕と戦いたいのだろ。
それに答えなければ男ではないだろう・・・。
「いいですよ。」
僕らはHP、MPを回復役で全開にしていく。周りでは皆が声を張り上げ声援を送ってくれている。
「前に言った話覚えてるか?」
キルが回復をしながら不意に聞いてくる。
「前に言った話と言いますとサバイバル島での話ですか?」
「ああ。お前が言った「生きる意志」って話だ。あれから俺も考えてみたんだがな。俺は小学生の頃早く、中学生になりたかったんだ」
「は?」
「それでよ。中学生の頃は早く高校生になりたくて、高校生の頃は早く大学生になりたかった・・・。んでよ、大人になった時思ったんだ。子供の頃に戻りたいって」
「後悔している、という事ですか?」
「ああ。昔は背伸びしてよ。その時を全然楽しまずに焦ってばかりいたんだ。そして気づいた。その頃を全く楽しめてなかったなってな」
「……」
「AOLを初めて思ったんだ。大事なのは今なんだって。今を生きられないやつにその先を生きられるはずがない。確かにどんな選択をしても人生は後悔が付きまとうがそれでも何もしないより、今を生きていないよりその時を大事にして生きてる方が人生ってのは面白いってな」
「確かにそうかもしれませんね」
「だろ?だからよ。・・・まぁちゃんと答えはまだ出てないがちゃんと今を楽しむことにしたんだ。そして全力で生きる」
キルは俯き何かを思い出しているようだ。彼の人生にもいろいろあったのだろう。だがそれは本人にしかわからないことだ。少なくとも僕にはそれを察することが出来るほどまだまだ成長できていない。
だけど、今僕にできることもある。
「戦いましょう。全力で。全力で今を生きましょう。答えはその先にあると思いますよ」
「だな。まぁこういうのは慣れていないが。ウィル。お前と戦えてうれしい。お前はこの世界で俺のライバルだ」
「こちらこそありがとです。僕も貴方以上のライバルはいないと思ってます」
二人は微笑みあって剣を握りしめる。
いつの間にか周りのみんなも静かになっていた。
僕らを囲んでいた皆にも僕らが全力の戦いが始まることが分かったのだろう。
一瞬にして空気が張り裂けそうなほど緊張感に包まれる。
「「雷神衣威」「空間把握」「怪力」!!」
「「竜神衣威」「龍剣」「怪力」!!」
僕らは同時にスキルを使い全力になる。
今を全力で生き、楽しむために。
「はぁぁぁぁぁぁ!」
「おらぁあぁあああ!!」
僕らは一瞬で近寄り剣をぶつけ合う。
「うわぁぁ!!??」
「きゃあ!!??」
周りのみんなはその衝撃と音に思わず驚いてしまう。
「はぁぁ「乱れ切り」「かまいたち」!!」
「おららああああ!!」
僕は至近距離から「乱れ切り」と「かまいたち」を放ち多くの攻撃を放つがキルが剣に魔力を溜め全て防いでしまう。
この人どれだけ強くなってんだ。
「まだまだぁぁ!!」
今度は仕返しと言わんばかりにキルが「龍剣」「乱れ切り」を使ってくる。
「くっ!?」
キルの攻撃は全て防げるが一撃一撃が重く全て防いだ時には腕がしびれてしまう。
「ギャハハハハ!!隙あり!!「龍脚」!」
「がはっ!?」
僕が一瞬しびれて動けない所にキルの蹴りが入り僕は壁際まで吹き飛ばされてしまう。キルは今度は口に魔力を溜め一気に放出、氷の塊を何個も吐き飛ばしてきた。
「「空間把握」「達人見切り」「気配察知」」
僕は可能な限り感覚を研ぎ澄まし飛んでくるいくつもの氷の塊を紙一重で躱す。
「ギャハハハハ!!化け物かよテメェはよ!この距離で躱すか!!ならこれはどうだ!?」
僕が全ての氷の塊を躱すと立て続けにキルは口に魔力を溜め、特大の炎を吐き出してきた。
これは逃げられない!!
僕は思い切って壊れた壁の隙間から外に飛び出し近くの屋根に飛び移る。
「ギャハハハハ!!逃がすか!!」
キルも僕を追おうとこちらに「ジャンプ」してくるが今地の利は僕にある。キルが着地する前に「乱れ切り」「かまいたち」を放つ。
キルは空中で防ごうとするが先ほどとは違い不安定な体制で受けたため全ては受け止めきれずに2,3発攻撃を受け、そのまま着地できず屋根から落ちて・・・いかなかった。
「げ、そんなのありですか?」
「ギャハハハハ!!まぁまだ上手くコントロールはできねぇがな!!」
キルは小さな羽を使いふらふらと空中を飛んで上がってきた。その姿は人の形をした本当の龍のようだった。キルは空中で口に魔力を溜めだし再び炎を吐き出そうとする。
このままでは逃げ場がないので僕は思い切ってキル目掛け「ジャンプ」する。
「がぁぁぁぁぁ!!」
「フッ!!」
キルが吐いた炎を至近距離で「魔力剣」で切り裂き思いっきりキルをけ飛ばす。
「がはっっ!?」
キルは炎を切り裂かれると思わなかったのかノーガードで蹴りが入り再び城の中に入り、僕もその勢いのまま先ほどの壊れた壁から城の中に戻っていく。
すぐさま立ち上がったキルはすぐに剣を構え二人は激しく切りあいながら先ほどロボット集団のいた部屋まで走りながら、斬りあいながら入っていく・・・。
キルは本当に強くなった。
技のレパートリーが増えさらに力を増している。が、それ以外のステータスは僕の方が上だろう。
「くっ。テメェ二本の剣を一本の剣で防ぎきるってどうなってんだよ」
「あなたこそなんですかその馬鹿力。腕が痺れるんでやめていただけませんか?」
「ギャハハハハ!!止めるわけねぇだろこんな楽しいバトル!!」
「ですよねぇ」
僕にも分かる。
僕は今を最大限に楽しんていることを。
こんなに全力で戦っかって、でも全て防がれて、キルも全力でぶつかってきて、全て防いで。
僕らは今コンマ一秒を真剣に、全力で生きている。
僕は再び腕が痺れ一瞬の隙を見せてしまう、ように見せかけた。キルは案の定その隙をつこうと剣をクロスさせて「かまいたち」を放つが、僕はしゃがみそれを躱してから「魔力脚」で思い切り蹴り上げる。
「がっ!?くそ」
「まだです!「乱れ切り」「かまいたち」!!」
キルが浮いたところに追いうちをかけるように「かまいたち」を大量に放つ。
キルは全て捌くことが出来ず攻撃を受け、キルから逸れた「かまいたち」が天井に当たり崩れてくる。キルのHPは一気に削れ焦ったのか空いた天井から上の階にふらふらと飛んでいく。
「アイリス!!」
「はいよ!!お兄ちゃん!!」
僕はさすがに上の階までは届かないと考え、近くで観戦していたアイリスを呼ぶ。流石僕の妹、察しがいい。
「思いっきり頼む!!」
「もちろん!!」
僕はアイリスの方に走り、アイリスは剣を構える。
そのまま僕はアイリスの剣の峰の部分に乗り思い切り投げ飛ばしてもらい、一気に空いた天井から上の階まで飛んでいく。
「ギャハハハハ!!来ると思ったぜ!!」
「あ~~マジですか」
僕が上の階に到達した瞬間、炎が僕を包み込んでいく。