目的
いつもの浮遊感の後、僕の部屋のベッドの上で目覚める。
時刻は20時15分。
大分ジンと話し込んでしまった。情報が多過ぎてもうこのまま寝てしまいたい気分だ。だが両隣から「ぐ~~」と腹の音がし僕を寝かせてはくれないみたいだ。
「お兄ちゃん、おなかすいたぁ。ぎゅーってしてぇ」
「不思議な感覚ね。さっきあんなに食べたのに。やーちゃん私にはちゅーして?」
さて起きてご飯の支度をしないとな。ブーブー言う2人をほっといて先に一階へ降りカレーを温める。
そういえばジンってAIなんだよなぁと不意に思う。人、建物、料理、全てがプログラム。試しにメニューと呟く。
当然何も起きず少し恥ずかしくなる。
あれはゲームであってゲームじゃなかった。全てが本当に存在してるようか感覚がした。全てがリアルだった。爺さん達はあの世界を作って何がしたかったのかな。
……良い人生を、か。
爺さん、貴方方が作った世界は凄かったよ。まだ始めたばかりだけど。
爺さん達の分まで楽しまなきゃな。孫の香織さんや千紗に心から楽しんで、喜んで貰えるように努力するのが僕が爺さんに出来る恩返しかな。
「お兄ちゃん!鍋、鍋!!噴いてる!!」
慌てて火を止め中をかき混ぜる。良かった。底は焦げてないみたいだ。
「もう、やーちゃん火を使ってるときは目を離しちゃダメでしょ」
「そうだよ!ボーッとしてたらカレーの前にお兄ちゃんを食べちゃうよ!!」
ユイは何言ってるかわからなかったが火は気おつけよう。
既にテーブルにはサラダや飲み物などが並んでいた。
いつの間に……。
「「「いただきます」」」
「ん~美味しい!ジンの料理もよかったけどやっぱりお兄ちゃんの方がいい!」
「そうね。味はあるのにお腹にたまらない感覚は奇妙だったわね。私もやーちゃんの方が好き」
お世話でも嬉しい。ユイはスプーンを持ったまま手足をバタバタしない。はしたないわよ。
「んー内容の濃い三時間だったなぁ」
「本当ね、流石情報屋って感じだったわ」
僕らは1時間半くらい話し込んでいた。
「決めたよお兄ちゃん!!私勇者になって聖剣を手に入れるよ!!」
スプーンをビシッとこちらに向け宣言する。
「あらいいわね。私は浮遊城に行ってみたいわ」
ジンとの会話はとても有益な情報が多かった。
初代国王はとある理由から世界を救った時使っていた聖剣を何処かにおいてきた。しかし未だ見つかっていない為ジンはシークレットゾーンにあるのではと考えている。
シークレットゾーンとは地図上にはない場所、魔力塊とある一定の条件で現れる。世界の様々な場所にあり、特に魔力溜りと呼ばれる魔力が濃いところに現れるそうだ。僕らはジンの知ってる6箇所全て教えてもらった。
香織さんの交渉術によって。
……エロ怖かったとだけ言っておこう。
ジンはああ見えてMの様だ。まぁ、香織さん曰くこの世の男は皆Mだそうだ。千紗と姉さん、ユイも頷いていた。怖いなぁ怖いなぁ。
話を戻そう。
シークレットエリア二つは意外と近くにあるらしい。海の上と廃教会に。満月の夜に廃教会の中にあるステンドグラスの一枚が光り、その中に入れるそう。海の上はある場所に岩が3箇所ありある条件が揃うと濃い霧が発生。その中に地図にない島があるそうだ。
浮遊城はその名の通り浮いてる島の上にある城らしい。
なんともファンタジーな世界だ。
余談だがジンは昔ギルとパーティを組んでいたらしい。
幼少期実家の料理屋で働いていたジルは客の冒険者の噂話を聞くのが大好きだったそうだ。そこへ駆け出しのギルと出会い料理のできないギルはジンを誘った。ジンは戦闘はあまり得意ではなかったが斥候、食事、情報収集を得意としていた。
そして名を轟かせ、リーダーのギルはギルドからこの街のギルマスを頼まれパーティは解散。今の店を出した。まぁ要するに料理が趣味の噂好きのおっさんってわけだ!と笑いながら話してくれた。
「お兄ちゃんは何したい?」
「んーそうだなぁ。どの話も魅力的だったからなぁ。僕はユイや姉さん、千紗や香織さんと一緒にあの世界を見てまわりたいかな。いろんな人と話したり色々なもの食べたり冒険したり。とにかく爺さんの作った世界を楽しむ事が目的かな」
「そっか。やーちゃんらしいわね」
「あはっ。確かに!お兄ちゃんらしいかも!!」
そうかな。なんだか少し恥ずかしくなる。
その時携帯が鳴る。
「弥生!どこまで行った?俺たちは森の入り口まで行ったぜ!ユリがウサギは可愛そうだってさわぐから大変だったぜ!」
タクがいきなり頭の悪い話を始めた。
「そうか。僕たちはゆっくり食事してたよ」
「もったいねぇなぁ。俺たちは一番にエリアボスを倒して王都に向かうつもりだ!道わかるか?東の草原のおくの森を抜けて街に出るから北に行く道と王都がある。後山を越えて直接行く道もあるがそこはやめとけ!かなり強いらしい!じゃ俺はもう行くぜ!」
ップーップーップー……。
……落ち着きのないやつだ。
「タク?なんだって?」
「あぁ。まぁ向こうも元気でやってるみたいだ」
「あはは!タクさんらしいね!」
ゲームの話で盛り上がり楽しい食事が終わり、少し食休みをした後再びダイブする。
僕らは浮遊感を感じALOの世界へ旅立った。