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Another Of Life Game~僕のもう一つの物語~  作者: 神城弥生
イベント「サバイバル島」
151/218

赤髪の大盾使い

 火曜日。


「わざわざ来てもらってありがとね」

「構わん。恐らくもう一度連絡が来るだろうとは予想はしていたからな」


 今日は赤髪の大盾使い、レイを「カンパニー」ホームに招いていた。


 メイドのメアリーに紅茶を入れてもらい談話室で話をすることになった。


 初めに簡単な挨拶をして皆ソファーに腰を下ろす。その後エリザベスが口火を切って話し出す。


「長話もあれだから単刀直入に言うわ。うちのクランに入らない?この話はお互いにとって、とてもいい話だと思うのだけれど」

「そうだな。確かにいい話だとは思う。「カンパニー」はトップクランだし評判もかなりいいからな」

「だったら」

「だがすまん。俺は誰とも組みたくないんだ。すまない」


 レイの一言で、談話室には重い空気が流れる。


 レイは紅茶には手を出さず、僕らとも目を合わさず、自分の手先の一点だけを見つめていた。


「そう。なら諦めるわ。無理を言って悪かったわね。」

「え?あ、ああ。別に構わないぞ。」


 エリザベスが簡単に諦めた事に驚いたのかレイは一瞬言葉を失ったようだが、すぐに気を持ち直た。その表情はどこか安心したようにも見て取れる。


「じ、じゃあ俺はそろそろ」

「あら、せっかくうちのメイドがおいしい紅茶を入れてくれたの?せっかくだから飲んでいきましょう?」

「そ、そうだな。わかった」


 帰ろうとしたレイをエリザベスが引き留め、紅茶をすすめる。レイはこういった場があまり得意ではないのか、少し挙動不審だ。とにかくこの場は完全にエリザベスのペースと言えるだろ。


 エリザベスの方が年下だが、流石踏んできた場数が違う。


 エリザベスとエリーゼは幼少期から沢山の社交場やパーティーに出席している。そこでの大人の対応力や権力者の扱いはすでに一流だろう。


 因みに僕も恋人役兼護衛役として幼少期からよくそう言った場に出席していた。が、未だに僕は彼女たちみたいにうまく立ち回れないが。


「AOLはどう?楽しい?」

「ん?そうだな。まぁまぁかな。悪くはないと思うが」

「そう。残念。このゲームの前もファンタジー系のゲームを?あ、失礼。マナー違反だったかしら?」

「いや。構わない。ゲームはこれが初めてだ。商店街の福引で当たってな」

「それはすごい。レイは幸運の持ち主なのね」

「どうだかな。だったら。いや、何でもない」


 再び例は紅茶をすする。僕にはその手は少し震えて見えた。


「あまりゲームは好きではないのかしら?」

「そうだな。というよりも仮想世界があまり好きではないのかもしれない」

「あら、こんな素敵な世界なのに?」

「素敵なもんか。こんな世界。リアルで居場所のない人間の逃げ場所だろ」

「そうかしら。じゃああなたは何のためにこのゲームをやっているのかしら?」

「さぁな。何のためだろう。ただ知りたかったのかもしれないな」

「知りたい?何を?」

「少し話過ぎたな。俺はそろそろ行くよ」


 レイは震えた手で紅茶を一気に飲み干す。


「ねぇ。あなた強い人が好きなのでしょう?」

「好きというわけでは。ただ強い人とは戦いたいと思っている。俺自身が強くなるために」

「素晴らしい心掛けね。以前ウィルとは戦ったのでしょう?」

「あぁ。手も足も出なかったがな」

「ねぇ、よかったらもう一度戦ってみない?今度は勝てるかもしれないわよ?」

「どうだろう。だが戦ってもらえるならもう一度戦ってみたい気がするな」

「あら。じゃあ決まりね。地下に訓練場があるの。良かったらそこで試合をしましょう?」

「今からか?」

「今からよ。こういった事は早い方がいいわ」


 エリザベスはそう言って僕にウィンクをしてくる。


 はいはい、女王様の御心のままに。


 エリザベスはには何か考えがあるのだろう。先ほど諦めるといっていたが、その眼はまだ諦めてはいなかった。なら、僕はそれに乗っかるまでだ。


 今までこういったことでエリザベスが間違ったことなどないのだから。


 僕らは地下の訓練場に移動する。


「ルールは以前と同じ。同じLVで装備はそのまま。どちらかのHPがレッドゾーンになるまで行われる。参ったありのPVP、でいいかしら?」


 エリザベスはそう言い、僕らの顔を確認するように交互に見る。


「ああ、かまわない」

「僕も構わないよ」


 僕らが同意し部屋の中央に行こうとした時、再びエリザベスはこちらにウィンクしてくる。


 あとはお願いってことですか。


 交渉事はあまり上手な方じゃないんだがな。


 僕は「やるだけはやってみるよ。」という意味を込め苦笑して返す。


 それを見たエリザベスは「それでもいい。」という顔でうなずく。


 さてさて、どうなる事やら。


「READY?」


 僕らの頭上に文字が出る。


 レイを見ると以前よりギラギラした、まるで獲物を狩るような眼をしている。


 ごめんエリザベス。


 交渉してる余裕ないかもしれない。


「GO!!」


 文字が出た瞬間以前とは違いレイはこちらに「ダッシュ」してくる。


 僕はまずは正面から受けずに盾を持っていな方の左に駆けだし「かまいたち」を何度か放つ。がレイはこちらの動気に合わせて盾の位置を動かし的確に受け止めていく。


 僕は次に大きな「かまいたち」を放ち同時にレイ目掛けて駆け出す。「かまいたち」が当たるコンマ5秒後に「かまいたち」とは違う所に切りかかる。


 今度はレイは「かまいたち」を魔力をうまく使い受け流し、剣を正面から受け止めてくる。そしてその後、盾の横から鋭い突きを放ってきた。


 僕はすぐに後ろに飛んでそれを躱す。


 やっぱりこの人の盾捌きはうまい。


 LVを下げている状態だからと言って、僕の「かまいたち」は他の人より早い斬撃を出す自信がある。が、それを寸分の狂いもなく受け流している。並みの動体視力と反射神経ではできない芸当だ。


 と、考えているとすでに目の前にレイは来ていた。僕との距離を離さない気だろう。


 僕は「乱れ切り」「かまいたち」のコンボを放ち、またそれが当たった後の隙を狙い時間差で攻撃する。


「くっっ」


 レイは少し顔をしかめるが僕の攻撃を的確に防いでいく。


 ここまでお互いにダメージはない。


 僕は同じ攻撃を何度か繰り返すが、全て防がれてしまう。


 それそれかな。


「さすがに上手ですね。全然攻撃が入る気がしないよ」

「ありがとう。だがお前はまだ本気を出していないじゃないか。この前の奥義はどうした?」

「あれは自分もダメージを受けて少し痛いからギリギリまで使いたくないだよ」

「そうか。後悔するなよっ!!」


 レイは一気に距離を詰めてきて、剣ではなく、盾で僕を殴りつけてくる。乱暴だな。だけどいい攻撃だ、隙が無い。


 僕はギリギリで横に躱し、鋭い突きを盾の持ち手目掛けて放つ。このタイミングなら盾では防げない。盾を離すか、腕を犠牲にするかしかない。


 と、レイは前者を選んだ。盾を正面に投げるように離した。


 僕はそこを狙い突いた剣を一度を引き、もう一度胸を目掛けて剣を突き出す。


 だがレイは前転をするように僕の攻撃をよけ、倒れかけている盾を素早く身に着ける。


「はぁ。今のは危なかった。さすがだな」

「そっちこそ。あれを避けるなんて人間業じゃないよ」

「ふふっ。そうか。ウィルに褒められるとはな」


 レイはここにきて初めて微笑んだ。


 エリザベスの予想通り(たぶん)彼女はただ話すよりも、戦いながら、体を動かしながらの方が交渉しやすいのかもしれない。


「一つ賭けをしない?」

「賭けだと?何を賭けるんだ?」

「僕がこの試合に勝ったら「カンパニー」に入るっていうのはどうです?」

「それは横暴すぎるだろう。お前に勝つこと自体奇跡だってのに」

「そんなことないでしょう。じゃあ僕の言うこと一つ聞くのは?」

「それは同じことだろう!!」

「だめか。ならAOLを始めた理由を聞いても?」

「AOLを?まぁそれならいいだろう。俺が勝ったらどうする?」

「そうだね。レイの言うこと何でも一つ聞くよ」

「いいのか?そんなこと言って?」

「でも僕にできる範囲のことにしてね?」

「くっくっく。いいだろう。それで決まりだ」


 ふう。


 とりあえずうまくいった。


 これはおじさんから聞いた詐欺師の交渉術だ。


 初めに大きなカードを出して相手を怒らせる。次も同じことをする。そして最後にしょうがないからと小さく、そして本当に欲しいものを要求する。


 初めに大きな、到底払えないような要求をされた相手は普段なら払わないその要求も小さく感じ、それならいいかと思ってしまう。


 僕が初めから欲しかったカードは「何故AOLを始めたのか」ということだった。恐らくそこに答えがあるから。


 初めにその要求をしていたら彼女はNOと答えただろう。


 何とかうまくいってよかった。


 横目でエリザベスを見ると笑顔で頷いた。女王様の希望通りの結果になったようだ。


 後は勝つだけだ。それが一番難しそうだが。


「そろそろ決着をつけようか」

「そうだね。僕も本気で行くよ?」

「ああ!手加減したら怒るからな!!」

「しないよ。そんなことしたら負けそうだ。「雷神衣威」「俊足」「空間把握」!!」


 これが僕にできる全力だ。


 僕とレイは同時に駆ける。


 そしてレイは盾を突き出し、僕は「怪力」を使い全力でお互いぶつかり合う。


 力で言ったらレイの方が強い。だが僕にはスキルがある。


 ガキィン!!


 大きな金属音と共にお互い後ろに飛ばされる。


 力は互角になったようだ。


 だが僕にはあまり時間をかけている暇はない。


 一気に決めさせてもらう。


 僕は「乱れ切り」と「かまいたち」を使い再び距離を詰める。


 今度は時間差を作らず、「かまいたち」が当たる瞬間を狙って僕の最大攻撃力のある「剛剣」を使い盾に叩きつける。


「ッッグッ!!??」


 今度はレイだけ吹き飛ぶ。だがダメージはお互いに入る。


 これだけスキルを重ねて使うと、体が耐え切れずこちらにもダメージを受けるからだ。それに体がかなりしんどい。


 そう何度も使えない力技だ。


 レイが着地する前に今度は「怪力」を解き、「チャージ」を使う。


「させるか!!」


 レイは僕の「チャージ」がたまりきる前に攻撃を仕掛けてこようとする。


「残念。遅いよ」


 レイの盾が僕にぶつかる前に再び僕は「剛剣」で盾に叩きつける。


「グガッッ!?」


 レイは先ほどより大きくふき飛ぶ。


 く~~、これは僕もかなり痛いな。


 だが今回の戦いは交渉でもあるんだ。絶対に逃げてはいけない。正面から叩き伏せる必要がある。


 僕は急いで駆け出す。


 レイは着地と同時に今度は防御の姿勢をとる。


 そして正面から駆けてくる僕にタイミングを合わせて「シールドバッシユ」をしてくる。


 「シールドバッシユ」は盾職の初歩にして奥義でもある。相手の攻撃を正面から受け止め弾き、隙を作る。だがこのタイミングが難しい。


 だがこれが決まるとどんな相手でも必ず隙が出来てしまう。そしてそこを斬られる。

 故に基本にして奥義だ。


 僕はレイの間合いに入り大きく剣を振るう。


「「はぁぁぁあ!!」」


 お互いの声が訓練場に響く。


 が、僕は剣が当たる寸前に剣を止め後ろに下がる。


「!?」


 レイは来るはずの衝撃が来ず、思わず前のめりになってしまう。


 ここまで二度も本気でぶつかってきた相手が、突然フェイントを入れてくるとは思わなかったのだろう。僕はこのフェイントの為に今まで全力でぶつかってきたんだ。


 レイが大勢を崩した時に再び「剛剣」でレイの盾を叩きつける。


「うおぉ!?」


 女性らしからぬ太い声を上げレイは後ろに体制を崩す。


 僕は今度は足に魔力を溜め、思い切り盾をけ飛ばす。


 これにはレイも耐えられず後ろに倒れてしまう。


「これで僕の勝ちだね」

「ああ。参った。さすがだな。まさか俺が正面から叩き伏せられるとは思わなかった」


 レイが起き上がる前に僕はレイの首元に剣先を突き付ける。


「WINNER ウィル!!」


 僕らの頭上に文字が浮かび、勝負は幕を閉じたのだった。

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