サバイバル島、その13
「あ”~~。あ”~~?」
先ほどからゾンビが地面からゆっくりと出てくるが、フクチョーがそっと踏んずけて地面に押し戻していく。
「だからやめなさいって。ゾンビ達出てこれなくて困ってるだろ」
「あなたがいけないのですよウィル!?貴方がいちいちゾンビごとき怖がっているから、私がそっと地面に返してあげてるんです!眠らせてあげてるのです!!」
「だからって踏まなくても・・・。ほら、ゾンビの人手をバタバタさせて出たがってるだろ?」
「だから何です!?なら永遠に眠らせてあげます!!「パワーアロー!!」
「あ”!?あ”~~」
地面から必死に出ようとしているゾンビの頭を踏みつけながら、そこに矢を射るフクチョー。ゾンビさんは地面から手だけをバタバタと振りながら出して、そのまま光となって消えていく。
なんて残酷な殺し方だ。登場すらさせて貰えないなんて。
ここまで出てきたモンスターはアンデッドばかりだった。
モンスターが出てくるたびに僕は驚き、それに腹を立てたフクチョーが怒ってモンスターんい嫌がらせのような撃退をしている。
「驚いているウィルさんもかっこいいです」
「「「「「……」」」」」
そしてフクチョーが腹を立てている理由のもう一つがこれだ。自分で言うのは恥ずかしいが、卍さんが僕の信者のようになっていた。
僕が何かするたびに「かっこいい、かっこいい」と言うため、フクチョーの機嫌がどんどん悪くなっていく。
「フクチョーちゃん。ちょっとは落ち着きなはれや」
「落ち着いていますよ!!私は落ち着いています!!まるでお地蔵様のように!仏様のように!!お釈迦様のごとく!私は落ち着いています!!」
「そんなご利益のある人には見えへんけど」
どれだけ自分が偉大な存在だと思ってるんだ。
罰が当たってしまえ。
そんなこんなで歩いていると、だんだんお城が見えてきた。城はお墓に囲まれていてとても不気味な雰囲気を出していた。
「なんかラスボスがいそうな感じだね」
「そうね。ボスはアンデッドの王様とかかしら」
「流石にアイリスもあんまり入りたくないなぁ」
「ん。入ったら最後。きっと帰ってこれない」
「やめなさいよエリーゼ。余計怖くなるじゃない」
流石の皆も少し怖くなってきたみたいだ。「鏡花水月」の皆は平気なのかな?
「ここここに入るのかしら?」
「だ、大丈夫ですお姉様!わ、わ、私が付いてます!!このフクチョーが!!さあ!私の胸に飛び込んできてください!!私を抱きしめえてください!!私を安心させてください!!」
「フクチョーちゃんも怖いんやな。でも確かにこれはすこし怖いなぁ」
「鏡花水月」の皆も怖いみたいだ。まぁあれを見たら仕方ないか。ん?
「12時!武器を構えて!」
僕の「気配察知」に何かが感知した後、「トリプルアロー」が飛んできてそれを躱す。キルと戦った後の僕にはどんな攻撃も遅く感じる気がする。
「ちっ。外したぞ!!部長への怒りを込めたこの「社畜ヤロー」が!!」
「怒りが足りないんだ!!もっと会社への不満をぶつけるんだ!!」
「ハッ!?ゲームの中に来てまでまだ会社の恐怖に縛られているというのか!?」
「開放するんだ!!こんな時くらい!!でなければ我々の精神が持たない!!」
「うぉおおお!今はプライベートタイムなんだ!会社の事を忘れろ俺!!」
「「「「「「「「……」」」」」」」」」
近くの墓地の墓石にほふく前進して隠れて叫んでいる4人組がいた。だが、叫んでいる為完全に位置がバレバレだ。
というかそのスキルは「トリプルアロー」だ。「社畜ヤロー」ではない。
「彼らは、クラン「社畜御一行様」やな」
「「社畜御一行様」といえば「サービス残業「嘆きの剣」」さんや「企業戦士「過労の盾」」さんといった二つ名持ちですので結構手ごわいかもしれないですよ?」
なんだその名前、聞いただけでなんか悲しくなってくるな。
「疲労の盾」!!いつもの陣形で行くぞ!!」
「おう!!いつも5日間は帰れず社泊している俺はどんな攻撃にも耐える精神と防御力を持っている!!お前たち安心して戦え!!」
「「「おう!!」」」
「た…戦いづらいね」
「五日間。お風呂はどうしているのかしら」
「ん。どこで寝てるの?」
「そんな会社辞めてしまいなさいよ」
「大人の世界怖いなぁ」
戦いずらい。とにかく戦いづらい。主に精神的に。
「業火球!!」
「「「「ぎゃぁぁぁ!!」」」」
座長の中級火魔法の「業火球」が「疲労の盾」に当たり他の人たちも巻き込む。
「社畜なんて誰でも味わうものやで?うちも昔は、フフフフフ」
ここにも社会の奴隷が一人いたみたいだ。
「クソッ!!やられてたまるか!?はぁぁぁ!!「課長の馬鹿やろー!!」
そんなスキルはない、はず。
「嘆きの剣」は僕に向かって突進してくる。僕は正面から受けて立ち、残りの3人は他の人たちに任せる。
「僕は部長ではないです、よ!!」
何度か剣を交えた後、思い切り腹をけ飛ばす。
「ぐっ。お嬢ちゃんやるな。だが社会で戦っている大人の強さ見せてやる!!」
僕は男ですからね、まぁもういちいち言わないけど。
吹き飛ばしたが着地し再び剣を振るってくる。相手のステータスはINTを育てているようだ。一撃一撃が重たく、受け長さうことしかできない。
これが社畜で働く大人の強さなのか!?
関係ないか。
スピードはこちらに分がある。
僕はできるだけ「疾風切り」や「早切り」といった、スピード系のスキルを使い攻撃を仕掛ける。
相手は僕のスピードについてこれず、HPを半分にまで減らす。
「ぐ。これが若さというやつか。だがこんな痛み、初めて遅刻した日に社長にボコボコに蹴られて「犬でもこうやって体に覚えさせればいけないことだと覚えるだろ?」って言われたあの時の心の痛みに比べればなんてことない!!」
そう言うこと言うのやめて。本当に戦いづらいので。
「嘆きの剣」は再びこちらに走ってきて剣を振るうが、明らかに僕より手前で振ってしまう。攻撃失敗か?
「!?」
「嘆きの剣」は攻撃を失敗したわけではなく、僕の手前の地面を斬り、土の塊を僕に浴びせてくる。僕は目に砂が入り前が見えなくなってしまい、思わずわず下がる。「空間把握」をその場で使うが、すでに相手は目の前まで来ていて僕の腹目掛けて剣を振るう。僕はとっさに体をひねるが、横腹を刺されてしまう。
「ぐっ」
そのまま胴体を斬るように剣を振るってくるがそれは何とか横に飛びかわす。
「どうだ!!入社して1週間で同期が皆辞めていき、新人の仕事全て押し付けられた俺にはこんな泥臭いことだってできるんだ!!」
「なんの自慢にもなってないですよ。しかし、1週間は早いですね」
「だろ?ようやく口を開いてくれたか。目はまだ開かないようだがな!」
「ええ。おかげ様で!!」
再び剣をぶつけ合うが、五感の一つを奪われたので劣勢だ。「空間把握」もまだそこまで全てが見えるわけではない。
かなり厳しい戦いになってきた。
「どうだ?目が見えないのは辛かろう?早く楽になってしまいなさい」
「いやですよ」
「ほう?その負けず嫌いなところはいいな。だがな。そんな痛み俺の経験してきた痛みに比べればまだまだだ!!」
「ぐっ。まだ何かあるんですか?」
もうすぐで目が使えそうになる。何とか話で気をそらせて時間を稼がないと。
「当然だ!!いくらでもあるぞ!!新人の仕事全てこなした俺に社長が「不景気だから」といってボーナス5000円しかくれなかったんだ。5000円だぞ?子供の小遣いかってんだ…。畜生」
「……」
僕は何も言えなくなった。というか彼は次第に剣速が鈍り、次第には立ち止まり、膝をついて泣き出してしまった。
僕はどうしたらいいのだろう?
戦っている相手がいきなり泣き出すなんて今まで経験したことないぞ。
「あ、あの。元気出してください。僕が言うのもなんですが、会社変えた方がよろしいのでは?」
「あぁ、変えたんだがなぁ。そのあとに会社も反社会勢力の人達に借金している会社でな・・・。そのあとは結果よりも学歴高い奴ばかり出世していく会社だっり」
その後僕は10分以上彼の愚痴を聞いて慰めることになってしまった。流石にこの状況で僕は攻撃することが出来ず、ただ彼の背中をさすることしかできなかった。
「それでな?ぐほぉぉぉ!!??」
背中をさすってあげていた彼が突然叫び、そして光となって消えていく。そして、そのお尻には矢が刺さっていた。
「話が長いんです!ウィルも何付き合ってあげてるんですか?慰めてあげてるんですか!?彼は敵ですよ!?」
「鬼のフクチョー」が僕らの会話を待ちきれず、彼のお尻に矢を射って倒してしまったのだ。
なんてえげつない事をするんだ、こいつは。
「もう少し倒し方ってもんがあるだろうが。で?そっちも終わったんだな?」
「ええ。すごく戦いずらい相手だったけど」
「すごく粘り強くて戦いにくかったよ~」
「ん。しまいには泣きながら戦ってた」
「社畜って怖いね。人をあんなにも追い詰めるなんて」
向こうも似たような感じみたいだった。
こうして、ようやく僕らはお城の攻略に乗り出したのだった。