サバイバル島、、その5
「あの。ファンなんです!!握手してください!!」
ふぁん?
「えっと。どうも?」
僕が手を差し出すと卍は僕の手を丁寧に両手でつかみ、ぶんぶんと上下に振る。
「あの。私たち第二陣なんですけど、初めてのフェラールの防衛イベントの時、ウィルさんが敵に突っ込んでいって無双しているのを見て。私初めは魔導士志望だったんですけどあれを見て剣士に変更したんです!!私もウィルさんみたいな剣士になりたくて!!」
顔が近い近い。すごい勢いで卍は語りだした。あ、背中に殺気を感じるな。早く手を放してくれないかな?
じゃないと僕死んじゃうよ?
「あ、ありがとう。すごく嬉しいよ。」
「それだけですか!?姉様がせっかくこうやって話しかけてやってるっていうのにあなたって人は!!」
「フクチョー!!すいません。この子ウィルさんの話になると急に機嫌が悪くなって」
僕と卍が話しているとフクチョーが横から咎めてくる。僕が何かしたか?たぶん初対面だよな。
「こら、あかんよ?フクチョー。せっかく卍さんが楽しくお話しているのにお茶を濁したら」
「だってぇ」
今度はもう一人のお姉さんがフクチョーを止める。なんなんだ?一体。
「えっと。お姉さんは?」
「あら!お姉さんだなんて!うちこう見えて子持ちの人妻なんやで?うちは座長です。こう見えて「炎の九尾」って二つ名を頂いております」
え?人妻?全然見えないよ。
確かに豊満な胸に柔らかそうな、だけど細い体つきをしていて大人の色気がすごい。
座長さんは9本ある尻尾をフリフリしながら微笑んでいた。
「ねぇねぇ!その尻尾ってなんで9本もあるの?そんな種族いなかったよね?」
「ええ、九尾なんて種族はいません。せやけど女神ちゃんにお願いしたら狐族で尻尾を九本にすることくらいならできる言われて。それでこうなったんやで」
「いいなぁ!もふもふだぁ!!触らして!!」
「ふふっ。ええで?」
アイリスの無邪気なお願いに、優しくOKをだす座長さん。
大人の対応だなぁ。
僕も触ってみたいなぁ。
あ、アイリス気持ちよさそう。
「ん。ウィルいつまで手握ってんの?」
「そうよ。それに座長さん見すぎよ?」
「姉様もです!!早くそいつから手を放してください!!」
僕らは慌てて手を離す。
小さな女の子にそいつ呼ばわりされてしまいました。
この子アイリスよりも年下なんじゃないか?
「なんですか?その顔。私が小さいって言いたいんですか?」
「うん。小さいなって思ってた」
「はっきり言わないでください!!失礼ですね!!私こう見えて高校2年生です!!」
「え!?年上!?」
「あ、そうなんですか?てっきり同じ年かと。って違う!!年下なら私に敬語を使いなさい!!私を敬いなさい!尊敬しなさい!」
「尊敬はできないけど、すみません。失礼なことを」
「え?そんな簡単に謝られても。は!?騙されませんからね!?あなたのような悪魔には!!」
「悪魔?」
そんな二つ名ないはずだが。
フクチョーは腰に手を当てて、かなりのご立腹の様子だった。
「そうです。悪魔です。デビルです!初めは私もあなたをかっこいい剣士だと思っていました。えぇ、認めましょう。確かに無双しているときの貴方はかっこよかったです!」
「ど、どうも?」
「しかし!しかしですよ!?聞けば貴方は男だというじゃありませんか!?しかもハーレムパーティ!!変態です!不潔です!そんな男に碌な奴はいません!かっこいいと思った私を返してください!返却してください!!とっくに返却期限んは過ぎています!レンタル期間は2泊3日までです!!延滞金を払ってください!」
「3日は貸してくれるんだ。というか僕を女だと思ったってこと?」
「そうです!!ほとんどのプレイヤーが初めはあなたを女だと思ってました!というか今も思っている人は少なくないと思います!」
マジかよ。
……昔の心の傷が再び広がりそうだ。
小学校の頃、何度男友達に告白されたことか。断っても「男でも構わない」とか言われるし。
中学生の時本気で先生から、「何で男物の服を着ているんだ!早く女物に着替えなさい!」って怒られたり、プールに行けば知らない人たちに「女の更衣室はここじゃない。」と怒られるし、近所でもいまだに男装趣味の女の子だと思われてるし。
あれ?なんか泣けてきた。
「な…なんで泣きそうになってるんですか!?」
「こらフクチョー!!ウィルさんに謝りなさい!」
「えっと。ごめんなさい?何か気に障ること言った?」
フクチョーは素直に謝ってくれる。
この子は何がしたいんだ?
「いや。平気だよ。ごめんごめん」
「平気なんですか?全く。心配させないでください」
「あ、心配してくれたの?ありがとね」
「し、心配なんてしていません!!今のは言葉の綾です!語弊です!誤解です!勘違いです!!」
「そんなに否定しなくても。というか結局なんで怒ってるんだ?僕が男だからか?」
「違います!それもありますが!!一番の理由はお姉様をあなたが魅了してしまっているということです!!虜にしてしまっているということです!」
「ちょ!!、ちょっとフクチョー!!何言ってるのよ!!ちょっと尊敬してるだけよ!!」
完全な当てつけじゃないか。
まぁ尊敬されているなら気分はいいが。
「お姉様。もう行きましょう?こいつといたら変な病気になってしまいます。ハーレムパーティに入れられてしまいます!」
「人を病原菌みたいに言うな。失礼だろ。それに僕としゃべったからってハーレムパーティに入るわけではないだろ」
「認めましたね!!今ハーレムパーティってことを認めましたね!!自分が変態だって認めましたね!?」
「変態だとは言ってない。まぁこんな美人たちを連れている時点でそう言われるのは仕方ないとは思うけど」
「はぁ。自分が変態だと自覚してない変態ほど厄介なものはありませんね」
「フクチョーは男嫌いなのか?もしかして免疫がないとか?」
「免疫!?また変態発言。えぇ。ありません。ありませんとも。私は女を愛し、女と結ばれたい。そんなガールズラブがしたいだけなんです!」
「お前の方が変態じゃねぇか」
「な!!私の純粋な心を傷つけましたね!?抉りましたね!お巡りさんを呼びますよ!?裁判起こしますよ!?」
「その裁判、僕負けなさそうだな。というか卍さん、お前の発言で引いてるぞ?」
「え?あぁ!!姉様今のウソです!!姉様と結ばれてイチャイチャしたいだなんてちょっとしか思ってません!!さらに座長も加わったら最高だなんて思ってません!夢のハーレムパーティ完成だないいて夢見てません!!毎晩二人でハァハァしてません!!」
「そ、そう。ならいいのだけれど」
この子アホだな。
年上だけど。
「よくもこんなになるまで誘導尋問しましたね!!次あったらあなたを倒します!!では私たちはこの辺で!!行きますよ二人とも!」
「あ、あぁ。ではウィルさん、「カンパニー」の皆さん。またどこかで」
「帆なサヨナラやな。ほら、アイリスちゃん。エリーゼちゃん。クリスちゃんにエリザベスちゃんも。皆尻尾離して?それそれ行くみたいやから」
「「「「え~~」」」」
「ふふっ。皆可愛いなぁ。お姉さんまた皆に会いたいわ。ほなまたね」
こうして「鏡花水月」は北に向かっていった。
「一体何だったんだろうな」
「あはは!!お兄ちゃんのファンに変態にモフモフお姉さんだよ!」
「あの尻尾良かったわ。狐もいいものね」
「ん。座長さんきれいだった」
「ほんと。ああいう年の取り方したいものだわ」
嵐のような人たちがいなくなり、辺りに静けさが戻る。
「ふう。やっと落ち着いたな。怒涛の時間だった気がするよ」
「そうね。まだ始まって1時間30分しかたってないものね」
「ちょっと休憩したいなぁ」
「ん。賛成。湖の畔でピクニックもいいもの」
「そうね。少し休みましょうか。特殊モンスター倒したことでここはセーフティーゾーンになったみたいだし」
僕らは湖のそばに座り、HP,MPの回復を図る。
「のどかだなぁ」
「そうね」
「ねぇ、お兄ちゃん」
「どうした?」
「お魚食べたい」
「潜れと?」
「うん。お願い」
「私も食べたいなぁ」
「ん。食べたい」
「空腹度もさっきの戦闘で大分減ったし」
「はぁ。じゃぁ行ってくるよ」
「さすがお兄ちゃん!!」
「私鯛が食べたい」
「ん。私サーモン」
「私は光ものかなぁ」
「湖にいる奴にしてくれ。まぁ何がいるかわからないけど」
というみんなの無茶ぶりにより僕は湖に潜ることにした。
パンツとタンクトップ姿になり、湖に潜って見る。
「水泳」スキルのおかげで湖の中でもある程度呼吸は続く。
水はあまり冷たくはないんだなぁ、湖の中は生暖かく、ちょうどいい水温だった。一度水から顔を出し、呼吸を整えてから一気に潜る。
魚を釣る、というよりは剣で魚を串刺しに知るしか方法はない。
スキルのおかげで魚よりは遅いがある程度のスピードで潜っていく。
結構深いな。どこまで行けるんだろう。好奇心に従いそのまま深く潜っていく。
ある程度まで潜ると、初めは大きな岩かと思っていたものがだんだん近づき、その姿を現す。
そこには、湖の底にあるダンジョンがあったのだった。