ゲームスタート
遂に正式サービス日。
僕は朝のランニングを、いつもより早く終えた。自分が思っていたより僕は楽しみにしていたのかもしれない。
「おはよーお兄ちゃん!いよいよだよ!楽しみだなー」
「やーちゃんおはよ!学校休んじゃおっかなー!」
珍しく朝からテンションの高い2人。
子供か。
後、学校は行こうね。
学校でもタク達はソワソワして、何度も先生に怒られていた。
帰宅後、珍しく2人が家事を手伝ってくれた。僕も一緒にゲームを始められるようにとの気遣いらしい。いつもやってくれたら良いのにと思いつつ、これは正直かなり嬉しかった。
その間僕はカレーを作り置きし、かなり早いお風呂に入った。時間が勿体無いからと3人で一緒に入る。
時刻は16人55分。
3人で僕の部屋のベッドでヘッドギアを被って寝る。
「20時には落ちて食事にするからちゃんと落ちるようにね」
「はいはいー!了解だよ!」
「わかったわ。それよりインしたら連絡してね?」
ヘッドギアは携帯と繋ぐ事で登録してある人とゲーム内で連絡することが出来る。
……時間だ。
「「「ダイブイン」」」
3人に浮遊感が襲う……。
ゆっくりと足が地に着く。
そしてゆっくりと目を開ける。
そこは街の広場のようだ。
ただ科学の発展した日本とは違い、石造りの街並みだった。
自分の体を確かめもう一度しっかりと周りを確かめる
「うわ、すげーー。」
思わずそんな言葉が漏れ、周りにいるプルイヤー達も口を開き辺りを見回している。
街の奥には大きな家があり、その奥には小さい山がある。その頂上辺りから川が流れ町全体の家の脇にある細い水路に流れ、広場の中央には大きな噴水がある。
街はそれなりに大きいのだろう。
石で舗装された道には馬車が行き交い、通りの脇には露店が立ち並んでいるため辺りにいい匂いが漂っている。少し坂道になっている街の下の方には大きな壁と門が見え、この街は壁と山で囲われているようだ。
モンスターが増え困っている世界ときいていたが街は賑わって平和そのもののように見える!
「お兄ちゃん見っけ!」
勢い良くお腹にダイブしてくり少女を受け止める。街中ではダメージが無いが衝撃は受けるようだ。一瞬息が止まるが、兄として倒れるわけにもいかずしっかりと受け止める。
「ユイか?よくわかったな」
「えへへぇー。大好きなお兄ちゃんを見間違えるわけないじゃん!あと名前はアイリスだよ!」
鮮やかな桜色の髪に同じ色の瞳。髪は腰あたりまで伸ばした様だ。可愛らしい白い尻尾と耳が生えている。獣人を選んだようだな。猫みたいだ。
うん。うちの妹はこちらでも天使だ。思わず頭を撫でる。ユイ、ではなくアイリスは「恥ずかしいよー」と言いながらも嬉しそうに手に頭を擦り付けている。
「しかしでかい剣だな。ちゃんと振れるのか?」
ユイの体の幅ほどある大剣を背中に斜めに背負い、持ち手の部分は頭の上に飛び出している。服装は僕と同じスタンダードな冒険者の服装だ。
「大丈夫、大丈夫!!アイリスはゲームではいつも大剣なのだ!」
まぁ本人が言うなら平気なのだろう。可愛いのでもう一度撫でておく。
「いたいた」
聞いたことのある声の方を見ると、一目で姉さんと、香織さんだと分かる。
暗めの茶髪に茶色の瞳、背中に弓と矢を背負った姉さんと、濃い青と同じ色の瞳、持ち手が丸まった木の杖を持っている。姉さんは膝上まである靴下にホットパンツ半袖の狩人の様な服装だ。白い太ももがエロい。
香織さんは黒い魔法使いのローブを着ていて中の服装は分からない。ただ2人とも耳が尖っている。
まさに絵にかいたようなエルフの姿がそこにはあった。
「やーちゃんどうしたの?ぼーっとして」
「えっ?ごめん、2人があまりに綺麗で見とれてた」
思っていたことを口にする。小さい頃から一緒にいる2人に対しこう言うことは照れずに言える。寧ろたまに言わないと機嫌が悪くなる。
「本当に?やった!褒められちゃった」
と喜ぶ姉さん
「ふふ、ありがとう。でもね、この中裸なのよ。見てみたい?」
と耳元で囁く香織さん。一瞬想像してしまい鼓動が早くなる。千紗と香織さんも月に一度は一緒にお風呂に入っている。ユイと姉さんが千紗に僕と風呂に入っていることを自慢し、怒った千紗が一緒に入るといい、なら私もと香織さんも便乗する。
いつも同じ流れだ。
「ちょっと!お兄ちゃんをゆーわくしないで!」
とアイリスが間に入る
「2人だけ褒められてずるいよ」
と潤んだ瞳で見つめてくる。
「アイリスは天使の様に可愛いよ」
僕は即答し、アイリスは「えへへー」とほぼを桜色に染めくねくねする。
「あ、ちーちゃんもきたわよ」
振り向くとすぐそばに千紗がいた。白い髪に銀の瞳、真っ白な神官のローブを身につけ、杖を手に持っている千紗もエルフのようだ。
「ん。お待たせ」
「……綺麗だ」
僕は無意識のうちに口にする。聖女の様に透明な美しさを放つ千紗に思わず目を奪われる。
「ん。ありがとう。弥生は凄くかっこいいよ」
「えっ?あ、ありがとう」
頬を少し赤らめた千紗と、恐らく顔が真っ赤な僕が見つめ合う。
「本当に。ちーちゃん女神のようよ」
後ろから抱きつき頬を頭に擦り付ける香織さん。彼女も僕に負けない位シスコンである。
「ん。ね、ねぇさんやめて。恥ずかしいわ」
照れる千紗に構わず頬ずりする2人を見ていると背後から殺気を二つ感じ背中に汗が流れる。
「ねえ、やーちゃん。見過ぎじゃ無いかな?」
「ユイもそう思う。ね?どうなの?お兄ちゃん?」
あたりの気温は間違いなく下がっているだろう。
足が震えてきた。
「そ、そうだ。揃ったことだし自己紹介をしちゃおう」
何とか誤魔化し各自自己紹介フレンド登録をする。因みに僕はウィル、ユイはアイリス、姉さんはクリス、千紗はエリーゼ、香織さんはエリザベスだ。香織さんは黙ってても分かるオーラとカリスマ性が感じられる。
まるでリアルのあだ名通り、女王さまの様だ。一番名前が似合ってる気がする。
自己紹介などが終わり、他のプレイヤーもチラホラと動き出し始めた時、広場に声が響く。
「流れ人の諸君‼︎俺はこの始まりの街、フェラールの冒険者ギルドマスターのギルだ!!お前達の事は、唯一神の女神フィリアさまより、全ての現地人に今日現れると言うお告げを聞いている。フィリア様は我々に、「流れ人の手助けをせよ。但し特別扱いする必要はない。現地人と同じ様に接する様に」と仰っていた。」
「話は変わるがこの世界に来たばかりのお前らは身分証を持っていない。この世界はどの街でも身分証が無いものは捕まり牢屋に入れられる。そこで俺たちが此処に出向きお前らの身分証になるギルドカードを作らせる為きた!ただ人数が多いため一人一人説明するのは面倒だ!そこでギルドカードを作る時に簡単な説明を描いた紙を渡す。だから質問は一切するな!黙って受け取れ!そして黙って並べ。問題を起こした奴は牢にぶち込む!以上」
大きな斧を持った上半身裸、頭はツルツルの筋肉の塊の様なギルが喋っている間、ギルのすぐ後ろでギルドのスタッフと思われる人たちが机と椅子、そして水晶の様な物、紙束を用意する。突然の出来事とスタッフの手際に固まってしまった僕達の目の前に突然半透明の画面が浮かぶ。
ーーーーーー
クエスト【ギルドカードを手に入れろ】
身分証であるギルドカードを手に入れよう。
これが無ければ見動きが取れなくなってしまう。
報酬
ギルドカード
2000ゴールド
経験値200
ーーーーーー
拒否権はない様だ。拒否する意味もないが。強制クエストという奴だろう。
周りの人達も驚き目の前な空虚をみつめているためプレイヤー全員に同じ画面が表示されている様だ。
周りには獣人、エルフ、龍人がいる。THEファンタジーの光景だな。僕らは目を合わせ頷き合い、ゾロゾロと動き出すプレイヤーと共に並ぶ。
特にトラブルも無く皆静かに並んでいく。日本人だから、という理由もあるのだろうが一番の理由は先程叫んでいたギルだろう。素人でもわかる。
彼は強い。
それも圧倒的に。
よっぽどのバカじゃ無ければわかるだろう。彼の存在感と威圧感を皆感じ取っている。そして僕は、いや、ここにいる男は少なくとも彼に憧れの気持ちを抱いているだろう。争い事が好きではない僕でも彼を前にすると体に熱いものを感じる。
それは強くなりたいという気持ちだろう。
斧を杖代わりに正面につき姿勢良く仁王立ちしてる彼を見るとそんな気持ちにさせられる。
軽い気持ちで始めたALO。
爺さんが生涯をかけて作ったこの世界を見てみたいというだけで始めたこのゲームに僕は既に引き込まれていた。
「かったりーな!!こんな人数並んでられるかよ!ほら!退け!!」
横を見ると、別の列で割り込みをしようとしてる4人組が下品にギャハハと笑っている。
どこにでもバカはいるものだ。周りも呆れた顔で見ている。割り込みされそうな女性二人組に、4人の先頭にいた男が前蹴りをしようてして……。
男が吹き飛んだ。
それはもう漫画の様に見事にクルクル回転しながら。7.8mは飛んだだろうか。グシャッと嫌な音がし、男は顔面から着地する。全員が口を開けたままその綺麗な放物線を描いていた男を見つめていた。
「衛兵!!このクソガキ共を暫く牢にぶち込んどけ‼︎」
ハッと声のする方を見ると斧、確かバルバートとか言ったかな?を肩に担ぎ先ほど吹き飛んだ男の所にギルが立っていた。
どこからともなく現れた全身鎧の騎士が呆然と立ち竦むクソガキ3人と、完全に伸びてるクソガキを引きずり人混みに消えて言った。
「おう、嬢ちゃんたち怪我ねぇか?平気そうだな。こっちに来て早々災難だったなぁ。だが安心してほしい。俺がこの街にいる限りこの街で悪さわさせねぇ。何人たりともな」
優しく、そして力強く、ギルはそう話す。ガッハッハと豪快に笑いながらギルは元の位置に戻って言った。
かっけえ。
あれはかっこいい。
僕が女だったら惚れていたかもしれない。
あっ助けられた2人が熱っぽい視線でギルを観てる。ありゃ惚れたな。
「落ちたわね」
「確実ね」
「ん。落ちてる」
「まぁあれは仕方ないなぁ」
僕の家族と幼馴染達も同意見の様だ。
「危険な所を助けられて心が動かない女はいない」
千紗が言い他3人も頷きながら僕の方を観る。
僕はあんなにかっこよく助けられなかったけどなぁと思いながら苦笑する。
「アイリス達にとってはあんな風にかっこよく見えたんだよ。お兄ちゃん」
「そうよ。まぁそれがなくてもやーちゃんには惚れてたけどね」
「ん。弥生は出会った瞬間から私の旦那になる事は決まっていた」
僕の心を見透かした様に3人は話、香織さんは笑顔で僕を見つめる。
相変わらず彼女達には勝てないなぁと思いまた僕は苦笑した。