イベントまで・・・。その2
火曜日。
「ここが「ダブルナイツ」のクランホームか」
「結構普通だね」
「そうね。ただのレンガ造りの建物みたい」
「ん。でもいいところ」
「そうね。早速入ってみましょう?」
僕らは中流階級街の西にある「ダブルナイツ」のホームを訪ねていた。レンガ造りの建物は海外のマンションのようだ。そして訪れた理由は暇だからだ。装備のない僕らは身動きが取れない。それにまだ「ダブルナイツ」の新規メンバーとの挨拶をしていなかった為である。
「こんにちわ」
「もう!!タクはなんでいっつもそうなの!?ここはこうよ」
「し、仕方ねぇだろ。こういうのは苦手なんだ。サ、サンキュ」
僕らがホームの扉を開けたところで、聞きなじみのある声が聞こえてきた。
「あれ、いらっしゃい。何か御用ですか?」
スタスタと歩いてきたのは、金髪のボーイッシュな可愛らしい女の子だ。
「あの、僕らは「カンパニー」ってクランなんだけど、今オリバーは忙しい?」
「か、カンパニーさんですか!?少々お待ちください!!」
女の子は僕らが「カンパニー」だと知ると目を大きく見開き、奥に走っていく。
「おぉ!!ウィル!!よく来たな!!早く入れ!!」
「ちょっとタク!!逃げないの!!まだこの問題が終わってないわよ!!」
「あとでやるからさ」
「もう。そればっかり」
僕らはオリバーに促されて大広間に案内される。
「悪い。勉強中だったか?」
「大丈夫だ!!ちょうど休憩しようと思っていたところだから!!」
「まだ始めたばっかりでしょ。まったく」
僕らのホームが貴族の館をイメージした所というならば、ここはアットホームな家のような家具が揃っていた。
現代的な感じの部屋にはTVまであった。
そこでタクはリタに勉強を教えてもらっていたみたいだ。
AOLには課金さえすればTVを購入し、リアルのTVが購入できる。社会人なんかはゲームの中でリアルの情報を入手し、仕事に生かすことが出来る。それと学校の宿題なんかも、メールでやり取りするため、AOLのヘッドギアに携帯を同期させれば宿題もできる。
オリバー達はそれを使い、ゲーム内で宿題をしているみたいだ。僕らはゲームの雰囲気を大事にしたいのでTVは買っていない。因みに僕らは宿題を終わらせてからダイブインするのが暗黙のルールになっている。
「なかなかいいホームだな」
「だろ?まだ8人しかいないけどな」
「あー!!ユイユイだ!!いらっしゃい!!」
「アイリスだよライリー!!お邪魔します!!」
僕とタクが話そうとしたところ、奥からライリーがアイリスに飛び込んでいく。
「こら!!ライリー!もう少し女の子らしく落ち着きなさい!」
「僕には落ち着くなんてできないよ!!ねーアイリス!」
「ねーライリー!!ライリーは何も考えてないもんね!!」
「そうだよ!!僕が何か考えてるって思った人は病院に行った方がいいからね!!」
リタが嗜めるが、ライリーはアイリスとゲラゲラ笑いながら軽く流す。よくはっきりとそんなこと言えるな。
普通怒るところだろ。
「そう言えば、まだうちの新人たちを紹介してなかったな!!」
「あぁ。今日は彼女たちに挨拶するために来たんだ」
「そうか!!じゃあちょうどいい!!皆、ちょっと集まってくれ!!」
先ほどの女の子を中心に5人の女の子が集まる。
「まずさっき話してた金髪の女の子は「シエラ」だ。武器は槍だ。好きな物はバスケだ」
「そこまで言わなくても。えっと、シエラです。よろしくお願いします」
元気な犬族の女の子って感じだ。
「次に眠そうな顔した水色の髪の子が弓使いの「コロ」だ。いつも食べるか寝てる」
「そんなことないですよ~。よろしくです~」
確かに眠そうにしているな。因みに猫族だ。
「黒髪眼鏡の真面目そうな子が魔導士のボニー。学校で委員長をしているらしい」
「ボニーです。よろしくお願いします」
真面目そうなのボニーは眼鏡を片手で上げながら答える。エルフだな。
「ピンクの髪の子がマリア。弓使いだ」
「ま、マリアです。よ、おろしゅくお願いしましゅ。あ、かんじゃった」
可愛らしい女の子って感じだな。この子は羊族か。珍しいな。
「最後に紫の髪の子がマーガレット。神官だ」
「やっと私の番ですわね!!マーガレットよ!!宜しくお願いするわ!!」
また濃い子が出てきたな。因みにエルフだ。
うん。覚えきれないや。少しずつ覚えればいいか。
「因みに皆、アイリスと同じ14歳の中学生だ。よろしく頼むよ」
「そうなんだー!!アイリスです!!よろしくね!!」
「「「「「よろしく!!」」」」」
アイリスにまた同世代の友達ができたみたいだ。
こういった趣味の合う同世代の友達がいることは、すごくいいことだと思う。
近いうちに共同で何かクエストを受けて、一緒に遊べるようにさせてあげよう。
僕らも自己紹介をしておく。
皆真剣に聞いてくれた。
いい子た達なんだと思った。
「ところでこの子達とは何処で出会ったんだっけ?」
「あぁ。「鋼鉄騎士団」の新人勧誘について行ったときにな。「鋼鉄騎士団」ってあんなんだから入団する人って偏ってくるだろ?そこで俺達と「悪魔結社」が漏れた人たちを勧誘していたんだ。」
「ふふっ。私たちはお姉さまの応援団として入団したんですわ!!」
「応援団??」
この前聞いたリタの恋を応援するってやつか・・・?
「それなんだがよくわかんないんだよな。何を応援しているのか聞いても答えてくれないんだよ・・・。」
オリバーは肩をすくめる。
さすがは鈍感系イケメン。
いつになったら気づくなやら・・・。
「そうか・・・。それは残念だな・・・。それよりお姉様って?」
「それはもちろんリタお姉様ですわ。私達を助けてくれて、とても可愛らしい人なのですよ!!」
「もう・・・。お姉様はやめなさいって・・・。恥ずかしいから・・・。」
「それはお断りさせていただきます。」
「まぁ・・・。慕われてるってことでいいんじゃないか?」
「まぁ・・・嫌ではないけど・・・。」
タクに窘められ、顔を赤くするユリ。
もうさっさと付き合っちゃえよ。
めんどくさい。
「きゃー!出ましたわお姉様のツンデレ!!」
「ツンツンデレデレだぁ~。」
「姉さま可愛い~。」
「顔真っ赤・・・。おねぇ様はぁはぁ・・・。」
「何であれで気づかないのかしら・・・。」
「もう!からかわないでよ皆!」
年下にからかわれてさらに顔を赤くするユリ。
慕われてんなぁ・・・。
「おい。リタ。顔真っ赤だが大丈夫か?熱でもあるのか?」
「ないわよ!・・・ばか・・・。」
さらに顔を赤くするリタ。
早く付き合ってしまえ。
そしてここまでで気づかないオリバーは病院に行った方がいい。
「それよりさっき言ってた「リタに助けられた」って何なの?」
「あぁそれか・・・。こいつらゲーム初日に詐欺にあって所持金全額失ったんだ。もちろんゲーム内マネーだけどな。」
「それは痛いな・・・。そこをリタが助けたと。」
「んとね~。お姉様がね~「大丈夫?」って声をかけてくれてね~。それでね~。助かったの。」
コロが眠そうに答えてくれる。
こってまでなんだか眠くなりそうな話し方だ・・・。
何かの魔法じゃないよな・・・?
「そうなの。良かったわね。ところでどんな詐欺だったのか教えてくれるかしら?」
「あぁ。コロじゃあれだから俺から説明するよ。フェラールの街南にある海で釣りをしていた少年が倒れていたそうなんだ。それで声をかけたら「おなかすいた」って言うから飯屋に連れてったんだと。飯食った後「今日は何か釣れたの?」って聞いたら「今日はおねぇさんたちで4人釣れたよ。」って言って逃げたそうだ。」
「うわ・・・。そんなのあるんだ・・・。」
「あぁ。それで所持金空っぽ。本当はその逃げた子供を捕まえて親の所に連れていくまでが一つのクエストらしいんだが、こいつらは突然の出来事に動けなかったらしい・・・。」
まぁ・・・何とも言えないクエストだな・・・。
僕でもきっと捕まえられずに見送ってしまうだろう・・・。
「それって捕まえたらお金は返してくれるの?」
「あぁ。その子の親がな。【度の超えたいたずら】ってクエストだ。それと初心者用のアクセサリーもくれるんだ。まぁそのクエストを知ってる人からすればただの鬼ごっこクエストなんだがな。掲示板にも情報は乗ってるし・・・。」
つまり情報不足が起こしたミスってことだ。
僕も気をつけなくちゃいけないな・・・。
「まぁとにかく一文無しのこいつらをリタが助けて、金銭問題や戦闘なんかをレクチャーしているうちに仲良くなってうちのクランに入ったってわけだ。」
「なるほどな。つまり学校を休んでまでダイブしたけど、結局リタのおかげで仲間をゲットできたわけだ。」
「それを言うなよ・・・。それを言ったら「悪魔結社」だって同じだぜ?あいつら結局女の子に話しかけようとしたけど話せなくて、どうしようかって話しているうちに一日終わってしまったみたいだからな。」
女神様よ。
アイツらに春を与えてください・・・。
「まぁ挨拶もできたし僕らはそろそろ行くよ。」
「おいおい。まだいいだろ。向こうもガールズトークが始まってしまってるし。」
見ると女性たちはコーヒーやジュースを飲みながら、優雅に話していた。
「・・・ああなったら長くなるぜ。女って・・・。」
「わかってるよ・・・。」
結局2時間ほど僕らはクエストの話などをし、待つことにした。
「・・・じゃあそろそろ行こうかしら。」
「そうね。あんまり待たせても悪いし。」
「わかりました。色々ありがとうございました。」
「ありがと~。またね~~。」
結構待ったで・・・。
二時間って映画一本分ありましたよ・・・。
タクなんかもう寝ちゃってるし・・・。
「じゃあまたね。・・・こらオリバー!何寝てるのよ!勉強再開するわよ!!」
「・・・ふぁ?・・・勉強はもう終わってるよ~~。」
「何寝ぼけてんのよ。さっさと始めるわよ。ほら、よだれついてるし。」
「ん・・・。ありがと。また教えてな。」
「べ・・・別にいいわよ・・・。ほら!さっさと始める。」
皆が二人を暖かい目で見ている中、「ダブルナイツ」のホームを後にするのだった。