フランジェシカ編、前編
「おーい、入るぞ」
今日は月曜日。
学校でフランジェシカが、素材集めを手伝ってほしい、とお願いをしてきた。フランジェシカのお願いなんて珍しいので、僕はそれを了承する。もちろん皆に確認を取ってからだ。
エリザベス達は昨日の「夢見る温泉」をもう一度調べてみるみたいだ。元々はどんなダンジョンだったのか気になるらしい。
ということで珍しく僕は一人でフェラールの街の錬金術師が集まる場所に来ていた。
ところが。
「いい?恥ずかしがってはダメ!!心を開くの!!さぁ皆で言ってみましょう!!「この世。攻めあらば、受けがある。地雷は私の主食。全ての男は我らの主食!!マナーあるボーイズ・ラブ人生を!!ビバ!!腐女子!!ビバ!!腐り!!ああ!!801!!」」
「「「「「「この世。攻めあらば、受けがある。地雷は私の主食。全ての男は我らの主食!!マナーあるボーイズ・ラブ人生を!!ビバ!!腐女子!!ビバ!!腐り!!ああ!!801!!」」」」」」」
何とうちの腐教様はおぞましい宗教団体を作っていた。
「違うわ!!もっと心を込めて!最後の「ああ」は喘ぐように!!さぁもう一度!!」
「「「「「「この世。攻めあらば、受けがある。地雷は私の主食。全ての男は我らの主食!!マナーあるボーイズ・ラブ人生を!!ビバ!!腐女子!!ビバ!!腐り!!ああ!!801!!」」」」」」」
「素晴らしいわ!!これであなた達はれっきとした腐女子よ!!いい腐り方だわ。これからも皆さん末永くよろしくお願いします」
「「「「「お願いします。お疲れさまでした」」」」」
僕は扉を閉めようとしたが、ガシッと腕を掴まれてしまった。
「あらウィル!来てくれたのね。どこに行くのかしら?早くこっち来て!!」
腐教様は嬉しそうに近くの椅子に僕を座らせる。
ただ幸運なことに他の人たちは帰っていった。
「なぁ。あんまり知りたくはないんだが、さっきのは何なんだ?」
聞きたくはないのに、知りたくなってしまう。人間の性が恨めしい。
「腐腐腐。よくぞ聞いてくれました。あれは私達の人生そのものなの」
思ったよりも壮大な答えが返ってきた。
「じ、人生ですか?」
「そうよ?私達の人生。それはBLよ!!この世の男たちを結びつけるキューピット!!それが私達なの!そしてそれを見ながら私はハァハァしたいの!!感じたいの!!私は!!」
思ったより卑猥な理由だった。
そんな椅子に足載せて、天高々に手を拳を上げられても。
「あ、そうだ。フランジェシカに渡したいものがあったんだ」
「何々?ラブレター?」
「ネタが古いわ。前にもらったノートなんだけど」
「ふむふむ。なるほど。ふむふむ。ふむふむ」
「ふむふむうるさいな。普通そんなこと言わないだろ。アニメじゃあるまい」
「あら、いい突っ込みね。おばあちゃんのレシピ本?なんか知恵袋みたいなことかしら」
「読んでなかったんかい。あながち間違ってないんじゃない?おばあちゃんが長年かけて考えた錬金術を、書いた、本だから、フランジェシカ?」
「腐腐腐。ついに、ついに手に入れたわ。夢への道しるべを!!」
フランジェシカはとても恐ろしい顔で、ノートを見つめていた。
もしかして僕は、悪魔に悪魔の書を渡してしまったのかもしれない。
「……錬金術って大鍋をかき混ぜて「イヒヒヒヒ」って言うイメージだったんだけど全然違うんだな。なんか科学の実験みたい」
「どんな古臭いイメージよ?ポーションなんか、鍋に薬草と水を入れて煮だすだけよ?タイミングだけ気を付ければ誰でもできるわ」
フランジェシカは錬金術用のフラスコや試験管、やすりなんかで何かを作っている。僕はせっかくなので見学させてもらっていた。
「ところでなんでフェラールなんかにいるんだ?ホームでやればいいじゃないか?せっかく錬金部屋作ったのに」
「普段はそこでやっているわよ?ただ新規プレイヤーが増えたでしょ?その支援に来ているのよ。腐教のついでにね。最近の新規プレイヤー生産系の人が極端に少なくてね。ポーションなんかずっと足りてないのよ」
意外とまじめにプレイしてんだな。まぁ学校では委員長を務めているほどだ。根はまじめなんだろう。
「スミスさんや、レヴィさんもたまにフェラールに来て教えているわよ?鍛冶系の人も少なくて・・・。まぁ向こうは腐教していないみたいだけど」
腐教こだわるな。
「知らなったな。だからいつも素材を大量に必要としているのか」
「そうよ。「カンパニー」にいれば素材に困ることがないからね。最近では「ダブルナイツ」に「悪魔結社」「鋼鉄騎士団」からも素材を買い取って新規プレイヤーように流しているのよ?それでも全然追いついていないのだけれど。だから腐教活動もあまりできていないの」
うちの生産組は優秀だな、腐教活動はしなくていい。
「なぁ。店とか構えないのか?」
「それも考えてはいるわ。ただ、今は新規プレイヤーを相手に商売しているから、なかなか儲からないのよ」
「何なら買ってあげようか?お店。みんなで出し合ってだけれど」
「え?本当に?でもさすがに悪いわ」
急にフランジェシカは遠慮しだした。
普段からこうやってしおらしくしていればこいつも美人なのになぁ。
「そんなことないよ。生産組の活動もそのまま「カンパニー」の為になるんだから。それくらいの資金代くらい僕らが稼いでくるよ」
「ウィル。お礼にキスしていい?」
「なんでだよ?いらんわ」
「あら、残念。もう私の初めてもらってんだから遠慮しなくていいのに」
「あれは事故だ。それに変な言い方するな。胸を触ってしまっただけだ」
「しっかり揉んでいた記憶があるけど?」
「シリマセン。ボクハオボエテイナイ」
「ふふっ。残念。…と、できた。じゃあ行きましょう?」
「行くって?どこに?」
「始まりの草原よ」
ということで僕らは草原に来ていた。
そこにはまだ新規プレイヤーがちらほらいた。
先日の初心者用スタンビートと経験値2倍ポーションのおかげで、皆始めて間もないのに、すでに次の街に行っていた。
・草原ラットLV2
「いたわね。モンスター」
「そう言えばここでの戦闘は初めてだな」
「あら?初めに戦わなかったの?」
「最初はいきなり森に行ったからなぁ」
「あなた達らしいわね。普通は無理よ?そんなこと。どんなプレイヤースキルがあったらそんなことできるのかしら」
まぁうちには廃ゲーマー様と天才がいるからな。
「で、どうするんだ?僕が戦うわけじゃないだろ?」
「それじゃ意味ないじゃない。貴方は私を守る王子様。そこで見ていてくれればいいわ」
「普通は騎士じゃないのか?」
「未来の旦那様だもの。いいじゃない」
「勝手に旦那にするな」
「ひどい。貴方がもらってくれなかったら絶対誰ももらってくれないじゃない」
「よく自分の事わかってるじゃん」
「ぶーー。ひどい。よし、この距離でいいわ」
フランジェシカは何か入った試験管をラット目掛けて投げた。
ボンッ、と小さな音がし、空中にいきなり捕獲用の網が出現した。
「キキキッ」
そのままラットを捕獲する。
「すごいな。何が起きたんだ?」
「ふふ。知恵袋のおかげよ。説明は後よ。それっ!!」
ボンッッ!!
今度はラットに当たり、試験管ごと小さな爆発を起こしラットを倒す。
「爆発した。すごいじゃないか!!それ売れるんじゃないか?」
「そうね。それよりも一度移動しましょう?なんだか注目を浴びすぎてしまったわ」
気づけば周りのプレイヤーが集まり、何事かとこちらを見ている。
「…ということでウィル。おんぶしてダッシュ!!」
「いやだよ。めんどくさい。ムギに乗ろ?」
「あ、それもいいわね」
僕はムギをインペントリから出す。
後から聞いた話だと、あの爆発したアイテムは目立ちすぎていたようだ。その結果、掲示板で「誰が作った!?」「売ってくれ!!」「作り方を教えろ!!」などのちょっとした騒ぎになったそうだ。
僕とフランジェシカはそこまで顔が割れていなかったのと、周りにいたのが新規プレイヤーばかりだったのっが良かったのか、まだばれてない。
が、ムギを出したことで、以前のスタンビートで活躍したプレイヤーだとばれてしまった。そしてこんなことが出来るのは、何かと話題の「カンパニー」の誰かなんじゃないか、とまで言われてしまっている。
現代の情報の速さは怖いものだ。
が、当の本人たちはそんなことは知らずに。
「きゃぁぁぁ!!楽しいわ!!すごい早いのね!!この子!!」
「「ムギ」ね!!そう呼ぶと喜ぶから!!」
「ムギちゃんね!!人間の言葉がわかるの??あ!こっち見た!!」
「よしよし。わかるみたいだよ!!普通の馬とは違うみたい!!」
乗馬を楽しんでいた。
そして森の手前まで行ったとき。
「待て!!こら待てってば!!」
気づけば真っ赤な長い髪に大きな盾を背負った女性がこちらに馬の上から叫びながら、並走してきた。
向こうもムギと同じ大きな馬だ。きっと先日のスタンビートのランキングの商品なんだろう。ということは新規プレイヤーか。
僕はムギのスピードを下げ止まる。
「…なんですか?今急いでいるんですが」
彼女は怒ったような表情でこちらに近づいてきたため、なんだかめんどくさい気がして嘘をついた。
「あなた。もしかして」
フランジェシカは何かに気づいた。知り合いか?
「入教希望者かしら?腐女子教の」
全然違った。 腐女子教って何ですか?何それ怖いんですが。
「腐女子?違う。俺が話があるのは前に乗っている奴だ!!お前「俊足の兄貴」だろ?勝負しろ!!」
やはりめんどくさかった。
「すみません。人違いかと。では」
僕はムギを歩かせようとする。
が、相手は僕たちの進行方向に立ち、邪魔をしてくる。
「ちょっとあなた?失礼じゃない?名乗りもしないでいきなり勝負だなんて」
フランジェシカの言葉に相手はハッとし馬から降りる。
「これは失礼した。俺は礼儀とかよくわからなくてな。私はレイよ。「ダブルナイツ」のオリバーってやつに聞いたんだ」
あいつ。
僕らも馬から降りる。悪い奴ではなさそうだ。
「オリバーはなんて?」
フランジェシカが呆れながら聞いてくる。
「以前フェラールで「ダブルナイツ」勧誘をしていてな。その時にPVPを挑んだんだ。かわいい女性ばかり勧誘してて腹がたってな。だが負けたんだ。そこで俺は「今AOLで一番強いのはあんたか?」って聞いたら「「カンパニー」の俊足だ。」って教えてくれたんだ。写真も送ってくれてな」
あのアホ。
こうして僕は変な奴に絡まれてしまった。




