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Another Of Life Game~僕のもう一つの物語~  作者: 神城弥生
イベント前のあれこれ
105/218

神代浩平



 舞台袖には観客の歓声が今も鳴り響いている。


 だが僕らは誰も口を開かない。


 開けないのだ。


 あまりにも衝撃的な事実が発覚してしまったのだから。


「もしかして知っているの?お父さんのご友人だったとか?」


 僕にアイーダの声は聞こえなかった。確かに毎年命日に届く手紙には名前がなかった。初めはなんて失礼な奴なんだと思った。だが、実際は名前など書けるはずもない。世界的歌手の娘さんなのだ。


 僕の頭の中に父さんとの思い出が蘇る。そして正面にいる女の子を見る。この子が父さんの守った子なんだ。

 父さんはこの子を守って死んだんだ。


「、ん。ちゃん!お兄ちゃん!!しっかりして!!」


 アイリスの声で僕は我に返る。皆は僕を心配してくれていた。不安そうな顔で、僕の顔を覗き込んでいた。


 アイーダだけがわけがわからないという顔をしている。当然だろう。僕の本名だって知らないのだ。まさか自分を助けてくれた人の血縁者が目の前にいるとは思わないだろう。


「ん。神代浩平はウィルのお父さん。彼の本名は神代弥生。」


 僕の代わりにエリーゼが話してくれる。


「えっ。神代、弥生、って。私が毎年手紙を送ってい、る」


 アイーダも状況を理解したようだ。まだ混乱はしているが。


「ねぇ、こんなところで話すのもなんだし一度ホームに帰らない?皆も心配して覗いてるわよ?」


 僕らがエリザベスの視線の先を見ると、「ダブルナイツ」に「ダブルナイツ」に「悪魔結社」「鋼鉄の騎士団」の皆がいた。


「おい。弥生。今の話は本当か?お前の父さんが助けた相手がアイーダってのは」


 事情を知っているオリバーが話しかけてくる。あまりの事態に本名で呼んでしまっているが。


 僕はゆっくりとうなずく。


 その後誰も話さず「カンパニー」ホームに向かう。


 他の姉妹クランも来ている。


 もう事情は分かってしまっている。


 中途半端に知るより、しっかり知っている方が、今後気まづくならないだろうというエリザベスの案だ。


 誰も反対はしなかった。


 メアリー達のおかげで皆が座れるだけのソファーは用意されている。


 皆席に着くが誰も話さない。


 そんな中僕が一番落ち着いていたと思う。僕の中でもう終わった事なんだ。気持ちの整理がついたことなんだ。


「ごめんなさい!!私のせいであなたのお父さんが」


 アイーダは泣きながら謝罪してくる。僕は冷静にだった。あまりの事実に驚いたが、違うんだ。僕の中で父さんはヒーローなんだ。

 謝れるような事はしていない。


 皆が、心配そうに見守る中、僕はゆっくりと口を開く。


「僕ね、僕の父さんはね。ヒーローなんだ。見ず知らずの女の子を助けて。その女の子は今でも夢を叶えようと努力している。父さんの命は無駄ではなかったんだ。ちゃんと引き継がれていたんだ。父さんの命は。だから謝らないで?僕の父さんは謝られるために君を助けたんじゃないよ。君に笑って生きてほしくて助けたんだ。君の未来を信じて。」


 そうだよ。父さんは命がけで次の命に託したんだ。自分の命を。だからこんな悲しい感じになってはいけないんだ。

 もっと笑ってくれなきゃ、父さんは浮かばれないよ。


「でも。でも」


だが、アイリスは泣き止まない。

そう簡単にはいかないか。


「何で戦争なんか起きるんだろうな」


 オリバーは小さくつぶやく。


 誰も口を開かない。 

 そんな中エリザベスがオリバーのつぶやきに対し答える。


「戦争が起こる原因は色々あるけど、大きく分けると、お金か土地か宗教よ。まっぁ最近は水源問題なんかの食糧問題もあるけどね。ただ大半はさっき言った3つと、権力者同士の暇つぶしが原因よ」


「暇つぶし…」


 誰かのつぶやきと共に再び静寂が訪れる。


 誰も声を出さない。

 暇つぶし、というのは言い過ぎかもしれないが実際外野から見ればそうだ。そして権力と力を持った人間はそれを使わずにはいられない。


 どうして人間はこうも弱いのだろう。



「とにかく、いかに正当化しようとも、いかに必要であろうと戦争を行うこと自体が罪なのよ」


 再びエリザベス静寂を破る。さすがエリザベス。いいこと言うな。


「そうだな。人間は戦争に休止符を打たなければならないからな。そうでなければ戦争が人間に休止符を打ってしまうからな・・・。それを止められるのは結局、話し合いと筋肉だけだからな・・・。」


 ドンが真面目に答える。


「ジョン・F・ケネディね?」

「ん。でも筋肉は余計。」


 エリーゼの突っ込みに皆笑い、場の空気が少し和んだ。ドンが僕にウィンクをしてくる。


 わざと言ったのか。


 さすが大人だな。


 場の空気を変えるためにわざと冗談を言ったドンが、不覚にも少しかっこいいと思ってしまった。



「とにかくさ、アイーダは悪くないんだよ。だからいつもみたいに笑っていてよ。じゃなきゃ父さんは浮かばれない」

「や、弥生さんはなんで怒らないんですか?私があそこにいなければ」


 アイーダは恐る恐る聞いてくる。


「弥生でいいよ。それに今はウィルだよ。今まで通りため口でいいから。怒る理由なんて何一つないよ。むしろ今では感謝しているよ。ちゃんと助かってくれてありがとうって。生きていてくれてありがとうって。じゃなきゃ父さんは無駄死にになってしまうからね。助けた相手がアイーダでよかったよ。ひどい戦争みたいだったからね。確かあの戦争は石油をめぐる突然の内乱から始まっただったよね?」


「ウィルさん。ありがとうございます。はい。ママの海外ライブについて行って、一人でホテルで待っていたら、いきなりデモが始まって。そのまま大きくなって内乱になって。ママはすぐにスタッフの人に連れていかれて避難して、私はおいて行かれちゃって。そこでママが近くにいた日本軍の神代浩平さんって人に助けを頼んだからそこでじっとしてなさいって」


 アイーダは振るえながら話してくれて、アイリスがその背中をさすってあげる。僕はその状況は、手紙に書いてあったので知っている。知っているが、やはり本人から聞くとまた違って聞こえる。


 僕は胸が熱くなる。


「ママが電話をくれてから一人で2日待ってて。すごく怖くて。そしたら突然部屋に覆面の男の人たちが入って来て。子供は高く売れるって。そしたら私は車で攫われそうになった所を助けてくれたのが神代さんだったの。すごく優しくて、かっこいい人だった。」


 僕は気づけば涙が止まらなかった。

 

 ゲームなんだからこんな所までリアルにしなくていいと思った。


「そのまま大使館まで行ったんだけれどその門の前で。あのウィル。手紙にも書いたけど、直接言いたくて」


「うん……」


「神代さん。最後に「妻と息子を愛している。」って伝えてくれって。「いつでもそばにいるから。」って伝えてくれって。そう言って息をひきとりました。」


「うん」


「私からも。あなたのお父様に命を救っていただきました。神代さんは私の一生のヒーローです。その息子さんにようやく会えて光栄です。本当にありがとうございました!!」


「うん、うん」


 アイーダは立ち上がり深く頭を下げてくる。僕は涙が止まらなかった。


「僕も。父さんを誇りに思うよ。やっぱり父さんはヒーローだ。おかげでアイーダに会えた。友達になれて、仲間になれた。「カンパニー」の同じ家族になれた。父さんが繋いでくれたんだ」


 僕は父さんが救った少女ともっと仲良くなりたいと、話してみたいと思った。


「なぁアイーダ。改めて僕と友達になってくれないか?」


 僕は立ち上がり右手を差し出す。


「はい。お友達になりたいです。そしてリアルでもあってみたいです。お父様のお墓に行きたいです!!」


「うん。皆で一緒に行こう。じゃあよろしくね。アイーダ」

「はい。よろしくお願いいたします」


 僕らは握手する。

 この繋がった手は、今目の前にある少女の、涙で濡れた満面の笑顔は、父さんが守り、繋げてくれたものなんだ。


 やはり父さんは偉大だ。



「うぉおおおおお!!兄貴!!俺感動したっす!!」

「器!!器が大きすぎます!!そして感動っす!!」

「お父様のおかげでアイーダちゃんが!!」

「感動しすぎて何も言えねぇ。なんも言えねぇっす」

「英雄の父がいて、兄貴があったんすね!!やっぱり一生ついていきます!!」

「みんな英雄の息子に敬礼しよう!!」

「神代浩平さんの冥福を祈って!そして兄貴のカッコよさに!!」

「「「「「「「敬礼!!」」」」」」」


 やめい。なんだそれは。馬鹿にしているようにしか見えないぞ。


 まぁ本気で泣いてるし、ふざけてはないんだろうが。



「温泉だ!!みんなで行くぞ!!」


 突然ドンが叫ぶ。


 気づけばドンは泣いていた。辺りを見回すとみんな泣いていた。


「何で温泉?ふざけてんの?」


 オリバーがもっともな質問をする。


「おいおいこれがマッスルジョークに聞こえるか?本気だ」


 マッスルジョークが何なのか自体知らないよ。


「いいか。みんなで温泉に入り、涙を流し、酒を飲んで笑いあう。つらい時こそ笑うんだ。天まで聞こえるくらい笑い、騒ぐんだ。そうすれば神代さんにも聞こえるだろうし、喜び、安心して寝むれるだろうさ」


「わかったわ!!そうね!!神代さんに聞こえるくらい笑うわ!!行きましょう!温泉に!!」


 アイーダの言葉で皆の温泉行きが決まった。



「ところでお兄ちゃん達いつまで手つないでいるの?」

「ん。いい加減離すべき」


 そこには鬼が二匹いて、僕はこっぴどく怒られました。


 その後みんなで笑い、温泉に向かった。


 「混浴に入ろう」と訴えたオリバーはボコボコにされ、女湯を覗こうとした「悪魔結社」はボコボコにされて、廊下で筋肉自慢していたドンはおかみさんにボコボコにされた。


 そして楽しい宴会が始まった。


 皆で夜遅くまで飲んで騒いだ。


 もちろん僕らはジュースだが。


 僕らの笑い声はダイブアウトするまでずっと響いていた。


 その日の夜は満点の星と満月だった。

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