1章 4話 「いつぶりですか?」奇跡の再会
「あ、健一くん。話はおわったの?」
「終わってなきゃこっちに来ねぇよ」
「高尾、顔若干赤くない?なんかされた?」
「男が男に何かされて赤面するか普通」
健一は焦りの一つも見せず突っ込んだ。
先生が教室に入ってきてホームルームが終わったときに、
「あ、鈴城さんと高尾君は話があるから少し来ください」
と言われた。勿論回りはざわめいた。
梨沙も健一も何の話かわからず首を傾げたが言われた通り先生のもとに行った。
「あ、梨沙、高尾お帰り。何の話だったの?」
先生の話が終わり、里美のところに戻った梨沙と健一。
「え?いや、なんでもないよ?」
と、焦りぎみに言う梨沙に対し、健一は深いため息を付いてから、
「あぁ、お前が気にする問題じゃない」
と言った。
「えー!そんなこと言わないで教えてよー。梨沙の反応からして何かあったのは確実なんだから!」
「え、もしかして私ってそんなにわかりやすい?」
「もしかしなくてもそうだ。まったく仕方ねぇから言ってやるよ」
「わーい!なになに?」
健一と梨沙は先生に言われたことを里美に言った。
時は少し遡り梨沙と健一が先生に呼ばれた時。
「話ってなんすか?」
「…君たちの関係なんだけど、いくらなんでも広まり過ぎじゃないかな?」
「え?ここのクラスだけじゃないんですか?」
「端から端まで、この学年だけじゃく全学年に知れ渡ってるんですよ」
「えぇ?!」「は?!」
梨沙と健一はほぼ同じ反応をした。
「とにかく、嬉しいのはわかるけど、あまりに撒かれるとこちらとしても困るんですよ。なのでお願いしますね」
「ま、待ってください先生!誤解です!私達は付き合ってる訳でもないですし言い触らしてもないです!」
「先輩がデマを流してるんすよ、何組かわかりませんが2年の先輩っす」
「そうなんですか?わかりました、ではもう騒がれないようにしてください。こちらからも何とかしますけど。お願いします。」
コクッと梨沙と健一は頷いた。
「それで呼ばれてたのかー」
うんうんと頷きながら里美は言った。
「そんなに軽く流すの?!」
「前川、聞いたからには少しは手伝え」
そう健一が言うと里美は
「ん~、人に物を頼む態度じゃないけどまあいいか。少しなら手伝ってあげる」
「手伝ってくれるならうれしいんだけど、嫌ならいいんだよ?」
梨沙はやさしく里美言ったのだが健一は、
「いや、事情を聞かれたからには少しでも手伝って貰わなければ割に合わん」
ときつい言葉を放った。
「って言うことだからさ梨沙、少しばかりやるよ」
と里美はニッと笑って言った。
「もう!健一くん!きつい言い方しないの!里美だって用事があるかもしれないでしょ!」
「いや、前川は結局部活入ってないし家もそこそこのお金持ちで用事なんて滅多にないから大丈夫だ」
健一はそう言った。
「部活入らなかったのは認めるけどお金持ちって言い方はあんまり好きじゃないなー。豪華な人とかもっと言い方があるでしょ」
「里美…そっちのほうがおかしいよ…」
梨沙は思わず苦笑いしながら言ってしまった。
「ともあれ、前川が居ればほぼ問題ない。少なくともこの教室の両隣の教室は」
梨沙は疑問に思った。なぜ里美が居たら楽なのか。
「なんでって顔してるね、梨沙」
里美は自慢気な顔で
「もう隣のクラスならみんな友達だよ!だからまかなさーい!」
と言ってきた。
「てな訳だ。俺らは残りの4クラスと先輩がたを説得するか」
「でも校則で他学年の教室は行くなって…」
梨沙は弱気だった。さすがに全校生徒700人以上の規模の高校だ、全員に事情を説明する暇はない。
そう思って梨沙が肩を落とすと、
「あれ?梨沙?」
と声をかけられ、梨沙はびっくりしながら振り向くとそこには見たことあった顔があった。
「え?もしかして、さっちゃん?」
「やっぱり梨沙だ!久し振りー!」
さっちゃんと呼ばれたその子は梨沙に飛び付いてきた。
「ちょっと、さっちゃん痛いってぇ」
「ちょっと梨沙!?大丈夫?」
里美が駆け寄り梨沙に手をかけた。
「あ、ごめん梨沙!久し振りに会えたから嬉しくて」
「いいよいいよ、それにしてもさっちゃんもこの高校だったんだ?」
「うん!そうだよ!梨沙もこの学校なら言ってくれればよかったのにー!」
「ねぇ梨沙、その子誰?」
里美は少し申し訳なさそうに質問してきた。
「あぁ、クラス隣じゃないのかな。この子は私が小学校に居たときの親友の丸谷彩香ちゃん」
「1年7組出席番号42番!丸谷彩香です!どうぞよろしくー!」
「2組の前川里美、こっちのが高尾健一、うちの幼馴染」
「よろしく」
健一は愛想のない返事したが気にすることなく話を続けた。
「そうださっちゃん!頼みがあるの」
「あら?いつもは抱え込んでたのに頼めるようになったのかー、うんうん、成長したねぇ」
と彩香は保護者かのように言った。
「それは昔の話でしょ!もう、頼みって言うのは…」
梨沙は彩香に説明した、付き合っていると広がっていることや校則に阻まれ大変ということを。
「成る程、じゃあ3年は任せて!」
「さっちゃん宛があるの?」
「学年ごとに学年長なるものがあるのは知ってるよね?その学年長が部活の先輩なのさ!」
と自慢気に言ってきた。
「そっか!学年長に言えばいいのか!って1年と2年の学年長って誰だ?」
「2年は確か5組の学級委員長だね」
「じゃあ1年は?」
里美がそう言うとみんな何も言わずにいた。
「え?みんな知らないの?私だよ?」
「またまたご冗談を、彩香さんが学年長なわけが…」
「いや、丸谷が学年長だ」
と健一が言った。
「なんで断言できるの?…高尾、あんたまさか」
と里美がなにかを疑ってるような目で言った。
「前川、お前が思ってるのとはまったく違う。新入生歓迎会、確かこいつがステージに上がって喋ってた」
「そう!高尾?って言ったっけ?よく見てるね!いきなりこいつって言われたのはびっくりだけど」
「「えぇー!!」」
梨沙と里美は同時に驚いた。
「さっちゃんが学年長なの?!」
「彩香さんが学年長ならこの学年は全員に事情が行き届くからうちの出番なし?!」
「2年の学年長なら俺の知合いの先輩だ。頼んでおこう」
と健一が言った。
これで全学年に事情が行き届く。そう思っていた。
授業が終わり、帰ろうとしたときに彩香が後ろから梨沙に抱きついた。
「トゥ!!」
「わぁ⁉もう!びっくりするでしょ!」
「ごめんごめん、やっぱり梨沙は変わんないね」
「さっちゃんは変わり過ぎだよ!」
梨沙はわざと少しキツく言った。だが、
「ごめんって。でもほら、人は変わるものだし仕方ないよ」
と冷静に返してきた。
「もういいよ。まあ、何だかんだでさっちゃんのお陰もあって事が片付きそうだしね、ありがとう」
「いえいえ、お安いご用だよ!…と言いたかったけど…」
と彩香は声のトーンを落としながら言った。
「え?さっちゃんどうしたの?やっぱり無理させちゃった?」
「いやいや!無理してはいないけど、学級委員全員を納得させるのって大変だったからさー、一部心配なんだよねー。」
「そっか、やっぱり無理させちゃったかな」
「無理はしてないんだって!もう、心配性なとこはどうしても治らないものかね」
「そういうさっちゃんも突発的に何かをする性格は治らないのかな…」
と困りぎみに言ったが、
「性格なんて簡単には治らないよ!と言うか治ると言うより変わるじゃないかな?」
そんな会話をしながら2人は家に帰っていた。
後ろで誰かがこそこそと後を着けているのも知らずに。