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恋の色は濁り色  作者: ピチュを
3章 梨沙の章 / 健一の章
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3章 9話 微笑みは一瞬で / 勝敗の覚悟

梨沙の章






翌日。梨沙はスキップしながら登校していた。


「梨沙ー!」


後ろから里美が手を振りながら声をかけてきた。


「里美、おはよう!」

「どうしたの梨沙?スキップなんてして。ご機嫌だね」

「うん!昨日ちょっといいことがあってね」




「なるほど、それでご機嫌なのかー」

「うん!」


梨沙は、爺に許しをもらったことや久しぶりに爺と話せたことなど、昨日合った嬉しいことを話した。


「にしてもお爺ちゃんに許してもらえるなんてねー」

「お爺ちゃんは優しいし大丈夫だとは思っていたけど、やっぱり言うのは怖かったなー。本当は健一君と一緒に報告したかったんだけど」

「まぁ、それは仕方ないよ。今向こうで頑張ってるんだから」

「うん。健一君は負けないって言ってくれた。だから私も健一君が返ってくるまで頑張らなくちゃ!」


梨沙はそう意気込む。里美もその様子に微笑む。


「じゃあ早く学校行こ!もうすぐテストもあるんだからのんびりしてられないよ!」

「あ、そうだね。ちゃんと勉強しないと!」


里美は梨沙の手を引き走っていった。


「あ、里美。そういえば比岐島君は?」

「今日は先に行くって連絡来てたよ。なんでも先生に呼ばれたとか」

「そうなんだ」


この時はまだ二人は、何も知らなかった。比岐島が何か大きなことをしようとしていることに。






午前の授業は何もなく終わった。だが、一つ気になることがある。


「比岐島君。来てないね」

「うん、どうしたんだろう。連絡したけど返事ないし...」


比岐島は朝、里美に先に行くと連絡を入れていた。だが昼休みになった現在ですら比岐島は学校にいない。朝のホームルームでは欠席と言っていた。理由までは教えてくれなかった。いや、おそらく先生が分からないといったのは事実なのだろうと里美も梨沙も感づいている。


(比岐島、なにしてんだろう...)


里美は天井を見つめながらそう考えていた。






時は遡り、同日朝。比岐島は電車を使っていた。


「里美には連絡も入れたし大丈夫だろう」


比岐島は携帯の電源を切り、とある駅で降車する。


「ここか、健一のいる町は」


比岐島は、健一のいる町で降車していた。それは前日のことだった。




夜。突然比岐島の携帯が鳴り出す。電話の相手は健一だった。


「どうした高尾。お前からかけてくるなんて珍しい...てか初めてじゃねぇか?」

『よぉ比岐島。わりぃな唐突にかけてよ』

「そりゃいいけどよ、なんか用でもあったんか?それとも俺の声が聞きたくなったとか?」

『んなわけねぇだろバカ。てめぇにしか言えねぇ用があんだよ』

「俺にしか言えない?鈴城さんには言えねぇのか?」

『梨沙には死んでも言えねぇなこの話は』

「なんか重要な話っぽいな」

『あぁ、一回しか言わねぇからよく聞け』

「あぁ。聞いてやる。なんでも言え」

『実はな──』

「...は?」




「ったく。なんでこうなったかな...さて、向かうとするか。高尾の家に」






「はぁー、比岐島は何やってんだか」


里美は机に体を載せ脱力した状態でそう言った。


「そう言ったってわからないものはわからないんだからちゃんと勉強しようよ里美ー」


梨沙は手を止めることなく里美にそう言った。今は梨沙の家で勉強しているところだ。結局放課後になっても比岐島から連絡が来ることはなく、里美は完全に脱力していた。


「仕方ないかー。ちゃんと勉強しないとテストやばいかもしれないし」

「里美ってもっと勉強できるかと思ってたけど...」

「ご期待に沿えずごめんなさいねー。あたしは勉強ってあまり好きじゃないのよ。体を動かしたくなっちゃってさー」

「里美ならそういうと思った。だけど勉強しないといけないんだからがまんして」

「はーい。あ、梨沙ここ教えてー」

「どこ?...ここなら──」


梨沙と里美はお互いの得意教科を教えあい、苦手教科を教えてもらいながら勉強した。すると途中でノックされる。


「はーい。入っていいよー」

「勉強は順調?」

「うん!順調だよお母さん」


梨沙の母がお盆に飲み物とお菓子を載せて、勉強の様子を身に来た。


「里美ちゃんも順調?」

「はい!梨沙に教えてもらってるので!」

「梨沙は普段ぼんやりしてるけど勉強はできるのよねー」

「ぼんやりしてるは余計だよ!」

「ごめんごめん、じゃあ頑張ってね。お菓子とジュース置いていくから」

「うん。ありがとうお母さん」


梨沙の母はお盆を置いて部屋から出て行った。お盆にはコップ二つとジュース、クッキーが置いてあった。


「じゃあ少し休憩にしようか。ちょうどお母さんがお菓子持ってきてくれたし」

「そうだね。じゃあいただきまーす!」


里美はクッキーを一つ取り頬張った。


「おいし!これどこのお店のやつ!?」

「多分お母さんが自分で焼いたんじゃないかな?まだ少しあったかいし」

「これ作れるとか...梨沙のお母さんはパティシエか何か?」

「いや、ただの専業主婦だけど...」

「いやいや、そんなわけないでしょ!だってこのクッキー──」


里美がそう力説していると携帯が鳴った。里美の携帯だ。


「誰だろうこんな時間に......って比岐島!?」


里美は急いで電話に出た。


「ちょっと比岐島!今日はどうしたの!先に行くって言って学校に来ていなかったじゃない!」

『それについて今電話したんだ。朝は嘘ついて悪かった。どうしても朝には言えなかった用があってな』

「朝には言えなかったって、今は言えるってと?」

『あぁ。とりあえず今どこにいる?簡単に説明してから直接会って細かく伝えたいんだが』

「今?梨沙の家だけど...比岐島梨沙の家知ってたっけ?」

『知ってるけど...鈴城さんの家にいるのか?まいったな...』

「どうしたの?」

『鈴城さんには聞かれちゃならねぇ話だ。何とかならねぇか?』

「そういわれても...取りあえず簡単な説明ってのを教えて。内容次第では場所決めて落ち合うから」

『健一が...負けたかもしれん』











健一の章











「お前、多々見と付き合え」

「......は?」


瑞風の一言に健一は固まる。そして怒鳴った。


「てめぇ、何言ってんのかわかってんのか?」

「あぁ、わかってる。言い方を変えれば負けを認めろってことだ」

「てめぇー!」


健一は瑞風の胸倉を掴む。


「お前だってわかってんだろ?このままなら押し負けるって」

「ッ!」

「だったらおとなしく負けを認めろって言ってんだ。その方がお前のためだと思うが?」

「俺は負けられねぇ...負けちゃいけねぇ理由があんだよ!」

「お前を待っている彼女だっけ?その彼女だってよ、本当にお前の帰りを待っているのか?」

「何が言いてぇ!」

「離れ離れになった恋人なんて放っておいて、他に彼氏を作ってないと言い切れるかって聞いてんだ」

「たりめぇだ!梨沙は誰にも屈しねぇ!俺はあいつの全部を知ってんだ!」

「それがその梨沙ちゃんの偽りのない姿だと、言い切れるのか?」

「そ、それは...」

「そういうことだ。俺はお前に協力するとは言ったが、勝利に貢献するとは言ってない。俺はお前のためを思って負けを認めろと言ってんだ」


健一は瑞風の胸倉から手を放し、脱力したようにうなだれた。


「俺はいつか言ったよな。お前は覚えてるか知らねぇけどよ、俺は多々見が好きだって」

「あぁ、言って......ってならお前なんで!」

「見てらんねぇんだよ!お前が多々見におびえてるのが!」

「俺が、多々見におびえてる?」


健一は首を傾げた。健一からすればおびえているわけではない。それどころか、戦うと決めたばかりだ。だから瑞風にそう言われたことに疑問を持った。


「毎度毎度多々見を見たら逃げてんだろうが。それでおびえてねぇなんて言わせねぇぞ」

「......」


健一は言われてから気が付いた。静香との一件以来、彼女に近づくだけであの一件が頭をよぎり、本人も気づかないうちに逃げ出していたということに。


「負けねぇって意思があんなら、それを示してみろ。負けを認めんなら多々見と付き合え」

「俺は......」






放課後になり、健一は校門に背中を掛け待っていた。そこに静香が走ってくる。


「お待たせ健一君」

「おう。とりあえず移動するぞ」

「う、うん」


健一は歩き出した。静香は健一の後を追うようについていく。

行先は近くのカフェだった。


「おごっから好きなの頼めよ」

「いいの?じゃあ...カフェラテで...」


健一は店員を呼び止め、コーヒーとカフェラテを頼んだ。


「取りあえず話は落ち着いてからだ」

「う、うん...」


そのまま無言の時間が少し続き、やがて頼んだコーヒーとカフェラテが来た。二人は頼んだものを飲み、一息つくと、健一から話を切り出した。


「お前さ、まだ俺のことが好きなのか?」

「え?そんなこと普通聞く?」

「言えよ。じゃねぇと話が進まねぇ」


静香は少し黙って、深呼吸してから言った。


「好きだよ。ずっと、じゃなきゃ追いかけないよ」

「そうか。なら今でも俺のことを狙ってるんだな?」

「そうだよ!好きな人を欲する気持ちは健一君もわかってるはずだよ!」

「あぁ、わかる。だからこそお前の気持ちが本気なのか知りたかった」

「本気か...どうか?」


健一は頷き、言葉をつづけた。


「お前の気持ちが本物ではなく、俺を困らせるためのものならそこまで力強い声では言わないはずだ。本気だからこそ俺にも伝わった」

「じゃあ...!」

「だが!」


健一は一息吐いてから、続ける。


「だがな、俺には梨沙がいる。あいつは俺を信じて待ってくれているはずだ。その期待を裏切れないし裏切りたくもない。だからお前の気持ちに答えることはできない」

「そ、そんな...」

「だからよ──」


健一は席を立ち静香のところへ行く。そして一瞬だけ、唇を重ねた。


「これで許してくれねぇか」

「健一...君?」

「お代はここに置いていく。おつりは好きに使え」


健一はそう言って、テーブルにお金を置いて店を出て行った。

静香はそのまま座ったまま、頬に一筋の涙を流した。その涙にどんな意味があるのかは、本人もわからない。






その日の夜、健一は比岐島に電話を掛けた。


『どうした高尾。お前からかけてくるなんて珍しい...てか初めてじゃねぇか?』

「よぉ比岐島。わりぃな唐突にかけてよ」

『そりゃいいけどよ、なんか用でもあったんか?それとも俺の声が聞きたくなったとか?』

「んなわけねぇだろバカ。てめぇにしか言えねぇ用があんだよ」

『俺にしか言えない?鈴城さんには言えねぇのか?』

「梨沙には死んでも言えねぇなこの話は」

『なんか重要な話っぽいな』

「あぁ、一回しか言わねぇからよく聞け」

『あぁ。聞いてやる。なんでも言え』

「実はな、......電話じゃ言えねぇから明日俺んちに来い。住所は後で送るからよ」

『...は?おいちょっと待て健い──』


比岐島が何かを言い終わる前に電話を切った。


「はぁ...取りあえず一段落か...あとはうまいことやってもらうしかねぇな」


健一は比岐島にメールで住所を飛ばした。






翌日、健一は学校を休んだ。家族には具合が悪いと言っている。両親は仕事の帰りが遅い為問題はないのだが、弟はまだ中学生。部活があるとはいえ、そこまで長々と比岐島と話しているわけにはいかない。

比岐島には家の住所と、待ち合わせの時間を伝えている。もうすぐその時間だ。


少しして、インターホンが鳴る。


「比岐島か?」

「あぁ、そうだよ。とっとと開けろ」


健一は玄関を開け、比岐島を自室へと入れた。


「わりぃな、こんなド平日に」

「そう思うんなら手短に頼むぜ...俺は里美に嘘をついてまでこっちに来てんだからよ」

「どう頑張っても手短には住みそうにないから安心しろ」

「安心できねぇだろそれ!...んで、用ってなんだ?わざわざ呼んだからには、かなり重要なことなんだろ?」


健一は頷く。そして比岐島の肩に手を置いた。


「んだよ」

「俺...負けるかもしれねぇ...」

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