3章 7話 4人の考え / 決意の末
梨沙の章
翌朝。梨沙は少し軽い足取りで学校に向かった。いつもなら里美とばったり会うのだが今日は会わず、一人で学校に着いた。
教室に着くも、里美と比岐島はまだ来ていなかった。梨沙は自席に着き、準備をしていた。その後、すぐに里美と比岐島が教室に入ってきて、梨沙の近くに来た。
「おはよう梨沙!」
「おはよう鈴城さん」
「おはよう里美、比岐島君」
「昨日は楽しかったかな?」
「電話でも言ったでしょ?楽しかったって」
「良かった良かった」
「昨日?...あぁ、高尾になんか言われてたやつか」
「うん。健一君に遊園地に連れてってもらって、すごく楽しかった!...というか比岐島君知ってたの?」
「あぁ、里美から聞いた。いつも通りに戻ったみたいでよかった」
「私はいつも、いつも通りなつもりだったんだけど...」
「「いやいやそれは無理があるよ!」」
二人に突っ込まれ少ししょぼんとしてしまうが、明らかにいつもより明るい梨沙はそれから二人に惚気話を聞かせた。
それから少しして、セリアとアクトが教室に入ってきて、自席に荷物を下ろしたかと思うと二人そろって梨沙の元へ行った。
「おはようスズ!」
「おはようスズ」
「おはようセリア君、アクト君」
「スズ、なんか明るくなった?」
「そう...かも。昨日楽しいことがあったし」
「楽しいこと?...あぁ、ケンイチの言ってた空けとけってやつか」
「うん。遊園地に連れてってもらったんだ」
「それだけ?」
「え?うん、そうだけど...」
「俺にはそれだけには見えないけどな」
アクトはそう言った。梨沙は首をかしげる。実際に遊園地に行っただけで他にはどこにも行っていないので当然だ。だが、アクトが言いたいのはそうじゃなかった。
「明らかに、清々しさがでてる。ケンイチとの距離がさらに埋まった感じか?」
「あ...」
言われてから梨沙も理解した。健一と交わした約束。それも引っ越し当日のような一方的な約束ではなく、互いに交わした約束。それが梨沙の支えになっていることに。
「その反応、あたりみたいだな」
「うん...健一君、負けないって。私が好きだから絶対負けないって、そう言ってくれたの」
「負けないって...何に?」
思わず里美が口を入れた。
「健一君、向こうで多々見さんってい人に、不意打ちでキスされたんだって」
「「「「はぁ!?」」」」
梨沙以外の4人が声を揃えて驚いた。
「待って!高尾がキスされたって...ほんとなの?!」
「あいつガードすげぇかてぇイメージあるけど、それに不意打ちでキスってどんなやつだよ!」
「「スズ!その多々見ってやつどこだ!ぶっ飛ばしに行ってやる!」」
「ちょっと待って!落ち着いて!」
一瞬で興奮状態になった4人を梨沙が抑える。
「健一君も不意打ちでどうもできなかったみたいだし、その多々見さんのことも好きじゃないとは言ってたの」
「「「「だからって!」」」」
「それに、負けないって言ってくれた。健一君は、多々見さんと隣の席だって言ってたけど、絶対負けないって約束してくれたの。だから私は信じる」
「梨沙...」
「鈴木さん...」
「「スズ...」」
4人は梨沙の考え、意思を聞き興奮を収めた。
「なら、俺たちも応援しなきゃいけねぇな」
「そうだな兄貴!」
「アクトの言うとおりだ!高尾が負けねぇことを祈ろうぜ!」
「そうだね!梨沙!困ったことがあったら言ってね?できることは何でもするから!」
「みんな...」
4人は梨沙に応援すると言った。そう言われても梨沙には何もできないが、ただただその想いがうれしかった。だから梨沙は答えた。
「私は何もできないけど、みんなの応援を無駄にはしたくないから。がんばるね!」
梨沙はそう意気込み、4人は握りこぶしに親指を立て、グーサインを出した。
放課後。里美と比岐島は用事があると先に帰って行った。梨沙とセリアとアクトは一緒に下校していた。
「そういやスズ」
「ん?どうしたのアクト君?」
アクトが口を開いた。梨沙に聞きたいことがあるらしい。
「遊園地に行っただけって言ったけどよ。昨日って遊園地の方で花火が鳴ってなかったか?」
「それは昨日が遊園地の4周年記念らしくて、観覧車から花火が見られたの」
「健一と見たってわけか」
「うん!すごくきれいだったよ!」
「そうか」
アクトはそれだけ聞くとそのまま口を開くことはなかった。だが、代わりにセリアがいろいろ話をかけていた。梨沙自身も、特に暗い表情をすることなく話していて、心配することはなさそうな感じだった。
家に着くと、梨沙の家の前には、見覚えのある車が家の前に止まっていた。だが、見覚えがあると言うだけで誰の車かがわからない。梨沙は恐る恐る玄関を開け、家に入って行った。
「た、ただいまー...」
返事は帰ってこない。リビングの電機はついているが、声が全く聞こえで来ない。梨沙はゆっくりリビングに向かう。リビングと廊下の間にはドアがあり、話し声程度ならあまり漏れてこない。そのため聞こえないのかとも思った。梨沙は恐る恐るドアを開けた。
健一の章
翌日。健一は普段よりも早く学校についていた。教室には健一以外誰もいない。健一は机に教科書とノートを広げ、勉強していた。
「んっと...わっかんねぇな」
そして唸っていた。
「いっちばーん!...じゃない?!」
「ん?」
元気よく教室のドアを開け入ってきた、茶髪ショートのクラスメイトと健一は目が合った。
「えっと...高尾君だっけ?今日はすごい早いね!」
「あ、あぁ...えっと...」
「あ、私は古河 美由紀!よろしくね!」
「あぁ、よろしく...」
「何してたの?こんなに早く来ることなんてないでしょ?」
美由紀は健一の机を見た。
「勉強?でも健一君って結構成績よくない?」
「悪くはないけどって感じだな」
「えっと...数学かー。苦手なの?」
「得意ではないな」
健一が勉強していたのは数学だ。健一は決して成績が悪いわけではない。全教科平均以上は取れている。だが、健一はある思いがあって勉強していた。
「この分野ってまだ習ってないところじゃない?」
「あぁ。先にやっておこうと思ってな」
「勤勉だなー」
「古河はいつも早いのか?」
「まぁね!特に何か理由があるわけじゃないけどね」
「じゃあ手伝ってくれねぇか?」
「手伝う?勉強を?」
「あぁ」
美由紀は目を丸くしていた。美由紀からすれば、健一は一匹狼のようなものだったのだろう。だから一緒に勉強しようと言われたことに驚いたのだ。だがもちろん断る理由もないので。
「じゃあとなり座るね」
「あぁ」
美由紀は健一の隣の席。静香の席に座った。そのとき、また勢いよく教室のドアが開いた。健一と美由紀はドアに目が行った。健一は入ってきたクラスメイトと目が合った。
「健一君!久しぶり!」
「た、多々見...」
入ってきたのは静香だった。ただ、前とはいろいろ違った。前は眼鏡を掛けていなかった。それに前は白髪のロングだった。でも今は髪が短くなっている。ベリーショートになっている。
「私の席に座っているのは...美由紀さん?」
「静香さん、おはよう。最近休んでいたけどどうしたの?」
「ちょっと体調がね。ところでどうして私の席に座ってるの?」
「高尾君に頼まれて一緒に勉強しようかと思ってたところなの。静香さんもどう?」
「古河、てめぇ!」
美由紀は健一と静香の関係を知らない。だから何の気なしに誘ったのだが、健一は美由紀の胸倉をつかんで怒鳴った。美由紀は何が何なのかわからない様子で、目を丸くしていた。
「ちょっと健一君?!何してるの?!」
「た、高尾君!どうしたの!」
「あ、わりぃ...ちょっと...な。具合悪いから保健室行ってくるわ」
「健一君!」
健一は美由紀の胸倉から手を離して席を立ち、入り口に立っている静香を足早に教室を出て行った。
「高尾君、なんであんなに急いでたんだろう?」
「やっぱり私避けられるよなー」
美由紀の疑問に対してではなく、独り言のようにつぶやいた静香。美由紀はもちろん聞き逃さなかった。
「避けられてるって、静香さん高尾君に何かしたの?」
「え?えっと...」
静香は返答を渋った。だが、ここで言わないのも変だろうということで包み隠さず話した。ただし、重要なことを除いて。
「なるほどねー。それで高尾君は急いでいたわけか」
「私は健一君が好きなの。その気持ちは変わらない。だから何が何でも健一君を手に入れたい」
「そういうことなら応援するよ!できることは手伝うよ!」
美由紀は親指を立ててそういった。静香は嬉しそうにその手を取るが、心の中では悪い笑みを浮かべていた。
「はぁはぁ...たく、やっぱあいつとは合わねぇ」
足早に教室を出て行った健一は、同じ階の階段付近で息を上げていた。ちなみに、教室は3階だ。
「お?健一じゃん。どうしたこんなところで」
ちょうどそのタイミングで瑞風が登校してきた。
「瑞風か...なんでもねぇよ」
「なんでもねぇならなんでこんなところで息切らしてんだ?」
「...」
瑞風の問いに対し、健一は無言で返答した。
「黙るってことはなんかあったんだな」
「...はぁ...やっぱお前には隠せねぇか」
健一はしぶしぶと言った形で経緯を話した。
「なるほどな。ならなおさら逃げたらダメだろ」
「は?逃げなきゃまた──」
「そこだ」
健一には疑問しかない。瑞風が何を言いたいのか理解できていなかった。でも、何も難しい事ではなかった。
「健一、お前は彼女に『負けない』って宣言したんだよな?」
「あぁ」
「今のお前は多々見から逃げている。遠回しに言えば土俵から降りている。それって、負けじゃねぇか?」
「それは...」
瑞風の言うことはもっともだ。勝負する前から逃げていたらそれは負けも同然。健一も瑞風の言葉を聞いてそう思った。だが全肯定もできない。
「確かにそうかもしれねぇ。でもな、あの場には何も知らない古河が居たんだ。例えあそこが多々見の土俵でも今はまだ戦いの時じゃねぇ」
「それもそうだな...じゃあ俺が手伝ってやる」
「...は?」
健一の言葉に瑞風は同感した。そして、手伝ってやると言い出した。当然のごとく健一は疑問を抱く。
「だから、俺が手伝ってやるって。多々見との一対一の場を作りゃいいんだろ?任せろ!」
「勝手にされても困るんだが...まぁ、このままだとらちが明かねぇのが事実だ。頼むわ」
「おうよ!ってなわけで一緒に教室行くぞ」
「は?教室って...戻んのかよ!?」
「当たりめぇだろ。まだ時間はあるが今日は授業があるんだから教室行かなきゃ受けられねぇだろ」
「ちょ、てめぇ!引っ張んな!」
瑞風は健一の腕を引っ張って歩き始めた。




