3章 4話 健一 / 瑞風との結託
梨沙の章
「「「「健一から連絡が返ってこない?」」」」
「うん...」
梨沙は、理由を話した。
「ただ忙しいだけなのかなっても思うんだけど、連絡が帰ってこないのともう一つ、引っかかってるの」
「引っかかってる?なに?」
「最近、同じ夢を見るの。健一君が、知らない女の人と遠くに行っちゃう夢...」
「夢かー。確かにそれは怖いなー」
「具体的な内容は?」
「私が健一君と歩いてるんだけど、知らない女の人が出てきて、健一君と一緒にどこかに行っちゃうの。私が何回呼んでも振り向いてくれないし、追いかけても追いつけないの」
「なんだそのアニメにありそうな展開は」
「比岐島は黙ってろ」
「あ、はい」
以前に保健室で見た夢と同じだった。何度もこの夢を見ているようだった。
「でも、あの高尾がそんなことするとは思えないけどねー」
「私も信じたいんだけど、連絡も来ないしこんな夢を何回も見たら...」
「ケンイチはそんなやつじゃないと思うけどな。正夢って言葉があるから怖いな」
「そういやスズ。ケンイチの引っ越しってどこなのか聞いたのか?」
「いや、聞いてないけど?」
「...怖えな」
引っ越し先が分からない上にこの状況。アクトは素直に怖いと表現した。それもそうだろう。連絡が来ないのだから向こうの確認ができないし、引っ越し先が分からないなら会いに行くこともできない。向こうの想いや行動。すべてが謎な状況なのだ。
「でもよ、あの高尾だぜ?鈴城さんといくら早くくっついたとはいえ、向こうでそんな事にはならないと思うぜ。それにまだ引っ越してから数日だぜ?ないだろ」
「比岐島君...」
「でも、怖い事には変わりないぜ。スズを怖がらせるつもりはないけどよ、この現状がそれを物語ってる」
「兄貴、それ以上言うな。スズがマジでかわいそうになる」
「そうだよアクト。梨沙を怖がらせちゃだめだよ」
「そんなつもりはないけど事実だろ?」
「そうだけど...」
「まぁ、考えてもしかたねえ。鈴城さんも高尾を信じたいんだろ?だったら信じればいい。例えその選択肢が間違えでも、本当に好きなら後悔はしないはずだ」
「そう...だね...。ありがとう比岐島君」
「いいこと言うじゃん比岐島!」
「それに比べて兄貴は...」
「俺は事実を言っただけだぞ?」
結局、解決という終わり方ではなかったが、梨沙は少しばかり元気を取り戻した。
その日の夜。梨沙は健一に電話を掛けた。だが出てこなかった。何度かかけてみたがなかなか出てこない。
「もう寝ちゃったのかな...でも時間的にはまだだし...」
時刻は20時(午後8時)。健一は普段22時(午後10時)に寝る。そのことは梨沙も知っている。
「まだかけてみよ」
そう言って梨沙は何度も何度も掛け続けた。そうして、もう何度目かわからないコールで健一が電話に出た。
「あ、健一君!久しぶり!元気にしてた?」
『久しぶり。相変わらずだ。梨沙も元気そうだな』
「久しぶりに健一君の声が聴けたんだもん!元気にもなるよ」
『そうか。それで、電話は声が聴きたかっただけか?それとも何か用事でもあったのか?』
「んー両方かな」
『そうか。じゃあ先にその用事を済ませるか。なんだ用事って』
「健一君、最近連絡くれなかったけどどうして?」
『連絡?...あー、すまん。いろいろと立て込んでてな。家に帰ってきたらすぐに寝てたから気づかんかった』
「立て込んでるって、そっちの学校で?」
『あぁ、ちょっといろいろあってな。学校側から他言無用って言われてっから説明はできねえが』
「そ、そっか...後ね?私、最近同じ夢を見るの」
『夢?』
「うん、夢」
『どんな夢だ?』
「健一君と一緒にお出かけしてるんだけど、なんだか知らない女の人が出てきて、健一君と一緒にどこかに行っちゃうの」
『......』
「正夢っていうのがあるくらいだからちょっと怖くて...」
『たかが夢だろ。それに、正夢だって科学的に証明されてるわけじゃないだろ?』
「そうだけど...健一君を信用してないわけじゃないんだけど、健一君、私以外と付き合ったりしてないよね?」
『...するわけねえだろ。なにバカ言ってんだ?』
「だよね!よかったー...」
『ったく...っと、悪い、明日も早いんで俺はもう寝る。また今度な』
「あ、うん。また今度ね」
健一との電話が切れた。梨沙はしばらく携帯の画面を見つめていた。そして、梨沙の心に何かが引っかかっていた。
健一の章
「ちょっとこっち」
「???」
静香が手招きして、健一を呼んだ。健一は静香に近づく。そして静香は、周りの人が見てないのを確認して。健一の目を手で隠し、口に口を重ねた。
「!?」
健一は口に当たるその感覚に覚えがあった。だから瞬間的に察した。キスされているのだと。健一は目を隠されているにも関わらず、的確に静香の肩をつかみ、突き飛ばした。
「はぁ、はぁ、多々見、てめぇ」
「ふふっ、悪くは思わないでね?私だって健一君が好きなんだから」
「ふざけんなよ」
健一がものすごい形相で静香を睨む。
『そこにいるのは多々見か?!いい加減にしなよ!』
「はーい先生。それじゃあ健一君、次はゆっくりさせてね」
先生が切れる寸前のような声でそう言った。それに対し静香は軽く返事をし、健一の耳元で軽く囁いてから授業に戻った。
その日の放課後、健一は瑞風と一緒に帰っていた。
「健一よー、なんかあったん?」
「唐突になんだよ」
「いやー、体育で15段飛んでから様子がおかしいからよー」
「俺はいたって普通だ」
「そうか?まだ付き合い短いからよくわかんねえけど、明らかにおかしいところが一つ」
「んだよ」
「目つきがこえぇ」
瑞風は体を軽く震わせながらそう言った。そう、あれから健一の目つきは何も変わらなかった。だから瑞風にも、怖いと言われてしまう。
「怖かねえよ。これが普通だ」
「それはそれで心配だぞ!?」
「健一君ー!」
瑞風と歩いていると、後ろから声が聞こえた。健一は振り向かなくとも誰かを察した。
「多々見か何の用だ」
「健一君の後ろ姿が見えたから急いできたの!一緒に帰ろ?」
「断る」
「えー!なんでー!」
「理由は言うまでもないだろ」
「言ってくれなきゃわかんないよ!」
静香は健一の前に回り込む。健一は仕方なく足を止めた。同じく瑞風も足を止めた。
「うーんと、お二人はいつそんなに親密的に?」
「これが親密に見えんのか...お前頭大丈夫か?」
「健一君は私のファーストキスの相手だから、親密的で当然だよ!」
「「は?ファーストキス?」」
静香の言葉に瑞風は当然ながら、健一も驚いていた。
「そう、健一君は私のファーストキスの相手だよ!」
「いやまて多々見!健一がファーストキスの相手って...」
「まて、お前、あの時初めて...」
「そうだよ、瑞風君は知らないと思うけど、私体育の時、健一君とキスしたの。それが初めてのキスだよ」
「おい健一!どういうことだよ!」
「...無理やりされただけだ。それに俺には梨沙が──」
「その梨沙ちゃんから私が健一君を貰うの」
「...俺の心は動かねえぞ」
「動かすよ、絶対に」
静香はそういうとまた健一に近づき、キスをしようとした。だが、健一は二度はかからなかった。
(パチンッ!)
健一は静香の頬を思いっきり叩いた。
「痛いよ!」
「うるせーよ、正当防衛だろ」
「いや、健一。状況が状況だったけどよ、女子に手を上げるのはやべえって」
「瑞風、女子だから手を出さねえってのは違えぞ。それに正当防衛なら手を上げても文句は言われねえだろ」
「そりゃそうだが」
「健一君」
頬を叩かれ俯いていた静香が健一の名を呼んだ。健一は返事をしようとしたがその前に静香が言い放った。
「絶対負けないから!」
そう言い残し、静香は走り去ってしまった。
「行ったな...」
「あぁ。今後、俺はあいつから距離を置く。瑞風、手伝え」
「あ、あぁ。構わねえけどよ。お前、授業中はどうすんだ?確かお前と多々見って隣じゃなかったか?」
「今日の感じからして授業中は流石に何もしてこないだろう。いざとなれば担任に言って席を変えてもらう。あの人、俺の母さんの知り合いだからな」
「んだそりゃ!?チートかよ...。んま、とりあえず分かった。だからよ、お前にも協力してほしいことがあんだわ」
「言ってみろ。できることはする」
「...俺よ、多々見が好きなんだ。だからあいつをいたぶらないでくれ。それと、俺の恋を手助けしてくれ」
「お前あいつが好きなのか...かまわねえけど俺に被害が出るようなら即取りやめだ」
「それでいいぜ!頼むぞ健一!」
「あぁ」
健一と瑞風は今後のことを話しながら帰路を辿った。
次週月曜日、健一はホームルームの時に担任に呼ばれて職員室まで行った。
「なんすか」
「これ、島崎に預けてそのままだっただろ」
「...あ」
担任が言っていたのは、先日体育の時に、先生が渡してくれた小さな箱だった。
「すんません。ちょっといろいろありまして」
「別にいいけどね。急ぎの物でもないし」
「ちなみに中には何が?」
「空けたらわかるよ」
「?」
健一は箱を開けた。そこには手のひらサイズの冊子状のものが入っていた。
「これは?」
「生徒手帳。普通に渡すんじゃ面白くないからこうしてみた」
「普通に渡してください...」
健一は肩を落とした。だが、そんな暇もないくらいに、驚くべき情報が耳に入った。
「健一、もう一つ言わなきゃならないことがある」
「なんすか」
「1年A組 高尾健一。先日、暴行を見受けられたため、停学処分とす」
「......は?」




