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恋の色は濁り色  作者: ピチュを
3章 梨沙の章 / 健一の章
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3章 3話 元気の源 / 体育で唐突に

梨沙の章






「樽馬君は何か好きなこととかあるの?」

「いや、特にない...です」


梨沙と里美は、帰り際に出会った迷子の中学生。樽馬健一と一緒に歩いていた。彼が退屈しないように質問したり、興味ありそうなことを話したりしている。


「あ、そういえば住所ってわかる?それ聴いた方が早かったね」


里美はそんなことに気が付く、そして住所を聞くと思った以上に遠かった。


「ありゃー、それって電車で来るような距離じゃない?よくこっちまで来られたね」

「電車で中学に通ってて、定期落としたから歩いて帰ろうとしたら道に迷って...」

「そうだったんだ...じゃあ私たちが電車で送ってあげるね!」

「え、いや!そんなの悪いです...」

「中坊が気にしないの!お姉さんたちに任せなさいって!」


里美がそう言い張ると、樽馬はうつむいたまま頷いた。


「じゃあ駅まで行こうか!」

「あ、そういえば自己紹介してなかったね。私は前川里美!呼び方はー...里美お姉ちゃんとかでいいよ!」

「私は鈴城梨沙。好きに呼んでいいからね」

「わかったよ、里美さん、梨沙さん」


樽馬は頷きそう言った。


「里美お姉ちゃんって...まぁいいか。じゃあ駅まで行こうか」

「そうだね。行こう?樽馬君」

「...」

「...樽馬君?」


樽馬は無言だった。だが、すぐに口を開く。


「はぁ、あんたら優しすぎ...もう冷めたわ」

「「え?」」


そんなことを口にした樽馬。当然ながら梨沙と里美は疑問を抱く。


「冷めたって...何が?」

「これ」


樽馬はハンカチを取り出した。何やら湿っているように感じた。


「ハンカチ?それがどうしたの?」

「これに睡眠薬がしみ込んでんの。兄貴にこの高校の女子を連れて来いって言われたから持ってたんだ。で、ちょうどよくあんたらを見たから声かけたんだけど...優しすぎて心苦しいわ。やめやめ」

「眠らせて誘拐...って?」

「そう。でもいいわ。兄貴にはうまい事言っておく。家は言った場所から言うほど遠くはないから大丈夫。駅までも道はわかる。だからもういいよ。悪かったね騙して。梨沙さん、里美さん。じゃあまた会えたら」

「ちょっと!」


樽馬は里美の声に止まりもせず、手の甲を振りながら駅のほうへ走って行った。


「...何だったんだろうね」

「さぁ...でも本当に誘拐されなくてよかったね」

「うん...でもさ。樽馬君、なんだかさみしそうな顔してなかった?」

「そう?あたしには普通に見えたけど」

「うーん...気のせいかな?」

「そうじゃない?とりあえず何事もなかったわけだし、何か起こる前に帰ろうか」

「うん」


梨沙と里美は家に向かって歩き出した。本当に何事もなかったかのように。そして里美は思い出したように口にする。


「あ、あの子に他の人にもやめてあげてっていうの忘れてた!...まぁ大丈夫か」






それから数日。何事もなく過ごした。梨沙はそれから体調を崩すこともなく、授業もしっかり聞いていた。里美も同じく、しっかり授業を受けていた。もちろん比岐島との関係も少しずつとはいえ親密になっていた。セリアやアクトも何も変わらない様子だった。ただ、一つだけ変わったことがあった。その変化は、梨沙の心だ。体調もすぐれていて授業も問題ないのだが、内心は結構滅入っていた。理由は梨沙本人しか知らない。あの里見ですら聞こうとしない。性格には、聞こうにも聞いては行けない気がして聞けないのだ。


「はぁ...」


今は昼休み。梨沙は外を見ながら、この日何度目かのため息をつく。


「梨沙ー!ご飯食べよ!」

「あ、里美。うん。今準備するね」

「なぁスズ!俺たちもいいか?」

「うん、いいよー」


里見、セリア、アクトが梨沙の所へ集まり、机を寄せてお昼ご飯を食べることにした。三人共、梨沙の元気がない事を気にして、こうして少しでもと元気付けようとしているのだ。これも数日続けている。それでも梨沙は元気がない。聞いてはいけない気がする。誰もがそう思っているとき、そんなことを気にせず切り出してきた人がいた。


「なぁ鈴城さん。最近元気ないけどどうした?」

「え?」

「ちょっ!比岐島!?」


比岐島だった。お昼ご飯を食べる前に、気になってきたらしい。


「そう...かな?元気ないわけじゃないんだけど...」

「いやいや梨沙、さすがにそれは無理があるよ」

「はぁ...比岐島が言っちゃったからな、聞いちゃいけないと感じてたけどもういっか。スズ、なんかあったのか?」

「そうだぞスズ。なんかあったんなら相談しろ。お前のことだからケンイチのことだろうと思うけど」

「みんな...」

「聞いたらまずかったっぽい雰囲気出しておいて結局いいのかよ...まぁ、相談は乗るけど」

「ありがとう...実はね──」











健一の章






「あ、待って健一君!」

「ん?なん──」


健一が振り向くと、静香の顔がすぐ近くにあった。


「おわっと!」

「キャ!」


健一は反射的に静香を突き飛ばしてしまう。


「あ、わりぃ。大丈夫か?」

「痛た...大丈夫だけど...」

「いきなり目の前にいたもんだからよ。ほら、つかめ」


健一は手を差し出した。静香は手を取り、立ち上がる。


「悪かったな。それで、何の用だ?」

「あ、えっと...忘れちゃった」

「そうか...じゃあ俺は行くから」

「うん...」


健一は急いで空き教室へと向かった。それを見た静香はボソッと言葉を溢す。


「ガード固いなー」






体育館。全員ギリギリではあったが、予鈴前に整列できていた。やはり元女子高だけあって、教員は女子ばかり。体育教師もまた女性だった。


「今日は跳び箱、前の学年が準備はしてあるから、準備代走したら各自初めていいよ。後、転校生は準備体操後、体育教官室まで来るように。説明もかねて渡すものがある」

「分かりました」

「それじゃあはじめ!」


先生のその合図で、体育の係が前に出ていき、指示を出しながら準備運動が始まった。大した内容ではないが、しっかりと身体がほぐれるようになっている。

準備体操が終わり、各自練習になった。健一は、言われた通り体育教官室まで足を運ぶ。


「来ました」

「来たね。えっと...高尾ね。あたしは体育の教科担任。島崎(しまざき) 彩音(あやね)だ。呼び方は好きにしな。呼び捨てでも構わない」

「分かりました。それで、説明と渡すものっていうのは?」

「あぁ、とりあえず先に渡すものは...っとどこにやったかなー」


先生は自分のデスクの周りを探し始めた。健一もあたりを見渡すが、何を渡そうとしているのかわからない以上、それを見つけることなどできない。やがて、先生が自分で見つけ出しそれを健一に渡した。


「...これは?」


渡されたのは手のひらサイズの小さな箱だった。見た目通り軽い。


「お前の担任に渡せって頼まれてな。何が何だか知らんが、心当たりはあるんじゃないのか?」

「全く身に覚えがないんですが...」

「ま、とりあえず渡したからな。それじゃ切り替えて、授業の説明だ」


それから約5分の少し長めな説明を聞かされた。大まかにいえば数個。

・真面目に取り組む。

・怪我は報告。

・男女は平等に扱う。

だった。


「分かったら授業に入ってよし。わからんことは周りに聞け。それでもわからなかったらあたしのところに来い。あたしはここから全員を見ているからな」

「ここって体育館全体が見えるんですね」

「そうだよ。何か悪さしてもすぐにわかるからね」

「しません。それじゃあ授業に取り組んできます」

「あいよ。せいぜい頑張りなよー」


健一は体育教官室から出て行った。そして授業に参加しに行った。跳び箱なので待ち時間が発生する。そこで瑞風と会話していた。


「渡すものあるって先生言ってたけどなんだったんだ?」

「なんだかわからん箱を渡された」

「わからん箱?」

「あぁ。今はまた先生に預けてるけどな」

「まぁ、持ったままじゃ跳び箱なんて満足に飛べねえもんな」

「あぁ。それより聞いていいか?」

「ん?なんだ?」

「この学校の跳び箱って、これで全部なのか?」

「たぶんそうじゃね?先輩が準備したみたいだし」

「...低くねえか?」


跳び箱は最小で4段。最大で8段準備してあった。


「低いか?普通だと思うが...まぁ聞いてみるか」


瑞風は手を挙げて、先生を呼んだ。体育館のスピーカーから、先生の声が聞こえる。


『どうした瑞風。その場で言え』

「跳び箱って、出てるのが一番大きんですか!?」

『いや、最大15段まであるぞ。それがどうした?』

「それ出してもいいですか?」

『終了までにこの段数に直すなら変えるのは好きにしてよろしい』

「あざっす!以上です!」

『了解。しっかり取り組むように』

「だってよ、健一」

「なるほど。ならとりあえず全部持ってくるか」


そういうと健一は、瑞風と倉庫から9~15段を持ってきて、クラス全員に言ってから8段の跳び箱を15段にした。


「やってみるとでけえな」

「そうか?こんなもんだろ」

「じゃあ健一が先に飛ぶか?」

「いいのか?なら先に飛ぶが」

「良いも何も、俺はこれを飛べる気してねえぞ?」

「なら飛ばせてもらう」


健一は距離を取り、15段の跳び箱に向きなおした。それから助走を取り、ロイター版を踏みつける。健一は、15段の跳び箱を悠々と飛び越えた。その様子を、クラス全員が見ていた。


「「「「「す、すげー!」」」」」

「...は?」


クラスの全員が健一に向かって走っていった。そして健一はクラス全員に囲まれてしまう。


『ちょっと!ちゃんと授業に取り組みなさい!』


先生のその声を聴いても、半数以上が健一の周りから離れなかった。


「ねぇねぇ高尾君!どうやったらそこまで飛べるの?!」

「いや、これくらい普通だろ」

「これなら20くらいまで飛べるんじゃない?」

「20まではやったことないが、最高は18だ」

「「「すごー!」」」

『いい加減にしないと評価がっつり下げるからね!』


先生のその声でやっと全員が帰った。と思われた。


「健一君」

「ん?多々見か。なんだ?」

「ちょっとこっち」

「???」


静香が手招きして、健一を呼んだ。健一は静香に近づく。そして静香は、周りの人が見てないのを確認して。健一の目を手で隠し、口に口を重ねた。

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