3章 2話 夢 / 健一と多々見
梨沙の章
「ん...んん?」
「あ!起きた!先生!梨沙が起きました!」
梨沙は気を失っていた。起きるとそこは保健室だった。ベッドで横になっており、ベッドの横には里美がいた。遠くに担任の先生も見える。
「保健室...?」
「そうだよ!もう、いきなり倒れるから心配したんだよ?」
「倒れる?...あ、そっか...ごめんね」
「まったく...」
「鈴城さん!具合のほうはどう?」
「あ、先生。はい、ちょっと頭が痛いくらいで平気です」
「もう...疲れを貯めすぎなのと風邪気味ね。無理は禁物!いい?」
「はい。ごめんなさい。ところで今って...」
「ん?お昼休みだよ。梨沙ったら朝倒れてからずっと起きないんだもん、心配で授業まともに受けられなかったよ」
「そんなに寝てたの!?ちゃんと勉強...を...」
梨沙はベッドから起き上がろうとして、またふらっとベッドに体を預けてしまう。
「無理はダメって言ってるでしょう?体が悲鳴を上げてるの。今日はおとなしくしてなさい」
「は、はい...」
「それじゃあ先生は授業の準備をしてくるわね。前川さん。授業に遅れないように戻りなさいね?」
「わかってますよ先生」
先生は保健室を出ていく。保険の先生は今日はいないらしいので里美と梨沙の二人だけになる。
「梨沙。無理はダメだよ?」
「うん...ごめんね里美。でも、健一君も、きっと辛い中頑張ってる...だったら私も頑張らなきゃって思うの」
「その意気は大事だけど頑張りすぎは禁物!体壊しちゃ元も子もないでしょ?」
「そうだね、気を付けるよ」
「うん!じゃあそろそろ時間だしあたしは行くね!ちゃんと安静にしててよ?帰りに鞄持って迎えに来るから!」
「うん!がんばってね!」
里美は保健室を出ていく。そして保健室には梨沙一人になった。梨沙は天井を見つめる。そして思い出していた。健一と結ばれた日から今までを。
「いろんなことがあったなー」
付き合って、セリアとアクトが来て、いとこだってわかって、一回別れて、でもまた付き合えて。本当にいろいろあった。今は引っ越しで離ればなれになっている。それでも、恋人として、相手を信じているから頑張ろうと思える。そういろいろ考えていると、眠気が来たのか、梨沙はそのまま寝てしまった。
梨沙は夢を見ていた。健一が、誰かに取られる夢だ。
梨沙と健一が歩いていると、知らない女の人が来て、健一を奪っていった。梨沙の声は健一に届かず、二人は手を繋いでどこかへ行ってしまった。追いかけても追いかけても追いつけず、最後には二人の姿が消えてしまう。梨沙だけが取り残される夢。
「健一君!」
「うわ!びっくりしたー」
「あ、あれ?保健室...?」
梨沙は飛び起きた。手を前に出しながら身体を勢いよく起こした。涙を流しながら。ベッドの横には里美が椅子に座っていた。ついさっき来たようだ。
「どうしたの梨沙?高尾の名前呼んで」
「え、あ、ううん!なんでもないの!」
「あ、さては高尾が恋しくて夢に出てきてたんでしょ!」
「そ、そんなんじゃないって!」
「ま、とりあえず元気になったみたいだね。そんなに勢いよく体起こせるんだもん」
「うん、気分もいいし体も軽いかな」
「じゃあ帰ろうか。これ梨沙の鞄」
「ありがとう。比岐島君は?」
「先に帰ってもらった。久しぶりに梨沙と二人で帰りたかったしさ」
「そういえば久しぶりだね、二人では」
「うん。それじゃいこ?」
「うん!」
梨沙と里美は保健室を出た。その後、念のため先生に報告してから帰ることにした。
校門を出てすぐ、梨沙と里美は声を掛けられ足を止めた。
「あのー、この高校の方ですか?」
「はい、そうですが...あなたは?...中学生?」
声をかけてきたのは中学生の男の子だった。
「はい、ちょっと道に迷っちゃって...高校が見えたから、人に聞こうと思って...」
「そっかー、じゃああたしたちと来る?今から帰りだし、わかる範囲で案内したげる!」
「うん!お名前教えてもらえる?」
「樽馬 健一」
「樽馬ね、わかった!じゃあ行こうか!」
里美が手を出すと樽馬はその手を、躊躇しながら取った。樽馬は、何やら不思議な笑みをこぼした。
健一の章
翌日、27日。健一は学校へ向かっていた。その道中に、後ろから抱き着かれた。
「健一君!おはよう!」
「多々見か。おはよう」
「健一君、朝早いんだね?」
「まぁな。あんまりのんびりもしてらんねぇからな」
「そうなの?」
「あぁ。昨日も言ったが、待たせてるやつがいるからな」
「あ、鈴城梨沙ちゃんだっけ?」
「あぁ、あいつのためにもしっかりしなきゃいけねんだ」
「ラブラブだね!」
「そんなんじゃねぇ」
そう会話しながら登校していると、同じクラスの男子数人が寄ってきた。
「昨日転校してきた...っとなんたっけ?」
「高尾健一だ」
「そうそう、お前、多々見さんのなんだ?」
「何と言われてもな...友達か?」
「「そこを疑問視する時点で友達以上だろ!」」
「なんでそうなるかな...」
「そうだよ!ただの友達で、それ以上のことなんて何もないよ!?」
「「だいたいの人は聞かれたらそう答えるんだよ!」」
「じゃあどうしろってんだ...」
健一は困惑した。無理もない。事実を述べただけなのに大体がそう答えると返された。誤解を与えず対処する方法があるのかどうか、健一が考えていたところ、予想外の展開が起きた。
「だいたい、単なる友達だったら手をつないで登校とかないだろ!」
「は?」
またも健一は困惑する。手をつなぐ。そんなことに覚えはないのだから。そう思っていたが、手に違和感を感じた。そう、静香が勝手に健一の手を取っていたのだ。
「多々見、おまえな...」
「ち、違うの!これは...そう!寒かったから、健一君の手を取っただけで...」
「寒いならポケットに手を入れればよかったんじゃ?」
「...あ、確かに」
「多々見...お前な...」
飽きれる健一と男子数人。男子達は、その静香の様子に嘘を感じなかったのか、これ以上何も言うことなく学校へ向かっていった。
「何だったんだか...」
「ごめんね?なんだか私、クラスの男子に人気みたいなんだよね。どうしてだろう?」
「俺に聞かれてもわからねぇ。ってか手を離せ」
「あ、ごめんね!」
静香は急いで手を離す。少し寂しげな表情をして。
「とりあえず遅刻はしたくねぇから俺は行くぞ。もう時間もやばそうだしな」
そうして健一は静香を置いて歩き始めた。静香はその場でぼそっと呟いた。
「やっぱり梨沙ちゃんがいいのかな?でも、負けないから...」
学校では何もない...訳ではなかった。
「ほら高尾、何してんだこっち来い!」
「んだ?」
「んだ?じゃねえよ!早く行くぞ!」
「行くって...どこに?次は体育だろ?着替えなくていいのか?」
「着替えに行くんだよ!とっととジャージ持ったら来い!」
健一は困惑しながらも従った。この学校は元女子校なだけあって、更衣室などない。なので、女子の多いクラスは教室を女子が更衣室代わりに使う決まりになっている。男子は空き教室を使うことになっている。もちろん、着替え中は先生が教室の前で見張っているため、覗きなどの危険はない。
「今日はここが空いてそうかな...」
「毎回空いてる教室って違うのか?」
「あぁ、毎週授業日程が変わるからな。空いている教室はその都度探す。最悪トイレもあり」
「なるほどな...ところでよ」
「ん?なんだ?」
「お前、誰だ?」
「あー、自己紹介してなかったけか?俺は瑞風 飛翔だ。飛翔でもいいし呼びやすいように呼んでくれ」
「わかった。んで、他の男子はほかの教室か?」
「多分そうだろうな。さすがに覗きに行くような奴はいないと思うが...」
「女子は教室って言ったな。忘れ物したらやばそうだな」
「わざと忘れ物して覗こうとするやつもいるけどな」
健一は会話しているうちに気付いてしまう。
「...なあ瑞風」
「どうした?ジャージの着方でもわかんねえのか?」
「いや、それはわかるんだが...」
「なんだよ、言ってみろよ」
「...教室にジャージの上を置いて来ちまった」
「...マジ?」
健一は制服のまま教室の前まで来た。教室の入り口には先生が立っていた。
「ん?どうした?まさか覗きではないよな?」
「違います、ジャージの上を忘れたんで取りに来たんです」
「席はどこだ?」
「廊下列、最後尾です」
「待っていろ」
先生は教室内に入って行った。そのタイミングで、別の男子が教室の前に来た。
「ん?高尾だっけ?君も覗き?」
「忘れもんだ。『も』ってことはお前は覗きなのか?」
「そうだよ。こんなチャンスないでしょ?うちのクラス美人多いし」
「...はぁ」
健一はため息をつく。ばかばかしくてどうしようもないと思っているのだろう。
「なあ高尾。お前自己紹介の時に好きな人いる的なこと言ってたよな?それってうちのクラス?一目ぼれか?」
「ちげぇよ。前の学校だ」
「その子、可愛い?」
「...可愛いかってのは人それぞれ違うからわかんねえな」
「そっか。って話してる暇ねぇや!早くしないと先生が戻ってくる!」
「誰が戻ってくるって?」
「...先生?」
男子の後ろに先生が立っていた。
「また君か...懲りないねえ。ほら、反省文書きに行くよ。あ、はいこれジャージ」
「あ、ありがとうございます...」
「あぁ~!まだ何もしてないのに~!高尾ー!たすけてー!」
「......わり」
男子は先生に引っ張られていった。それを見届けた健一は着替えに行こうとするが、そのとき教室の扉が空き、中から出てきた女子生徒とぶつかってしまう。
「っと、わりぃ」
「ううん、こちらこそ...って健一君」
「多々見か」
「こんなところでどうしたの?まさか...」
「ジャージの上を忘れてな、先生に取ってもらったとこだ。てか、中にいたならわかるだろ」
「まあね、知ってたけどついでにしてたのかなーって思って」
「なわけ。とりあえず着替えてくるから後でな」
「あ、待って健一君!」
「ん?なん──」
着替えに行こうとしたが呼び止められた健一は静香の方へ振り向いた。その瞬間、静香は健一の顔に、顔を近づけた。




