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恋の色は濁り色  作者: ピチュを
2章 二人の恋路
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2章 16話 作戦の末

「お前は邪魔だから死んでもらう」


抵抗のできない健一だが、突き立てられたナイフに怯えることはなかった。


「お前なんかが俺をやれるのか?前はやれなかっただろ」

「今と前では違うのだよ」

「全く同じにしか見えねぇんだが」

「こいつ...」


一樹は苛立っていた。そこに、


「あの!」


梨沙の声が響く。梨沙はいつの間にか健一の後ろに立っていた。


「ん?どうしたんだい梨沙ちゃん?」

「あの、私、なんでもするから!だから、健一君にも比岐島君にも、もう、何もしないで...」

「「り、梨沙!?」」

「鈴城さん!?」


健一と里美、そして今だ椅子に括りつけられている比岐島までもが驚いた。


「なんでも、ねぇ...本当になんでもするのかい?」

「は、はい。だから...お願いだから健一君と比岐島君を離してあげてください...」

「おい梨沙!てめぇ何言いやがる!」

「そうだよ梨沙!何言ってるの!そんなの作戦になかったじゃん!」

「...ごめんね健一君、里美。でも、この人の目的は最終的には私。だったら、こうするのが一番かなって」


梨沙は体と声を震わせながら、涙目でそう言った。里美の作戦になかったという言葉。その言葉を一樹は逃さなかった。


「作戦か...人質を解放しつつ高尾も梨沙ちゃんも傷つけず終わらせる作戦でもあったのかね?」

「そ、それは...」


里美は言葉に詰まる。図星なのだろう。


「でも、今の梨沙ちゃんの行動で、すべてが狂ったと。ふふふ、はははははは!これは傑作だ!梨沙ちゃんはその作戦が、元からうまくいかないと思ってたわけだ?だからこうして自分勝手になったんだな?確実にみんなを助けるために!」

「そ、そう。私のことよりも、皆のほうが大事だから...」

「梨沙...だからって!」

「いいだろう梨沙ちゃん。二人は解放してあげるよ」


そういうと一樹は、比岐島の両手足を椅子から離した。もちろん、手は体の後ろでロープで縛りなおす。健一は、後ろで手を縛られたままではあるが、突き立てられていたナイフを避けられ、自由となる。健一と比岐島は、里美の元へ歩き出した。そして、一樹は梨沙に近づく。梨沙は体を強張らせるが、決して逃げようとはしなかった。


「俺は嬉しいよ。これで、梨沙ちゃんは俺のものになるのだから」

「梨沙ー!」

「ごめん...ごめんね健一君。でも、私は大丈夫だから...」

「鈴城さん...」


梨沙のその言葉は嘘だ。その場にいる誰もがそう思っただろう。だが、一人だけは違った。


「比岐島!」

「里美?...わかった!」


里美は梨沙ではなく、比岐島と叫んだ。一樹は感動の再会とでも思ったのか、無視している。だが、再会を分かち合うものではなかった。里美の片手は何やら変なサインのようなものを出していた。その形は、親指と小指以外を折った状態の手。それを見た比岐島は、180度方向転換し、走っていく。そう、一樹に向かって走って行ったのだ。


「なんだ?死にに戻ってきたか?」

「んなわけあるかよ!」


ナイフを構える一樹。比岐島は速度を緩めることなく、むしろ加速しながら走る。


(これで...いいんだな?里美)






時は遡り、比岐島と里美がデート(仮)をした帰りのこと。


「ねぇ比岐島?」

「どうした?」

「比岐島は知ってるかわかんないけどさ、入学してすぐにさ、梨沙が事件に合ったじゃん?」

「あー、断片的にしか聞いてないがな」

「それで思ったんだ。私たちだって、いつどこで、誰に襲われてもおかしくない。だから、二人だけのサイン、作っておかない?」

「サイン?」

「そう、口で言うんじゃなくて、手のサインとか、ポーズでサインとか」

「なるほど...じゃあとりあえず一つだけ」


そういうと比岐島が手を、親指と小指以外を折った状態にした。


「この手をしたら、自分の想いを貫けってことで」

「わかった!それ以外はどうする?」

「あんまり多くても覚えるのが大変なだけだし、今は1つにしておこう」

「そうだね」






「うおおおおお!」


比岐島は一樹に向かって全力疾走だ。一樹はそれに対し、ナイフを突くように出した。


「比岐島!」


里美の叫びを聞き、比岐島は腰を90度曲げ、さらに体制を低くした。すると、一樹が突き出していたナイフは、比岐島の手首をかすりながら、手を縛っているロープを切り裂く。


「なっ!?」

「だから言ったろ!死にに来たわけじゃねぇと!」


そうして比岐島は低くした体制を直すと、一樹の前で立ち止まる。もちろん、直前まで走っていたのだから体は一樹のほうに倒れようとする。その勢いを利用して、比岐島は一樹の顔面に拳を当てた。ストレートに入ったその拳を振りかぶり、一樹をぶっ飛ばした。その拍子に、一樹の持っていたナイフが比岐島の足元に転がる。


「「ナイス比岐島!」」


健一と里美が同時に言った。比岐島は、ナイフを拾ってから梨沙の元に駆け寄り、梨沙を健一の元へと行かせる。


「梨沙!ナイス演技だったよ!」

「健一君と里美もね。後、比岐島君ありがとう!」

「礼なんて言うな。俺のやりたいことをしたまでよ。てか演技だったのかよ...」


飛ばされた一樹は、立ち上がりながら比岐島を睨み付ける。


「やってくれるじゃないか比岐島君」

「それはこっちのセリフだな」

「もう、ただで返すと思うなよ!」


そういうと一樹はまたナイフを取り出した。今度は先ほどのものより一回りほど小さい。


「そんなナイフで戦うのか?」

「甘く見るんじゃねぇぞ!」


一樹が走る。比岐島はすぐに避けられるよう構えるが、一樹は比岐島を通り過ぎた。狙いは...


「高尾!あぶねぇ!」

「──!?」


比岐島は叫ぶが、健一は突然のことに反応できないでいた。このままではナイフで胸を貫かれる。そう思った時、何かが健一の身体に横からあたり、健一の身体をずらした。


「梨沙!?」


そう、健一の身体に体当たりしたのは梨沙だ。一樹のナイフは梨沙の頬をかすり、そのまま通り過ぎた。勢い余ったのか、一樹はそのまま転倒する。


「おい梨沙!大丈夫かよ!」

「大丈夫...かすっただけ...」

「梨沙ちゃんは勇敢だねぇ...」


一樹は笑っている。その様子に、健一の怒りは最高潮まで上がっていった。


「加藤、おめぇは許さねぇ」

「...け、健一君!?」


健一の顔は、今まで見たことがないほどに、怒りを表していた。


「比岐島!それよこせ!」

「それって...このナイフか!?」

「そうだ、それをよこせ。こいつの息の根を止める」

「健一君!それはダメ!」


今にも比岐島のナイフを健一が奪おうとしていた時、梨沙が健一に抱き着き止めようとした。


「梨沙、邪魔するな」

「邪魔するよ!そんなことしちゃだめだよ!」

「なんでだよ!こいつの根を止めねぇとまたやらかすぞ!」

「でも!...健一君に、そんなことしてほしくないの...」

「梨沙...」


梨沙はそう言いながら泣いていた。それを見た健一は我に返る。相当頭に血が上っていたようだ。健一は梨沙の頭を優しく撫でた。


「悪い、血が上ってた。でも大丈夫だ、無茶はしない。だから離してくれるか?」

「うん。絶対に、無茶はだめだよ?」

「あぁ。比岐島、借りるぞ」

「え?あ、あぁ」


健一は比岐島からナイフを貰うと、梨沙と同じところ。頬に自ら傷を入れた。


「け、健一君!?」

「つっ...これは自分への戒めと目覚ましだな。さて...」


梨沙を比岐島に預け、健一は一樹の元へ歩いていく。一樹は健一たちがもめている間に立ち上がっていた。


「話し合いは終わったのかい?遺言でも残したのか?」

「バカ言え。ここで終わるのはお前だ」


そう言い終わったとたん、廃工場の入り口に複数人の大人の姿が見えた。


「加藤一樹だな?動くな!動けば発砲するぞ!」

「な!?け、警察!?」


そう、銃口を一樹に向けた十数人の警官が立っていたのだ。


「ふぅ。どうやら間に合ったみたいね」

「お姉ちゃん!ナイスタイミング!」


警察と共に入り口から入ってきたのは里美の姉だった。


「これでお前は終わりだ。加藤一樹。おとなしく刑務所で暮らしてな」


健一は一樹に向かってナイフの刃を向ける。一樹は膝から崩れ落ちた。


それから警察が近くまで来て、一樹を確保した。そのままその場で全員事情聴取をされ、時が過ぎて行った。一樹との戦いは長くはなかった。だが、事情聴取に時間がとられ、この事件が終わったのは午後になってからだった。


その日、全員が学校を休んだ。事情は警察の方から学校側に連絡されたため、大きな問題はなかった。その後は学校に行かず、比岐島も含め、里美の家に行っていた。やはり事件の後で固まっていた方がいいと警察の提案で里美の姉が、


『だったら家に止まっていけばいいんじゃない?今日もお母さんたち帰ってこないみたいだし』


とのことで全員でいるのだ。もちろん、里美姉の運転で各家に行き、着替えは持ってきている。ちなみに言うと、里美姉の仮免はばれてはいなかった。

翌日は土曜日なので学校の心配はいらない。止まるにしても部屋がないということで、梨沙と里美は里美の部屋、姉は自室、健一と比岐島はリビングで寝ることになった。



こうして壮絶な数日の幕が閉じた。

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