1章 2話 単純な学級委員長
次の日、梨沙は寝坊して通学路を走っていた。
「急がないと、遅刻しちゃう!」
二度寝なんてするんじゃなかったと後悔しながら走っていると、誰かにぶつかってしまい、梨沙転んだ。
「痛たた…あ、すみません!」
「大丈夫…って鈴城じゃん」
「え?健一君!?ご、ごめんね!」
ぶつかった相手は健一だった。しかも時間に余裕がないはずなのにのんびりしてた。
「健一君!急がないと遅刻しちゃうよ!」
「しねぇよ」
と健一が言うので思わずえ?梨沙は声を漏らした。
「だ、だってもう8時35分になるよ?!」
「なに言ってんだ、まだ7時40分だ」
なに言ってるのと思い時計見ると、確かに7時40分になっている。どうやら時計を見間違えたみたいだ。
「長針と短針を見間違えるなんて珍しいこともあるもんだな」
と健一に言われて顔が赤くなっていく梨沙。
「でもそしたら早すぎない?」
と梨沙は健一に訪ねた。そこに
「おーい、梨沙ー、高尾ー。」
と里美が走ってきて声をかけると
「あ、里美」
「あ、前川」
と2人は声を揃えて言った
「二人で登校なんてしてたの?クラスの人気者2人で歩くとカップル感でるね」
里美はからかうようにそう言ってきた。
「え?!そうなの?」
「なに言ってんだ鈴城。前田はこうやってからかうの好きなんだよ」
「なんだ、高尾はもう引っ掛かんないか」
「そ、そうだったんだ」
梨沙は心の中で悲しんだ。
「あ、それはそうと、ちゃんとジャージ持ってきた?」
「え?ジャージ必要だっけ?」
「え?ジャージ要らなくね?」
梨沙と健一が一緒に言った。すると里美が
「あ、今日の体育オリエンテーションだから要らないのか」
と言い出した。
「もう!焦ったじゃない!」
「全く、鈴城といい前川といい、何なんだ」
「ん?梨沙がどうかしたの?そういやいつもより早い気もするけど」
「時計の長針と短針を見間違えたんだとよ」
健一は里美にそう言った。梨沙は恥ずかしくて顔が赤くなった。
「え?梨沙が見間違えたの?」
「う、うん」
「本当に?梨沙ってもっと真面目だと思ってた」
「私そんなに真面目じゃないよ?!」
「回りと自分とじゃ見えかたは違うってことだな」
そう言われた梨沙は頬を膨らませた。
そうして歩いてると学校に着いた。勿論着くのは早かったが予想よりも多くの人がもう登校していた。
教室も同じだから一緒に行こうと歩いていると周りからすごい視線を感じた。同じ学年の女子たちがこっちを見て、同じ学年の男子が健一を見ていた。
「ねぇ里美。私たちすごい見られてない?」
「そりゃ学年1位が二人で歩いていたら見るでしょ」
「学年1位?テストなんてまだやってないよ?」
「梨沙知らないの?うちらの学年、男子の投票で女子のランキングついてるの。その1位が梨沙なの」
「あぁ、誰に投票したか言えんが、1位といるとどうも男子の視線が痛いんだよな」
健一はそう言った。
「わ、私が1位!?なんで?!」
「どうせ帰国子女だからだろ。帰国子女なんて滅多に見れないし」
「ちょっと高尾!それだけじゃないでしょ!梨沙は可愛いもん、1位で当然だよ」
「そうだなー」
「棒読みだし!」
「いいよいいよ、私そんなんじゃないから」
そう言ったものの健一の棒読みが少し心に響いていた。
「とりあえず教室行こうぜ。ここだと視線が痛い」
「あ、そうだね。じゃあ行こうか」
そう言って3人は教室に行った。
教室に入ると少しざわついていた。
「なんか皆落ち着きないけどどうしたの?」
梨沙は近くのクラスメイトに聞いた
「さっき先生が来て『今日のホームルームで学級委員長決めるから』って。それで誰が良いか皆で聞き合ってるの」
その時梨沙は何か嫌な予感がしていた。そして、それも的中する。
先生が入って来てホームルームが始まった。
「それではさっき言いに来たから大体と人がわかってると思うが、学級委員長を決めたいと思う」
そう先生が言ったとき数人のクラスメイトが驚いていた。
「誰かやりたいやついるか?」と先生が言ったとき1人手を上げた。
「お?やってくれるか?」
「いいえ、学級委員長に鈴城さんを推薦します」
と言い出した。当然のことだが梨沙は驚いた。
「え、えええぇぇ!!わ、私!?」
「鈴城さん、やってくれるのかい?」
「そ、そんな!私には無理です!」
そう断った時に手を上げたクラスメイトが
「鈴城さんとはまだあまり話したことないですが、聞く話しによると真面目で責任感が強いとの事です。学級委員長にぴったりだと思ったんです」
と言った
「私そんなことないよ!?帰ってきたばかりで日本語もあまり読めないし…」
なんとか逃れようと言い訳をするも
「鈴城さん以外に立候補、又は推薦いますか?」
先生そう言ったが誰もなにも言わなかった。と思ったその時、健一が手を上げて発言した。
「鈴城でいいと思う。しっかりしてるし」
と言った。「健一くんまで⁉」と梨沙は心の中で叫んだ。
「じゃあ鈴城さん、申し訳ないけどやってくれないかい?副委員長は鈴城さんの指名でいいから。それでいいよね?」
と先生が言うと、みんな大いに頷いた。
「うぅ…わ、わかりました…」
「では鈴城さん、明日までに副委員長を決めてくれ、明日のホームルームで聞くから。では以上で終わる」
と言って先生は教室を出て行った。
「はぁ…」
梨沙は大きなため息をついた
「梨沙どうしたのさ、ため息なんてついて」
里美が梨沙の近くに来てそう言った。
「だって学級委員長だよ?私には無理だよ」
「梨沙しか出来ないと思うけどなー。みんなやる気無さそうだったし」
「えぇー…」
「俺は鈴城以外が勤まる気はしないな」
「健一くんまで…じゃあ健一くんにお願いするかな。健一くんのせいで私委員長になったし」
「お願いってなにを」
「副委員長」
「はぁ!?」
健一は物凄く驚いて思わず声を上げてしまい、教室に響くほどだった。
「健一くん驚きすぎ…」
「なんで俺なんだよ!そこは前川に頼むとこじゃないのか?!」
「だって健一くんの一押しで私になったんだから責任取って貰おうかなって、しかも先生が『鈴城さんの指名でいい』って言ってたし断る理由もないよね?」
「そうだけど…あーしかたねぇ、やってやるよ!」
健一は納得の行かないような言い方ではあったが了解したようだ。
それから時間がたち放課後になって梨沙は先生に呼ばれて話しをしていた。
「委員長やってくれてありがとう、少し重いかもしれないけどこれを教室に運ぶの手伝ってくれないか?」
「はい、いいですよ」
梨沙はそう引き受けて、荷物を教室に運んだ。
「それで鈴城は誰を副委員長にしたんだい?」
「えっと、健一くんです。高尾健一」
「なんで高尾くんを?」
と聞かれた時一瞬ドキっとしたが我に戻った
「え、あ、いえ、健一くんの一押しで委員長になったので責任感取って貰おうかなって」
「鈴城さんって以外とお茶目なんだね。もっと真面目なのかと思ってた」
「もう!先生まで!」
梨沙は少し怒った口調ではあったが内心怒ってはいなかった。半分先生のお陰で健一との時間が出来ると思ったからだ。
先生の手伝いが終わった後、図書室で本を借り、帰ろうとした時、見慣れた人が門の前にいた。
「健一くん何してるの?」
「ん?なんだ鈴城か。友人を待ってるけど、遅いからもうそろ帰るかな」
「そうなの?じゃあ一緒に帰ろうよ」
「俺は構わねぇけど」
そう言って健一は歩き出した。少しして、健一は言った。
「なあ鈴城。本当の理由は違うんだろ?」
「何の理由?」
「学級副委員長を俺にした理由」
「え?!い、いや!違わないよ!」
「図星だな」
「……うん」
梨沙はとても恥ずかしそうに本当の理由を言おうとした。その時、
「まあ、理由はともあれなったもんはしかたねぇ、別に理由が知りたい訳じゃないしな」
え?という顔を梨沙はしていただろう。
「そ、そうだよね、私は委員長、健一くんは副委員長。仲良くやろうよ」
「仲良くするかはわかんねぇけど仕事はしっかりやったるよ」
「もう!仲良くやろうよー」
そんな会話をしながら帰宅した。