2章 14話 たくらみ
「あんたの目的は?」
「俺の目的は、梨沙ちゃんの横にいるあの男。高尾健一を始末することさ」
「高尾を...始末?」
この男は、梨沙だけでなく健一も知っている。そのうえ健一を邪魔者扱い。どういう関係なのか。里美は、知りたくても、知るのが怖い状況だった。
「高尾を始末ってどういう...」
「文字通りだよ。俺はな、梨沙ちゃんが好きなんだよ。なのにあいつはいつも横にいる。そのうえ、前に邪魔もされたしな。見てみろこの傷を」
そう言って一樹は背中を見せた。そこには縫い目がある。
「あの健一とかいうやつのせいで、梨沙ちゃんに刺されてできた傷だ」
「梨沙に?」
「あぁ、ひどいだろ?」
梨沙がなぜそんなこと、と里美は思ったがすぐに思い出した。学校に入学してすぐ、梨沙は事件に巻き込まれていた。おそらくその時だったのだろうと里美は思った。
「ん...ん?」
「比岐島!」
その時比岐島が目を覚ます。
「ん?やっと起きたか坊や。初めまして、俺は加藤一樹っていうんだ」
「ん?んんんん!」(は?って喋れねぇ!)
「あー、君にもつけてたね。今外してあげるよ」
一樹は里美と同様に比岐島に近づき、口に貼っているテープをはがした。
「...加藤って言ったか?里美には手ぇ出してないだろうな?」
「そんなに強く当たらなくてもいいだろ?大丈夫だ。今は何もしていないしするつもりもない」
それを聞き、比岐島は少しばかり安心する。だが、体の緊張は解けるわけもない。
「なぁ、あんたの目的は?」
「何度も説明するのは嫌いなんだが...一言でいえば邪魔者の始末だな」
「...まさか、その邪魔者が俺らだと?」
「場合によってはそうなるかな」
その言葉に里美と比岐島は体が反応する。
「あ、まだそのつもりはないから安心しなよ」
「...じゃあいつそうなるんだ?」
「さぁな」
「とりあえず、健一のことを恨んでるのになんであたしたちを誘拐したのか教えてよ」
「なに、簡単なことさ。お前たちはあいつと親しそうだったからな。利用させてもらおうかと」
「利用する?」
「あぁ、どうにかしてあいつをここまで呼んでほしい。どんな手を使ってもいいぞ」
「...もし、しなかったら?」
「そうだな...」
加藤は袖からナイフを取り出す。そして里美の首に突き立てる。
「ひっ!」
「ここまですれば...わかるな?」
「おい!てめぇ!」
「嫌だったら、だったら手伝ってもらうぞ」
「...分かった、手伝う。だが!一つだけいいか?」
「なんだ、坊や」
比岐島は声を震わせながら言った。
「俺は、あいつの携帯番号も知らないし、梨沙の番号も知らない。もし人質を取るなら俺にしてくれねぇか?」
「比岐島!?」
「なるほど、里美ちゃんは知っているのかい?」
「あ、あたしは、梨沙の...だけ...」
「な?それなら俺を動かすより合理的だろ?」
「じゃあ里美ちゃんに頼むかな」
そう言って一樹は、里美の手足を縛っているロープを持っていたナイフで切った。そして比岐島の元に行き、隣に座る。
「じゃあこっちの坊やがいわゆる人質だな。リミットは明日まで。それまでにあの男をここまで連れて来い」
「ひ、比岐島...」
「俺のことは気にするな、お前の考えを貫き通せ」
「今は...もうすぐ12時か...じゃあ明日の深夜0時までにあの男の姿。または、俺への連絡がなかった場合人質君の命はないからね。里美ちゃん」
そういうと一樹は、里美に携帯を渡した。携帯は里美のものだった。
「俺の連絡先は入れてある。お前は半分自由だ。人質の命を取るか、あいつの命を取るか。好きな方を選びな」
「...ごめん、比岐島。絶対!何とかするから!」
里美は走り出した。そして外に出るが、見覚えのない風景が広がる。
「何処だろう、ここ...まずは家に帰らなきゃ!」
里美は携帯を取り出し、地図を開く。元いた町からはそう離れてはいなかった。
「後で梨沙に連絡取らなきゃ」
再び里美は走り出す。比岐島を助け、なおかつ、健一も無事である策を考えながら。
一方、健一と梨沙。もうすぐ家に着こうかというところで梨沙が少し重たいような声で、健一に言った。
「ねぇ、健一君」
「ん?どうした?」
「さっきの、里美からの電話何だけど...大事な話があるから、今日家に泊まりに来てくれないかなって話だったの」
「それは、俺もか?」
「うん」
健一は困惑した。大事な話というのもそうだが、梨沙だけではなく、健一にまで声がかかっているからだ。だが、迷うことなく
「俺は構わねぇぞ。母さんには適当に話しつけとく」
「うん。私もお母さんにちゃんと話してくるね」
「おう、じゃあまた後で」
「うん!」
家に着くなり二人は手を振りあい、別れた。
梨沙は家に入り、母に事情を話した。もちろん軽く了解を出してくれた。
健一も同様に、帰るなり母に適当に話をつけた。
そしてすぐに玄関先で待ち合わせ、里美の家に向かう。その間、梨沙の荷物は健一が担いでいた。
里美は走っていた。家まで、残り徒歩15分と言ったところだろう。かなり息が上がっていた。時計を見ると14時を過ぎていた。地図で見た限り遠くは感じなかったが、実際走ると距離があるものだ。
「はぁ、はぁ、もう、すぐ、!」
里美は走る。時間がもったいないと思っているのだろう。家に着くと姉が玄関を開けてくれた。
「里美どこ行ってたの?心配したんだよ...ってどうしたのその傷!?」
「はぁ、今は説明...できない...はぁ、少し、休ませて...」
「わ、わかった!ゆっくり休みな!」
姉は慌てては居たものの、傷ついた里美を放っておけず、肩を貸し、部屋まで連れていく。
「あ、落ちついた?」
「う、うん。ありがとう。あたし、寝ちゃってた?」
「うん。部屋に着くなりぐっすりね」
ベッドで目を覚ました里美。時計を見ると16時過ぎだった。2時間ほど寝ていたようだ。
「もうこんな時間!急がな...痛っ!」
「まだ足動かさないで。疲労がたまってる上に靴擦れもしてるし、膝に擦り傷たくさんあるんだから。これどうしたのよ!」
「全部話すと長くなるの。時間がないから要所要所でいい?」
「...訳があるのね。ならいいわ」
「ありがとう。実は──」
里美は姉に話した。廃工場から走ったことを。何が起きてそうなったかまでは長くなるので言わなかった。それに、里美自身、姉に心配を掛けたくなかったのだろう。
「...わかった。これ以上深くは聞かないね」
「それでさ、お願いがあるの」
「できることなら何でもするから言って?」
「...友達二人、家に泊めてもいい?」
「それくらいいいよ」
「あともう一ついいかな?」
「なんでも言って!」
「明日、────貰ってもいい?」
時は遡り、梨沙が、里美から電話を受けた時。
『もしもし里美?』
「もしもし、梨沙。ちょっと大事な話があるの」
『うん』
「健一と一緒に今からあたしの家に来て、そして泊まって行って」
『え?今から?うーん、お母さんに聞いてみないとわかんないなー。それに健一君も一緒ならなおさらだよ』
「そっか、じゃあ待ってるから来れたら来てね!」
『うん、わかったーまた後で電話するね』
「はーい」
里美は電話を切る。
「よし、後は作戦をまとめておかないと」
里美は、傷だらけの足を引きずり気味に、机まで移動し、ノートとペンを取り出す。作戦を書くためのものだろう。そしてそのまま机に向かい、取り出したノートに書き込んでいった。
梨沙と健一は荷物をもって里美の家に向かっていた。
「そういえば健一君って、里美と幼馴染なんだっけ?」
「まぁ、似たようなもんだな。小学校が同じだっただけだが」
「家も知ってるの?」
「あぁ」
「そっかぁ」
梨沙の顔は少しだけ曇った。それを健一は見逃さず、そして、なぜ曇ったのかすら見抜いた。
「だから言ってるだろ、引け目を感じる必要なんかねぇ。俺もあいつもお前も、自分の意思で進んだ道だ。後悔はしてないだろ?」
「え?う、うん」
「だったらいいじゃねぇか。っと、次右な」
健一が道案内をしながら二人で里美の家に向かっている。今の会話も、あまり長く話すようなないようでもないので、道案内がてら話を切っておく。そして、長く歩くこともなく、里美の家に着く。そして健一がチャイムを押すと、姉が玄関を開けてくれた。
「あなたたちが高尾君と梨沙ちゃん?里美から話は聞いてるから、上がって上がって!」
「はい、お邪魔します」
「お、お邪魔します...」
健一は堂々と、梨沙はおどおどと上がっていく。
「里美は部屋に居るから向かってちょうだい。部屋は──」
「あ、俺分かりますんで大丈夫っす」
「あら、そう?じゃあ後でお茶菓子持っていくからね」
「あ、ありがとうございます」
梨沙は健一の後ろをぴったりついていき、里美の部屋に入る。
「お、いらっしゃい!やっときたね!」
「前川、お前昨日はどこに...ってその傷...」
「里美!?その傷どうしたの!?」
部屋に入るなり、二人は里美の足の傷に驚く。
「まぁまぁ落ち着いて。大事な話ってのはこれもかねてするからさ」
「そうそう!大事な話ってなに?」
「比岐島との間に何かあったか?」
「大方あたりだよ高尾」
「やっぱりか...なんだ?別れでもしたか?」
「そんなんじゃない」
里美の声が低くなった。それと同時に、ものすごい真面目な顔つきになり、梨沙と健一は体を強張らせた。
「...里美?」
「前川、なにかやべぇことに巻き込まれたな?」
「うん。それを今から話すね」
里美は深呼吸すると、健一も梨沙も予想だにしていなかったことを言い出した。
「比岐島か高尾。どっちかが死ぬかもしれない」




