2章 3話 二人の間に生まれた歪
「ん?!」
梨沙はセリアに口をふさがれた。それはほかでもないセリア自身の口で。
梨沙は驚きから何もすることができなかった。そして、数十秒...本人たちにとってはとても長く感じただろうが、たった数十秒でお互いの口が離れた。
「...いきなりで悪い。でも、俺の気持ちは本物だ。スズ、俺と付き合ってくれねぇか?」
梨沙は固まっていた。それもそのはず。なぜなら、まだ健一にすら許していなかった口を取られた上に初めて、つまりファーストキスだったからだ。
梨沙は自分の口に手を当てると顔を真っ赤にして泣き出した。
「ス、スズ?」
「─セ...」
「せ?」
「セリア君の馬鹿!」
パチンと痛々しい音が鳴り響く。梨沙のビンタだ。セリアはもろに食らい、その場で崩れた。即座に顔を上げると、目に大粒の涙を浮かばせていた。そして走り去っていった。
「す、スズ!?」
セリアは梨沙のことを呼ぶことしかできなかった。
「...スズがここまで怒るとこ初めてかもな...」
セリアが道端で崩れたまま、叩かれた頬を押えて言った。そのタイミングで。
「ん?セリア...だったか」
「...あぁ、ケンイチか」
健一とセリアは近くの公園に場所を移した。
セリアは多少話を濁しながら、何があったのか説明した。もちろんのことながらキスのことは言っていない。告白のことも。セリアの証言としては、
『梨沙が暗そうだったから声をかけて、理由は健一かと聞いたらビンタされ、梨沙は謝りながら走っていった』だ。
多少無理のある言い訳だが、
「なるほど、それでお前は道端で転げまわっていたと」
「転げまわってはねぇよ!」
なんだかんだであまり疑ってきては来なかった。
「でもまぁ、梨沙がそうなるのは珍しいな」
「お前もそう思うか?」
「あぁ、長い付き合いってわけじゃないが、いろいろありすぎて梨沙のことはなんとなくわかってきてるからな」
「なるほど...俺も同意見だ」
「ことの発端はお前だけどな」
「それは言わないお約束っしょ」
そんな茶番を混ぜながら話し、健一が唐突に言い出す。
「で、本当の理由はなんだ?」
「えぁ?」
セリアは驚きのあまり変な声を出してしまった。
「ほ、本当の話?」
「あぁ、さっきの話、明らかに嘘だっただろ。梨沙がいきなり殴るわけない」
言われてみればその通りと思いながら、どう言い訳するかを考えてたところに思わぬ人が来てしまった。
「およ?高尾じゃん!それと...転校生の...セロリ君!」
「セロリじゃねぇ!セリアだ!」
「前川か、どうした」
「いや、帰りに2人の姿が見えたから来ただけだけど...何話してたの?」
「キャリアが梨沙を泣かした」
「キャリアじゃねぇ!セリアだっての!」
「セロリが梨沙を泣かしたの?!」
「...もういいよセロリで」
セリアは諦め半分で言う。
「んで、どうして梨沙を泣かしたの?」
「それはさっき聞いたんだがはぐらかされた。今聞き出そうとしてたとこだ」
「そっか、それで、どうなのかな?セリア君?」
「そ、それは...」
言えない。セリアはそう心の中で呟いた。でも良い言い訳が思いつかない、そんなときに助け舟が来た。
「お?セリアーなにしてんだ?早く帰らんと父さんに叱られるぞー」
「え?」
公園の入り口のほうからアクトがそう呼びかけていた。
「やっば!今日は大事な用事があるんだった!悪い二人とも!この話はまた今度!じゃ!」
セリアはそういうと里美と健一の返事を待たずにアクトと共に走り去っていった。
「...え?」
里美はポカンとしていた。
「なぁ、前川。梨沙が泣いた理由って何だと思う?」
「うーん、セリアのことはよく知らないけど、故意的に泣かせたってわけじゃなさそうじゃない?」
「そう思うか?」
「少なくともあたしはそう思う」
健一と梨沙は唸っていた。
健一としては恋人が、里美としては友達が泣いたとあらばその理由を知り、慰めたい。その思いが強いのだろう。
だが二人は、梨沙の涙の理由について知るには、情報が少なすぎた。
「兄貴サンキュ!危うく忘れるとこだった!」
セリアはアクトと一緒に走りながら言う。
「それはいいけど何話してたんだ?ケンイチと、もう一人の女子と」
「それは聞かないでくれ兄貴、俺にも話したくないことはあるんだ」
「...ま、いいけどさ。そんなことよりこのペースでも間に合うか危ういんだが?」
「だよな...もうちょいペース上げるか?俺は平気だぞ」
「だな、そうすっか」
そうして2人はスピードを上げた。2人には、すれ違った人が誰かを見る余裕もなかっただろう。
時は少し遡る。
セリアを叩き、その場を去った梨沙は、大粒の涙を浮かべて走っていた。涙のせいで前が見えなかったのだろう、誰かにぶつかる。
「あ、ごめんなさい...」
「いえ、こちらこそ...って、梨沙?」
「え?」
ふと名前を呼ばれて顔を上げる。が、涙でうまく前が見えていない梨沙には誰だかわからなかった。
「そんなに涙をためてどうしたの?」
「え、あ、いえ、なんでも...」
「ん?梨沙?...あぁ、涙で見えなくてあたしが誰かわかってないのか」
そういうと梨沙の前にいる人物はハンカチを渡してきた。
「え、でもこれ...」
「使っていいよ。あ、今日は1回も使ってないからきれいだよ。安心して」
そう言って、梨沙の目にたまった涙を拭きとっていく。そして、涙がなくなり梨沙は前の人物にお礼を言おうと顔を見る。
「え、かえちゃん?!」
「やっぱり見えてなかったんだね」
そう、目の前にいたのは、恋愛相談に乗ってくれた天津廻 香恵だった。
「久しぶりの再会がこんな形とはね」
「うん、なんかごめんね」
「いいよ、気にしないで。それより、なんで泣いてたのか教えてくれないかな?」
「そ、それは...」
思い出すだけでも涙が浮かんでくるような出来事なだけに、言おうとしてもすぐに詰まってしまう。
「梨沙?」
「...ごめん、言えない...私、思い出すだけでもまた泣いちゃいそうだから...」
梨沙は完全に元気がなかった。それは、過去に1度しか会っていない香恵でもわかるほどに。
「そっか、なら無理に聞こうとはしない。けどね梨沙」
香恵は優し気な、けれど少し怒っているかのような声で言った。
「悲しい時や辛い時は泣いたっていいんだよ。それがどんな理由であれ、攻める人なんていないんだから」
「っ!?」
梨沙は、香恵の言葉を聞くと、無意識のうちに香恵の胸に飛び込み、泣いていた。
香恵は驚くことも梨沙の押し倒されることもなく、しっかり受け止め、梨沙を慰めていた。
その途中で何やらすごい速度で走っていく2人組を香恵は見たが、もちろん見えるはずもない上に香恵にとっては知らない人物2人なので無視した。
「梨沙、落ち着いた?」
「うん、ごめんね?かえちゃん」
どれぐらいだっただろう。しばらくの間、香恵の胸の中で泣いていた梨沙は目元を真っ赤にして、顔を上げた。
「何があったのか話せそう?」
「...ううん、ごめんね」
梨沙は話したい思いはある。だが、いくら泣いたっていいと言われても、泣きながら説明はさすがにできない。
「そっか...じゃあ連絡先おしえるから困ったら読んでね。家はこの近くなんだ」
「うん、わかった。ありがとうかえちゃん」
「いいよいいよ、か弱い女の子が泣いているのを放っておけるわけないでしょ」
そういって2人は別れた。
それから梨沙はゆっくり歩きながら家に帰った。
翌日、今日は祝日で学校は休み。健一と出かけようと誘おうとしたが、外はあいにくの雨。何処へ行こうにも傘が邪魔になってしまうため、誘えなかった。そんな時、家の呼び鈴が鳴った。
「こんな雨の日に...宅配便かな?」
そう思いドアを開けるとそこには...
一方、健一は携帯を片手に悩んでいた。
梨沙の涙を見過ごすわけにもいかない、かといって理由がわからない以上慰めようがない。デートでも誘って気を紛らわそうかと考えたがあいにくの雨。どうしようか考えていると、電話がかかってきた。相手は里美だった。
「ん、なんだ」
『もしもし?今時間空いてる?』
「空いてるぞ、どうした?」
『梨沙を連れて家に来てよ!』
「は?なぜ?」
『察しが悪いな...梨沙が泣かされたってのは昨日聞いたでしょ?理由はわからないけど、気がまぎれればいいなって思って、家で騒ごうかと』
「俺はいいが梨沙はどうすんだ?家族と出かけてるかもしれないだろ?」
『それはそうだけど、高尾の呼びかけなら喜んで来るでしょ』
「どんだけ信用性高いんだ俺は...じゃあとりあえず確認する」
『はーい。結果はちゃんと教えてね、彼氏君』
「はいはい」
と、そんなこんなで梨沙を誘って里美の家に出かけることになった健一、早速梨沙に電話しようとするが、思いとどまった。そう、健一の家は、梨沙の家の目の前なのだ。健一は考えるよりも体が先に動いていた。
「はーい」
梨沙は玄関のドアを開けた。そこには...
「よぉ、梨沙」
「え!?健一君!?」
そう、健一が立っていた。健一は里美との電話の後、梨沙の直接確認するべく会いに来たのだ。
「健一君、こんな雨の日にどうしたの?」
「いや、じつは...」
健一は経緯を話した。梨沙の気を紛らわすために集まるというのは除いて。
「なるほど、里美の家って行ったことないしちょうどいいかも!行こう!」
「わかった、じゃあ支度してくれ。俺はここで待ってるから」
「いやいや、外で待たせるわけには行かないよ!雨も少し強くなってきたし。家上がっていってよ」
「...じゃあそうするか」
何気家に上がるのは初めてだ、健一は気づかれないようにしているつもりだろうが、緊張しているのが丸わかりだった。
支度はさほど時間がかからなかったので、すぐに出発する。と思ったのだが、家を出てすぐに、梨沙にとって今、会いたくない人とたまたま目が合ってしまった。
「せ、セリア君...」
「す、スズ...」
「...」
梨沙とセリアは何やら気まずそうな雰囲気を出していた。
健一は2人に起きたことを知っているわけではないので気まずい雰囲気になっているのが不思議だっただろう。
それと同時に健一は察した。セリアが梨沙に何かをしたということに。
おはこんばんにちは!ピチュをです!
月1にしようかと思ったのですが、書きあがると投稿したい欲が出てきてつい登校しちゃいました
(´›∀‹` )ゝテヘ
なので、これからは月一投稿ではなく、月一以上の投稿で行きたいと思います!
諸事情により投稿が遅れる場合は、あらすじにてP.S.で連絡するか、活動報告でお知らせしたいと思います。
何かと至らない私ですが、今後ともこの、「恋の色は濁り色」をご愛読ください!
よろしくお願いします(o*。_。)o




