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ゲームが⇔現実になったら。  作者: タナカつかさ
ゲームと現実と。
30/30

悪性変異。

 とある在日米軍基地――

 オリヴィアは上司への報告の後、自分で調達していた車に乗り込み、彼らを確保しているであろう本当の仲間の元へ向かった。

 そこで自分が見た顔が全員いるかどうか、一人残らず確保されたかどうか、確認する為だった。

 数台の大型四輪駆動車が、検問のチェックを受け潜り、格納庫に入る。

 中には軍が保有する各航空機が並べられていた。

 テロリスト――それも、国家に所属していた諜報員の成れの果て。醜聞である為、極秘裏に母国に送らなければならず、しかし通常の空路、海路、民間のそれを使えない。

 なので、こういうことがあるかもしれない、と話を通した基地にて、通常の予定を組まれていた輸送機で、人員の移動や貨物の輸送に紛れ込ませ滞りなく運ばれる。

 そこで上司――以前明人に名前だけ出した、れっきとした外交官として活動している男と並んで、確認を取る。

 座席から、ぞろそろと、そこに着いていた者たちが降りて来る。

 十名近くいるそれらを一人づつ、数人で左右を固め、輸送機が起つまでの間、一人一人取り調べを簡易的にではあるが済ませようと、別の場所へと拘束して連行し、基地内における違反者――反省用の独房へと連れていかれる。

 その全てを確認して、

『これで、少しは彼の家族に償えたのでしょうか』

『それは我々が決める事ではないだろう……これでようやくひと段落だが、しかし問題は彼が我々の諜報能力をどれだけ漏らしたのか、それとも漏らしていないかだ……』

 彼女本来の上司と共に、暗鬱な溜息を漏らした。

 そして尋問に同席しようとするが、ここでも正義を拗らせた基地の責任者が、彼女らの任務の内容をせっつこうとする為、それをどうにか宥め、やり過ごす為に時間を費やすことになった。


 その中の一人が、基地内にある部屋の一つへ連れていかれた。

 音もなく開け、中へと入る。

 あたかも連行しているように見えた二人は、ドアでそのまま席を外した。

 そこで待ち受けていた、彼をこれから尋問する予定である局員は、

『――手間を掛けたが、成果を報告したまえ』

 拘束されたままの、ジョン・スミス――ニコラス・ワイズマンにそう命令する。

 と、彼は、

『――やはり鏡象子ミラーマターによる量子的な干渉、観測技術を用いた《新たな通信システム》は存在しています。でなければこちらの最新鋭の技術、ハッキングやクラッキング、それに限らずありとあらゆる傍受をすり抜けられる筈がありません』

 平然と報告する。最後に杦田にやられた、ほんの細やかな復讐に、内心で憤慨しながら。

 彼のいうことに嘘はなかった。局の登録を抹消されただけで、多くの身内すら欺き、敵という立場すら利用し非合法の活動を許されていた。

 彼らが、いや、彼らの国が本当に懸念していたのは、彼の言う妄想染みたシステムでも、軍が関わったそれが一般公開されているということでもない。それは、Unison:worldが存在しているサーバーを『ネットワーク上でどう隠しているか?』ということだった。

 もちろん、その可能性も調べていく内に僅かながら浮上し、本当に存在しているのなら確保する必要があると判断されていたが。

 それらが、彼が局を追われた、という立場を利用した非合法活動員イリーガルとしての本当の使命だった。

『筐体はあくまで肉体に定着させたナノマシンへの情報を制御するのみのものでした。回線は通常のインターネット用のもの……それにも拘らず、登録されたIPアドレスが指し示す位置には何も存在していない……ゲームサイトもネットワーク上に存在している筈なのにバックドアの一つも見つけられない……、彼らは明らかに我々よりも深い位置(・・・・)にいます』

 量子によって世界を突き詰めれば、これまでと同じ世界をもっと深く掘り下げることが出来るようになる。デジタルから脳に介入し、その五感に現実と全く同じ情報を与えるほどの電子操作を可能としたVRシステムはその一端だ。

 それを通信技術に応用できれば――同一の情報インフラ上で、これまでの通信プロトコルや暗号システム、それを同じ位置に居ながら全く別の視点で情報をやり取りすることが出来るかもしれない。

 機械の性能――パワーによるものではない。それはこれまでのハッキングにおける、プログラムをプログラムで動かす鍵穴や抜け穴を探して潰す――同一システムによる同じ土俵上の戦いだ。杦田らが用いているとされる通信システムは、それを内側から見て利用しすり抜けてしまう様なものだ。

 通信技術として上位にある。最低でも同機種――同じ技術体系で作られたそれでの対抗措置を組まなければ、決して対抗できない。

 そしてそれは極端な話、

『量子的な干渉……電子、原子、陽子などの物質の裏側の観測と、繊細な制御を可能とするシステムさえあれば、その対策が施されていない古い機器やプログラム的なファイヤーウォールを完全に無視してその内側を見ることも可能だろうと、我々の技術部も、ようやくその実現性を垣間見研究し始めた段階であるというのに……』

 ネット上に存在するあらゆる情報の改竄――もしくは、電子的なプログラム自体の無効化を可能とする技術――

 悪意ある者が扱えば、最悪、冗談でも誇張でもなく先端技術に依存している今の世界を牛耳ることも出来るだろう。

 CIAの諜報技術、その科学的分野の開発、研究を行う部門ではアメリカ側に残された、以前彼から供与されたシミュレーターに使用された技術を分析し、独自に開発しようとしているが未だ成功していない。

 それは鏡象子が人の脳波の深い部分に反応する性質を持つが故に、生き物――人を介さないと利用できない――今のところ、特殊なVR環境にしか適用できないからだ。

 それを用いて脳波――生体電流や脳内の詳細な観測を行い、そこでより深く電子を操れるようになっただが。鏡象子を利用した機器――疑似生体・量子集積回路、有機コンピューターを介しても、電子の動きを詳細に把握し制御できるのは、あくまで特殊なナノマシンを用いた人体の中でのみなのだ。

 それでは機械的通信に転用できないのである。

 人体の外側でもその観測を可能とする技術が必要。そして、量子的な通信を可能にするなら、双方向――同じ技術を用いた受信機と送信機が必要なのだが、その目途がどうしても立たない。

 Unison:worldの筐体もあくまでVR空間の環境情報をプレイヤーに与える等のアバターの制御にのみ使われている。通信自体はPCとネット回線を介した通常のそれなのだ。

 しかし、その筈なのだが。

 その先にある筈のサーバーの位置が、何故だか特定できない。回線とアドレスをいくら辿っても精々別のプレイヤーのPCや住居が判明するだけだ。だが確実に、今の技術で画面上や回線上に確認できるそれとは別の何かで動いている、と推論付けた。

 逆説的な状況証拠――情けないことに、分ったのはそれだけなのである。現在CIAが保有する技術の粋を用いても――

 だからこその信憑性でもあるのだが。

 仮称としてその【量子通信システム】は、既に完成し存在しているとニコラスは判断していた。

 そしてそれを開発した、杦田らの事をCIAは探していた。

 それを気付かせないために、関連性のある妄想的なシステムやVR自体の危険性を主張し、カモフラージュしながら、

『……それで、開発陣の居場所は特定できたのか?』

『いえ。それだけは未だに。開発関係者の近縁、二親等、三親等以内の縁者は自衛隊基地に保護されていることは確かでしたが』

 確認出来たのはそこまでだ。開発陣に関しては依然どこにいるのかさえ分からない。

 人として生きている以上は生活物資が必要になる、それを手に入れるため最低限屋外に出なければならない。開発陣全てを囲うにはそれなりの場所が必要である。

 それに見合った日本政府が抱える設備やシェルターには彼らの姿は無かった。

 有機的なパーツを含むサーバーを維持している以上は、有機素子を維持するために必要な物資、精製したアミノ酸や水も必要となるが、その流れすら追えない。

 日本の警察機構が抱えるそれらを一方的に利用させてもらったのだが。都市や公共施設、街路上に設置された監視カメラに、自国が誇る人工衛星にも掠りもしない。

 まるでこの世に存在していない幽霊であるかのようだ。

『ネットワーク上だけでなく、衛星による監視にすら介入しているとすれば、同盟国として重大な背信行為だが』

 証拠がない。

『日本側も未だに彼らを探している様子からして……彼らがそれを秘密裏に手にしているということは無いでしょう。末端の志気が低いのは気になりましたが』

『偽装の可能性は?』

『――それもあるでしょうが。彼らと繋がりはありません。あれはただの平和ボケです』

 でなければ、同盟国への背信行為として日本という国が危うくなる。

 道端で指名手配の顔を見つけたら――程度の捜索、気付いたら気づく、という程度の意欲、既に諦めている、専任の捜査官ですら一部不貞腐れた態度を取りつつある。

 命令系統の順繰りで危機意識が薄れて行くお役所仕事の見本を見ているようだ。

『……ですが、ようやく尻尾を掴めるかもしれません。――私が確保されたことで彼らは油断し……彼らの居場所、もしくは協力者を知るかもしれない人間を手放そうとする筈です』

『それは本当か?』

『ええ。こちらの監視対象の一人――その恋人を我々から保護していたようですが、これで事が済んだと思い――こちらが手駒を全て失ったと思っていれば……』

 間違いなく、大手を振ってそれを解放しようとする筈――

 一般人を巻き込んだ時点で彼らは失策を犯していた。

 本当に守るべきもはただ一つに選ばなければならない。

 彼と、彼の大事な者まで守ろうとするべきではなかった。

 知らずに協力しているのか、深く関わっているのかは分らない、シナリオライターとして本当にその仕事をしているとしても、外注として別の場所で仕事だけを請け負っているとしても、それが出来る設備か施設、彼らとの通信環境――その手段を確実に与えられている。

 それを確保すればいい、もし協力を拒むのなら多少強引な事をしてでも。

 開発陣達は徹底して雲隠れをしているが、健全な仕事を装い接触している以上、そこには彼らが関わる人材や資材は存在している。こうしてそれを一つ一つ潰していけば、嫌でも出て来るだろう。

『では?』

『我々が確保されてから動くように伏せていた人員が、これから――』

 そのとき、ニコラスは怪訝に眉を顰める。

 上司がまるで幽霊でも見たかのように目を見開き、ニコラスの背後にある虚空を見つめている、それに気付いて。

 そしてその突然の表情、あまりの不自然さに咄嗟に振り返る。

『――残念だよ、君がこのまま大人しく引き下がってくれるのなら……いや、彼らにまで害を及ぼさないのであれば、放って置いたのだが……』

 彼の視界、上司の絶句の視線の先、そこに――杦田は立っていた。

 何故ここに――声には出さずそう疑問する。上司は懐に手を入れ、携行していた自動拳銃を取り出し彼に向けようとしたが、止める。

『――立体映像、か』

 それしかありえない。この部屋に、基地内で使える無線LANや基地機能とは関係の無いネット回線は引き込まれているが、それに類する機材は取り付けられていないはずが。

『――いいや。現段階でこれはARのようなものだ。そして最後通告だが、今君たちがしようとしているバカなことを止めてくれないだろうか』

『……何のことだ?』

『私の様に、彼らを巻き込まないで貰いたい』

『――あなたが我々にもう一度協力して貰えるなら考えますよ?』

『例えば何をだね?』

『あなたが開発した量子――』

『――そんな通信システムは作ってはいないし使ってもいないよ――それとも今の発言も何らかのカモフラージュなのかな?』

全てを言い切る前に――

 それに焦燥が奔る。

 こちらの情報を、どこで、どこまで、握られているのか。それによっては――

 今の会話も、国としての対処も含め、テロリストとして捕まえている筈の人員への、こちらの違法活動をすべて把握されていてもおかしくない。

 これまで自分達は彼らを追い詰めているつもりであったが、彼らに追い詰められていると知り、不快な汗を掻かされる。

 しかし、それでも多くの情報を、彼から引き出そうと口を開く。

『――では、本当に開発されていないというのなら、一体サーバーはどうやって――』

『君たちに応える義務はない。答えは私の要求を呑むか否かだ』

 一蹴される。本来の国の上下関係を無視したそれに歯噛みしながらも、その甘さ、危機意識の低さがある限り、彼らを手玉に取り続けることが出来る、と。

 内心ですぐに嘲笑を浮かべる。

『……その疑念を払えない限り、我々でなくとも各国の諜報機関や犯罪者が狙い続けることになるとしてもですか? あなた方――ひいては彼らの安全を鑑みるなら何らかの発表をするべきです』

『生憎、これ(・・)はそんなものではない。大方、IPアドレスから割り出そうとして、別のプレイヤーの筐体にしか辿り着けなかったのではないかな?』

 早速口を滑らせた。それに内心でほくそ笑みつつ、表面では静かな驚愕を装い、

『……何故それを?』

 相手の優越感を育て上滑りさせるために、自分を下位に置く物言いをする。知識で優位に立つ人間はそれで饒舌になりがちだからだ。

『ネット上の捜査手法など考えなくても分かる――だがそれで正解だよ』

 しかし、

『……なに?』

 予期せぬ解答に、

『正解と言ったのだが、理解できなかったかな?』

 ニコラスは隔絶した知識の差に翻弄される。辛うじて彼の上司が、

『……ネットでつながった筐体同士が、巨大なサーバーになってるということか?』

 推論を示す。それはこの時代では古い手法だ。それだけでは意味がない、暗号化、断片化されたプログラムが潜んだPCが、ネットに繋がり起動している時にのみ裏サイトや違法なそれとして表示される。ウィルスのようなそれだが、気付かれないように動作に影響を与えず本当に最小限の容量を、ブラウザのデータやダウンロードファイルに潜り込ませる。

 それをプログラム側でなくゲーム筐体――機器として構築したということか。だがそれでは、VRシステムを維持するための量子集積回路にはならない。

『まあ、君たちにはそれ以上には理解しきれないだろう』

『……それで困るのはあなた方ですよ』

 さも真摯しな声色に、杦田は剣呑に眉を尖らせる。

『――どうしてだね?』

『このままでは貴方が中途半端に抱え込んでしまった所為で、彼と、特に彼の恋人はことあるごとにそんな連中に狙われることになるでしょう。最悪、非人道的な尋問を受けるかもしれない、そうなれば最悪あなたのご家族よりも酷い事に――』

『脅しかね……』

『善意の忠告ですよ――リアリティある』

 そこで、杦田は、忸怩たる諦観を抱き肩を落とした。

『……分かった、いいだろう……』


 ――空気が揺れる。


 その周りの風が揺れていることに彼らは気付かない。

 変容したその気配に気づくことなく、彼らは彼に対峙したままさも親し気な表情を浮かべ、まるで親しげに友人の肩を抱くよう両手を広げる。

 これから仲間として歓迎する――とでもいうようなその雰囲気に、勝利に酔い痴れ、自身の仲間とその余韻の目配せに瞼を躍らせた。

『……ここまでだ……君たちの裏切りは既に二度目、いや、これで三度目、四度目と言うべきか』

『――では、彼らはどうなっても良いと?』

 無視して杦田は部屋の中を歩き始める。

 まるで、そこに本当に存在しているかのようにコツコツと(・・・・・)、革靴をそこで響かせながら彼らに近付いていく。

 まるで亡霊のようふわりふわりとした足取りをして。

そして、

『……私はね、考えていたんだよ……どうすれば、法をすり抜ける、君たちのような人間を確実に裁けるのか……どうすれば、心に根差した悪意、無意識な、暴走する欲や、正気を失った理性を取り除く出来るのか……』

 歩み寄る。彼らは何だと怪訝に思いながらも、それを警戒していなかった。

 一瞬の躊躇い、そして、無機質な表情を浮かべ、

『――やはり、これしかないだろう』

 そして、ニコラスに触れた(・・・)

『――っ?! ……どうしてっ!?』

 確かに(・・・)肩が叩かれた。そこが歪んだ感触に、

『――いつから侵入していた!?』

 その異常性に気付き、彼は目を剥き吃驚し、身体を硬直させるが、すぐさま理性を取り戻し、咄嗟の判断で杦田を組み伏せようと彼の腕を取り捻りながら引き込み、机に取り押さえようとした。

上司は即座に懐から引き抜いた自動拳銃の安全装置を外し、そして照準する。

 しかし、ニコラスの腕は勢いよく杦田の体の中を幻の様に通り過ぎ、そして空を切りバランスを崩して床に転げる。

 黄金色の蛍火が、蝶の鱗粉のように杦田の体を揺らし、零れ落ていく。

 彼らは瞠目する。いったい何が起きているのかと、

『……ふむ、やはり今はまだこれが限界か……しかし、罪を改めるならまだ間に合うぞ?』

 杦田はそこに転げたままのニコラスを一瞥する。

 彼は不敵に、自身の体を苛む痛みに歯軋りをしながらも、

『何を――貴様が素直に協力さえすれば――』

『やはり、変わらないか――これでも私は、君も反省してさえくれれば……』

 と、

『――ニコラス!?』

 何かが起こっている、それを上司からの咆哮によって気付かされるが、しかしその瞬間には、もう既に理性を――

 否、意識を――

『貴様何をし――ッ?!』

 そして、


 銃口が砲声を吐き出す。

 それは基地内の各所で連続して起こった。

 それは対外的に、基地内に収容されたテロリストが脱走し、反乱を起こしたとされた。

 

 


 杦田はそこで、重い、重い吐息を、胸の隆起だけで吐き出す。

「これで……全てが清算されたわけではないが……」

「杦田さん――」

「ああ……やってしまったよ……だが、先に引き金を引いたのは彼らだ……」

 そこには多くの科学者が居た。それは内密に行方不明とされた開発陣と、それ以外にも。

そこは現実、彼と彼の仲間がいる秘された施設で。

 つい先ほどまで、杦田は銃火と弾丸、悲鳴が飛び交い、怒号と轟音、そして血飛沫が殺到していたそこに居たにもかかわらず。

 揺らめき、影を纏い、地に足を着け、そこに佇み――

 目の前にある、巨大なシリンダーに入ったウイルスの塊――流体型の量子素子を見つめて、

「……さあ、始めようか……」

 同じ意思を持つ仲間に振り返り、

「もうすぐ、もうすぐだ……彼のお陰で第一Waveは確認された。そして彼らが第二Waveを証明してくれた――」

 音頭を取る。指揮棒も指も使わず、しかし各々がそれぞれの仕事を始める。

 それを見つめる。

 己のディスプレイに表示されたそこには――

「後は第三Wave……それさえ確認できれば……そうすれば、」

 最終Wave――杦田にはそこにこれまでになかった可能性を見ていた。

 それは天から降りる、煌めく一本の蜘蛛の糸に見えていた。

 それに縋る様に、

「……琉璃……燕……」

 再び、シリンダーの中に向け、そう呟いた。

 返事の無いそれに、

「……」

 自身も無言で、

「必ず……」

 そう、無表情に呟いた。

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