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ゲームが⇔現実になったら。  作者: タナカつかさ
全てが始まる前に。
3/30

邂逅

 病院に行くと、友人は思った以上の軽傷だった。

 奇跡的な吹き飛ばされ方で、衝突時も腕一杯の抱き枕(彼の二次元嫁二人、重婚)を抱き締めていた為、トラックに直接ぶつかったその両腕以外は割と保護されていたらしい。

 だが本当に見事なギブス二刀流だ、危険人物を拘束しているようにしか見えない。ああ、尿瓶はもう体験したとか。

 そしてえっちなナースは存在していなかった為、ただただ恥ずかしい想いと情けない思いをしたとのこと。しかしそこで「いいんですよ? これが仕事ですから」と微笑まれたらしく「本当に天使に見えるんだ……」と非常に感慨深い説を漏らした。

 そんな彼に聞いてみる。

「お前を守った二次元の嫁とどっちが天使だ?」

「両方でハーレム体制だな。ただし三次元はナース限定だが」

 うむ、つまり二次元もリアルも夢に垣根はないということだ。

 

 しかし、現実には色々なところに垣根がある。

 たとえばそう、両腕が粉砕骨折した彼に変わって彼の家族が持ってきてくれたβテスト――その参加委任状を家族の証明入りで書いて貰い、テスト会場まで来たのだが。

「……え、話来てないんですか?」

 軽い門前払い中である。

 まあそれもその筈。

 事故と入院について連絡を受け駆け付けたのは――昨日。

 それはβテストの開始日、その前日――

 ギリギリもギリギリに病院に駆けつけ家族に代筆して貰ってそれから実施する企業への連絡、本人の参加キャンセルからの代理人の申請にその他もろもろの確認が始まったのは業務時間終了に五分前――電話受付で言うなら一番面倒な時に一番ややこしい手続きが舞い込んできたそこから既に帰社しかけていた担当部署の社員を掴まえての捕まらなかったりの席を外していたりを電話を挟んで全てのやり取りがひと段落したのは夜のゴールデンタイム、本当にご迷惑をお掛けしました。

 ――という最悪の状況だ。

 どう考えてもその所為だろう。だからまあ、責めるに責められない。

 何せ目の前の屈強なベレー帽の守衛さんも困り果てた様子で。

「ええ、そうですね……鷹嘴明人たかはし あきとさんですよね? 今名簿を確認していますが……残念ながらこの中には、あなたのお名前は見受けられません」

 ああー。

 そんな無慈悲な宣告を受けるそこは、玄関ロビーではない。

 それどころか、まだ敷地にすら入っていない。

 そこは検問所――高速道路の料金所のようなそこである。そしてそれを言うのはまるで軍人の野戦服を着た男だ。

 ……ここ、本当にゲーム会社か? と思わされる。

 その奥にあるのは、飛行場――隣接された武骨で平べったい作りの倉庫だ。

 今も使えそう、ゲーム機の生産工場とかそういう設備なのだろうか?

 しかし、やはり、ゲーム会社には見えない。となりに大きくキレイな三階建ての社屋が見えるが、どこか物々しいまでに威圧感がある。なにせ敷地周囲を有刺鉄線の返しが着いたフェンスで全て厳重に取り囲んでいる、触ると命の保証はない、と各種翻訳済みのドクロマーク付きだ。雷マークも洩れなく付いている厳重過ぎる警備体制なのだ――

 とはいえ、それもその筈。何故ならここは元自衛隊基地――その施設が老朽化に伴い廃棄されるところを、このゲーム会社が格安で実験施設として買い取ったのだ。

 会社の名前は、未来を創る五芒星・《フューチャー・ペンタゴン》。

 大元は日本どころか世界各地で使われている様々なシミュレーターの研究・開発をしている企業連合体である。元々は車や電車、飛行機や潜水艦、宇宙船、その他多くの乗り物の製造をしていたそこのシミュレーター部門から派生した会社だ。

 軍用のそれも卸しているそのコネで、格安で買い取れたらしい。

 そしてゲームどころではなく、また、乗り物のそれだけでなく。自然環境における災害予測や、生化学における薬効、肉体における細胞の変化、まだまだ、収まらずに手を広げてまるで世界を丸ごと取り込むような研究もしているのである。警備体制も納得のものだ。

 ゲーム会社がゲームの開発のためだけに中古物件とはいえ自衛隊基地を買い取るなんて、そんな本気を出すとは思わなかったが。その技術の蓄積を利用して世界初の完全没入型VRゲームの開発をしたというわけである。

 これは最先端技術の研究である――それも科学史に残るブレイクスルー多数必要とするほどの。

 その技術漏えいを防ぐため、企業を狙ったテロや産業スパイが盛んな現在ではこれぐらいの設備が必要だろう。もしかしたら、どちらかというとゲーム機を作ったのは完全に余禄なのかもしれない。

 ……と、テレビの特集で言っていた。あの分厚い契約書は、軍関係に品を卸す企業の体質で、その情報の保護を強固に求められるわけだ――

 まあ、なので。絶対に、不審者なんか通すわけないわけで。

 どうしようもなくその諦めるしかない気配に自分は思わず、

「そうですか……」

 と、納得するしかないわけで。

 自分でも、急だったから仕方ないと思う。

 そして、

「ここに来るようには、どなたからの指示ですか?」

 丁寧に対応してくれるのが救いだ。頭ごなしに単なる不審者扱いしないなんて、本当にありがたい人だ。

 彼の言う通り、それが分ればその人に確認が取れるかもしれない。

 それに従い、そうすれば……。 

「ええっと、普通に電話窓口の人? でしたけど……名前までは……」

「じゃあどのような内容のお話でしたか?」

「――当選の通知書に各種記入を済ませて、返信すると入場許可証パスが送られてくる、それは代理人でも同じで、同様の手続きをすることになるって話でした。でもさすがに昨日の今日では間に合わないから、ここで直接書類と許可証を交換するって話だったんですけど……」

「……まだそういう連絡は受けていませんねえ……ちょっと待っていてくださいね、本社の方に問い合わせてみますから……」

「……」

 何やら小声のやり取りが聞こえてくる。ああうん……やっぱり引き継ぎが出来ていないんだなと思う。昨日の人も酷く困った様子で「こんなギリギリになって……欠席でいいでしょう」との愚痴も聞こえた。

 本当にご迷惑をお掛けして誠に申し訳ありません。

 でもゲームが、したいんです……! 初回予約にあぶれたからこそ、このテスト参加の機会を逃したら最悪向こう半年から一年は夢の仮想世界入りを逃すことになりかねない。

 下手をすれば一生だ。来年から大学も卒業、就職したら遊ぶ暇なんてほぼないのだ。

 だから是非ともここで!

 諸処の確認に手間取るだろうと言われた通りテスト開始時間の一時間前に来るように言われたのだがその更に一時間前に来てしまったわけで、その所為かなあ、とも思う。

 社会人の待ち合わせは十分早くても『出向いた相手に急がせる』として礼儀知らずになる場合があるらしいから難しい。早くても五分、程々で三分、遅くても二分前、だそうだ。

 興奮ですっかりその事を忘れていた。

 そこへ、

「――どうかしたのかい?」

 静かなエンジン音。それがほんの微かに聞こえた直後に衣擦れのような音がした、その後の。

 声に振り返る。

 背後に、四角く角張ったガタイの良い車種――

 ハマー、の、後部座席が窓を開けて、音の位置から、その座席の中央から声を掛けているのか。

 斜に見える、二人の黒服に挟まれた、スーツ姿の男だ。元軍用の民生品――その念願の再々販版として、通常より鈍い光を放つ装甲が、要塞の中にいるような印象を与える。

 その中に、誰が居るのか? しかしそのごつい車体に気後れして、一歩後退った。

 開けられた車体の窓の奥――その視線がこちらの目を確かに捉えているのに気づいて、ようやく、話しかけられているのだという実感が湧いた。遅れて、

「……あっ、すみません。ちょっとβテストの入場手続きで行き違いがあったみたいで――時間掛るみたいなんでお先にどうぞ」

 道を開ける――関係者っぽいので運転手の窓口の邪魔にならないよう、脇に。

 車が前進し、監視カメラがピントを合わせ、車体のナンバーを確認し照合を始める。

 その間に、ちょうど後部座席が、自分の正面に来た。

 スーツの男はこちらをじろじろを見回す。

 何故だか、少し驚くように目を丸めて、

「――君もβテスト参加者かい?」

「いえ、その代理です。昨日、当選者の友人が事故に遭って昨日連絡したんですけど、こちらからの書類の送付とパスの送付が間に合わないということでしたので。直接ここで交換することになりまして」

「……そういうことか……ん、じゃあ書類を見せてくれるかい?」

「えっ」

「これでも一応その責任者の上の方の人でね――書類に不備が無ければ一緒に中に入ろうか。もちろんボディーチェックもここで受けて貰うけど」

 長期間の滞在になるので、着替えその他嗜好品の数々もそこそこもってきた。コンビニのような売店も中にはあるらしいが、それだけでも旅行鞄が一杯になっている。

 それに検問所と護衛官らしき黒服が難色を示す中、

「――いや、彼は知り合いでね? 人格については問題ないと思うよ。熱狂的なゲームファンだ」

「え? ……知り合い?」

「一方的なね。もしかしたら君も、私の顔を見たことがあるんじゃないかな?」

 なんとなく言われたままに彼の護衛官を跨いで書類を引き渡す。すると嫌々とため息を吐きながら検問所の野戦服が出てきて、手荷物を開け目視確認、探知機を使い盗聴器などを調べて来る中――

 言われて、車中に目を凝らす。と、そういえばというレベルで見覚えを思い出した。

 カメラ映りがいいのかもしれない。

 ……それは確かに一方的かもしれない。

 有名人や芸能人を、テレビではなく肉眼で、実際目の前にして見るとこんな感じだったのだろう。

 自分は喉を震わせ目を点にしながら、その名前を呼ぶ。

「……あ……杦田鷹介すぎた ようすけさん?」

 それはこの歴史的VRシステムの開発者である人物だった。

 そして彼は書類からこちらの名前を読み込み、

「――初めまして、鷹嘴明人くん?」

 そう口にしたのだった。



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