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ゲームが⇔現実になったら。  作者: タナカつかさ
ゲームと現実と。
28/30

偽り。

「それとも、彼を自分の駒にする心理誘導のつもりだったのかな?」

 それと再び、アバター越しに対面した。

 杦田は現実と同じスーツ姿、CIA諜報員たちは、彼のツールで作ったそれで。

 透明な憎悪と、作られた微笑が交差しているのを、自分はその間で見ていた。

「……言いがかりは止めたまえ。そちらこそ娘の為などと言う盲目的な行為を改め、即刻このVRシステムサーバーを明け渡すんだ」

「――どうしてだね? 両国の間で、何か問題でもあったのかな?」

「このシステムはその両国の研究の成果であってあなた個人の所有物ではない――それは今あなたが犯している!」

「――これに使われている特許の多くは私のものだよ、研究と制作に関わる各種契約上でそういう取り決めを結んだことを知らない訳ではあるまい。それに君の国には既に、歩兵用の演習から作戦行動まで可能なシミュレーターとして構築済みのシステムを渡した。……成果に関わる現物の引き渡しに関する契約もそこまでとしてある。故に、その後制作されたこのゲーム用サーバーの所有権に関しても間違いなく我々のものなのだが?」

 そうだったのか? いや、確かに、彼が以前、既にそれを軍に卸したという話はしていた。

 それなら……危険性からのサーバーの停止を要求する、そこまでならともなく、明け渡しは不当な請求になるのではないのか? 

 声を出さずに周囲を見渡す。

 すると、オリヴィアを除く局員と諜報員が静かに緊張を高め、その仮面染みた表情が剥がれているような気がするのは、気の所為か?

「これはそういう問題ではない――危機管理の問題だ! これが万が一テロリストに渡ったらどうする? 彼らの危険思想、人道に反する行為を容易に容認させる手段になる! まともに銃を要することも出来ないこの国の一企業の保安措置や警備体制で守り切れると思っているのか!? ――これは明らかに国家が管理すべき内容だ!」

 なるほど、と思う。

 確かに、たとえば本物のテロリスト――銃火器で武装したそれらがサーバーや技術を保管する施設を急襲したとして、そこで精々一般的な不審者の侵入を拒む程度のそれと、軍人が要するそれらに守られた場所とでは比べるまでもない。契約がどうこうという話ではなさそうだ。

 状況が変わった、という奴だろう。危険が見えなかった段階までならともかく。それが国が関わった研究ともなれば、早急にその火を消したいところではないだろうか。

 契約を白紙、もしくは破ってでもそうするべきかもしれない。

 素人でもそう思う。

 そして、

「それは私が作ったゲームとVRシステムに、そういう不備があればの話ではないかな? 何より、これが世に出回ってもう一年も経つが、ネットワーク上からのハッキング、そして表からの物理的介入自体も避け続けているよ? 現に今も君たち腕利きの諜報員や工作員でも尻尾すら掴むことが出来ないではないかな? それでも、まだ安全上の管理に何か問題があるとでも?」

「国家が管理するそれに手出しすれば断罪と言う名の報復――制裁行為が出来るからこそ、安易なスパイ行為への抑止力が生まれる、それは民間企業では出来ない。だから侵略行為を跳ね除けられない。そして厳密な管理態勢も続けられるのは軍という命令の絶対順守の体制があってこそだ」

 様々な懸念と対応の応酬の中、正しいのは、ジョンの方だと思う。

 そちらの方が堅実で、厳格な対応だと感じる。

 しかしそこで杦田は透明な憎悪を噴き上がる青白い炎に変えて追及した。

「――その国と、組織とて、内側からの綻びがあったことを、忘れたとは言わせないよ? あの日、私の妻が、娘が……どうしてテロリストに襲撃されたと思う?」

 その答えを求め視線を向ける。

 それに目を合わせたオリヴィアは、沈痛な表情で、目を逸らした。

「――君が我々の管理の手から離れたからだろう」

 しかし、

「それくらいではあんな狙い済ましたようなタイミングでことは起きんよ」

そして杦田は一息、更に、凍らず流れる水の様、静かに倫理の熱を捨てるように見えた。

 そこに夜中の真っ暗な水面のような感情を広げ、

「……向こうで私が一定の成果を上げてあの非人道的計画から引き上げることにしたとき、国に帰るまでの間の私の家族の周りに配置される筈だった警備に――穴を作ったのは誰かな?」

 凄惨な事実に対する自信と確証を告げてきた。それが本当だとしたら――

耳の奥が砂と泥を混ぜ込んだ液体を流し込まれたよう不快な感触を訴えってくる。

 ただ襲われたのではない。予期せぬ事故のような、ただ不幸に居合わせた様なそれではなくて。もっと明確な悪意に、そこに突き落とされたということになる。

 それに、

「あれは現場で警護を担っていた、そこに居る彼女の不備だ。連絡があったとはいえ直接引継ぎの確認もせず、持ち場を離れた彼女の、それによって起きた、不幸な事故だ」

 ジョンは何の躊躇いもなく、彼女はただ目を伏せ――歯噛みしながらも、それを否定しなかった。

 先程まで彼女の仲間であった彼らは、表情を変えないながらも何故かそれを肩で笑っているような気配がした。

「――いいや。ただの不備じゃあない。あれは起こすべくして起こされた、悪意による理不尽だ」

「……証拠でもあるのかな?」

「ああ。以前彼女自身が告げてくれたよ。『平和ボケした日本人に、我が国の庇護下だからこその平和だという事、そしてテロリストの脅威を教えてやろう』――と、どこかの誰かが独断で、その当日の意図的な警備体制の変更と不備を起こし……事前に情報を流し、犯人に意図的に襲撃を仕掛けさせた、とね」

 心臓の血がどろりとした。

 目の奥が沸いてぐらぐらする。

「じゃあ……」

「ああ、……彼らに殺された様な物だ。それを監査官でもある彼女の父親が、娘である彼女からその計画を告発されて、私に伝えてくれた……全てが終わって、半年もした後でね……」

 どんな言葉を掛ければいいのか分らない。同じ世界で起きていることなのか。自分には――

 想像も、及びもつかない出来事に絶句するしかなかった。

「……それを、厳格な命令順守と、完璧な体勢だと? 同じ過ちを二度と? その口でよく言えたものだ……」

 内心で同調する。信じられるわけがないし、信用する訳もない。

 しかし、

「――そんなつもりはなかった。あれは不幸な事故だ。決してそんな侮蔑と悪意に満ちた行動ではなかったよ。むしろ、彼らの情報をいち早く察知したからこそその襲撃の瞬間にほんの少し遅れる程度で済んだのだよ」

 厚顔無恥――

 自分の中で彼の見方が変わる。薄気味悪さを人の形にしたような、出来の悪い人形のような生き物に見える。その諜報員という映画や物語の中のような出来過ぎたキャラクターから、酷く歪な、屈折的で体面的な人間の悪意めいた欺瞞の姿に、憎悪を満たした杦田の方がまだ人間に見えた。

 アバター越しでも、それは変わらない、滲み出る気配がそれを伝えて来る。

「……その物言いは、現実の人の生死を実感出来なくなった、思考停止した者の愚かさだよ。兵士に、そして彼らにあんな非人道的な実験をしたのも、その歪んだ自己欺瞞故か……犯人たちを許すことは出来ないが、君のような人間に懺悔を乞う気持ちなら分かるよ……狙うなら私にすれば良かったともね……」

 疑問を覚える。

 どうして、杦田は自分の妻子を害した犯人に同情などするのか。

 同時に、自分はそれとは別の視点でまた一つの疑問を抱いていた。

 絵本に記されていたことの一つだ。

 あれが現実に起きたことをなぞらえて書き綴られたものであるなら、それは自国に害をもたらした研究者への報復なのだが。

 しかし、いくら現実と同じ感覚が再現され、これまでにない高性能なそれだとしても――

 訓練用のシミュレーター程度、それも、それを使わずとも最終的に通常の訓練でも同じ成果が出るであろうそれを危険視するのか。

 分からない。

「……訓練用のシミュレーターって、そんなに危険な物だったんですか?」

 彼らにとってはそれは愚問かもしれないが、あえてそれをさせて貰った。

 それにジョンが、

「――ああ当然だ。なにせ訓練内容が分れば戦闘技巧も丸裸になる、そうなればこちらが組み立てた戦術に先んじて対策が打たれ、多大な犠牲が生まれ――」

 杦田がそれを即座に否定する。

「――違うだろう? あの訓練は、そんなものではない」

「……非、人道的?」

「……彼らはシミュレーターで本当に訓練したかったのは、技巧ではなく兵士の精神性だったのだよ。絵本にあっただろう? 痛みを忘れさせた盾……彼らが本当に目的としていたのは、私が作り上げた現実と遜色のない感触でのVRシステムで、殺人に対する精神的耐性を得させることだった」

 吃驚する、次の瞬間には、

「そしてそれを、現実で人はどうやって手に入れると思う?」

 戦慄した。そして、そこでこれまで自分が見てきたものを思い出していた。

 リアルすぎる痛みと恐怖、そして、魔物の肉を殴り、切り裂く感覚――

 それが、人間であったらどうだろうか?

 背筋が粟立ち、そして、血を無理やり逆流させたような嫌悪感が心臓に駆け巡る。それを何度も繰り返したらどうなるだろうか?

 殴ることに躊躇いの無い、人が死ぬという忌避を忘れてしまわないだろうか?

「……そうだよ。鷹嘴君、」

 既に、何かを諦めきったような声で、

「私が研究の成果の一部として渡したシュミレーターは、単なる戦闘教練に使われたのではなく、完璧に再現された現実感の中で、殺人を繰り返させ禁忌に対する感覚の麻痺を促しそれを罪悪感なく実行させる為のもの――人を殺さず、人を殺すことに慣れさせ、兵士のPTSDやトラウマを失くす――殺人慣熟訓練だったんだ」

 喉が砂を飲まされたかのようにざらついた。

 戦慄する。それは、

 人を殺しても、心を痛めない、殺人教育ではないか。

「……正気じゃない…」

 良心を痛めない兵士なんて、それこそただ壊れた人間じゃないのだろうか。そんなことをさせようとするなんて。

 繰り返されることで麻痺し、叩けば叩かれただけ歪み、慣れれば慣れるほどより強い刺激でしか、そしてやがて反応しなくなる。

 それはゲームだけでなく、日常の繰り返しの中で、正されることなく育つ――もはや悪意ですらない。

 感情を失くすということはそうではない。一種の無機質さ――

 それこそ、心の無い、物や道具のような、兵器に人を仕立て上げるということではないか。

 自分の震えが奔ったその声に、杦田はほっとしたような声で、

「ああ、その通りだよ。力を持った人間が、もはや殺意すらなくただ目的を持って人を殺せば、それこそただの兵器より質が悪い……人の心を、兵器にする訓練だ」

 言うが、ジョンがまるで用意していたように綺麗な声で捲し立てる。

「――違う! 戦場で、最も傷付きやすい兵士たちを守るために必要な訓練だ! たとえ命令であっても、それに巻き込まれただけで命を奪われる砲火に晒されながら、自分の眼で人が死ぬ様を見ながら、何よりその手で命を奪わなければならない彼らの心を守るための、安全装置だ! どれだけの人間が軍で心を壊して来たか知っているか!? 善意で戦地に赴き正義の為、世界の為としながら現実に降り掛かるそれ以上の罪に――心優しい兵士ばかりが良心の呵責に耐え切れずに悪夢にうなされ壊れていく! 本当に凄惨なそれを君たち戦争を行わない国の人間が否定することは許されない!!」

「それは――」

 疑問する。

 軍隊では銃を撃つとき、それが人を殺すということの意味を教えないのか? それとも有事の際に兵隊の命を守るため、そこをあえて無視させるのか。

 覚悟を持ってそれを握ると事、何も感じずに、それを撃てるようにすることではまるで意味が違う。教えないわけがないだろう。

 それでも耐えられないという現状があるのか。

 しかし、それを麻痺させていいのだろうか? 兵士として生き残れても、人間性が死んでは……それよりもケア技術を考えた方がいいのではないのか。それは、苦しめ、と言うものなのか。ジョンの言うように性善と理想を気取った暴論であるとも思う。

「その上、そして銃を撃つために入ってきたチンピラのような人間ばかりが平然と生き残る。そこで起こるのは軍の悪質な腐敗と劣化だ……その現状を手を拱いてみていろと言うのか!?」

 耐え切れない人間は向いていない――辞めればいい、という訳にもいかないのか。

 撃たれそうなときに敵を思い遣って撃たれて死ぬのは愚かなのかもしれない。

 でも、人の命を感じずに、ただ生きる為にというそれも――

 どちらも、正義の中の狂気や理性の暴走といったそれにすぎないのだろうか?

 罪悪感を捨てるという行為は生きる上での罪深さ――

 業と呼ばれるようなそれを――捨てては――

 良心の呵責を抱えたまま、それをどこかで切り捨てることの必要性――

 どこかで、それらの内のどれを選ぶことになる、というのは分かる気がする。

 だが――

「だから――訓練だけじゃなく、情報を捕捉したテロリストを相手に、実際にその成果を試したというのか?」

 想像した。

 その成果を試すとはどういうことか。

「まさか……実際に、実験したんですか(・・・・・・・・)?」

「……ああ、その通りだよ」

 眩暈がする。つまり、彼らは、心を痛めず人を殺せるかを試すために、人を殺させたのだ。

 信じられない。

 しかし、杦田の眼は嘘を言っている様には見えなかった。ジョンもそれを否定してこない。

 彼らの方が気が可笑しくなっているんじゃないかとさえ思った。

 杦田はそこで、漫然、力無く口を開く。

「……結果は、殺人に対する忌避を取り除き、兵士の心を傷つけずに殺させることに成功したと言っていたよ。もちろん倫理観も失っていない。それなのに生理的なショックのみを和らげ、その後のPTSDや戦闘ストレス反応、戦争神経症などの兆候は予後観察も問題なかった……精神的負担のみを多大に減らすことが出来た、とね。初めてそれを知った私になんと言ったと思う?『ありがとう! 君のお陰だ! 正義感溢れる自国の兵士達の愛国心を保護することが出来た!』だそうだ。――はは……脳をぐちゃぐちゃに掻き回された様な気がしたよ。私は私の作ったもので、人の大切な部分を壊す手伝いをしてしまった」

「……」

 何も、言えない。

 安易な共感や同情はできなかった。

 自分の作りだした技術が、人を殺しても心を痛めない人間を作ってしまった杦田の、筆舌尽くしがたい苦悩に対して――

 実感の伴わない苦悩を想像するしかないのに軽々しく分った風な事をいうことは出来なかった。

 ただ、天秤がほんの少しだけ揺れ始めていた。

 静かに、

「その上それだけには留まらなかった。軍の計画はそこから先に進もうとした。人の意識下に五感を投入しそれを動かし実体を伴う経験をさせることが出来るなら――それを操り、一定以上の訓練と習熟を経た戦闘技術を脳を含めた全身にへ直接登録することも可能になるのではないかとね。それこそ、ゲームのキャラクターが簡単にスキルを得られるように。長い訓練期間を必要とせず、積み重ねた経験の上澄みを意識へと刻めるのではないのかと。もしそれが可能になればごく平凡な人間を一瞬で一流の兵士に育て上げることが可能な夢の技術が誕生する、とね――。……技術が人を狂わせた。人が技術を狂わせる動機を与えてしまった……それも人が最初から狂っていたのか」

 傾き出す――きっと杦田もそうだったに違いない。これはもう凌辱だ。ゲームクリエイターである彼への、そしてその技術への最悪の侮辱だ。

 自分は彼らに冷たい目を向ける。

 そこで彼ら――彼女以外は、まるでバカを見るような眼でこちらのことを別の生き物を

みるような目をしていた。

 まるで、自分達こそが人間らしく正常であるとでもいうようだ。

 静かに、

「私はその研究から辞退した……だが、そこで君たちがしたことこそが……先ほど告げた通りの惨状だ……そこで私は、もし万が一、そちらの手落ちで身の安全を害された場合の違約事項に則り、物言わぬ身体となった妻と、娘と帰国し、改めて本業に戻った。政府の管理下にある企業ではあるが、そこで研究成果を使っての仮想現実世界を作り始めた」

 爆発性の液体を心臓に溜めて行く。

 彼らにしてみれば、金の卵ならぬ銃弾を生み出すそれに見えたのかもしれない。でも、彼らがしたのはただの裏切りだ。

 国民意識に選民思想染みた優越感を欺瞞し、傲慢に満ちた悪意――しかしそれさえ、彼らにとっては正当な報復と制裁、教育行為のつもりだったのだろうか?

 もう、怒りを通り過ぎて、憐れみすら催してきそうだ。

 彼らの事を笑わないように、表情を消し、自然な笑みのように頬を佇ませる。

 彼らはまるで不気味な物でも見たように、一瞬こちらに目を向けた。しかし、気の所為だったというように、また自らの優先順位に従い杦田を注視する。

 そして彼は告げて行く。

「……ただ――私の家族の警護も含め、その命令を出した者は行き過ぎた正義感と愛国心を暴走させたその責任を問われ、局員としての立場を放逐されたその一人が……」

 

「ジョンスミス……いや、本名ニコラス・ワイズマン。CIA局員改めいまはフリーの、ただの諜報員……今もまた勝手に立ち回り、なにをしようというのかな?」

 思わず、静かに後ろ足を引いていく。

 仮想世界にも拘らず、それは現実で、心の距離として開いていた。

「……いいや。私は今も局員としてそこに所属しているよ、免職は外部活動をする際のありふれた常套句だ。……そして今も私は我が国の、いや、世界に保障されるべき、市民の安全と平和の為に尽力しているにすぎない」

 本当にそうなのだろうか。薄ら寒い絵空事に聞こえるのは気のせいか?

 彼らの仲間も同じなのか。

 その肩書が嘘なら先日、自分を拉致しようとしたのは演技ではなく、本当にただ拉致しようとしていたのではないのか?

 杦田は、もはやそれを害虫でも見る様な目を向けている。

 そしてそれでもジョン――否、ニコラスはその表情を崩すことなく雄弁的な態度で居続ける。

 その余裕は一体何なのだろうか? 

 これまで、彼は杦田の技術を欲しているわりに、直接的な交渉は行っていない。

 最低限、何かのマニュアルに則った要求こそすれ、妥協の仕草も、相手の要求を引き出そうともしていない。

 何をしようとしているのか。あくまで体面を保ち説得を続けているようなのは何故なのだろうか。

 杦田や開発陣でなければシステムを扱えないから、機嫌を取ろうとでもしているのか。

 そうは見えない。

 それに訓練用に限ったものとはいえ、このVRシステムは彼らも持っている筈だ。

「だから、君たちが使っているサーバーを速やかに封印し明け渡したまえ」

 その上で何故今更、ゲーム用のサーバーとシステムの接収を要求しているのか。

 それとも何らかの情報を彼から引き出すため、迂遠な誘導尋問をしているのか?

 矢継ぎ早にあふれる疑問と焦燥感が募る中、

「――しかし、私の作ったゲームに君の言う危険性は存在していない。君が想像しているそれは誇大妄想だよ。何か実証を、再現性を伴った科学的根拠と証拠を是非とも突き付けてはくれたまえ」

「――確かに、VRシステムを使った洗脳に関しては何の証拠もないかもしれない。こちらが保有している訓練機の、殺人への忌避の取り払いも、あくまでシミュレーター内での反復行動による鈍化作用だ。しかし誤魔化さないでいただきたい」

「何をだね?」

「……あなたは途中まで、その戦闘技能を意識下へ転写する技術の研究に参加していた」

「君たちの口車に乗せられてな……ああ、反吐が出るよ……」

「だから、最終的には我が国での件の研究を拒み――」

一息、

「……しかし、この国でゲームの開発をする振りをしながら……その研究を、完成させたのではありませんか?」

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