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バレンタインチョコレート
機会はあった。隣りにいるのが当たり前で、でもそれに甘えて、本音を伝えることができなかった。時間は砂をこぼすように過ぎ去り、先輩は卒業してしまう。
だから、デパートの戦略に踊らされているといわれようが、なんといわれようが準備したのだ。
とびっきりのチョコレートを。
手編みのマフラーとともに。
一番素直で、一番勇気のいる言葉を用意して。
「──はい」
「え?」
と先輩から渡された、ハート柄の包み。
「しっかり区切りをつけたくて、曖昧なままはイヤだったんだけど、どうにも言い出せなくて。みんなにハッパかけられたから、さ」
「え、あ、え?」
「あのさ」
先輩が私の名前を呼ぶ。
「好きだよ」