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胡瓜の浅漬け
今でも覚えている。結婚前の挨拶で俺の何気ない一言。
「佳菜子もばーちゃんみたいな漬物、作ってくれたらいいのに」
そう言った瞬間に、祖母が拳骨で俺を叩いた。
「あんたはバカか。味は家で違う。人で違って当たり前。結婚は延期だよ! あんたは花婿修行だ」
「へ?」
「今時、男が飯ぐらい作れなくてどうするって言ってるんだよ」
有無を言わさぬ祖母に面食らう。そんな祖母もこの夏に亡くなった。享年84歳。大往生だった。
「はい」
と佳菜子が胡瓜の浅漬けを置く。俺は目を点にした。
「おばあちゃんが教えてくれたの」
さっくりとしながらも甘酸っぱい祖母の味に、視界が自然と滲んでしまう。
ばーちゃんが大好きだったんだ。