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Kamelie  作者: ariya
::3 海岸の商人::

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31/56

3.逃げた少年

 朝早くに準備を終えた後ヴィルはクラウディオと5名の狩人を伴い館を出立した。椿はまだ眠っているようでありあえて起こさずにおこうと考えた。

 行く先は港からそう離れた場所ではない。積み荷を収拾するための建物が集まる地区の一部であった。その中に食肉を捌く建物がありクラウディオはここが密売の商品の保管庫であると告げた。


「いたか………いや見つからない。急げ」


 目当ての建物から二人の男が飛び出し何かを言い合っているのがみえた。

「人数の方はどうだ?」

 物陰から覗き建物内の配置についてクラウディオに聞く。

「出入り口は三か所、そこに見張りが二名、中に十五人。うち五人の調教師いて躾をしているとか。その調教師がなかなかがたいがいいから一戦するとなれば少し骨がいりそうだ」

「そうか」

 ヴィルは指示を出し見張り番をしている者を潰した。一人は今立ち去った二名を追わせる。その間に中に入り、充満する血の匂いに顔をしかめた。

「なんだ貴様は」

 奥の方からにゅっと大男が現れた。確かにクラウディオの言う通り骨がいりそうだ。

「今からここは俺たちの管轄下に入った。奥にあるものも没収させてもらおう」

「何ぬかしてやがる。ここはただの食肉の解体場だぞ」

「表向きはな」

 男の太い腕がヴィルの方へ襲い掛かってくるが、ヴィルはそれをかわし男の足に蹴りをくらわせ体制を崩させた。その行動は一瞬のことで男は何が起きたか理解できないようであった。

 その間、ヴィルがひきつれた狩人たちが他の密売者を捕らえ拘束していった。

 確かに建物の中は食肉の解体場であった。獣の血と肉の匂いが充満している。だがそれはごまかしでしかないというのもわかっていた。

 建物の奥の部屋へといくとそこにはいくつもの檻がぎっしりと並んでいた。

 どれも滅多にみない異端と呼ばれる生き物たちであった。一つ目の鳥、尾が何本もある獣、角の生えた人が収容されていた。そしてどれもまだ力が発揮できない幼少の者たちであった。

 物心つく前に捕らえ、逆らえないように調教した方が丁度よいのだろう。

 中には嗄れた声で威嚇する獣もいるが、どれも疲れ果てているようにみえた。中には人の姿をした少年少女が奥の方で怯えた表情でこちらの様子を伺っている。何人かは血だらけの包帯を手足や頭に巻きつけられておりどのような扱いを受けているか想像できた。

「これだけの数を本部に届けるのには時間がかかるな………早めにこれを報告し人手を送ってもらおう」

のだ。

 保護された異端は組織の決められた区間で管理される。世間に混乱を与えないために必要な措置であった。

 ここをきちんと管理できるだけの人員がくるまで面倒をみるのが自分の役目であった。

 本部の人間であるヴィルヘルムの報告であればすぐにフローエ夫人の手元へ届きしかるべき場所へ人員を補填してくれるだろう。その必要があると判断され、ヴィルヘルムが派遣された

「ヴィル、さっき外にでていた二人も確保済みだよ」

「そうか」

 それを聞きヴィルはようやく緊張を解した。


「あ、の………」


 檻の奥から小さな声がした。

「ぼくらをどうするの?」

 その表情には恐怖の色がみえた。特徴を見れば見覚えのある種族である。本部にすでに届け出されている者たちで、技術や知恵を与えてくれる代わりに政府の庇護を行うことになっている。異端者の中では比較的人と友好的な者たちである。

「安心しろ。ある程度調べがつけば元の親元へ戻してやる」

「帰れるの?」

「ああ、その前に色々手続きが必要になってくるが」

 それを聞きほっと安堵した。

「ねぇ、あの子も早く助けてあげて」

「あの子?」

 突然ふられた話題にヴィルは首を傾げた。

「うん、ここから逃げ出した子がいるの。酷い怪我を負っていたんだけど、調教師を噛み殺して逃げ出しちゃった」

「………」

 ヴィルとクラウディオはお互いの顔を見合わせた。そういえば、この建物から飛び出した人たちは何かを探しているようであった。逃げた奴隷を探しにいったのだろう。


 一体、どこに。



 フローエ夫人の別宅で留守番をしている椿は庭の中で過ごしていた。使用人から好きなように庭を散策してもよいし気に入った花があれば摘んで差し上げると言われた。

「綺麗」

 赤い薔薇の花が咲く庭で椿はうっとりと見とれていた。

「お茶の準備が整いました」

 女の使用人に声をかけられた。名前はカティという。

 椿は彼女に案内されるままガゼボへ向かった。

 ガゼボの下のテーブルには淹れたばかりの紅茶と焼き菓子が並んでいた。

「ありがとうございます。あの、私も何か手伝いをさせていただけないでしょうか」

「とんでもありません。椿さまは奥様の大事なお客さまであり、しっかりもてなすようにおおせつかっております」

 カティは頭を横に振って必要ないと繰り返した。

「ですが、いつまでも客人のままというのも」

 そろそろ簡単な言語は身についたのである程度のコミュニケーションは可能である。まだ人と話すのは慣れないのだが、それでもいつまでも何もしないままでいくわけにはいかない。

 昔は何もしなくても村の人たちが自分のために食物を届けてくれたが、ここは故郷でもないのだ。いつまでも誰かに施してもらえると思ってはいけない。何かできることがあれば遠慮なくいってほしいというと使用人は気にしないでくださいと椿を椅子に座らせた。


「美味しい」


 お茶を飲むと身体の中がじぃんとあたたかくなる。匂いも故国のものと異なり思っていた味と異なることではじめは驚いた。


 ああ、そういえば。


 ふと先日行った東海の品物を揃えた店を思い出す。あそこにもお茶が置かれていたと思う。椿の故郷と似たお茶が。といっても自分の身で購入することはできない。お茶は東海でも高級なものであり、なかなか手に入らないものだったのだ。今の自分は居候の身であり、故国のお茶が欲しいなど言える立場ではない。


 かさり。


 薔薇の園から草がこすりあう音がした。その音は何かが通りかかり草を踏み、草木に引っかかる音であった。

「子犬でも迷いこんだのでしょうか」

 使用人は首を傾げ、音のした方へと向かった。野犬であろうと主人の留守を任された者として侵入者を許すことはできない。そういった面持ちで椿は気になり、席を立った。

 使用人の制止の声が聞こえたが、椿は構わず音の方へと迷わず突き進む。

 薔薇の木々をいくつか抜けたところで黒いものがそこに落ちていたのを発見した。はじめは何かわからなかったが、よくみれば汚れた衣に身を包んでいた十歳程の子供であった。

「大変。大丈夫?」

 椿は迷わず子供に駆け寄り抱き寄せた。酷く熱い、高熱にうなされているようだ。手足をみると打撲痕が多い。それを見ただけで椿は少年は酷い環境にあったのだと察した。

「う、ん」

 少年は薄く瞳を開き椿を見つめた。見たことのないバター色の肌に艶やかな黒髪に少し驚いた表情を浮かべそのまま瞼を閉ざした。

 椿は急いで少年を抱え上げ、使用人に声をかけた。


「お湯と清潔な布をっ。急いで」


 カティが何か言う前に椿は指示を出し、少年を自分の部屋へと連れ込んだ。

 少年の服を全て脱ぐと胴体にも酷い傷跡があり、眉をしかめた。

「ひどいわ」

 汚れた衣類は捨てて、お湯に清潔な布をつけ少年の体を拭った。傷口に砂や小さな石が付着していれば何度も布で軽くあてて取り出す。

 カティにも手伝ってもらい少年の身はある程度綺麗になった。

「ごめんんさい。勝手にいろいろ指示してしまいました」

 落ち着いた頃に椿はカティに頭を下げた。

 ここは椿の館でもないし、ヴィルの館でもない。

 フローエ夫人の別宅なのだ。主人のフローエ夫人がそのように使用人たちに命じたおかげなのか、彼女はいやな顔をせず椿の言う通りに動いてくれた。

「よいのです。椿さまがそう望まれるのであればそのようにするのも私の務めですので」

 なんということもないとカティは笑ってくれた。

「それに、このような小さい子供をみていたら弟を思い出しちゃって」

「弟?」

「ここよりもっともっと山奥にある田舎村に置いてきたやんちゃ坊主です」

 彼女は優し気に微笑んだ。

「何か食べ物をもってきましょう」

 果物であればすぐに準備できる。

「ありがとう………ええと、カティさん?」

 名前を呼ばれカティはあらと嬉しそうに笑った。

「覚えてくださったのですね」

「え、と覚えていたのですが………うまく発音できなくて」

「お上手ですよ。また気軽に呼んでください」

 そういい彼女は部屋を去った。

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