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Kamelie  作者: ariya
::2 古城の怪物::

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12.同じ者

「……………ん……っ………」

 椿はようやく目を覚まし、見知らぬ天井に首を傾げた。

「こ、ここは?」

 椿は見ず知らずのベッドから自身を起こし考えた。

 確か、私はパーティーに行って、粗相をしてしまってホールから建物から飛び出し……。

「っう………」

 椿は先のことを思い出し、唇を手で覆い隠した。

「私、……会って間もない殿方と……」

 普段ならば顔を真っ赤にするところだが、今回はおぞましいと顔が真っ青になった。

 突然、扉が開き椿はびくりと身を震わせた。

 部屋の中に入って来たのは例の金髪の美青年。彼は椿が目を覚ましているのに気付きにこりとほほ笑む。手にはワイン瓶とグラスを二個手にしていた。

「あ、目を覚ましたんだね?」

「あ、あなたは………」

「ハンスだよ、さっき話したでしょう? 顔色が悪いね、大丈夫。お酒よりも水を持ってこようか」

 椿はふるふると首を横に振った。そう、と言いながらハンスは部屋の灯りを灯した。

 灯りがついてはっきりと見える部屋の中をツバキはぐるりと見回した。

「こっちへおいで」

 ハンスはテーブルの上にグラスを置きワインの栓を抜いた。

 二つのグラスに赤いワインを注いだ。そして、片方を椿に差し出した。

 椿はベッドから起き上がり、ハンスの方へとおそるおそる近づく。

 そして、このグラスを受け取るべきなのか悩みじっと立ち止まった。

 ハンスはツバキの手を取り、ワイングラスを持たせる。そして自分の分を持ちそれに乾杯した。

 なかなかワインを口にしないハンスはワインが駄目なのか尋ねた。

「毒は入っていないよ」

「いえ、そういうわけでは………」

「あ、お酒よりジュースの方がいいかな?」

「わ、私は子供ではありません」

「そっか、見た目は僕より若い、というより幼いから………でもそうだね。魔女は見た目よりうんと長く生きているようだし」

「…………」

 ツバキはぐっとワインを一飲みした。自分の国の酒とは異なる甘い香りに一瞬ぼうっとしてしまった。

「ねぇ、君は………いくつかな」

「…………」

 答えようとしないツバキにそうかとハンスはすぐに納得した。

「女性に年を聞くものじゃないよね。でも、本当にどこからどう見ても十代の女の子にしか見えないからどうなのかなってあ、ひょっとして見た目通りの年齢だったとか?」

「いえ………もう数えるのを忘れましたので」

 もはや年齢を数えても意味がないと思ったツバキは800歳を境に数えるのをやめてしまった。ずいぶん昔のことだ。

「そっかぁ………へぇ、それだけ長く生きているんだ。ねぇ、どうやって魔女になったの? 悪魔と契約したの?」

 突然示された彼の瞳の輝きは好奇心旺盛な少年のものでツバキは戸惑ってしまった。

 先ほど背筋がぞっとさせたほどの青年とは思えない。

「…………」

「ごめんね。僕、魔女に会うのが初めてですごく興味があったんだ。ずっと会いたかったから。僕と同じ化け物に」

 最後の化け物という言葉にツバキは目をぱちくりさせる。

「あなたが………化け物?」

 どこからどう見ても普通の青年だ。ハンスは照れながら頷いた。

「うん………僕みたいなのはずっと一人だと思っていたから君に会えてすごく興奮しているんだ」

 初めて会った時と随分雰囲気が違い、まるで無邪気な子供そのもの。とても嘘をついているようには見えない。

「僕は普通の人間よりもちょっと丈夫でね。ちょっとやそっとでは死ねないんだ。大きな怪我をしても少し休めば全然平気だし、腕がもげても繋げてしばらく安静にしてれば機能的には問題なく回復してしまう」

 思い出したように自分の方に指をさして言った。

「あと、僕は20年間ずっとこの姿のままなんだ」

「20年……」

「うん、普通なら40代くらいの姿になっているよね?」

 でも、自分は普通と違うから老けることがないんだとハンスは微笑んだ。

「ホムンクルスって知っている?」

「いえ………」

 知らないというツバキにハンスは教えてあげると物知りの子供のような口調で説明し始めた。

「人造人間のことだよ。フィクション物語ではフラスコの中に人間の性液や薬草と人間の血でようやく生まれた人工人間なんだって。僕が生まれた材料とはちょっと異なるけど、父さんは僕をホムンクルスのようなものだと言っていた」

「お父……さま?」

「うん、僕を作ってくれたお父さん。」

 ハンスは悲しげな表情で昔のことを思い出して椿に話した。


 ―――お父さんは死んでいしまった兄さんの身体とたくさんの人間の身体を繋ぎ合わせてようやく僕を作ったんだと言った。

 僕をはじめ兄さん……ハンスっていう人の蘇った姿だと思ってハンスと名付けたんだけど、しばらくしてようやく冷静になって僕がハンスと違うというのを理解していた。

 それでも、彼は僕を新しい息子・ハンスとして愛してくれたよ。他の科学者は僕を化け物扱いしたけど、父さんはいつも僕にいろいろ教えてくれた。

 僕が本に書いている通りの実験を成功させたらいつも跳びはねて喜んでくれた。『ハンス、お前は優秀な子だ、さすが私の息子って頭を撫でてくれるんだ』てね。僕はそれがとてもうれしくてたくさん勉強して、たくさん実験を試してみたんだ。

 いつのことだったか実験に失敗して、大きな爆発を起こしてしまったんだ。

 その音に父さんは実験室に飛び込んできて僕に無事か無事かと何度も尋ねて僕の身体をさするんだ。

 さっきも言った通り僕はすごく丈夫で、あれくらいへっちゃらなのに変なのって首を傾げたものさ。

 でも、その時の涙を流す父さんの姿を見ているとなんだかとても心が痛んでね、それから実験には細心の注意を払うようにしたんだ。

 父さんは僕の父親で、先生で、はじめての友達で、愛しい人。―――


「だけど、死んでしまった。僕にこの城と家を残して………」

 ハンスは寂しげに呟いた。本当に大事な人だったというのが椿でも感じ取れた。

「死ぬ前に何度も僕に謝って来たよ。お前を一人にしてすまないってね。そして僕に言ったんだよ」\

 お前を一人にしないお前と同じ存在・魔女を嫁にしろ。

「だから僕は魔女を探していたんだ。魔女のお嫁さんをね」

 ハンスはテーブルの隅に置いていた本を取りだしてぱらぱらと捲った。その一ページは箒に乗った老婆の絵があった。

「でも、魔女って本で読んだ程度しか知らないでね。どうやったら会えるかなって思案したんだ。いっぱい人を集めてそこから魔女を探そうと思った」

 だから、父さんと一緒に僕を作ったクルーケンベルグ男爵の子供にお願いしたんだ。

 僕に相応しいお嫁さん探しに協力してと。

「だから、お嫁さんを見つけたら一番に父さんに紹介するんだ。もう冷たい土の中にいるけど、その近くに寄って言うんだ」

 父さん、この人が僕のお嫁さんだよ。僕とずっと一緒にいてくれる人だよって。

 子供のように無邪気に笑うハンスを見て彼は純粋に父を愛しているのだと感じた。

 ツバキはふと思い出す。己の父を………こんな身体になっても死ぬまで私の行く末を案じてくれた人を。

「……………」

「ああ、ごめん。僕ばかり話してしまったね。ねぇ、君の名前はなんていうんだっけ? 一度聞いたけど忘れてしまった」

「椿………」

「ツバキ……へぇ、ねぇ、東海の人は文字ひとつひとつに意味をこめているんでしょう?それはどういう意味がこめられているんだい?」

「特に意味は………花の名前です」

 椿という意味の単語を伝えるとハンスは納得したように頷いた。

「へぇ、素敵な名前だね。僕、あの花好きだよ」

 椿はヴィルからもらった花の髪飾りに触れようとしたが、ないことに気づき目を見開いた。

「?………どうしたの」

「あ、あの……赤い花の髪飾りを知りませんか?」

「え?さぁ………あ、君を運んでいる時に落としちゃったかも………」

「…………」

「あの花がどうしたの?」

「いえ、大事な方からいただいたものなので……」

 悲しそうにうつむく椿を見てハンスは悪いことをしたなと謝った。

「そっかぁ、ごめんね。お詫びに新しい髪飾りをそのうち買ってあげるよ」

「いえ、結構です」

 代わりの物など必要ない。あの髪飾りが良いのだ。

「…………ねぇ、話を戻すけど君はどうやって魔女になったの?本の通り悪魔にキスをしたの?」

「いいえ。私は人魚の肉を昔食べてしまったのです」

「人魚?へぇ、すごい……人魚って本当にいるんだ?ああ、でもいても不思議じゃないよね。だって現に僕らみたいな化け物が存在しているんだもの」

「…………」

 ツバキは何故、自分をこんな所へ連れてきた者にこんなことを話しているのかわからなかった。おそらく初めて出会った自分と似た者だからつい口が開いてしまうのだろうか。

「私の国では、人魚を食べると不老不死になるという言い伝えがあり、私のいた土地の近くの漁村で人魚がとれたんです。みんなで食べようと調理して宴の席を設けられたので………」

「みんなはそれを食べたの?」

「いえ、みんな気味悪がって食べませんでした。その宴で何も知らない父がその料理をお土産に持って帰って、私は……その、食い意地がはっていたので食べてしまったのです」

「ああ、君……パーティーホールでよく食べていたよね。こんなに小さいのによく食べるなぁって覚えているよ」

 ハンスの言葉に椿はかぁっと顔を赤くして、ハンスはその反応をくすくすと楽しんだ。

「私が食べたものが人魚の肉と知ったのは翌日のことでした。何も教えないまま食べさせようとしたことに罪悪感を感じた村人が父に知らせて、父は真っ青になって私を見つめたのです」

「ふぅん………そうか。本で読んだ魔女の話とはだいぶ違うけど、君が不老不死であるのには違いないんだね」

「…………」

「良かった」

 ハンスはツバキの手を握って真剣な面差しで言った。

「椿、僕のお嫁さんになってよ」

「いえ、私は………」

「僕は父さんと約束したんだ。ずっと僕を一人にしない僕と同じ存在と一緒になるって。でも、君が本当に僕と同じ不老不死か今の話とさっきの治癒能力だけではわからない。確実に君が僕とずっと居られるか知りたいな」

「確実に?」

 どういう意味だろうかとツバキは首を傾げた。そんな彼女の手を引きハンスはある部屋へ連れて行こうとした。

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