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Kamelie  作者: ariya
::2 古城の怪物::

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10.男爵の証言

 クラウディオはため息をつきながら、ヴィルの様子を眺めた。一応さっき他の報告もしてみたが果たして聞いているのか心配になっていた。

 だからといって彼を責めることはできない。

(まぁ、今回は俺も悪かったと思う)

 ヴィルが即座にツバキを追いかけたので、ヴィルに任せようと判断し例の椿を罵倒し追い出した貴族の娘に探りをいれたのだ。それをせずハンスの方へ注意を向ければよかった。

 一応、クラウディオはフローエ夫人に目配せをし、彼女にハンスの見張りを彼女に任せていたのだがすぐに見失ってしまっていた。

 ヴィルたちのいる部屋に一人の女性が近づいて行った。使用人が慌てて制止した。しばらく誰も部屋に近づかせるなと指示されていたからだ。

「あ、フロイライン。失礼ですが、そちらは」

 ヴィルの追っかけの貴族の娘だろうと思い使用人はその部屋に入らないように願い出た。それに彼女はくすりと笑った。

「私は彼の知り合いよ。そしてこちらにいらっしゃるフローエ夫人の教え子でもあるのよ」

「しかし………」

「怪しい者じゃないわ。私は―――」

 その名を聞いて執事は失礼致しましたと詫び、部屋へ通した。ありがとうと彼女は微笑み、部屋の扉にノックした。

「はい、どうぞ」

 フローエ夫人がそう言うと扉は開き外から美しい娘が入ってきた。フローエ夫人はその姿を見てにっこりと微笑んだ。

「あらエヴァさん、お疲れ様でした。今はこの通り、指示通り待機中です」

「ええ、ヴィル坊が頼りないから私も一応同席させてもらうわ。あと、公爵から言われて東海の美少女の様子を見に」

「それがね、あまりに可愛すぎて誘拐されちゃったの」

 夫人の困った顔にエヴァは頷いた。あまり驚いた様子はなくひどく落ち着いていた。

「あら? 今日は一段と怖いわよ、ヴィル坊」

 ヴィルはぎろりとエヴァを睨みすえ応えた。

「うるさい。今はお前と口論している暇はないんだ」

「まぁ、怖い。心配して来て上げたのに、今回の仕事はヴィル坊には荷が重いのではと思って来たのだけど………」

「何だよ」

「ちょっとあなたには失望したわ。あなたがいながらまんまとフランケンシュタインに獲物を取らせてしまうなんて」

「………」

「あと、何動揺しているのかしら。それでも騎士なの?」

「わかっている」

「わかってないわ」

「…………」

 冷たい空気が辺りを包んだ。それをクラウディオとフローエ夫人は苦笑いしていた。

 突然、部屋に入ってきた美女の名はエヴァ・フェルンバッハ。フェルンバッハ子爵家の三女であり、幼い頃はフローエ夫妻の元で勉学を収めた。

 謂わばヴィルの姉弟子である。

 実際二人が会ったのは五年前ヴィルが王都にやってきたときであった。まともな会話を交わしたのは銀の騎士の称号を与えられた二年前であった。

 彼女は彼よりもニ年前にその称号を与えられており、職場の先輩でもあった。共に仕事をこなすこともある。彼女の方がヴィルより三つ年上の為、エヴァはヴィルのことをヴィル坊と呼んではからかうことが多かった。ヴィルはその呼び名は嫌でたまらないが、何度いっても無駄だとわかり今は諦めていた。

「ベルンハルト公爵が聞いたらさぞがっかりするでしょうね。まだ碌に仕事をしていないあなたを高く評価していらしたから」

「碌に仕事って……やっただろう、つい最近!」

 それは椿を始め異端者が載せられた奴隷船を調査したときのことであった。それ以降もこまごました仕事はやっていたが、最近の大きな仕事はあれだった。

 ヴィルとエヴァが口論を続けようとしたとき、ノックが響いた。ヴィルがどうぞというと部屋に壮年の男が入ってきた。この館の主人であるクルーケンベルグ男爵であった。

「失礼いたします。長くお待たせしました、エーデルシュタイン殿」

「……いえ、私の方こそ突然申し訳ありませんでした、クルーケンベルグ男爵」

 ヴィルは立ち上がり男爵に挨拶をした。クルーケンベルグ男爵はヴィルにソファに座るように言い、自身も向いのソファに座った。

「さて、ご用件というのは」

 ヴィルは胸元から何かを取り出しそれをクルーケンベルグ男爵に示した。

 男爵はそれを見て感嘆の声をあげた。

 それは十字に、中央には両翼を広げた鷲が装飾されたチェーンのついた銀のエンブレムであった。

「いやはや驚きました。本当に存在するとは銀の騎士様」

 ヴィルが示したものは王府直属の特異現象対策組織の人間という意味。しかも、ヴィルは鷲のエンブレムを持つというのはその組織内でも銀の騎士の称号を得ているという証であった。

 その組織の歴史はまだ浅いのだが、噂による数多くの怪事件を解決したことから国王から得られた信頼は絶大であった。その為数多くの権利を保障されている。

 だからこそ同時にこうとも噂されている。彼らの協力を拒むことは国王を拒むのと同意と。

「男爵には協力をお願いしたい」

「おやおや、このような田舎貴族でも役に立つのであれば喜んで………一体何の特殊な事件なのでしょうか?」

「特に特別というわけではありません。例の貴族のお嬢さんが三人失踪した件です。三人ともこのパーティーに出席していたといいます」

 その件を持ち出され、男爵は口を閉ざした。しばらくしてようやく口を開いた。

「………何度か捜査が来ましたが、まさか今回は銀の騎士様までがおいでになるとは」

 男爵はやれやれと困り果てたように呟いた。

「よろしいでしょう。私も娘を持つ身、大変心を痛めております故」

 ヴィルはその言葉に感謝の意を述べた。

「では、三人の娘はこのパーティーに出席していたというのは間違いありませんね」

「ええ、間違いありません。三人ともとても美しく利発なお嬢さんでしたので私もよく覚えています。しかし、彼女たちが失踪したのはパーティーがお開きになった後。つまりパーティー会場から帰ったときらしいので私はそこまでは………」

 最後まで言わないクルーケンベルグ男爵に代わり、ヴィルが調査で知った事実を続けて言った。

「ええ、すでに警察からの調査書で確認済みです。彼女たちは馬車ごとパーティーから帰る途中に喪失した」

「私の知りえる情報はここまでですよ」

 クルーケンベルグ男爵は肩をすくめながら申し訳なさげに言った。

「さて、では娘たちのパーティーでの様子……は私は把握しておらず。使用人たちを呼びましょうか。知っている者はすでに警察に供述いたしました」

「それは必要ありません。すでに聞いていますので」

 ヴィルの言葉にクルーケンベルグ男爵はにこやかに笑った。

「でしたら私はもうお役御免ですね、お役に立てずに申し訳ありません」

 ヴィルたちにお帰り願おうと言う男爵にヴィルは即座に新たな題を出した。

「では本題に入らせてもらいましょう」

 クルーケンベルグ男爵はヴィルの言葉に首を傾げた。本題は例の三人の少女ではなかっただろうか。

「男爵、あなたの父・クルーケンベルグ家先代当主についてです。彼はかつて………フランケンシュタイン家と共同研究を行っていたですね」

「………それが今回の件と何か関係が?」

 さて、とヴィルは笑って誤魔化す。上からの指示でこれも聞いて来いといわれているので何ともはやとだけ言い、クルーケンベルグ男爵は怪訝な面持ちで質問に応えた。

「確かに父はフランケンシュタイン男爵と共同研究をしており、その内容は公然とされませんでした。故に面白可笑しく噂を立てるものもいました」

 その噂の内容は堕胎した女性や嬰児の死体などを使って実験を行っていた、墓を掘り起こして死体を漁った、売春婦や奴隷を国内外から買ってきて人体実験を行ったなど様々だった。

「ええ、大変だったようですね」

「ええ、父の話によると二回ほど銀十字を名乗る者がやってきたらしいです。噂の真偽を確かめに」

「噂の真偽はただの噂と片付けられていますね。証拠不十分ということで」

 つっと口の端を持ち上げ最後の部分を強調して言うヴィルにクルーケンベルグはまた訝しんだ。

「何が仰りたいのです?」

 ヴィルはくすりと笑って、クラウディオの方へ振り返った。クラウディオは頷き即座に何枚もの綴じられている書類をクルーケンベルグ男爵の前に置いた。

「これは」

「ここにいくつか私個人で調べたものがあります。どうぞ、目を通して下さい」

「………っ」

 手を取る前にその書類の上部の部分を見てクルーケンベルグ男爵は青ざめた。その書類の上に一枚の写真が共に綴られていた。

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