序.おとぎ話
―――むかしむかしのこと。
さる漁村にてたいへん珍しい物が網に引っかかりました。
それは半身魚でありましたが、半身は人―――人魚だったのです。
人魚を食べれば不老不死になれるという言い伝えがありましたので、村人たちは興味を持ち調理をしました。
宴の席にてさぁ食べようと思いましたが、いざ食べるとなると突然気味悪く思い誰一人食べようとはしませんでした。その場にいた者たちは食べたふりをして海へ捨ててしまいました。
唯一捨てなかった者は出された品が人魚の肉とは知らされなかった豪族の男でした。
たいへん珍しいご馳走と聞いた彼はすぐ食べてしまうのは勿体無いと思い、包んで持って帰ってしまいました。
部屋に持って帰った料理を置いた豪族の男は酒を取りに部屋を出ていきます。彼が戻ってくるまでの間に豪族の娘が部屋の中に入って来ました。
彼女は部屋の中にあるご馳走に興味を持ちました。そして、一口だけなら良いだろうと思い食べてしまいました。
それは大変美味であり彼女は歓喜し一口だけと思っていたのに次から次へと料理を口に運んでしまいます。
父親が部屋に戻って来た時には彼女は料理の全てを食べてしまいました。
それから娘は年を取らなくなりました。肌は十代の時のまま艶やかで、白く美しい。姿形も若い娘の姿のままです。
彼女の異変は姿形だけではありませんでした。怪我を負っても傷はすぐに綺麗に治ってしまったのです。