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Kamelie  作者: ariya
::2 古城の怪物::

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5.赤い花の飾り

「………っ」

 目を覚ました椿は自分の寝室であることを確認した。おもむろにベッドから起き上がり、時計を見つめてぎょっとした。

 時間が予想以上に進んでいた。

 もうヨーゼフが朝の支度をすませてしまっている頃であった。

「いけないっ」

 椿は急いで洋服に着替え、身を整えた。そして急いでダイニングへと駆け込む。

「おはようございます」

「あ………おはようございます」

 ダイニングにてヨーゼフがにっこりと微笑み挨拶をした。すでにテーブルには朝の支度がすまされている。

 それを見て椿はしゅんとした。

「すみません。寝坊をしてしまって」

「いいえ、丁度朝餉の時間です。呼びに行かずにすんで助かりました」

 椿としては彼の朝の手伝いをしたかったのだが、ヨーゼフは気にすることないと言った。ヨーゼフとしては椿はヴィルの大事な客人であり、使用人ではないのだ。

「おはようございます。旦那様」

 ヨーゼフは後からダイニングに入ってきた館の主人に挨拶をした。ヴィルはヨーゼフに挨拶をし、自身の席についた。

「どうした。早く座れ」

 なかなか座ろうとしない椿にヴィルが声をかけた。

「ええと、………」

 せめて他の手伝いを椿は探そうとした。

「テーブルマナーのチェックがしたい。座って食事を取れ」

 ヴィルはそう言い、ヨーゼフに目配せをした。ヨーゼフはすぐに応じ、椿を席に座らせた。

 チェックという言葉に椿ははっとした。

 もうすぐあるパーティでは当然食べ物も出てくるだろう。その際の食べ方もマナーというものがある。ヨーゼフにだいぶ教えられたとはいえ、果たして外に出ても良いレベルだろうか椿にはわからなかった。ヴィルはそれを自分で確認したいというのだ。

 椿は緊張しながら朝の食事をとる。固い表情であるが、ある程度所作は身についているようであった。

 まぁ、これくらいなら大丈夫だろうとヴィルは考え、次の話をした。

「食事が済んだらダンスの練習もするからな」

「え?」

「叔母上に言われたんだ。椿にダンスを教えろと」

 本当はクラウディオに任せてしまおうと思ったが、昨日立ち去る間際にフローエ夫人から釘を刺されたのだ。一応自分の客人として連れまわすのだから自分も面倒をかけるようにと。

 ヴィルからの申し出は思ってもいないことで椿は少し動揺した。

「俺が教えるのは不安か?」

「いえ、嬉しいです」

 そう椿は笑った。


   ◇   ◇   ◇


 ダンスの練習の為に玄関の広場を利用した。練習を始めて三日程経過し、だいぶ基本的なステップを椿は覚え込んだ。あとはリズムに合わせて一緒に踊る実践なのだがなかなか進まなかった。

 覚えたての慣れない足の動きに椿はついていけずヴィルの足を踏んでしまった。

「も、申し訳ありませんっ」

「いや、大丈夫だ。気にせず続けろ」

 ヒールがついた靴で踏まれて痛くないはずないのにヴィルは顔色を変えずにそういった。

「今のはヴィルが悪いな」

 二人の様子を眺めていたクラウディオが口を挟んだ。その言葉にヴィルはじろっとクラウディオを睨みつけた。

「お前は今ごろ起床か」

 居候でありながら良い身分だなとヴィルは皮肉った。それにてへへとクラウディオは悪びれもしないで先ほどのコメントの続きを言った。

「ヴィルのテンポが少し早かった。それで椿が慌てて……て具合だよ」

 確かに椿の足取りが少し自分に比べて遅いなとは感じていたが、ヴィルとしては早くしたつもりはなかった。今のは標準的な早さだったと思う。

 それにクラウディオが呆れたように言った。

「女性をリードするのが紳士の勤めだよ。椿がついていけないのならそれに合わせて、少しずつ誘導してあげるんだよ」

 わかっていないなぁとクラウディオは呟いた。それにヴィルは苛立った。

「そんなことありません。私がとろいから……」

 申し訳なさそうにする椿にクラウディオが近づいて行った。

「ヴィル、俺と代わって」

 ヴィルは無言のまま椿の手を放した。クラウディオが代わりにその手をとりほほ笑んだ。

「じゃぁ、はじめからやってみようか」

「はい、よろしくお願いします」

 クラウディオは椿の背中に手を回し、椿はそれに応じるように彼の肩に手を添えた。

 そして、ステップを踏む。

「……………」

 ヴィルは二人の様子をじっと眺め、複雑な表情を浮かべた。

 確かに二人の足並みはそろっていた。ヴィルが早かったのだと言わんばかりにクラウディオは言った。

「ほらね? 俺と踊っていると椿はちゃんとついて来れている」

 ステップを踏みながらクラウディオは意地悪くヴィルに笑いかけた。

「レディーを無視して自分のテンポだけで踊るのは紳士失格だよ」

「……………」

「ツバキ、パーティーにはずっと俺についていなよ。ちゃんとエスコートしてあげるし、ダンスも俺と一緒に踊ればいい」

「え……あの……私は」

「そうだな………クラウディオがついていればツバキも安心だろう」

 ヴィルは皮肉げに笑った。

「少し用事を思い出した」

 そう言いヴィルは館を出て行った。

「あの、………」

「いいよ。ヴィルもまだお子様なんだ」

 放っておきなよと言うクラウディオに椿は困ったように俯いた。しばらくして顔をあげて言った。

「クラウディオ様、私の練習につきあってください」

「お安い御用だよ」

 元々そのつもりでちょっかいを出したのだ。

「私、頑張ってヴィル様のダンスについていけるようにします。その為にはたくさん練習をしなければ」

 そういう椿の言葉にクラウディオはぷぷっと笑った。

 自分は何か変なことを言ったのだろうかと椿は首を傾げた。

 それを見てクラウディオは優しげにほほ笑んだ。

(自覚がないのかな。つまりヴィルと一緒に踊りたいってことだろ)

 椿の心は思ったよりもヴィルに傾いて行っているのをクラウディオは感じ取った。

「いいよ。じゃ、少しずつ厳しくしていこうか」

「はい!」


   ◇   ◇   ◇


 ヴィルが日中向かった先は街で一番店が並んでいる通りであった。そこは洋服の仕立てや、高級レストランが並んでいた。最近では百貨店ができており、人の賑わいはそこへ集中しているようであった。

 ヴィルは足早に通りを歩く。そしてふとガラス越しに店の中のものを見つめた。

 そこにあったのは赤く咲いた花であった。ヴィルは魅入られるようにじっとそれを見つめた。

 夕暮れとなり、ヴィルが戻ってきた。

「あ………ヴィル様っ」

 扉の音を聞きつけ、ダイニングから椿が姿を現した。

「おかえりなさいませ」

 ああ、とヴィルは視線を合わせずに頷いた。それに椿は困ったように俯いた。

「俺のダンスは早かったか」

 その声は明らかに不機嫌なものであった。椿はきょとんと目をぱちくりする。言われた言葉を理解し、すぐに椿は首を横に振った。

「いいえ。私が遅いのがいけないのです。必ず、ヴィル様についていけるように頑張ります。だから………」

 そう言いかけ、椿は顔を赤くした。

「だから?」

「あ、いえ………」

 ヴィルはため息をついた。何で途中で言いかけてここで引っ込むのか理解できなかった。

「言わなければわからない」

 椿は困ったように目を泳がせた。数秒程経過し、椿は自信なさげにヴィルを見上げる。

「ヴィル様とダンスしたいです」

 上目使いで言われヴィルは目を丸くした。そして、すぐに視線を余所に写した。

 まずいことを言ってしまったのかと椿は困って俯いてしまった。

(なんだ、今の………)

 ヴィルは余所を向きながら、頭の中で混乱していた。

 自分よりもずっと小柄な少女の姿をしている娘は自分よりもずっと年長だというのはわかっていた。だが、とても愛らしく思わず抱きしめてしまいたい衝動にかられてしまったのだ。

 それにヴィルは理解できずに困惑していた。

「っ……申し訳ありません。お忙しい中私なんかに付き合わせてしまって」

 椿は申し訳なさげに頭を下げた。忙しい中で自分のダンスの為に時間を割いてもらおうなんて言ってはならなかったのだ。そう椿は自分を責めた。

「…………見ての通り俺は淑女を無視して早く踊るぞ」

 ようやくヴィルがそう呟いた。それに椿は急いで返した。

「それは私がとろいからです。私、がんばっておいつきます。だから………」


 お願いします。私と踊ってください。


 そう再度お願いしたかったが、椿は言ってはいけないことだったのかと躊躇ってしまった。その様子にヴィルは大きくため息をついた。

「…………わかった。パーティーで一緒に踊ろう。その為に一緒にダンスの練習をしよう」

 ヴィルは椿の手を握って言った。

「だが、俺も練習が必要だ。つきあってくれるか?」

「……あ、喜んで!」

 ようやく戻った椿の笑顔にヴィルは内心ほっとした。

 そしてそっと椿の髪を撫でた。それと同時に髪にある物を添えた。

 それが何か椿は首を傾げた。

「叔母上の買ったドレスは赤だったか。よければそれをつけてみてくれ」

 椿は触れられた髪にそっと手を添えた。髪についているものを確認するとそれは赤い花の髪飾りであった。本物のように鮮やかな細工の椿の飾りもの。

 それを見て椿は驚いた。まさか自分と同じ名の花の飾りをヴィルがプレゼントしてくれるとは思わなかった。

 椿は嬉しげに花の飾りに触れた。

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