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Kamelie  作者: ariya
::2 古城の怪物::

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1.フローエ夫人

 王都ホーエンの高級住宅が並ぶベンカー通りにある館でのこと。

 主のヴィルが仕事上の上司であるベルンハルト公爵から椿を預かるようになってから五カ月が経とうとしていた。

 だいぶ椿もこの国の言語に慣れてきたところである。

 まだ長い話にはついていけないようであるが、ある程度のコミュニケーションはとれるようになったと思われた。

 椿はヴィルが想像した以上の働き者であった。客人であるためその必要はないと言うのに、執事のヨーゼフの手伝いをしていた。

「ただでお世話になるわけにはいきません」

 椿はそう頑なに言い放ち、ヴィルの館で使用人と同様の仕事を率先としていた。

 クラウディオなどは椿にひらひらのエプロンをプレゼントし、椿はそれを嬉しそうに愛用していた。その姿でお茶を持ってくる姿はとても似合っててヴィルは頭を悩ませた。

(一応、公爵から……組織から預かっている客人なんだけど)

 クラウディオのような遠慮知らずを少しは見習ってもらいたいとつくづく思った。

 書斎にヨーゼフが入ってきて、来客の存在を知らせた。

「誰だ………何の連絡もよこさず」

 ヴィルは苛立った声で呟いた。その呟きにヨーゼフは答えを出した。

「旦那様。フローエ夫人がお着きになりました」

 それを聞き、ヴィルは慌てた。急ぎ書斎から飛び出し、客間へと急いだ。

「なんであの人は突然に………」

 客間に入ると信じられない光景が目に入った。

 何とひらひらのエプロン姿の椿に抱きついているご婦人の姿があった。ご婦人はとても楽しそうにして異国の人形を手に入れた少女のように純粋なものであった。

 その姿にヴィルは頭を抱えた。

 これは一体どういう事態なのだと。

 ちらりと同室しているクラウディオに目配せをする。

「えーと、客が来たから椿は早速接待の為にお茶と菓子を運んできた。突然やってきた東海の美少女にフローエ夫人は大歓喜し、そのまま抱擁をして今にいたる」

 簡潔にいきさつを説明し終えたクラウディオになるほどとヴィルはご婦人の方へ近づいた。


「お久しぶりです。叔母上」


 婦人はくるりとヴィルの方を振り向いた。ようやく大興奮の中落ち着いてくれたのだが、相変わらず椿を抱きしめたままだった。

「もう、ヴィル。私の為に東海人のメイドを雇うなんて」

「違います」

 ヴィルははっきりと言った。

 別に椿はメイドでもないし、婦人の為に用意したわけでもなかった。

「あの、こちらは………」

 怯えきった椿はおそるおそるヴィルに尋ねてきた。

「俺の叔母のフローエ男爵夫人だ」

 名はアンナ・フローエ。

 大学の教授をしているフローエ男爵の妻であり、また彼女自身も教鞭を持ち大学の講師でもあった。専攻は語学一般、東海文化でありとにかくの東海フリークであった。彼女の家にはいたるところに東海の商人から手に入れた置物が大量に保管されているという。

 またヴィルの後見人であり、ヴィルの宮仕えにも世話を焼いている。ヴィルの上司であるベルンハルト公爵の幼馴染であり、立場は違ってもベルンハルト公爵からかなりの信頼を得ていた。

「まぁ、挨拶が遅れて申し訳ありません。この家でお世話になっている椿と申します」

 ようやく解放された椿はすっと姿勢をただし、フローエ夫人に頭を下げた。どうやら彼女の国の礼儀作法らしく、それを知っているフローエ夫人は再度歓喜していた。

「かわいーーーーーーーーーーーーぃっ!!!!」

「ぃぃぃぃ!!!」

 フローエ夫人は再度椿に抱きつこうとした。それをヴィルは防いだ。

「もう、ヴィルったら意地悪」

 フローエ夫人はつんと拗ねた声をあげた。

「まるで子供のように………」

 ヴィルは東海のことになると少女のようになる叔母にあきれ果てていた。

 フローエ夫人はじっと椿をみてうっとりとした瞳をしていた。

「ああ、この絹のように綺麗な髪、黒曜石のような美しい瞳……何よりもこの顔っ……素敵だわ。素晴らしいわぁ! これぞ東洋の神秘ね!!」

 舐めまわすように眺められて椿は落ち着かない様子であった。自国では滅多に外に出ることもなく、人と接触することの少なかった彼女にはかなりの刺激であっただろう。

「で、ヴィル。どこの辰国の商人から誘拐してきたの?」

 誘拐という言葉に椿はびくっとした。ヴィルは椿の肩を撫で大丈夫だと囁いた。それに椿は無理に作り笑いをしてこくりと頷いた。

「人聞きの悪いことを言わないでください。彼女は奴隷商人に東金国から拉致されて、ベルラント国の港についたところを保護しました。ベルンハルト公爵から彼女の保護と生活の面倒をみるように言われ、ここにいる次第です」

「もう! ベルンハルト公爵ったら。どうして彼女の生活の面倒を私に預けてくれなかったの!!」

 フローエ夫人は悔しげに叫んだ。それを見てヴィルははぁとため息をついた。端にいるクラウディオも苦笑いしていた。

 そりゃ、こんなミーハーな中年女性と一緒にさせられないだろう。

 もし、彼女の家に椿が世話になったら、毎日お人形遊びの状態になっていただろう。

 フローエ夫人は椿の肩を捕らえ、興奮して言った。

「椿、うちへいらっしゃい。不自由はさせないわよ。うちにはいっぱい東海のものがあるし、あなたにとって住み心地の良い場所だと思うわ」

「えーっと………」

 椿は困ったように周りをみた。ヴィルはすぐに助けに入った。

「叔母上、彼女が困っています。それにようやく慣れた頃なのに、ころころ住むところが変わっては彼女が大変でしょう」

「それもそうね」

 もっともらしい理由にフローエ夫人はあっさりと頷いた。


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