第七話 彼女たちのパラメーター
ネーム:シャルロット・アディ・アストレア
マジック・ポテンシャル:光、接続、譲与
クラス:プリンセス
レベル:16
力:D
耐:E
速:E
魔:D
運:B
スキル
魔術:C
弓術:B
希術:C
カリスマ:C
ややあって光の粒が形成したのは、そんな文字列だった。
ふむ……言っちゃあなんだけど、全体的にパラメーターが低いな。
ぶっちゃけ、創聖神から『力』をもらう前の俺とそこまで差がない感じじゃないか?
あ、でも技能は四つもあるのか。
魔術に、弓術に、希術に、カリスマ。
魔術とカリスマは俺と被ってるな。おまけに、どっちも技能ランクは俺のほうが上だし。
けど、決して特筆すべきものがないってわけじゃない。
「なあ、シャル。この『希術』っていうのは?」
「あ、はい。それは魔術とはまた別のものでして。この技能を保有している者でないと、『救世主』を召喚する『召喚の儀』を行うことができないんですよ」
つまり、魔術よりも一段上の技能ってことなのか?
魔術よりも強力な魔術、みたいな?
あとは……。
「シャルのクラスは……『プリンセス』か。確かに、お姫さまだもんな」
「ふふっ。そうなのですけれど、弓を用いて戦うときには、『アーチャー』に成るんですよ? わたくしは」
「別のクラスにもなれるのか!?」
こう、スイッチをカチッと切り替えるみたいに!?
「いえ、なれるというより、創聖神からそういう役割を振られるんです。ごくごく一時的に」
「へ、へえ。そうなのか……。あ、それとさ、『マジック・ポテンシャル』って……なに?」
「端的に申しあげるなら、向いている魔術のジャンルということになります。潜在的に持ち合わせている属性、とも」
「じゃあシャルは、光の属性の魔術や、『繋ぐ』術や『与える』術が得意ってことか。……当然、俺にもあるんだよな?」
「はい。マジック・ポテンシャルを持っていない人間は存在しません。もちろん、持ってる数は人それぞれなんですけど。
たとえば、ひとつしかない人とか、四つも五つも持っている人とか」
「不公平な……」
でもまあ、現実なんてそんなもんか。
そうあっさり納得し、次に俺はカミラへと顔を向けた。
と、なぜか表情を強張らせて一歩退がる彼女。
な、なんだ? そのリアクションは……。
「うっ……。み、見せればいいんでしょ! 見せれば!」
「あ、ああ……」
「くうぅぅぅ~……! ほ、ほらっ!」
そうして、空中に表示されたのは。
ネーム:カミラ・マナフレア
マジック・ポテンシャル:火、雷、破壊(精神)
クラス:ソーサレス
レベル:14
力:E
耐:E
速:E
魔:C
運:C
スキル
魔術:B
根性:C
「あああああ……。同じ見せるにしたって、なんでシャルのあとにぃぃぃ……」
なんだかカミラがものすご~く身悶えているが……まあ、うん、その理由はなんとなくわかるような気もするなあ。
まず、いくらなんでもパラメーターが低すぎだろ。主に『力』・『耐』・『速』の三つ。
おまけに、
「なあ、カミラ。お前って持ってる技能、二つしかないのか?」
「なによ、うるさいわね! 十代後半ならこれくらいが普通なのよ! シャルやエアリィがすごすぎるだけなの!!」
「そ、そうか……」
彼女の勢いに、ついつい気圧されてしまう俺。
でもまあ、確かにそうか。俺だって創聖神に『力』をもらうまでは、持ってる技能の数なんてたかだか……ゼロだったな、ああ、ゼロだったよな、忘れてたけど。
しっかし……そうか。二つくらいがこの世界における、十代後半の普通――『平均』なのか。
「ところでカミラ、お前が魔術の技能を持ってるのは、まあ、納得いくんだけど……『根性』ってのは、一体?」
俺の問いかけに、赤い魔法使いはなにかをふっきるように嘆息し、
「『根性』は『根性』よ。『もうどうしようもない』とか『絶体絶命』ってときに、『耐』の値が上昇するの。まあ、あたしの『根性』はCランクだから、上昇量なんて微々たるもんだけどね」
「ふうん……。ちなみに、ランクの高い『根性』を持ってるとどうなるんだ?」
「ランクの高い『根性』? そうね……Aランクになると、『耐』がワンランク上がるようになるらしいわ」
微々たるもの、じゃなくてワンランクも上がるときたか。
どうやら『根性』ってのも、なかなか馬鹿にできた技能じゃないらしい。
でも……
「な~んか、納得いかねえなあ」
「なにがよ?」
「いやさ、俺にだって少しくらいはあると思うんだよ、根性。Cランクとまではいかなくても、Eくらいは――」
「ああ、技能の場合はCランクが最低だから。パラメーターとは違ってね」
「はあっ!?」
「もちろん厳密には、技能ランクがDやEの状態も『ある』とはされているわ。でも、パラメーター――あ、名前から技能まで全部表示させる場合は、『ステータス』ね。このステータスに『修得した技能』として表れるものは、最低でもCランクにまで至ったもののみだから」
「つまり、Cランクにならないと『技能を持ってる』とは認められない、と?」
「ま、そういうことね」
そうなのか……。
でも、そのほうが自然っちゃあ自然な気もするな。
だって技能ってのは、言っちまえば『特技』だろ? 『特に秀でている技』って書いての、『特技』。
だから、ただ単に『できる』ってだけじゃ、『特に秀でている』とは認められないんだろう。
ちょっと唐突かもしれないが、俺の友人には滝本っていう小説家を目指してる奴がいて、そいつは割とよく小説賞の一次選考をとおっていた。
けど、二次選考では必ず落ちていて……よく俺と真理で励ましてやっていた。あと、なんだかんだで典子も厨二的な言い回しで慰めてやってたっけか。
で、思うに、この世界に『執筆』なんて技能があるとしたら。
小説を書けてEランク、最終選考に名前が載るくらいでDランク、そして、賞を獲ってプロになれたら晴れてCランク――ようやく『技能修得』って感じになるんじゃないだろうか。
でもって、中堅作家になれるくらいの実力が身についたらBランクに上がり、押しも押されぬ大作家になれたらAにランクアップし、書いた本がいくつもの国で出版されるようになったらSランク到達、みたいな。
しかし、だとするとEXランクの『執筆』技能って、一体どれくらいのものなのだろう?
やっぱり、あれか? シェイクスピアとか三大童話作家とか、そういうレベルにまでならないと得られないものなのか? EXランクの『執筆』技能ってのは。
で、プロ作家にもなれてないような奴が『俺は『執筆』の技能を持ってるんだぜ!』なんて言っても、認められるわけがない、と。
「ホクト、真剣な顔してなにを黙りこくってるの?」
「ん? ああ、いや。技能のランクってのは、どういう基準で決定されるんだろうってことを、ちょっとな」
「い、意外と深いことを考えてた……!」
「さすがはホクトさまです……!」
なんか、期せずして二人に戦慄されてしまった。
深いことなんて、別になにひとつ考えてなかったんだけどな。
まあ、それはそれとして、だ。
「で、カミラは『ソーサレス』のレベル14?」
「悪かったわね! シャルよりもレベルが二つも低くて!」
「んなこと言ってねえよ!? お前の思考、絶対に被害妄想入ってるって!」
「事実なんだもの! あたしはあたしなりに努力してるのに、全然レベル上がらないんだもの! シャルにもエアリィにも追い越されて、周りの大人たちからは『三人の中では一番年上なのに』って比べられて……!」
……こいつ、レベルのことがかなりコンプレックスになってるな。
初めて会ったときは、俺という『レベル1の人間』がいたから余裕でいられた、というだけだったんだろうか……。
「落ち着けって。俺が気になってるのはレベルじゃない。お前のクラスのほうだよ」
「……クラス?」
軽く目尻に涙を浮かべながら、こちらを見てくるカミラ。
……な、なんだかんだで可愛いんだよな、こいつも。もちろん、どっちかといえば『美人』って感じなんだけど。
「あたしのクラスがどうしたっての?」
「あー、いや、『ウィザード』ならすぐわかるんだけど、『ソーサレス』ってあんまり馴染みがなくってさ」
「『ソーサレス』は『下級の女魔法使い』って意味よ。男性の場合は『ソーサラー』ね」
そう口にするうちに、段々と調子が戻ってきたのか、
「ここからクラスチェンジして、『メイジ』に成ったり『ウィザード』に成ったりするの。能力値が高い人間は、大抵『ウィザード』に成るわね」
「クラスチェンジ先を自分で選ぶことはできないのか?」
「無理に決まってるでしょ。すべては創聖神の御心のままにってね」
「なるほどな……。あとは、マジック・ポテンシャル?」
「あたしのは、火と雷、そして破壊(精神)ね」
火と雷はわかるが、『破壊(精神)』というのは一体……。
「破壊(精神)はね、読んで字のごとく、肉体を傷つけずに精神だけを破壊するのよ」
「なんかすげえ!?」
思わず大声を出して驚いてしまった俺に、彼女は少しだけ寂しげに微笑した。
「そんなことはないわ。しょせんは『向いている』、『潜在的に備わっている』ってだけだもの。潜在してるだけじゃ意味ないの。このマジック・ポテンシャルを扱いこなすにはね、『聖霊の加護』っていう技能が必要だから。
もちろん、精神のみを焼くってことが、これっぽっちもできないってわけでもないんだけどね」
それはつまり、カミラはその『なんとかの加護』とやらを修得しかけている、ということなんじゃ?
まだCランクになってないってだけで、修行を積んでいけば、いつかは……。
そんなことを考えていたら、当のカミラにビシッと人差し指を向けられてしまった。
「――さて、そろそろあんたの番といきましょうか? ホクト。レベル1とはいえセイヴァーだっていうあんたのステータス、果たしてどんなものなのか見せてもらおうじゃない!
そしてシャルの前で赤っ恥かかせてやる!」
「そういう言い方するか!? お前!」
いやまあ、別にいいけどさ!
見せて恥ずかしいパラメーターじゃないからいいけどさ!
ランクは全部シャルにもカミラにも勝ってたし、持ってる技能の数も多いし、技能ランクもどれだって高いし!
でも、もうちょっと言い方ってもんがあるだろうがよ!!
「まったく……じゃあ、見せるぞ?」
着ている簡素な造りの貫頭衣、俺はその襟元をわずかに正す。
そしてパラメーター――じゃない、ステータスを表示させようと心の中で念じ――
「もしも~し、まだ武器や防具を選び終わってないんですか~? まったく、どれだけ時間がかかってるんですか。シャーリーンさまを待たせすぎですよ? 三人とも」
――ようとしたところで、唐突に扉を開いて姿を現したエアリィに中断させられてしまった。
「あれ? もう鎧を着け終えてるじゃないですか、ホクトさん。剣だって腰にちゃんと差してありますし。一体、なにに時間がかかってたんですか?」
「ああ、いや。ちょっとな。――じゃあ、シャル、カミラ。女王さまも待ってるっていうし、行くとするか」
「ちょっと待った! 逃げる気!?」
エアリィのほうへと足を向けた俺にそんなことを言ってきたのは、もちろんカミラだ。
顔だけを彼女のほうに向けて、俺は肩をすくめながらこう返す。
「逃げないって。いまからやるのは模擬戦なんだろ? だったら俺のステータスは、どっちみちそこで見せることになるんじゃないのか?」
「うっ……。それは、確かにそうだけど……」
「だろ? そんなわけで、行こうぜ、三人とも」
そう口にして、背筋を伸ばし。
俺はエアリィの横を抜けて部屋を出た。
これから行われるという模擬戦が怖くない、といったら嘘になる。
だから俺のこの言動は、ただの虚勢だ。
でも、誰だって思うだろう?
可愛い女の子三人の前でくらいは、格好つけたいってさ。
少なくとも、健全な十七歳男子の思考としては、至極正常なものであるといえるはずだ。
しかし、すぐ傍らにいたエアリィには見抜かれてしまったのだろう。
「ふふっ。セイヴァーになんてなると、色々と大変ですねえ」
少し楽しげに、そんな言葉を小さく投げられてしまった。
確かに、色々と大変だ。
俺はちゃんと戦えるんだろうかとか、戦う相手は誰なんだろうかとか、考えれば考えるほど、不安な要素が山とでてくる。
それでも、この三人の前では格好つけていたいから。
そのためには、逃げずに戦わなきゃって思うから。
だから俺は、せめて背を向けずに臨んでみせよう。
俺の実力を測るために必要だっていう、真剣を用いて行う模擬戦に――。
今回は模擬戦前にシャルとカミラのパラメーター(というかステータス)を明らかにするのが目的だったため、内容がだいぶ単調になってしまいました。
なので正直、楽しんでもらえたのかがかなり不安だったり……。
で、次回はようやく初バトルです。
たぶん、いつもより長めになると思いますが、ようやく初のバトルです。
ホクトのチート感を上手く出していければ、と思っています。
あと、まだまだ自信なさげな彼の心情の変化も描いていきたいところ。
色々と動くと思うので、次回、乞うご期待です!