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第二話 最強勇者の失敗

 ずかずかと部屋に入ってきたのは、燃えるような赤い髪をショートにしている少女だった。


「どう? シャル。『召喚の儀』は成功した? まあ、成功でも失敗でも、あたしにはどっちだっていいんだけどね」


 シャルと比べて、あまりにもさばさばした口調。


「お? そいつが『救世主セイヴァー』? それとも、ただの侵入者?」


 なんか、いきなり『そいつ』とか言われましたよ?

 いや、きっと扱いとしてはこっちのほうが普通なんだろうけど、シャルと話していたときとの差がありすぎて、こう、釈然しゃくぜんとしないものを感じるというか……。


「カ、カミラ! そのような物言いをしては、ホクトさまに失礼ですよ!」


 ……い、いいぞいいぞ! もっと言ってやれ、シャル!


「失礼って言われてもねえ。別にそいつが『救世主セイヴァー』だって決まったわけじゃないしぃ」


「そ、そんな言い方……。カミラ、ひどいです……」


「あ、いや! 別にシャルの希術きじゅつの腕を疑ってるんじゃなくってね!? なんていうか、召喚されたのがパッとしない奴だったものだから、つい……!」


 あわあわとシャルに駆け寄り、なだめにかかる赤毛の少女。

 しかし、俺に対する評価はさらに失礼なものになっているわ、俺への謝罪の言葉もないわで……。


「それで、あんたが『救世主セイヴァー』? シャルは『ホクトさま』とか呼んでたけど」


 真紅のローブをひるがえらせ、俺のほうへと目を向けてくる彼女。ようやく俺と向き合って話す気になったか、まったく。

 カミラと呼ばれていた少女の目線が俺の顔へと注がれる。

 シャルの瞳がサファイアなら、こいつのそれはさながらルビーといったところだ。

 ふん、全身例外なく『赤い』奴め。


「言っとくけどね、シャルが嫌がるような命令したら、絶対に許さないわよ? あたしの魔術で黒コゲにしてやるからね?」


 おまけに、口を開けばこれかよ!

 なんでこいつは、いちいち言うことが刺々しいんだ!


「……まあ、それもあんたが本当に『救世主セイヴァー』だったら、の話だけど。『救世主セイヴァー』じゃない人間にシャルが従う義務なんて、欠片もないもの」


 ああ、なるほどな。

 要するに、こいつは俺のことを疑ってるのか。

 俺が本当に『救世主セイヴァー』なのかどうかと……それ以上に、俺という人間個人の『人格』を。


 まあ、その気持ちはわからなくもない。

 この赤毛は、シャルロットのことを『シャル』と呼んでいた。

 シャルが皇女であることも合わせて考えれば、こいつはシャルの数少ない友人――最低でも、とても親しい間柄にある人間だと推測できる。


 だから、シャルが『誠心誠意尽くす』相手である俺の『人柄』を、この場で見極めたいと思っていてもおかしくはない。

 というか、『セイヴァーだから』というだけの理由で、俺のことを全面的に受け入れてくれていたシャルのほうが異常なんだ、ともいえる。


 実際、シャルの『誠心誠意尽くす』という言葉から、あっち方面の妄想をしそうにもなったからなあ。

 カミラが俺のことを信用しないのは……まあ、当然っちゃあ当然のことだ。


 でも、人柄なんていきなり見せられるものじゃないからなあ。

 いまのところは、シャルと同じく好意的に見てもらうしかないっていうか。

 まあ、それでも、俺にできる範囲で証明させてはもらうかな。彼女からの信頼は、得られないだろうけど。


「あー、俺のことが信用できないのは無理ないけどよ。カミラ、とりあえず、『これ』を見てもらえないか?」


 幸い、この世界――オシリスには『クラス名の表示』という便利な証明方法がある。

 これを使えば、最悪でも俺が勇者――セイヴァーであることだけは信じてもらえ――


「ちょっと! なんでいきなり呼び捨て!? 『さん』をつけなさいよ、『さん』を! もちろん『さま』でも可!」


「なんで俺がお前のことを『さま』づけで呼ばなきゃいけないんだよ!」


「そんなの決まってるじゃない! あんたはシャルに召喚された身でしょ? でもって、あたしはシャルのお姉さんみたいなもの! ほら、どっちの立場が上かなんて、一目瞭然じゃない!」


 あ、あれえ……?

 おかしいなあ、さっきシャルにしてもらった説明が正しいのなら、俺は『この世界の人間の上に位置する存在』であるはず……。

 そんな思いを視線に乗せてシャルのほうへと目をやると、彼女は深く嘆息しつつカミラに向いた。

 それから、唐突に厳しい表情になって、


「――カミラ、ホクトさまは『わたくしの召喚に応じてくださった方』です。そしてわたくしは、『ホクトさまを召喚させていただいた身』です。

 ゆえに、ホクトさまがわたくしたちの上に立つことはあれど、その逆はあり得ません。そのことは、カミラだって知っているはずでしょう?」


「それは、そうだけど……」


「それになにより、ホクトさまを侮辱することは、わたくしを侮辱することと同義です。以後、そのような言動は慎むよう願います」


「侮辱するつもりは、なかったんだけどね……。ごめん、確かにちょっと言い過ぎた……かも」


 その言葉を聞き、シャルが表情を緩める。

 どころか、カミラの両手をとって、ぶんぶんと振り始めた。


「わかってくださって嬉しいです、カミラ!」


「シャル……。まったく、あんたって娘は……」


 これにはカミラも苦笑するしかないらしい。

 そして、その表情を保ったまま、改めて俺へと目を向けてきた。


「それで、なにを見ろって?」


「へ? あ、ああ。クラスだよ、クラス。それでとりあえず、俺が間違いなくセイヴァーだっていう証拠にはなるだろ?」


「……ふむ。なるほどね、そのくらいの知識はあるんだ」


「まあな。――じゃあ、いくぞ?」


 俺の頭上に集まる光の粒。

 それらが瞬時に意味のある文章を形作っていく。

 シャルとカミラは真剣な面持ちでそれに目をやり――絶句した。



クラス:セイヴァー

レベル:1



「レベル……いち?」


 漏れでた声は、カミラのもの。


 ……って。

 し……しまったあぁぁぁぁぁっ!

 なんで俺はレベルまで一緒に表示させてしまったんだ!!


 クラス名だけでよかったのに!

 俺がセイヴァーであることさえ証明できれば、それだけでよかったのに!!

 ああ、それなのにそれなのにぃぃぃぃっ!!


「あ、ええと……。だ、大丈夫です、ホクトさま! 人間、大事なのはレベルではありませんよ!」


 それを言うなら、『見た目ではない』だと思うな、シャル。

 あ、いや、自分の力量りきりょうが『レベル』という形で数値化されるオシリスにおいては、『レベルではない』のほうが使い方としては正しいのか……?

 まあ、どちらにせよ、もう俺の心はボロボロだ。励ましてくれたシャルには悪いけど、ボロボロだ。

 だってさ、このあとカミラからの罵倒ばとうタイムが待ってるんだぜ? 絶対。それを思うと、もう――


「あー……、まあ、あれね。確かにセイヴァーではあったわね。だからほら、そう落ち込みなさんな」


「なんかその対応、罵倒されるよりダメージでけぇ! 普通に馬鹿にされたり笑われてたほうが楽だったわ!」


「うん、ここは優しく声をかけてあげたほうが傷つくだろうなって思ったから、敢えてこういう接し方にしてみた」


「わざとかっ! わざとだったのかっ!」


「あと、ほら。あんたを馬鹿にしたら、シャルがまた怒りそうだったし……」


 あー、なるほど。それは言えてる。


「それに、レベルが低いせいで馬鹿にされるのって辛いからね。その辛さは、あたし、よく知ってるから……」


「へ!? もしかして、お前もレベルが1だったりすんの!?」


「そんなわけないでしょ。14よ、14。でもまあ、シャルとかエアリィみたいな天才と比べられちゃうとねえ……」


 シャルって天才だったのか。

 まあ、なんでもそつなくこなしそうではあるけど。


「あ、いや、違うか。シャルもエアリィも、努力量が半端ないってだけだから」


「ふ~ん。ところで、そのエアリィっていうのは誰なんだ? 名前からして女の子っぽいけど」


「うん? あたしの妹みたいな存在パート2ってところね。歳はあたしの二つ下――十六なんだけど、だからってあなどらないほうがいいわよ? シスターなのに、シャルの護衛役やってる娘だから」


 シスターなのに、かよ……。


「さて、ちょっと無駄話が過ぎたわね。それじゃあセイヴァーも無事に降臨したことだし、三人で女王陛下のところに行くとしましょうか」


「女王陛下のところに? なんでまた?」


「あんたね……。自分が『人間以上の存在』だってこと、忘れてない? そもそも、あんたを召喚したいって言いだしたのこそシャルだけど、それがもっとも有益ゆうえきだと判断し、召喚を許可したのは女王陛下なんだからね? 挨拶に行くのは当たり前のことでしょう?」


 なるほど。

 そういえば、俺が召喚された理由って、まだ聞かされてなかったな。

 旅をすることになるんだろうか、それとも城でやることでもあるんだろうか。


 というか、カミラも一応、俺のことを『人間以上の存在』と認めてはいるんだな。

 俺がそれを忘れがちになってしまう主な原因は、彼女のその『敬い』の『う』の字もない態度にあるんだってのに、まったくもってやれやれだ。


「それでは、行きましょうか。カミラ、ホクトさま」


「あ、ああ。わかった」


「了解。というか、なにぼんやりしてんのよ、あんた。考え事?」


「……まあな」


 主に、お前の接し方のことでな。

 部屋を出て、廊下を歩きながらも考える。

 シャルのときのように持ち上げられまくるのは、正直言って、微妙。

 かといってカミラのようにキツくあたられるのも、当たり前だが心地よくはない。


「あ、そうそう。シャルはあんたのことを『ホクトさま』なんて呼んでるけど、あたしは『さま』づけなんてしないからね? ホクト」


「へいへい。まあ、呼び捨てのほうがお前のキャラには合ってるから、別にそれでいいんじゃね? カミラ」


「ちょっと! だから、なんでカミラって呼び捨てするのよ!?」


「別にいいだろ。お互い、呼び捨てで。少なくとも俺に、『救世主セイヴァー』って肩書きにあぐらをかいて、『さま』づけを強要するつもりはないからさ。お互い、好きに呼びあおうぜ?」


「まあ、そういうことなら、いいけど……」


 なにやらモゴモゴと返してくるカミラ。

 基本、さっぱりしてる奴ではあるっぽいから、シャルのことがなければ『憎まれ口を叩き合う悪友』くらいの関係にはなれそうなんだけどなあ……。

 そんな俺たちを見て、シャルが「ふふっ」と笑みをこぼした。


「お二人とも、すっかり仲良しになられましたね」


「いや、どうだろう……」


「や、どうかしらね……」


 微妙な表情になって返す俺たち。

 しかし、確かに息は合ってきはじめている。

 それにまあ、こいつはシャルと違って、変に持ち上げてこないから楽に話せるとも――


「ちょっと! あんまり横にべったり並んでこないでよ! あたし、そういうのやたらと気になるタイプなんだから!」


 うん、前言撤回。

 単にパーソナルスペース――他人に入ってきてほしくない領域が広いだけなんだろうが、だからってそこまでツンケンしなくてもいいだろうに。


 ……それにしても、過剰に持ち上げてくるシャルに、デレる気配ゼロのカミラ、か。

 願わくば、さっきのカミラの話に出ていたエアリィって娘には、その中間であってほしいなあ。

 本当、心の底からそう思う……。

はい、今回はカミラ回でした。

そしてかなりお間抜けなホクトくん。

それはさておき、カミラはこの先デレるのか?

あと、次の回でちゃんとヒロイン三人が勢揃いするのか?

ご期待ください!

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