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プロローグ 最強勇者の誕生

※R15表記は保険です。

過度な期待はしないでおいてください。

――たとえそれが、どれだけ愚かな望みであったとしても――





 『ここ』には、なにもなく。

 けれど『ここ』には、なにもかもがあった。


 俺には――いや、人間にはまだ認識することができない『それ』。

 けれど、これからどんなものにだってなれる『モノ』。

 『ここ』にあったのは、そんなものだった。

 それは言うなれば、ありとあらゆる存在の『モト』。


 植物とか。

 生き物とか。

 あるいは、もっと根本的な、世界を構築するために必要な『概念』とか。

 そういうものを創り出すために必要とされる『モト』が、『ここ』にはあった。


「それはそれとして、一体ここはどこだ……?」


 自分のことはわかる。

 鮮明に憶えている。

 国崎くにさき北斗ほくと、十七歳。

 私立硝箱しょうそう学園の高等部に通う、いたって平凡な高校二年生。

 その、はずだったのだが……。


「――来たわね。……この場合、いらっしゃい、と言うのが適切なのかしら?」


 不意に、そんな声が空間を震わせ、俺の耳に届いた。

 それを聞いて初めて、俺は『自分の身体』というものを認識する。

 次いで声のしたほうに目をやると、そこには姿勢よく立っている女性の姿がひとつ。


 年の頃は、二十代後半といったところだろうか。

 腰まで伸ばしている長いオレンジ色の髪に、緑色の瞳。

 少しばかり華奢きゃしゃな身体には、ゆったりとしたあおい色のワンピースをまとわせていた。


 その姿を見て、俺は『女神』という単語を脳裏に思い浮かべる。

 それくらい、神秘的な雰囲気を持っている女性だったのだ。

 しかし、次の瞬間に彼女が浮かべた勝ち気な笑顔のせいで、そんなオーラは跡形もなく消し飛んでしまった。


「状況の説明は必要?」


「へ? あ、ええと……?」


「ふむ、どうやら説明する必要アリみたいね。――まず、ここは地球であって地球じゃない場所。この世であり、あの世でもある場所。地球に住む魔道士たちが、『本質の柱』と呼んでいるところよ」


「ま、魔道士?」


 なんだ? その漫画やラノベ、ゲームくらいにしか出てこないような単語は。

 言ってることが、いちいちファンタジックにすぎるぞ。

 そんな俺の戸惑いは無視したのか、はたまた気づいてすらいないのか、彼女はマイペースに続ける。


「本来なら、あなたみたいな一般人が生きたまま来られるような場所じゃないんだけどね。けどまあ、今回は例外。

 だって、いまのあなたじゃ非力すぎて、アストレア法皇国ほうおうこく救世主セイヴァーになんて、どう逆立ちしたってなれそうにないんだもの。だから、これはちょっとしたサービス。ありがたく思いなさい」


「サービス、だあ? さっきから言ってることがよく……。とりあえず、一度頭の中を整理させてくれないか? まず、お前は誰なんだよ?」


「うわ、神さま相手に『お前』とか言う?」


「は? 神さま?」


 こいつ、頭大丈夫か?


「ま、いいけどね、別に。無理に敬えとは言わないわよ。でも、あたしは神さま。この事実は動かない。あなたが『ホクト』っていう人間であることを拒絶できないのと同じようにね」


「そんなもんか? ……って、待て待て待て待て! なんで俺の名前を知ってるんだ!?」


「だから神さまだから、だってば。一旦とはいえ、あなたをここに招いたのはあたしなんだもの。名前を知らないのは逆に不自然ってものでしょ?」


 そうかあ……?

 でもまあ、なんとなく現状はつかめてきた。

 まず、俺は目の前の女性によって、地球からこの場所に『召喚』された。

 漫画やラノベ、ゲームなんかではよく見る、俺が密かに憧れてもいたシチュエーションだ。

 そして俺がやってきたこの場所は、おそらく『異世界』と呼ばれるところで――


「あ、それ間違い。大ハズレ。ここは地球であって地球じゃない場所。同時に、異世界であって異世界じゃない場所ともいえるの。

 そりゃ、確かに異世界――オシリスだともいえるけど、だからってオシリスだと決めつけちゃうのはよくないわ」


「……すまん。わけがわからん。……あと、いまサラッと俺の心を読まなかったか?」


「心を読んだっていうか、ここは『本質の柱』――平たく言っちゃえば、あたしの心の中だもの。あなたが考えてることなんて、嫌でもわかっちゃうわよ」


「心の中、ねえ……。……えっと、とりあえず、ここはまだ地球だってことでいいのか?」


 まあ、異世界だって割には、なんにもないしな、ここ。

 同様に、地球だって感じもしないわけだが……。


「いや、だから。地球であって地球じゃない場所、オシリスであってオシリスじゃない場所、なんだってば」


「どっちなんだよ!?」


 思わず怒鳴ってしまった。

 もう、わけのわからなさがマックスだ。

 頼むから、誰かわかりやすい説明を頼む!


「オーケイ。じゃあ、順序立てて説明するとしましょう」


「いや、お前じゃ話にならな……おい、なんで俺を睨む?」


「いや、いい加減『お前』呼ばわりはやめてくれてもいいんじゃないかなー、って思って」


「だって俺、お前の名前知らないし。それにさっき、『ま、いいけどね』とか言って……ごめん、もう言わない。げ足取らない。だから涙目になるな」


「な、なってないっ!」


 なってるだろうが!

 ……しかし、えらくフランクな神さまがいたもんだな、おい。

 見た目からは、もっとこう、威厳たっぷりなイメージを受けるというのに、中身はなんとも子供っぽいというか、なんというか……。


「言っとくけど、あなたの考えてることはだだ漏れ同然だからね?」


「うおぅ!?」


「……まあ、いいわ。――さて、あたしの名前、か……。う~ん、なんだかんだでいくつもあるからなあ。聖蒼の王ラズライトとか、創聖神そうせいしんとか……。

 でもやっぱり、あたしの一番気に入ってる名前で呼んでもらうのが一番なのかな……」


「一番気に入ってる名前?」


 なんだそりゃ。


「『フィリア』っていうんだけどね。うん、これでいきましょう」


「思ってたよりも、まともな名前だな」


「当たり前でしょ! ……そんなわけで、あたしのことはフィリアって呼ぶように。まあ、『よろしく』なんて言うほど長いつきあいにはならないだろうけどね」


「うわ、ひでぇ……」


「あら? 長いつきあいになったほうがよかったの?」


「いや、全然」


「あっそ。あなたって、なかなかにいい性格してるわよねぇ……」


「そりゃどうも」


 肩をすくめて返す。

 どうでもいいが、さっきから話が全然進まないな。

 この空間は『フィリアの心の中』だって言ってたが、それだってどこまで信じていいものやら。


 そもそも、いま俺の身に起きていることが非現実的に過ぎるんだ。

 なんでフィリアが俺を召喚したのかだって、まだわかってな――


「だから、そこからして間違ってるんだってば。あなたをぶために『召喚の』を行ったのは、オシリスにあるアストレア法皇国の皇女おうじょ

 あたしは横からちょっかいをかけたにすぎないの」


「ちょっかいをかけた? なんで?」


「さっき言ったでしょ? いまのあなたじゃ非力すぎるって。法皇国の救世主セイヴァーになんて、なれそうにないって。

 ぶっちゃけ、街の外をうろついてる魔物にすぐ殺されちゃうわよ? あなた」


 まあ、こちとら平凡な高校生だもんな。


「だから、待ったをかけてくれた、と?」


「まあね。といっても、『召喚の儀』がちゃんと正式な術式にのっとってり行われた以上、あなたをここに留め置くことも、元いた場所に返してあげることも、あたしにはできない」


 じゃあ、一体なんのために『待った』をかけたんだか。


「あたしにできるのはね、あなたがオシリスで生きていくための力を与えることだけ。そう、『創聖神の加護かご』を、ね」


「そーせいしんの、かごぉ?」


「そこ! 間延びした発音しない!」


「……創聖神の加護?」


「うん、それでよし。――で、ちょっとパラメーターとか表示してみてくれる?」


 ……はい?


「だからパラメーターとか表示してってば。大丈夫、心の中で『出ろ!』って強く念じれば表示されるから。『クラス名とレベル、パラメーターと技能スキルよ、出ろ!』って感じ」


 あ、あーっと……?


「く、クラス名とレベル、パラメーターと技能スキルよ、出ろっ!」


「うん、口に出して言う必要はなかったんだけどね。まあ、いいわ。次に……ほら、自分の頭の上を見てみて」


 数歩退がり、頭上を見上げる俺。

 するとそこには、光輝く文字が並んでおり。



クラス:シビリアン

レベル:1


力:E

耐:E

速:E

魔:E

運:EX


スキル

特になし



 しばし呆然と、俺はその表示を見続けていた。

 そんな俺の意識を現実(?)に引き戻したのは、いうまでもなくフィリアの声。


「うわ、わかってはいたけど、あなたのランク、途轍とてつもなく低いわね。運以外……。スキルもなければレベルも1だし」


「いや、あの。レベルはともかく、アルファベットやクラスってのの意味が、俺にはさっぱりなんだが……」


「まあ、あなたは地球人なんだから、そうでしょうね。……えっと、アルファベットのほうは、強さのランクって言えばいいのかしら。

 E、D、C、B、Aの五段階と、それを超えるS、あと、それすらも上回るランク『EX』が存在するわ」


「俺、運以外のパラメーターはどれも最低ランクなのかよ……」


 さすがに、ちょっと落ち込んだ。


「EXまでいってるパラメーターがあるっていうのは、それだけですごいことでもあるんだけどね。

 それとクラスっていうのは、オシリスにおける『役割』のこと。『ファイター』とか『ナイト』、『ウィザード』なんてのが一般的かしらね。ちなみに、『シビリアン』は『一般人』を意味するわ」


「俺、一般人……?」


 救世主だなんだって話は、一体どこにいったんだ……?


「そう肩を落とさないの。何度も言ってるでしょ? この場所はオシリスであってオシリスじゃないんだって。いまのあなたはね、まだ『セイヴァー』――『救世主』の役割にないのよ。いやまあ、そういう『役割』を振るのは、あたしの役目なんだけど」


「じゃあ、これから俺を『救世主』ってのに……?」


「そういうこと。あ、救世主セイヴァーって呼び方がピンとこなかったら、勇者とか英雄って言い換えてもいいわよ? あなたの世界では、そういった呼び名のほうが浸透してるでしょ?」


 なるほど、確かに『救世主』よりは『勇者』のほうがイメージしやすい。


「そして、さっきも言ったけど、ここはあたしの『心の中』。だから、あたしがそう『おもう』だけで、なんだって創りだすことができるの。たとえば、技能スキルとか、ね」


「物質だけに限らないのか……」


 そうつぶやいてから、ああ、そうか、と思い当たる。

 俺が『ここ』に来たときから存在を認識できていた、ありとあらゆる存在の『モト』。

 この『モト』を使って、彼女は俺に与えるための『力』――技能スキルを創りだすんだろう。


「じゃあ、始めるわよ? ――はい、オッケイ!」


「あっさりすぎる!」


 いやいやいやいや、もうちょっとこう、あるだろ!?

 キラキラ光るエフェクトとか、全身に力がみなぎる感じとか、あるいは目を閉じる的な、儀式めいたものとかがさあ!

 しかし、もう一度頭上を見上げると、



クラス:セイヴァー

レベル:1


力:A

耐:B

速:S

魔:B

運:EX


スキル

筋力増強:S

耐久強化:S

速度上昇:S

魔力増幅:S

創聖神の加護:EX



 なんか、パラメーターが劇的に上がっていた。

 技能スキルのほうも五つに増えている。

 しかし――


「なんでレベルは1のまま!?」


 思わず頭を抱えてうずくまってしまった。

 そんな俺に、フィリアが「ちっちっち」と人差し指を振ってくる。


「『シビリアン』のレベル1と『セイヴァー』のレベル1を同じものと思ってもらっちゃ困るわね。現に、パラメーターそのものはレベル70台の『パラディン』とかに匹敵してるのよ?」


「そりゃ、そうなのかもしれねえけど! これじゃ、なんか格好がつかねえよ! なんとかならねえのか!?」


「いや、それがね。レベルだけは、あたしのほうで勝手に上げることってできなくて。本人に経験を積んでもらうしかないのよね。

 でも、こう考えることもできるんじゃない? レベル1ってことは、これからどんどんレベルが上がるってことでもあるのよ? あたしが『ホクトの力量が上がった』と判断するその度に、ぽんぽんとね。

 どう? すでにパラメーターは充分高いのに、まだまだ伸びしろがたっぷりあるっていう、この状態!」


「あー、そう言われてみると、確かに悪くはない……のかもしれないな」


 そうつぶやきながら、俺はパラメーターなどの表示を消した。

 というか、そろそろ消えてほしいな、と思っただけで消えてくれたのだ。

 ふむ、力む必要はまったくないんだな。

 そんなふうに納得していると、フィリアが唐突に身を乗りだしてきた。


「それと、これもサービスの一環なんだけど。ホクトは剣術と体術と魔術、どれを主体にして戦いたい? どれを選ぶかによって、与える技能スキルが多少変わるのよ。魔術だったら『高速詠唱』、というようにね。

 あ、もちろん、三つのうちのどれを選んでも、全部、一流レベルにはなるんだけど」


「なるほど、特に秀でたいものを選べってことか」


 つまり、剣士タイプになりたいか、武道家タイプになりたいか、術師じゅつしタイプになりたいか、みたいなことだよな?

 でもって、選ばなかったタイプの技術も、一流レベルのものまでは手に入る、と。

 じゃあ、選んだタイプに関しては、超一流レベルにまでなれるのか?


「……剣士タイプで頼む」


「オッケイ! じゃあ――ほいっと!」


「……だから、もうちょっと、こう……。いや、いい。なんでもない……」


「そろそろ時間が迫ってきてるから、身についた技能スキルの確認はオシリスに着いてからにしてね」


 そういえばさっき、一時的に『待った』をかけているだけ、みたいなことを言ってたな。

 もしかしてフィリアって、神さまって割にはまったく万能じゃないのか?

 まあ、このほうが彼女の性格とのギャップが小さくていいのかもしれないが。


「わかった。色々ありがとうな。……っと、そうだ。最後に、もうひとつだけいいか?」


「なになに? できるだけ手短にね?」


「ああ。えっとな……。なんで、俺だったんだ?」


「……はい? なにが?」


「オシリスって異世界に召喚されたの、どうして俺だったんだ? 俺より強い奴なんて、地球にはたくさんいると思うんだが……」


 その問いかけに、フィリアは一瞬だけ表情を曇らせた。


「そうね、確かに……たくさんいる。『目覚めたるもの』がいる。世界を救おうとしている集団がいる。魔道士の組織が存在している。あたしをあがたてまつっている宗教団体だって、ある」


 そんなにいるのかよ、強い奴。

 いや、それはもう『強い奴』っていうカテゴリに収まってなくないか?


「でもね、憶えておいて、ホクト。強すぎる力は、やがて『悪』と見なされるようになるの。強くて正しい『正義の人』であろうとも、人間ひとはその存在に、『恐れ』を抱くようになるの。

 だから……だから、あなたも気をつけて。あなたのその人生の終わりが、悲劇とならないように」


「……? えっと、俺の質問の答えには、なってないような……?」


「あ、ああ、そうね。ごめんなさい。あたしとしたことが、つい……。

 実際のところはね、あなたじゃなきゃいけない理由なんて、ひとつもないの。単に、皇女の魔力の波長とあなたの持つそれが、偶然、ぴったり合っちゃったってだけ」


「ぐ、偶然の一言で済まされるのかよ……」


「別に、運命を感じたっていいわよ? あなたはこれからオシリスで救世主セイヴァーとなって、皇女と共に戦っていくんだから。

 そう、彼女の剣となり、盾となり、ね」


 いやいや、俺に『剣となり、盾となり』なんて気持ちはないぞ?

 本当、その皇女が俺と同年代の美少女だったらいいな、くらいのことしか考えてない。

 あとは……そう、『力を授かって異世界に行く』っていうシチュエーションには密かに憧れていたから、ちょっとばかり――いや、かなりワクワクし始めてきてるってのもあるか。


 もちろん、旅自体はひとりですることになるんだろうけどさ。

 期待のしすぎはよくない。うん、よくない。

 期待しすぎたせいで、俺は幼なじみの真理まりに何度だまされたことか。


 そもそも、なんで俺はアストレア法皇国の皇女とやらに召喚されたんだ?

 よく考えてみたら、その理由すらもまだ不明なままじゃないか。

 あれ? もしかして、旅をすることすらも決定事項ではなかったりする?


「じゃあ、ホクト! アデュー! せっかくだから、王城での暮らしも満喫してきなさい!」


 気楽なことを言ってくれるなあ、フィリアは。

 でもまあ、そのとおりでもあるか。

 せっかく彼女から常人離れした力をもらったんだ。きっと、楽しまないと損ってなものなんだろう。


 そして、視界はホワイトアウト。

 唐突に、俺の意識は白い闇の中へと放り出されたのだった――。

いかがでしたでしょうか?

今回は作者初のチート&ハーレム作品となります。

まあ、まだヒロインが一人も出ていませんが、そのあたりは次の回から。

パラメーターのアップやスキル取得に共感してもらえるような内容にしていきたいところです。

では、また次回。

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