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投資家オンライン紀行(仮称)  作者: プロジェクト夜屋
ログインとすべてのはじまり
4/15

街と生産職の人々(1)

目指せ定例更新維持。

 ゲーム内のスタートポイントは、はじまりの町の中でランダムに決まる様子であり、各所にテストに参加したと思わしきユーザーが出現し始めていた。そこそこ広さのある町とはいえ、一か所に集まると混雑はどうみても避けられない故の措置か。


 ほぼ同タイミングでログインしたはずの妹を探そうとすると、誰かに後ろから古典芸能である膝カックンを食らった。初対面でこんなことする人間がそういるとは思えず、投資家仲間二人はまだログインしてないとなると犯人候補は一人に絞られる。怒り顔演技で振り向くと、悪戯顔演技の妹がそこにいた。同一の親アカウントだから近場がスタートポイントになったのと、流れるような動作でキャラメイクしていたので、先に入ったあと隠れて隙を窺っていたのだろう。とはいえ、このまんまこちらも突っかかるのも面白くないので初手の怒り顔反応のあとは全スルーとする。ボケキャラが一番悲しいのはスルーとボケ潰しである。ざまぁみるがいい。

 次の反応を待ってる風の妹を軽く放置して、作ったキャラを眺める。手数重視の軽戦士で、アクロバットプレイが出来るかやってみたい、とのことだったのでその通りにしたのだろう。防具もそこそこに、短めの剣を2本腰に差した双剣スタイルで悪戯顔を継続していた。腕力よりも敏捷、器用さに振って育てていくに違いない。普段からちょこまかと動きまわる子ネズミのごとき妹にはお似合いである。


 リアクション待ちで焦れてきている妹にボケ潰しを確定させるべく告げる。


「妹よ、アカウントごとにリリースタイミングが違うのなら、お裾わけした友人の、そろそろパーティの仲間の入ってくるんじゃないのか。ひとりだと暇だろうからさっさと迎えに行ってこい」


ぶーっと膨れ顔で発せられる構ってほしい光線など丸無視である。兄は調査に忙しいのだ。さっさと攻略を始めて攻略目線からの評価情報を寄越すが良い。

不満顔でふくれる妹を軽く追い払い、投資家仲間二人が入ってくるまでしばし町を散策することとする。

 

 ゲームにおいて町の規模や人口規模、というのを気にするのは変であるが、歩いて見回るのに町といっていいだけの大きさが確かにある。リアルの外の天気に似た、でもおそらく快適度ではこちらの方が上だろう雰囲気の、いい陽気にさらされてゲーム日和。ゲーム画面の中だけれども気持ち的に過ごしやすいのはいいことである。いくら投資リターンを確保するためとはいえ、鬱屈した気持ちで調査などしたくない。


 都市機能としては、ゲームの仕組みとして定番のギルド、宿、酒場、各種の武器防具やアイテムショップのほか、本作の特徴となっているスキル制を支えるスクロールショップなどが、商業施設区画に揃えられている。その他、住宅地、才能の無駄遣いの気配も感じる誰得の役所行政機能を整備した区画などもあるが、ひとまずは商業施設を見に行くのが妥当だろう。というか、MMORPGの普通のゲームプレイで役所機能が関わるようなことなどあるのだろうか?


 町は大きく分けると北側は政治行政機能と商業機能。高級住宅地も北に分類され、南は一般住宅がメインであり、設定情報によると都市南側の外側には農地が広がっている。都市への食糧供給能力について誰が考えたのだ?これまた普通にゲームのフィールド設計をするだけであればまったく必要のない無駄遣いである。とはいえ、生産職になると自前で農園を持ったりも出来る様子なので南側及び農地に用事が多くなるのかもしれない。南の住宅街には物騒なものではない生活物資の取り扱いとして一般商店が多い配置になっており、冒険者アイテムではないひっそりとした掘り出し物が売られていることもあるとのこと。ユーザー的には日常的に足を向けないエリアにプチ特典を配置するのは作り方としては珍しくない常套手段と言えよう。


 町から出て南東に行くと別の街、ゲーム的にはおそらく二番目の町となるタルトがある。洋菓子かよ、と突っ込みをしてしまったユーザーはきっと数え切れずいるに違いない。なんだよタルトって。

が、向かう途中の主要街道に大型モンスターが出ているため一般人は通行禁止とされており、撃退を目したクエストを出すか、王都側から軍を派遣するか領主が思案しているとの町情報が出ている。このあたりは、あからさまに伏線として考える以外になく、どうせ王都側からの増援は間に合わないので、などの追加情報と合わせて次ステージに向かうためのボスクエスト的な扱いとしてこのβテストの締めイベントにでもなるに違いない。がんばれ攻略組。

 

 商業施設を見回ろうとしていたが、妹からギルドスペースで盛り上がっている旨のメッセージが入っていたので、先にそっち向かうことする。商業施設は逃げないが、妹をいじる機会は逃してはいけない。人生短いのである。



 ガイドカーソルに従って誘導された場所に向かうと、作りは華美ではないがなんだか大きな建物があった。ざっと数えて3階建。日本の住宅で良くある縦長のっぽの作りではなく立派に横もある。ちらと眺めて回っていた住宅区画の一般住居よりも十分に大きい。ノックして入ってみても大きい。入ると嫌でも目につく、転げまわる妹を、三日ぶりの散歩にはしゃぐ愛犬を見守るような気持ちで生温かく見守りつつも改めて全スルーしつつ、出迎えてくれた妹友人Aに挨拶する。いや、友人Aは失礼だな。「すいません、騒がしくて」など殊勝なフォローを入れている出来た友人にAなどと言ってはいけない。妹よ、いろいろ見習うがいいぞ。


 お茶はまだ出せないのですが、と申し訳なさそうにしている友人Aことあざみさんにご案内頂く。そう、“まだ”と言っているのは開発が無駄ノリしたためかお茶を出せるのである。もちろん、VRシステムを採用しているのでもなく実際に飲むことは出来ないのだが、一定時間の能力上昇効果を生むものもあるらしく、単に開発元の悪ノリとも言い切れない作り込み要素の気配がしている。なんでもギルドやプレイヤーごとの特性や実績を踏まえて同じものを出しても効果が違うとかなんとか。その設定の過剰さをユーザーはどう受け止めろというのか。


「それにしても、広いですね。ここ、他もこんなものです?」


「ヘビーユーザーなのでちょっと特典だって!」


 あざみさんに話しかけたところ、向こうの方でやっと現世に戻ってきたらしい妹から解説が返ってきた。おい、いいのか運営よ、それ。妙なやっかみの後始末はごめんだぞ。


「広さに関してはそうでもないのですが、立地がちょっと良すぎる感じで。たぶん、いろんな人が出入りするだろうから、一階は半ばオープンスペースとして活用することになるかもしれません。」


 向こうの方できゅぅ、などと転がっている妹を二人で眺めつつ、あざみさんに的確にフォロー頂く。確かに、商業施設から筋一本入って少しでたどり着く、というのは幾ら移動のショートカット機能が充実してるからといっても便利すぎる。交友関係の広い妹のことだから、間違いなく騒がしいことになるのだろう。ここはまた攻略の城と化すのであろうか。


 廃人というほどどっぷりはゲームに浸かってない妹が妙な情報網を持っていたり、友人関係を築いているのは、摩訶不思議な力に支えられた交友能力に支えられているのは疑いのないところである。単純な戦闘力や個人の力量ではまったく説明の出来ないポジションを得ている。調査データとしてもとして若干はその交友関係から得られる情報の恩恵に¥にこれまで預かれており、IR担当に頂いている高評価の一部は妹の貢献といっても差支えない。むろん、そのままストレートに伝えると面倒なので言ってはいないが。代わりに、今回のように優待アカウントを譲渡したりしてるので問題ないであろう。いじる仲にも持ちつ持たれつ。妹のギルドのゲームプレイ環境に優待パワーがこっそり貢献しているのもまた事実である。持ちつ持たれつ、というところで本件はうやむやにする所存である。


 ひゃっほーー、などと相変わらず良く分からない発声を繰り広げている妹に気づかないふりをしつつ、あざみさんと会話を続ける。いや、別にあなたが肩身狭く感じることはないですからね。兄が気にしてないので別に気にすることはないのです。


「今回もいつものメンバー?」

「はい。そのつもりではいます。でも、何人かテストの抽選に漏れてしまったりとかなので、全員揃うのは正式リリース後になりそうです。」

「今回のゲームはどう思ってる?面白そう?」

「うーん、まだいろいろ情報が少なくて良く分からない、というのが正直なところかもしれません。実際遊んでみてから決めたいと思っていたので、今回はテストアカウントを譲って頂きありがとうございました。」


 深々と頭を下げられる。


「いやいや、半ば余ってるものを渡しただけなのでそこまでしなくて良いよ。それよりも、いない間にあの暴れん坊の保護者役を押しつけてるようで申し訳ない。何かあったら遠慮なく実力行使していいので。」

「いえ、こちらこと保護者役なんて滅相もない。こちらこそ遊んで貰ってる身なので。」


 ほら妹よ。大人の(といっても社会通念上は全員子供ではあるのだが)受け答えというのはこういうものであるぞ。爪の垢でもへそのゴマでも煎じて精進するが良い。こう見えて、回復職としてはなかなかの腕前を持っているのがあざみさんである。ときどき攻略をご一緒させて頂いているが、攻撃職として確かに面白いパフォーマンスを生んでいるが同時にトラブルも同程度生みだす問題児の妹と違って、堅実に攻略の屋台骨を支える縁の下の力持ちである。


 ところで、と何やら相談ごとを持ちかけられる。


「サブクラスで占い師というのが出たので取ったのですが、これって何か知ってますか?」


 あざみさん、普段は堅実なのであるが、ときどきこういうチャレンジャー精神が顔を出すことがある。一見まったく性格に共通項が無いように見える妹と上手くやっていけるのはこの側面があるからであろう。


「うーん、それは調べた範囲になかったんじゃないかな。レアクラスじゃないの?スクロール商人なんて取った身であれこれ言えるものじゃないけれども。」

「はい。通常枠には表示されなかったのでレアだと思います。それにしても、スクロール商人なんてあるんですか?初めて聞きました。まだ攻略情報にも載ってなかったですよね。スキルスクロール制になってるゲームで、事前情報に出されていない専用クラスって、それあからさまに何かありそうですね。」


 そう。その通りなのです。もうどっから見ても怪しいのです。怪しいのは取って試すしかないでしょう、との精神はあざみさんも同様だった様子。じゃあ、似た者同士何か分かったら情報交換しましょう、と相成った。妹は2階の方を見に行ったようで扉を開けたり閉めたりの音がここまで聞こえてくる。


 そうこう話していると、ギルドスペースの扉が開く音がした。どうやら残りのメンバーもやってこれたようだ。盾持ち装備や杖装備を備えたいつもの顔ぶれが揃いつつあった。あまりお邪魔しても申し訳ないのと、そろそろ投資家仲間二人もログインしてくるだろうことから、入ってきたら合流場所を知らせるように置きメッセージをしてギルドスペースを出ることにした。


おおかみおとこ視聴終了。

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