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高倉と環


実は、私、森永の話に、ものすごく惹かれたの。

初めてだったわ。

海外で、働きながら暮らす?!

そんなことが、できるのね。

考えてなかったわ。


外国なら、安河内の忌まわしい名も、なんの意味も持たない。

私は、ただのひとりの日本人として、生きられるんだわ。

明日から、英語の授業は、もう少しまじめに聞こう。

そう、思った。


次の時間は体育。

そう、高倉のいる、体育よ。

教室で、みんな、体操着に着替えて、体育館へ。

今日は、跳び箱。

悪いけど私、運動神経も抜群だから。

七段の跳び箱を飛び越して、みんなに、拍手喝采もらったわ。

もちろん、高倉にも。


でも、私の目的は、そこじゃなかったわ。

ほら、環に教わったこと。

試すのよ、高倉に・・・。


授業のあと、わざと、高倉と一緒にマットを体育館倉庫に運びながら、

大声で訊いたの。

「せんせ?先生は、女の子のおっぱい、触ったことある?」

高倉は、大声で笑ったわ。

「あるよ!おれ、中学まで、お袋のおっぱい触ってた!」

「違うわよ!もっと若い娘!」

「まあ、おれもそれなりに、恋愛してきてるし、モテない方じゃなかったからな」

運びながら、倉庫に入った。


ふたりきり。


「私の、触ってみる?」

高倉の手をつかむと、ゆっくりと、体育着の下に滑り込ませる。

高倉は、私の胸を、ぎゅっとつかんだわ。

そして、言ったの。

「さすがだな、安河内。いい乳してるよ。牛みたいだ」


私、赤くなって、なにも言えなかったわ。


「なにが望みだ。欲しいものは、なんだって手に入るってか」

高倉は、痛いほどに、胸をつかむと、バッと放して、倉庫を出て行った。


・・・さすがね、高倉。

私の惚れた男だけあるわ・・・。



ある晩、僕は、高倉を誘って飲みに行った。

高倉は、話し上手だから、面白い話をいっぱいしてくれて

僕たちは、ゲラゲラ笑った。

酔いも充分に回った頃、僕は本題に入った。


「あのさ・・・高倉、安河内綾乃について、どう思う?」

高倉の顔が、急にまじめになった。

「どう思うって、どういうことだ?」

「僕、なんだか・・・安河内さんに、誘われてるみたいなんだ・・・」

「やめたほうがいいな」

高倉の答えは、即答だった。

「なぜ?」

「馬鹿だな・・・まあ、高校教師と生徒の恋。

無くは無い。

でも、・・・あの女はとりわけ危険だ。

綾乃は、だれとでもやる女だよ。

・・・正直、おれも、誘われそうになった」


高倉が・・・?!

綾乃は、高倉のことも、誘ったのか?!

どんなふうに?!


「誘ったって、・・・どんなふうに?」

「体育倉庫で、ふたりっきりになって、乳揉まされたよ。

『私の、触ってみる?』だってさ。

ははは!

笑わせるぜ!

お望み通り、思いっきりつかんでやったよ」


僕は、正直ショックだった。

高倉が、綾乃の胸を揉んだ?!


僕には、何故だか、綾乃の気持ちがわかる気がした。


綾乃は、高倉のことが好きだ・・・。

本気の相手には、そういう手を使うやつだ・・・。


僕は、むしろ、綾乃がかわいそうだった。

高倉が、どんなあしらいをしたのかわからないが、綾乃は、きっと傷ついた。

そして、そんな綾乃のことを、好きになりかけている、と、

初めて、自覚した夜だった。


10


「なんだか、最近避けられてるみたいね」

放課後の教室で、環が言った。


そう、私、実際、環のことが怖かったの。

でも、そう見せたくはなかったわ。

「別に?避けてなんかないわ。・・・私、あなたと違って、女の子には興味ないの」

環は笑った。

「じゃあ、男のひとには興味あるの?」

環は、空いていた、私の前の席に座って、グラウンドを眺める。

高倉が、女子とバスケットボールをしていた。


「みんな、高倉に夢中ね」

環が言う。

「あんなふうに、一緒に遊んだって、無駄なのにね」

「ほんとにね・・・」

一緒にいなくても、無駄だったけどね・・・。

「高倉に、興味がないのは、私たち、ふたりだけみたい」

私は、黙った。

「ね、高倉の好きな女、知ってる?」


好きな女?!

高倉の?!


私、とたんに、環の話に興味を持ったわ。

「あのね、私なの」

環は、笑った。

「私、告られたのよ、高倉に!

笑っちゃうと思わない?

でも・・・私が好きなのは、綾乃ちゃん、あなただけだわ」

環は、キスをねだるように、瞳を閉じた。

私は、ガタンっと席を立った。


なんで?!

なんで、環なの?!

なんで、私じゃないの?!

私は、こんなに綺麗で、会話だってウィットに富んでいて、

運動神経も良くて、金持ちだし、魅力的だし・・・。


それに比べて、環は・・・!

運動神経も、平均以下だし、体系だって、ぽっちゃりだし・・・。



私、泣きたかった・・・。

誰も、いないところで、大声で泣きたかった。

「帰る!ごきげんよう」

言い残すと、鞄を背負って、屋上へ向かったの。

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