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ルイナス

第一話 ルイナス



「敬礼!」


長官の掛け声で、晴天の中、整列していたオウラノ帝国親衛隊「ロワ・ミュール」が一糸乱れぬ動きで敬礼をした。


「本日より、諸君らは正式に帝国親衛隊ロワ・ミュールに任命された。そのことを誇りに思い、常日頃から国王に誠心誠意、仕えることに励むように!では、国王陛下…。」


「うむ…。」


白く煌びやかな王族だけが着ることを許された衣装を身にまとい、髭を多量にたくわえたエルツァ・アンタレス・フォーゲル国王が演説台の上に立ち、激励の言葉を発した。


「君たちには、これから我が国、我が血族を守ってもらうことになる。だが、そのことを誇りに思い、任命されなかった者達の意志を受け継ぎ、頑張ってもらいたい。そして、我が代はとても幸福である、何故なら、我が代で初めて成人していないものが帝国親衛隊に任命された、そのことは我が国の栄誉になるであろう…。」


エルツァのスピーチの後、大臣や王の血族がスピーチを終えると親衛隊達は宿舎に行進していった。


宿舎は一般兵が使うものとは大いに違い、絢爛豪華であった。


その中の一人、名指しこそされなかったが、史上最年少で親衛隊入隊試験に合格した人物…名を玉名タマナ 駿シュンは自分に当てがれた部屋に入り読書をしていた。


彼はこの国の人間ではなく別の国の出身だが、幼い頃に孤児院に入れられていた。


そんなことはさておき、部屋の扉が叩かれたので扉を開けて外に出ると、そこに受付の兵士がいた。


「なんでありますか?」


「国王陛下がお前に会いたいそうだ。」


「国王陛下が!?」


一介の衛兵に会いに来るなど前代未聞のことであるが、陛下ならば仕方ない、と彼は思い部屋を出、兵士に案内され面会室に入った。


そこには豪華な椅子に腰深くまで腰かけ、いかにも偉そうな体勢をしているエルツァ国王がいた。


駿は入口で敬礼したあと側近に言われきわめて浅くに椅子に座った。


「呼び立ててすまなかったな。」


「いえ、我々にとって国王陛下にお目にかかることができることすら至福の喜びですので…。」


「ふむ、そうか…少し、二人きりで話そう。」


「!そ、それは…。」


駿が意見を言う前に全員出て行った。


「さて…。」


エルツァ国王は急に体勢を改め、姿勢を正した。


「まず、入隊おめでとう、君の活躍に期待させてもらうよ。」


打って変わって丁寧な口調だった。


「!そんな…わたくしごとき若輩になんともったいないお言葉…。」


「いやいや、これは当たり前のことだよ。玉名君。」


「はあ…。」


「…君は、この国をどう思っている?」


「大変すばらしい国だと…」


「それは受け売りだね、私はよくお忍びで国中を歩くことが多々あってね、『視察』という名目だと領主は私の機嫌ばかり気にしていてね…お忍びで来ると重税で苦しんでいるところもあるから領主替えをよくしているんだがね…。」


つい先日も南下してすぐにつく領の領主が国王特権で交代させられたばかりだ。


「じゃあ、君の意見を聞かせてもらおうか?」


「…わ、私は…。」


「ふむ、そうさな…ここにいるのはただのエルツァと駿ということにしようか。」


駿の緊張感をほぐすためにエルツァ国王が言った。


「私は…この国の政治制度は古いと思います。」


「ほう…。」


駿は語り始めた。


「この国は未だに奴隷制度があり、辺境の地域との格差が大きく、領主を置いていることも…。」


「なるほど…。もっともな意見だ。」


「…す、すいません!出過ぎたことを…。」


「怒っているわけではないさ…。」


「はあ…。」


「…僕はね、本当なら国王になりたくはなかったんだよ…。」


「え…?」


「僕は学者になりたかったんだ、まあ家系の関係でそんなことは出来る筈もないんだがね、小さい頃からよく城の別館に図書館からあるこの国の歴史を記した本を引っ張り出しては読みふけっていたよ…。」


遠い昔を懐かしむようにエルツァは言った。


それを見て駿は、ああ、この人もやっぱり人間なんだ。と思った。


「玉名君。」


「は、はい。なんでありましょうか?」


「君の若さと能力の高さを信じて一つ、頼みたいことがあるんだが…。」


「な、何なりとお申し付けください。『我が心は王に、我が身も王に捧げよ。』でありますから。」


「ふむ、では数日中に君に新しい任務を任せよう。期待している…という言い方は少し失礼だが、期待しているよ。玉名駿君。」


「ありがたきお言葉にございます。」


駿が立ち上がって敬礼すると、エルツァも立ち上がり、敬礼した。


「…国王陛下…」


「君のような若者に敬礼するな。とでも言いたいのかね?」


「いえ、そんな…。」


「ふふ…君の真っ直ぐさは舌を巻くよ、どうやら私の目にまだ(・・)狂いはないようだ。」


エルツァの言い方に駿は不自然さを覚えたが、エルツァが反転して扉に向かったので駿はすぐに扉を開けねばならなかった。


数日後、駿は『謁見の間』においてエルツァ直々にある任務を任された。


その任務は()る人の護衛だった。


基本、帝国親衛隊ロワ・ミュールの任務における護衛任務とは、自国の要人や他国の要人、国際級超重罪人の護送警護ぐらいだが、今回駿が連れてこられたのは、城の地下にある猛獣の檻のような場所で、そこでは常に人のものとしか思えない叫び声が延々と響いていた。


「あの…ここは?」


こんな異常なところが城の地下にあったことを知らなかった駿は思わず案内している案内人の親衛隊隊員に聞いてみた。


「ここか?ここはな化け物の檻だ。」


「いや…しかし…。」


「ここにはな、人間と同じ姿でうろつき回っていた化け物ども(・・・・・)を収容し、研究している場所だよ。」


「…。」


そのあまりにも突拍子な言葉に思わず駿は絶句した。


「つまりはな、お前は一番損な仕事を国王から任されたんだよ。」


「…それは国王を侮辱しているのですか?」


「けっ、何十年とここで同じように毎日毎日、朝から晩まで一日中こんな叫び声のする気持ち悪いところで延々と住まわされたら流石に忠誠心なんて無くなるぜ。」


「…。」


「…っと、着いたぜ。」


隊員が立ち止ったのは周りと大差ないところだった。


「そうだ、聞き忘れるところだった。お前、『ルイナス』って知ってるか?」


「?いえ。」


「…国王はそこまで知らせてなかったのか?」


「は?」


「まぁいいや。お前、これから見るものに肝を抜かすんじゃねえぞ。」


思わず駿は生唾を飲み込んだ。


そして扉の周りにいた護衛の兵士が扉を開け始めた。


「なんせこいつは…。」


部屋の中にいたのは…。


「この世で最も強い生き物…。」


深紅の髪の毛をそのまま伸ばすに任せ、鋭く青い双眸で妙齢の少女だった。


「『龍』だからな。」



次回第二話  護衛兼居候生活初日

新しく始めました。


読んでくださるとありがたいです。

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