波乱をしらない花屋の日常
ミシェルがいま働いている場所はおばあちゃんから続く大事な花屋さんだ。少し前までは小さな花屋だったが、他の店とは違い変わった花が置いてあるということが噂になり、今では有名な城下町の花屋だ。そこには時々貴族様方が訪れて花を買って行く。
ミシェルは花を受け取って笑顔になるひとをみるのが楽しみだ。
* * * * * * * *
「ミシェル、ここに置けばいいのか?」
「そう!いつもごめんね、エリック。」
「だいじょーぶだって、気にすんな」
へへっと、癖のある茶髪を揺らしながらエリックはミシェルに微笑みかける。エリックは小さい頃からの幼馴染みで、とても仲が良く。今は新しい品種を探しに出ている母がいないので手伝いに来て貰っている。
花屋の前にあるケーキ屋さんがエリックの家でそこの店主のエリックの父親にもよくしてもらっていて、花とは違うお菓子の甘い香りがミシェルは大好きだ。
「ミーーーーーシェルーーーー!」
大きな声が聞こえてくる。なにかと店の外に出るとフリルの付いたドレスを手で持ち上げて駆け足でやってくる綺麗な少女。ミシェルは慌てて抱きついてくる彼女を頑張って抱き留める。
「久しぶりー!ミシェル!」
「リリア、う、うれしいけど。こんなに走ったらあなたのお母様に怒られちゃうよ。」
「だいじょーぶ!今逃亡中でわからないから!」
「よ、よけいだめだよ……。」
ミシェルに飛びついた綺麗な顔の少女は、ミシェルと同い年で少し前に花の注文をしにきた時に出会った、それ以降仲良くなり、今に至る。リリアは男爵家の貴族なのだが、彼女はみんなと対等にいたいようで、ミシェルにも「敬語はやめて」と言われてきた。
「なんだよ、リリア。ミシェル困ってんだろ、やめろよ。」
「うるさいわね、片思い男!」
「なっ!」
店の奥からやってきたエリックは、顔を赤く染めてリリアに言い返す。ミシェルは二人がこういう言い合いをみるのがとても好きだ。こうしてゆっくりと時間が流れて人との繋がりがこの店で行われているのがとても嬉しい。
「知ってるのよー、あなたパン屋の子に告白されたのに振ったんですってー?」
「え?そうなのエリック、」
「ち、ちがう!ミシェル………なんでお前がそんなこと知ってんだよっ!」
「私の情報網を侮らないで頂戴。」
おほほほっ、とわざとらしく笑ったリリアはミシェルの腕を組んだ。
「ミシェル、お仕事中に申し訳ないけど、服、貸してくれない?」
「リリア、あなたのお母様がみたら……」
「大丈夫よ!まさか自分の娘が町娘になってるとは思わないでしょうから!」
リリアはお願い!と可愛らしくお願いしてくるので戸惑う。最近リリアはこうしてミシェルの服を借りては、店のお手伝いをしてくれているのだが、綺麗な手が荒れるのは何だか見ていられない、もちろん器用なリリアは花束などもすごく上手なのだが……。
今度こそは断らなければ、と。ミシェルはエリックに助けを求めてみるが知らんぷりされる。
「リリア、あのね。でも……。」
「私、ミシェルと一緒にお手伝いしたいの……、」
「…………。」
「ミシェルは私が貴族だから迷惑?」
「ち、ちがうの!そうじゃなくて……」
「じゃあいいよね!」
「え、あ……うん。」
そういってしまった瞬間にリリアは店の上にあるミシェルの部屋に行ってしまった。
「あーあ、リリアいっちまった。」
「エリックが助けてくれないから……」
「べつにリリアが手伝いしたいって言ってるからいいんじゃないのか?」
「そうだけど……」
口ごもるミシェルを見てエリックは溜め息を吐いた。
「リリアはお前ともっと近くになりたいから言ってるんだろ?」
「…………。」
「貴族だから、って言う方がひどいよ、お前。」
エリックに言われて少し気分が落ち込んだ。そっか、と花に水をやっていると、慌ただしく階段を下りてくるリリアが綺麗な金髪の髪を一つに結んでミシェルの服を着ていた。
「どう?ミシェル!」
嬉しそうな綺麗な笑顔に、やっぱりリリアの笑顔を見ることが一番だと思った。貴族とかそう言う事ばかり気にしているのは私だけでリリアはそんなこと気にしてはいないのだ、ミシェルはそう思い微笑みかえした。
リリアは「お仕事頂戴!」と元気よく言ってくるのを見て。ミシェルが水やりとお願いすると嬉々としてやり始めた。
エリックは、「水、やり過ぎるなよ、」といってリリアが五月蠅い!と返す。ミシェルは注文されていたブーケを作る。
今日も『ルイスフラワーズ』は平和だ。
ヒーローはまだ出てこない。