第20話 崩壊した街(ウォール)⑤
「いってて…て…」
地下水路の壁を突き破り瓦礫の下敷きになっていた宗司
腕力で払いのけ上体だけをゆっくり起こす
額からタラタラと血が流れていた
どうやら頭をぶつけてたようだ…
先程からくらくらしていたのはその所為だろう
意外にもあの古代人の攻撃はそこまで威力はなかった
「くっ…皆と離れちまったな……」
古代人の能力?のお陰で辺りは地上と同じぐらいの明るさだ
しかし、見渡しても人影はない
宗司は立ち上がり重い足取りで真っ直ぐと歩き始めた
壁を支えにし右手で支えながら歩いていた
頭痛がひどく、視界がぼやけている
この頭痛は今の攻撃によるものではなかった…
アビネスと対峙して以来、10分ほど自分の記憶がなかったのに気づいていた
美影と安久津に聞いても何もなかったとしか答えない
何もなかった訳がない
あの日以来、徐々に自身の体内が蝕まれている感覚に陥っていた
それも毎日のようにだ
その日のうち1度だけ激痛とも言える頭痛、手足の痺れが彼を襲う
立つことすらできず自分自身の感覚も失われかけている
もちろん美影達は宗司の身体が「破壊神」の入れ物として使われていることにはまだ
気づいてはいなかったが
自身の身体の異変に気づいているのは本人自身だ
日を追うごとに、その痛みは増していく…今の宗司にはただそれを耐えるしかなかった
それが破壊神の侵食とも知らずに…
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「おい!水陰!」
同じく宗司からかなり離れた場所に3人が集まっていた
そのことを危惧していた安久津は声をあげた
「古代人め…これも全て分散するために…」
ギリッと奥歯を噛み締める水陰
人一倍プライドの高い水陰にとってこれ程策略に嵌った屈辱感はない
水陰と安久津には古代人が4人を分散させた理由を瞬時に理解できた
古代人のことを聞かされたのは
この任務を遂行する前日にだ
会長自らの口から、古代人と闇破会の関連に付いて話された
直接的な繋がりはないが
闇破会の方から、古代人に対して知識を求めている
即ち闇破会は古代人に対して何らかの接触を試みているのは確かだ
古代人が第1に目をつけたのが
最も破壊神を復活させるのに近い人間…「神野宗司」
だが、宗司の居場所が分からなければどうしようもできない…
「僕が匂いで追いましょう…」
アダムが鼻をより利かせて宗司独特の匂いを嗅ぎ始めた
自分の匂いと言うのは、鼻が自分の匂いに慣れてしまって気づくのは難しい
そのため他人からすればその自身の匂いを嗅ぐことは容易い
アダムを先頭に2人は後を追い始めた
古代人は気配を消し、ゆっくりと宗司の背後に近づいた
満身創痍の宗司にはその気配に気づくことすらできない
古代人はゆっくりと右手を差し伸ばし
人差し指を宗司の背中に向けて構えた
今回は殺す訳ではなく、「捕獲」するのだ
宗司は彼等にとっては貴重な人材だからだ
いつも通り光線を放ち、致命傷を負わせようとしたそのとき
古代人の知識と勘が危険ということを察知した
すぐさま右手を下ろし、黙って宗司の背中を見つめた
「………」
長い沈黙の後、グルリと身体を古代人の方へ向けた
眼は赤く染まっている…破壊神に身体の所有権が移ってしまったのだ
予測していなかったことが起き、静かに焦りを感じ始めた
「キサマが…古代核戦争の時の生き残りの1人ダナ……?」
破壊神には古代人のことは知られている
しかし、今の破壊神にはただの邪魔者でなかった
「…」
黙って破壊神の言葉を聞く古代人
「返答ナシならば…ここでコロシテヤル……」
すると、古代人も先ほどと同じように奇声に近い悲鳴をあげると
それまでガリガリだった容姿が
突如2m近くの身長となり、体格はまるで人間を超えた筋肉のつきかたをしている
古代人が危険を察知し本気になったのだ
彼等の発達した技術によりこのような肉体を創り上げることも可能だ
「ハハハハハ!!!!久し振りに暴れてやるゼ…!!!!」
宗司の神滅刀にどす黒いオーラを纏わせ
「キサマでは、扱えねぇヨウダナ…」
手にした神滅刀は破壊神が力を込めるほどオーラは増していく
そして…一瞬で古代人の目の前まで詰め寄り
どす黒いオーラを纏った神滅刀を振り下ろした……
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既に地下水路に眠っている神授武器は古代人の手によって消滅させられていた
古代人のもう1つの目的は神授武器の破壊と
神授者達の抹殺であった
自身の邪魔となるものなら殺すことを躊躇しない
任務の最終目的は、古代人の捕獲又は駆除にへと変わっていくのであった…