表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
正しくない魔法の使い方  作者: 遠野月
選ばれなくてもいい【聖域】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/7

英断


意識を失ったリナリアのもとに、街の領主が駆けつけたのは夕暮れ頃だった。

それまで、イグニスと、イグニスの傭兵団は彼女の傍に居た。

もちろん、リナリアのためだけではない。

魔獣を追い払った褒美を得るためだ。



「諸君らの働きに感謝する」


「感謝の言葉より、欲しいもんがあるんだけどよ」


「無論、報奨金を与えよう。明日、屋敷に来るといい」


「ありがたい」



イグニスがニカリと笑い、仰々しく頭を垂れる。

領主は目を細めて、イグニスと、傭兵団たちの礼を受けた。



「ところで、この結界を張った者はどこか」


「ここにいるぜ」



イグニスは、隣で眠っているリナリアを指差した。

さすがに石畳の上で倒れたままにはしておけず、麻布を敷いて寝かせている。



「この若い娘が……?」


「そうだ。とんでもねえ魔法使いだろ? いや、魔導士さまか?」


「魔導士? 彼女が?」


「ああん? 今日、領主さまのところで雇ったんじゃねえのか?」



イグニスが訝し気に首を傾げる。

領主は首を横に振り、唇をかすかにゆがめた。



「いや、覚えはない。誰かが訪ねてきたとも聞いてはいない」


「……へぇ、そうかよ。そんなら今からでも雇ってやんな。こいつにとっちゃあ、それが一番の報酬だぜ」



イグニスがヘラリと笑う。

領主は、麻布の上で眠るリナリアを見下ろした。

泥にまみれた頬、乱れた髪。そして、隠しきれずに露わになった額の火傷痕。



「……雇え、と? この者をか」



領主の声は、やや冷ややかだった。

傍らに控えていた魔導士のひとりも、眉をひそめて口を開く。



「閣下。この結界……いえ、この歪な術をご覧ください。これは帝国の高潔なる魔法体系とは根底から異なります。不規則な波長、濁った魔力。これは異端の業です」


「異端だと?」



イグニスの目が、魔導士を鋭く睨む。

しかし魔導士は怯むことなく、言葉を繋げた。



「左様。たしかに街を救った事実は認めましょう。しかし、このような力を公認すれば、閣下の、ひいては帝国の威厳が損なわれます」


「……それは、そうやもしれん」



領主が顔をしかめる。

その反応を見て、魔導士が笑みを浮かべた。



「そもそも、これほど強力な術を野良の娘が使えるはずがない。そう思いませんか? ……禁忌の薬か、あるいは魔獣と契約でも結んだのでは? あらかじめ、この結果へ繋がるように仕組んだのかもしれません」



魔導士の言葉に、周囲の兵士たちがざわめいた。

無意識にリナリアから距離を取りはじめる。

感謝の念が、正体不明の力への「気味悪さ」に塗り替えられていく。


その空気感を察し、領主が小さく唸る。

彼としては、魔導士の言葉を鵜呑みになどせず、リナリアの実力を認めていた。

たとえ帝国の魔法体系とは異なっていても、彼女の魔法の力は絶大だ。

しかし領主である自分が認めても、魔導士たちが、民たちが、彼女を認めるだろうか?



「……彼女には報奨金だけ与えよう。目が覚めたら、明日取りに来るよう申し伝えよ」


「ご英断でございます」



魔導士が醜く笑う。

その笑みを見て、イグニスは吐き気を覚えた。

しかし口は挟めない。

余計なことを言えば、リナリアの立場を悪くさせることもあり得る。



そうした経緯があったことを、リナリアは翌日知った。

領主が去ったあと、イグニスが宿の手配までして、リナリアを休ませてくれたことも。



「そ、その、ご迷惑を、おかけして……」



リナリアは陳謝したが、イグニスは首を横に振る。



「俺のほうこそ悪かったな。俺が余計なことを言わなきゃあ、嫌な想いをせずに済んだろうによ」


「……多少の、違いがあっただけ、です。……どのみち、どこかで、ガッカリはしていたと……思います」


「そうかい? じゃあ、お言葉に甘えてこれ以上は謝らねえ。お互いにな」



イグニスがヘラリと笑う。

この、人を食ったような笑みは、癖なのだろう。

彼の視線の裏に、違和感は、たぶんない。

もちろん、信用まではしないが。



「とりあえず……わ、私も、報奨金は、いただけるので……?」


「ああ、たんまりといただきに行こうぜ」



イグニスの手に誘われ、リナリアは宿を出る。

昨日の身体の重さは、もう、どこにもない。

むしろ、組み替えられたように身体が軽く、魔力も漲っていた。



『それはボクのおかげだよ?』



リナリアの考えを読み取るように、レヴァが言った。

いつの間にか、普通の犬のような姿で並走している。

しかしレヴェの声は、リナリアにしか聞こえないようだった。

傍を歩くイグニスは、「利口そうな犬だ」と首を傾げるのみ。



『聖獣が望んでいる場所なんだ。ご加護があっても良いと思うでしょ』



それはそうかもしれない。

どうして傍に居ようと望んだのかは、甚だ疑問だが。



「こいつあ、お前さんの犬っころかい?」


「い、いえ、違います……な、なんか、勝手に付いて……来るというか」


『酷くない?? 聖獣と知って、そんなこと言う人に初めて会ったんですけど??』


「……可哀そうなので、報奨金、貰ったら、餌くらいは……あげる、かも」


『それは良かった! 奉げ物は大事なことだよ!』



レヴァが満足そうに吠える。

おとぎ話に描かれるような聖獣の威厳は、そこにない。

ちょっと尊大な、ただの犬だと、リナリアは苦笑いした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ