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正しくない魔法の使い方  作者: 遠野月
選ばれなくてもいい【聖域】
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真実の一端


「やっぱり、魔法道具技師になるが……妥当なのかな」



そう思い直し、街中を歩き回る。

魔法道具店には、庶民を客とする店を多い。

魔法の実力さえ見てもらえれば。

縋る思いで、魔法道具店の戸を叩く。


しかし、リナリアの期待は、ひとつ残らず打ち砕かれた。


魔法に係る店すべてで、リナリアは門前払いされた。

彼らは一様に、リナリアの火傷顔と、貧しい身なりをも否定した。



帝国において、魔法とは最も貴きもの。

その魔法を扱う者は、心身共に「正しく」「美しい」者と、相場が決まっていた。

正しく美しいとなれば、高貴な血か、持つべきモノを連綿と繋いできた、貴族や富裕層のみ。

その対極にあるようなリナリアは、魔法から最も縁遠き者だと、遠回しに蔑まれた。



「この火傷痕……が、無ければ、良かったですか?」



リナリアは無意識に、心から溢れた声をこぼす。

すると、魔法道具店の店主の頬が歪んだ。

ジトリと、リナリアの全身を品定めしていく。



「まあ、そういうわけじゃねえが、ねえ。いや……しかし、ねえ」



侮蔑の言葉をギリギリのところで避け、店主がこぼす。

その目に宿っていた蔑みの色に、歪な情が混じった。

その歪みは、リナリアが最も恐れるものだった。


過剰に歪んで膨らんだ情に、リナリアは数歩後ずさる。

直後、石畳の道の段差に足を取られ、リナリアは身構える間もなく、よろめいて倒れた。



バシャン、と。

辺りに大きな水音がひびきわたる。

不運なことに、リナリアの倒れた先は、街の浅堀だった。


周囲にいた人が、何ごとかと、一斉にリナリアのほうへ向く。

しかしリナリアのみすぼらしい姿を見るや、嘲笑い、何ごともなかったように歩き去っていった。



(……私なんかが、魔法を扱うなって、こと……?)



泥水が、リナリアの重い服をさらに重くする。

水面に映る自分の顔は、揺れる泥にまみれ、額の火傷痕がさらに醜く歪んで見えた。

師匠が遺した言葉。馬車の男がくれた曖昧な希望。

それらすべてが、嘲笑に飲み込まれ、消えていく。


ところが、ふと。

泥に沈んだ右手に、硬い感触が触れた。

ゴミか、石コロか。

だが、それは異様な密度を持ってリナリアの指に馴染んだ。



「……これって」



引き上げたのは、一片の黒ずんだ金属片。

泥を指先でなぞり、拭う。

すると、その下から掠れた古代語が、鈍い熱を帯びて浮かび上がった。



【不完全な魂】 【魔法陣】



リナリアは、息を呑んだ。

世界にある「正しさ」が、今ここで覆る。


帝国の魔法体系において、このふたつの言葉が対等に並び立つことは、断じてあり得ない。

真なる魔法とは、濁りなき美しい心身と、精緻を極めた魔法陣の結合――。

学院にも通っていないリナリアですら、耳にタコができるほど聞かされてきた絶対の黄金律だ。


しかし、今のリナリアにとって、それは魂を震わせる天啓だった。

正しすぎる枠組み、美しすぎる円、汚れを許さない完璧な世界。

その檻に閉じ込められ、息苦しさに喘ぐリナリアに、光り輝く泡が浮かぶ。

その泡を吸い込むと、頭の中に宿っていた常識が、光によって焼き切れた。



「……不完全で、いいって、こと?」



リナリアは、水面に映る泥だらけ顔を覗く。

その中に、その不完全の中に、これまで見えなかった真理の一端が見えた。

精緻を極めた魔法陣に、美しく混ざり、隠されていた安全装置リミッター

この世界から爪弾きにされ、偶然に辿り着いた、力。



(……完全な魂が、魔法陣に、繋がる……じゃ、ない?)



これまで、美しい心身が、魔法陣に繋がるとされてきた。

しかし、逆ではないか?

帝国が教える魔法陣は、不完全な魂には、あえて繋がらないようにしている。

そうなるように、安全装置リミッターがかかっている。



「……じゃあ、ここに、こうすれば……?」



思い描く魔法陣を組み替えようとした瞬間、全身が熱くなった。

正しい世界に覆われ、抑圧されていた光の、真なる形を見たからだ。



「……間違い、ない。これが、真なる魔法の姿……」



熱を帯びた声が、こぼれる。

自分のこの醜い傷も、選ばれなかった絶望も、底無しの孤独も。

すべてが、「無限」の動力源に変わって、魔法陣に繋がっていく。


数瞬前まで色褪せて見えていた世界が、猛烈な色彩を帯びて煌めきだした。



「これ、とんでもないこと、なんじゃ……? この『正しくない魔法』なら、なにもかも、全部、ひっくり返ってしまうんじゃ……?」



リナリアが顔を上げたその時。

浅堀の底が、小さく煌めいた。

その煌めきは大きくなり、リナリアへの前へ飛びだす。

同時に、光の槍が空を突き刺した。



「ああ……! ようやく、この時が来た!」



眩い光が声を放つ。

リナリアが首を傾げると、光の中から、犬のような生き物が飛びだした。

その不思議な出来事に、リナリアは驚きの声を上げる。

ところが、街の人々はまったく気付いていないようだった。


リナリアにだけ、光と、犬のような生き物が見えているらしい。



「リナリア、ようやく目覚めたね」


「……え、え、ええ?」


「その石ころを拾い上げ、真実の一端を掴んでくれるなんて。千年退屈した甲斐があったというものだよ」


「……し、真実? ……せ、千年??」



リナリアは目を丸くし、ぽかんと口を開ける。

何を言っているんだろう。この変な生き物は。


ところがリナリアの戸惑いなど意に介さず、犬のような生き物がにかりと笑った。

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